106.野生亜人と亜人の支配者
「【ファイアボール】!」
「ギャアアアッ!」
俺が放った火球に触れたゴブリンが悲鳴を上げて逃げていく。俺は尚も魔法を放ちつつ、ルキナスさんに話しかけた。
「ゴブリンばっかりですね。【フレイム】!」
「そうですな。ホブゴブリンやゴブリンロードがいる可能性があるので、そのあたりが出てくればもう少し手応えがあるのですが……【エリアバーン】!」
ルキナスさんは炎空間二重属性の魔法でゴブリンを一掃しながら返事をする。普通、雑魚と呼ばれるゴブリン相手にこんな魔法をぶっ放したら巻き込まれた奴らは全部黒焦げになるはずなのだが、そこは【生命の寵愛者】の称号を持つルキナスさん。威力を微妙に調整し、気絶するだけに留めていた。
「さすがの調整力ですね、ルキナスさん。」
「空間属性を魔導書習得しておきましたからな。」
ルキナスさんはうちのダンジョンに来る前に各種属性の一時習得魔導書を購入していたらしく、暇なときによく解読に取り組んでいたのだが、ついこの間空間属性の魔導書を完全に解読し、一時的ながら空間属性の適性を得ていた。魔導書は魔力回路の繋ぎ方や摂理干渉の方法などかなり難しい原理が古代魔術言語などで書いてあるのだが、それを1年程度で完全解読するとか、やはりこの人は侮ってはいけない。因みに俺も借りて読んでいるが、たった3行しか解読できていない。
「まだ空間属性に慣れてはおりませんが……かなり使い勝手が良いですな。リチャード殿が空間属性の使い手で羨ましいですぞ。」
「ルキナスさんだって今は空間属性の使い手ですよ。鑑定してもちゃんとスキルに【空間属性魔法(上級)】入ってましたし。」
俺はそう言いながら、視線に殺気を込めてゴブリンの群れを睨みつけ、
「爆ぜろ! 【テンペストボム】!」
と叫んで嵐属性の爆弾を投げつける。ゴブリンは土属性なので、風や嵐が特効なのだ。本来雑魚であるゴブリンにこんな魔法をぶっ放す必要はないのだが、一掃した方が楽だからな。
「ギャアアアアアー!」
奇声が響き、ゴブリンが吹き飛ばされていく。何体か空高く打ち上げられたのもいるな。
「リチャード殿、少しやり過ぎでは?」
「これでも威力かなり押さえてるんですよ。余剰魔力が多すぎてこうなってるだけです。それより、ゴブリンってどんなモンスターなんですか?」
「鬼族亜人系に分類されるモンスターですな。人間族とは友好的ではなく、コミュニケーションをとることは不可能。上位種のホブゴブリンやゴブリンロードなどは人間族に明確な敵意を抱いています。ゴブリン自体は雑魚ですが、上位種が統率しているとその強さは倍以上になりますので、かなり危険ですぞ。」
「ふーん。じゃあ……」
「あまり気は進みませんが、ここの群れは全滅させた方が良いでしょう。統率力や量から言っても、まずゴブリンロードがいることは間違いないでしょうしな。」
「ゴブリンロードってどんなのですか?」
「ゴブリン系モンスターの上位種です。凶悪で狡猾な性質を持っているゴブリンの王ですな。いるだけで群れ全体がパワーアップしますぞ。ロードの上にもまだ進化種がありますが、ロードの時点でも戦いにくくなりますな。」
「厄介ですね。まあ、じゃあそれの討伐を最優先目標として、取り敢えず全滅させましょう。穏便に済ませられない相手っぽいですし。」
「仕方ないでしょう。」
俺たちは溜息を吐きながらも、ゴブリンたちが逃げて行った方へと歩を進めるのだった。
「で、ここが塒ですか。」
「ええ、ここが塒でしょう。」
俺たちは邪魔なゴブリンやホブゴブリンを屠りながら奥へと進み、遂にゴブリンの塒となっている洞窟を突き止めた。薄い瘴気が漂っている。気味が悪いな、と思ったその時、洞窟の奥から何かが出てきた。
『貴様らか、我が眷属を好き勝手に蹂躙しているという輩は。』
奥から出てきたのは普通のゴブリンの3倍程大きいゴブリンだった。マントを羽織っているからか、それともただ大きいからか、どことなく王者の風格を感じるな。
「蹂躙とはひどい言い草だな。俺たちは襲われたから返り討ちにしているまでだ。平和主義者ではあるが、ふりかかる火の粉はキッチリ武力で払う主義なもんでな。それに、どうせお前が指示してるんだろ。」
「私とて無為に命を奪う行為は忌み嫌っておりますが、ここまで大きな敵対種族の群れとなれば、見過ごす訳にはいきませぬ。この群れをそのまま放っておけば、いずれこの群れにある命の何倍もの罪なき命を奪うことになるでしょうからな。」
『フン、貴様ら如きひ弱な人間が我らゴブリ……ボフォッ?』
ゴブリンロードが吹き飛んでいく。俺がウィンドナックルを装着した拳で顔面を殴り飛ばしたのだ。
「リチャード殿、口上の途中で殴るのはいかがなものかと……」
「強いか弱いか試そうと思いまして。それに、敵の眼前に立った時点でもう戦闘は始まっていますからね。」
「確かに、真っすぐ拳を突き出していましたな。これは避けない方が無能ということになります。」
「そうですよね。アレを避けられないとか、無能にも程があります。」
俺はそうルキナスさんと話しながら、洞窟の壁にめり込んでいるゴブリンロードを鑑定。
ゴブリンロード ランクB-
名前:ソールジャ
保有魔力:614/1500000
称号:殺戮修行者(相手の殺害率小上昇)
スキル:剣術(剣術武技を使用可能とするスキル)
棍棒術(棍棒術武技を使用可能とするスキル)
同族使役(自分よりも目下の同族、及び下位種を使役できるスキル)
罠作成(罠の作成能力が上昇するスキル)
状態:憤怒
体力:25000
魔力:5000
筋力:5000
耐久:730
俊敏:1200
抵抗:900
何だ、随分と偉そうだから強いのかと思ったが、弱いじゃないか。
「お前、この程度で王を名乗ってるのか。雑魚が。」
『なぬ? 貴様、我を愚弄し……ゴブフォッ!』
壁から這い出てきたゴブリンロードを再び殴り飛ばすと俺は、
「口より手を動かせよ、この雑兵が。貴様如き雑魚、愚弄する価値もない。愚弄する労力が無駄だ。」
と言い放ち、七星の宝石杖を構える。ドラゴンスレイヤーでならこの程度のモンスター、余裕でぶった切れるとは思うが、こんな奴の返り血を浴びるのは御免被りたいからな。
「灰になれ! フレイムバース……」
「リチャード殿……」
俺が呪文を唱えようとした時、ルキナスさんが声をかけてきた。俺は発動直前の魔法をキャンセルして応じる。
「何ですか?」
「このロードは囮です。我らの周囲を30程のホブゴブリンが囲っていますぞ。」
「へー、そうですか。じゃあ俺が魔法を撃ったら、一斉にかかってきたりしそうですね。」
「恐らくそれが狙いでしょう。ゴブリンロードはホブゴブリン進化系モンスターのうちの1つ。我らを殺せばその分経験値が入り、周囲にいるホブゴブリンのどれかが進化するのでしょうな。」
「成程。じゃあそっちを先にやりますね。殺していいですか?」
「……今回ばかりはやむを得ませんからな。殺さなければ殺されますので。」
「じゃあ失礼して。【ポイズンスモーク】! 【クリティカルシールド】!」
俺は毒の煙を辺りに放出し、俺とルキナスさんの周囲を聖の防護壁で覆った。
『ぬっ?』
目の前のゴブリンロード……ソールジャは慌てた様子で息を止める。判断力はあるようだ。だが、ホブゴブリンはそうはいかないだろう。
「グェェェ……」
「ゴブゥ……」
「ゴボッ……」
聞くに堪えないような苦しみの声が周囲の茂みから聞こえてくる。毒の煙をもろに吸ったホブゴブリンたちのものだろう。
【ゴブリン系モンスターを100体撃破しました。称号【ゴブリンの天敵】を入手しました。】
【称号【栄誉の強奪者】発動により、ホブゴブリンのスキル、【棍棒術】を強奪しました。】
【称号【栄誉の強奪者】発動により、ホブゴブリンのスキル、【棍棒術】を強奪しました。棍棒術スキルを2レベルアップします。】
【称号【栄誉の強奪者】発動により、ホブゴブリンのスキル、【棍棒術】を強奪しました。棍棒術スキルを2レベルアップします。】
称号とスキルも手に入った。どうやら【ゴブリンの天敵】はゴブリン系モンスターへの攻撃が小上昇するらしい。
「リチャード殿、周囲の生命反応が消えましたぞ。」
「了解です。じゃあ、【ハイウィンド】!」
俺は強風を起こす魔法で毒煙を散らし、防御を解除するとロードを睨みつける。
「さあ、後はお前だけだ。姑息な真似をしてくれたな。」
『クッ……』
ソールジャは悔しそうな顔をし、顔を伏せた。しかし、その手は剣柄にかかっている。
『剣術武技Lv3スキル、【ソードブーメラン】!』
ソールジャはバッといきなり顔を上げると、間髪入れずに剣を投げてきた。これは弾いても相手の手元に戻るので、対応が少々面倒な武技だ。だが、戻さない方法がないわけではない。俺は、
「【ソードスクラップ】!」
と唱えて剣を粉々に粉砕。そして、間髪入れずに
「潔く散れ! 【フレイムバースト】!」
と唱えた。灼熱の火炎流が杖から吹き出し、あっという間にソールジャを包み込む。
『ぐああああああっ!』
ソールジャの断末魔が樹海に響く。奴は豪炎に呑み込まれ、灰すら残らず消し飛んだ。
「リチャード殿、少々火力が強すぎたのでは?」
「そうですね。これじゃあ素材も討伐証明部位も期待できないですし……これでも抑え気味にしてたんですけどね。」
因みに、ゴブリンの討伐証明部位は親指の爪、ホブゴブリンは心臓、ゴブリンロードは角だ。角くらい残せばよかったかもしれない。まあ、今更思ったところで後の祭りだが。
「リチャード殿、どうせですから塒の探索もしますか? もしかしたら人間が捕らえられているかもしれませぬ。」
「そうなんですか? じゃあ探索しましょう。」
俺たちは周囲にゴブリンがいないか注意しながら、洞窟の探索を始めるのだった。
【リチャードのステータス】
リチャード・ルドルフ・イクスティンク
種族:人間
職業:ダンジョンマスター、魔術師
レベル:287→288
スキル:鑑定眼(Lv6)
剣術(Lv9)
刀術(Lv2)
鎌術(Lv6)
槍術(Lv16)
杖術(Lv34)
棍棒術(Lv5)
体術(Lv6)
投擲(Lv2)
狙撃(Lv6)
自動回復(Lv3)
神将召喚(Lv1)
話術(Lv4)
幸運(Lv7)
疾走(Lv8)
壁走(Lv8)
隠蔽(Lv3)
非表示(Lv3)
罠解除(Lv5)
武器造形(Lv4)
支援強化(Lv1)
全属性魔法(上級)
念話
降霊
影潜
無詠唱
全言語理解
毒属性無効
呪属性無効
聖属性無効
邪属性無効
地属性無効
闇属性無効
火炎無効
技能:炎剣(魔法剣)
炎槍(槍)
捨て身タックル(体)
混合武技:豪炎の激情(炎)
水流の乱舞(水)
荒れ狂う疾風(風)
猛毒の抱擁(毒)
浄化の閃光(光)
称号:妖精の寵愛(全魔術の威力上昇)
大魔術師(適性ある魔術の威力大上昇)
スキル収集家見習い(スキル獲得率小上昇)
龍を討伐せし者(物理耐久力、回復力大上昇)
破壊神の破砕腕(物理攻撃力大上昇)
称号収集家見習い(称号獲得率小上昇)
氷炎の支配者(氷、炎属性の攻撃力大上昇)
霊の天敵(霊族モンスターへの攻撃力小上昇)
瘴気喰らう者(瘴気系の悪影響中減少)
気高き守護者(防御魔術の威力小上昇)
称号収集家助手(称号獲得率中上昇)
ウェポンメイカー(武器造形成功率中上昇)
影の支配者(闇属性魔術の威力中上昇)
嵐神の加護(風、嵐属性の威力大上昇)
強奪者の素質(倒した相手のスキル、称号奪取率小上昇)
邪を祓いし者(浄化属性魔術の威力中上昇)
神獣との契約者(戦闘勝率大上昇)
スキル収集家助手(スキル獲得率中上昇)
栄誉の強奪者(倒した相手のスキル、称号奪取率中上昇)
トラップブレイカー(罠解除成功率中上昇)
称号収集家(称号レア変化率小上昇)
魅惑の微笑み(異性魅了率小上昇)
主の上に立つ者(配下の命令遵守率中上昇)
ダンジョンを攻略せし者(ダンジョン攻略成功率小上昇)
名付け親見習い(ネームモンスター強化率小上昇)
微笑みの紳士(異性魅了率中上昇)
神将との契約者(戦闘時負傷率大減少)
微笑みの貴公子(異性魅了率大上昇)
スキル収集家(スキルレア変化率小上昇)
リジェネゲッター(自動回復の回復率小上昇)
称号コレクター(称号レア変化率中上昇)
支援されし者(支援系魔術の効果小上昇)
豪炎を制する者(炎属性の攻撃力大上昇)
誇り高き守護者(防御魔術の威力中上昇)
ゴブリンの天敵(ゴブリン系モンスターへの攻撃力小上昇)
所持武器:アイアンナイフ(N、鉄製のナイフ)
ウィンドナックル(R、風属性物理攻撃可能)
ソウル・ウォーサイズ(SSR、死霊系に特効)
ドラゴンスレイヤー(SSR、全属性対応)
神秘の破砕銃(UR、神秘の聖銃の上級武器)
烈火の神槍(LR、黒迅の魔槍の炎属性特化上級武器)
七星の宝石杖(GX、七属性の威力大上昇)




