103.続・宴会 仮パーティとマスターの真意
「おーい、ユリア!」
宴もたけなわ。冒険者も冒険者じゃない人も飲んで騒いでいる。にぎやかだな、と思っていると、こんな声がどこからか聞こえてきた。ユリアがキョロキョロと辺りを見回し、
「あっ、ジャックさん!」
と叫んでブンブンと手を振った。やはり精神面に成長は見られないな。
「やっと見つけた。やはりリチャードの近くにいたんだな。」
「ジャック、人を強引に押しのけない方が良いですよ。お久しぶりですね、リチャードさん、ティリウレスさん、ユリアさん。」
「ユリア嬢、クエストを達成したら祝いに奢ってやると言ったではないか。まあ、財布に打撃が無くて助かったがな!」
ジャックさんもビルさんもボブさんもユリアを探していたらしい。
「お久しぶりです、ジャックさん、ビルさん、ボブさん。」
「ああ、久しぶりだな、リチャード。優勝おめでとう。」
「妖精を服従させていることや複数属性の魔法使用からただならぬ雰囲気は感じましたが、まさかウェーバーギルドの頂点に立たれるとは思いませんでした。優勝おめでとうございます、リチャードさん。」
「堅苦しい挨拶は抜きだ。優勝おめでとう。」
「ありがとうございます。」
俺は礼を言うと、ユリアに向き直った。
「どうかしましたか、リチャードさん?」
「いえ、大したことじゃないんですが、ユリアはジャックさんたちと仮のパーティを組んでいたんですよね?」
「はい。そうですけど?」
「ジャックさんもビルさんもボブさんもユリアのことを大事に思ってくれてるじゃないですか。なのに、何でパーティは『仮』だったのかな、と思いまして。」
「ああ、そのことですか。ちょっと事情がありまして……」
ユリアはそう前置きすると、ぽつぽつと語り始めた。
☆ ☆ ☆
私が探索者を志したのは8歳の時でした。私はその頃森で迷子になって、モンスターに襲われたことがあったんです。黒くて鼻先に角が生えた、ライノスベアーっていう凶暴なモンスターで、子どもでは到底太刀打ちできません。死を覚悟したんですけど、その時に綺麗な女性の冒険者に助けて貰ったんです。その人はパーティから排斥されたばっかりの探索者の方で、自分の長剣が折れるまで戦ってライノスベアーを追い払ってくれました。その方は着ていた冒険者の服もボロボロで、あちこち擦り傷があって、顔も土で汚れていて、でもすごく綺麗で格好良く見えたんです。だから私はその時決めたんです。大きくなったら探索者になろうって。
そして、15歳になった私は、冒険者ギルドの試験を受けました。探索者は一応戦士系の職ですが補助系なので、試験は簡単でした。すぐにD+ランクの探索者として冒険者登録できたんですが、冒険者人生は甘くありませんでした。一般的に探索者はクエスト受注ではなく、指名でダンジョンや洞窟の探索をする職業です。でも、指名を貰う為にはそれなりの実績やランクが無いといけません。そして、実績を持ってランクを上げるにはクエストを受けないといけません。でも補助系で戦闘力も低く、大して戦闘訓練も積んでいない私は1人ではゴブリンに勝てるかどうかすら分からないので、パーティを組んで貰う以外に方法はありません。でも……
「索敵能力持ちなら間に合ってるから。」
こうやって断られるならまだいい方で、中には、
「テメエみたいな寄生職業冒険者は1人でクエスト行って野垂れ死ね!」
「乳臭いガキの世話してる程こっちは暇じゃねえんだよ!」
などと言う、口の悪い人もいました。で、落ち込んでいた時に出会ったのが【武装の彗星】の二つ名を持っていたジャックさんたちです。ジャックさんたちのパーティは索敵とか罠解除ができる人材がいなくて、いつも防御力が高いジャックさんが盾役をしていたそうなんです。で、私が探索者だと分かったら、索敵や罠解除ができるってことで、パーティ結成して貰えることになりました。でも、いざ結成ってなった時ヴェトルマスターに、
「仮パーティの結成ならば認めるが、真のパーティ結成は認めん。」
って言われちゃったんです。因みに、真のパーティはパーティのランクのクエストが受注できるんですが、仮パーティはそのパーティの中で一番ランクが下の者と同じランクまでしかクエストが受注できません。ジャックさんたちは抗議してくれたんですが、マスターは認めないの一点張りで。最終的に、白金貨を握らされて渋々ながら真のパーティ結成は諦めました。因みにその時の白金貨は持ってるのが癪だったのでケインに預けてあります。
☆ ☆ ☆
「……という訳で、マスターの頑固さと白金貨のせいで私たちは仮パーティだったんですよ。」
「あの時はヴェトルを呪ったな。」
「私は寧ろ不思議に思いましたね。ヴェトルさんがあのように差別的な発言をすることはまず有り得ませんし。」
「あの時は頭がおかしくなったのかと思ったぞ。」
全員ヴェトルさんを詰るような発言をしている。ヴェトルさんの真意は別だと思うけどな。
「それは、ヴェトルさんがユリアを心配したからなんじゃないんですか?」
「ん? それはどういう意味ですか?」
ビルさんが聞き返してきたので、俺は説明を始める。
「ジャックさんが、俺とユリアがパーティを組むって言った時にユリアを心配したのと同じ理由ですよ。パーティ結成時、ユリアはまだ駆け出しのD+という低ランク。それに対して、ジャックさんたちは二つ名を持つほどの強い冒険者パーティ。そこに非力で戦闘能力も低く、あらゆる面において専門職に劣る低ランク探索者なんか入れたら、高ランククエストの出先で死ぬ確率が爆発的に高まるじゃないですか。ヴェトルさんは無為にギルドメンバーが命を落とすことを最も忌み嫌ってるそうですし、恐らくそう考えてのことだと思いますよ。」
「確かにヴェトルならそう考えてのことだとしてもおかしくはないが……」
ジャックさんは怪訝そうな顔をしている。と、そこへヴェトルさんがやって来た。
「おお、ここにいたか、ジャック、ビル、ボブ。」
「うむ。何か用なのか?」
「ああ。既に知っているとは思うが、ユリアがA+ランクにランクアップした。そして、パーティメンバーのリチャードは優勝し、特殊ギルドメンバーとなった。」
「それがどうかしたのか?」
「特殊ギルドメンバーは何が特殊なのか知っているな?」
「いや、知らん。」
「同じくだ。」
ヴェトルさんの問いにジャックさんとボブさんは即答した。
「お前たちは物覚えが悪いな……ビルはどうだ?」
「勿論知っていますよ。それとヴェトルさん、この2人の記憶力には期待しない方が良いです。」
「それは分かっている。それより、知っているなら言ってくれ。」
「はい。特殊ギルドメンバーはクエスト報酬が8割増し、招集に応える義務なし、パーティは組むことができるがそのパーティメンバーはそのパーティ以外にもパーティを組める、というところが特殊ですね。」
「その通りだ。ということで、お前たちさえ良ければ【武装の綺羅星】というパーティを結成してみないか?」
「【武装の綺羅星】ですか?」
「ああ。メンバーはジャック、ビル、ボブ、ユリアの4人だ。ユリアはもう十分力を付けた。お前たちと共にクエストに行ってもそう簡単に死ぬことはないだろう。」
「ヴェトルさん、それって……」
ユリアがそう言うと、ヴェトルさんは、
「うむ。お前たちの真のパーティ結成を認める、ということだ。お前たちのランクも釣り合ったしな。」
と答えた。
「やっぱり俺が思ったとおりだったみたいですね。」
「……そのようだな。」
ジャックさんは少し苦笑いしているような表情だ。
「そしてどうする? 組むなら今組め。組まないのならばこの話は無しだ。」
「リチャードさんと私のパーティはどうなるんですか?」
「さっきのビルの説明を聞いていただろう? 解消の必要はない。お前はパーティをもう1つ組めるのだからな。」
「じゃあ組みます!」
「俺も構わん。」
「問題ありません。」
「うむ。」
ユリアたちはパーティを組むことにしたようだ。
「ではパーティ結成手続きだ。カウンターまで来てくれ。」
ヴェトルさんはユリアたちを連れて会場からいなくなった。
「やっぱりヴェトルさんはいい人だな。」
「そうですね、ご主人様みたいです。」
「ティリは俺を過大評価しすぎだ。」
俺はティリにそう言いつつ、ヴェトルさんに対する評価を上げるのだった。
著者コメント
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