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ダンジョンマスター with 妖精 ~ひたすら型破り~  作者: 紅蓮グレン
第2章:マスターと対人関係

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side ホイジンガギルド マスターの思惑と犬耳娘

 リチャードが初の防衛戦を終えてから2週間が経過した頃、ルキナスたちが依頼を受けた商業都市ホイジンガのギルドではこんな会話が行われていた。


「奴らがまだ戻ってこない、だと?」

「は、はい。剣闘士クリストファー・ウィザロー・ケイル、重戦士ケビン・ルイス・フェリト、魔術師ルキナス・クロムウェル・モンテリューの3人は未だ帰還しておりません。」

「奴らが最後に受諾したクエストは?」

「フェリアイルステップのモンスター討伐です。」

「フェリアイルステップだと? あんなところにいるモンスターなど、奴らにとっては赤子同然だろう。厄介なものとて、せいぜいファイヴヘッド・アナコンダくらいしかいないはずだぞ! クソッ、この稼ぎ時に……」


 ホイジンガギルドのギルドマスター、リカルツ・グレイ・ガルドスは苛立ちの声を上げると、目の前のテーブルを拳でダンッと叩いた。3人が帰還しないことを報告していたギルド職員は震えあがっている。


「もう報告は良い。お前は仕事に戻れ。」

「は、はい。失礼致します。」


 ギルド職員が逃げるように去って行った部屋の中で、リカルツは憎々しげに呟く。


「奴らが討伐クエストを受ければ、モンスターの希少な素材が毎回山のように手に入った。それを貴族の連中に売ればクエスト報酬の5倍以上の金が入るから便宜を図ってやっていたというのに……あの役立たずどもめ!」


 これで分かっただろうが、リカルツは物凄い守銭奴で、強欲である。その欲の深さたるや、七つの大罪の一つ、強欲を司る悪魔ですら真っ青になる程。ギルドの職員を必要最低限まで減らし、給料もギリギリまで削減。自らに回る金を増やして私腹を肥やしている。また、とても面倒臭がりであり、ギルドマスターの権力を利用して仕事は部下に丸投げし、自分は何もしない。傍若無人を絵に描いたような、底意地の悪い性根の腐り切った悪党よりもたちが悪い物、それがリカルツだった。


「今が一番の稼ぎ時なのだ……貴族の欲しがる高級幻覚薬の材料がレーザーホースの蹄から採取できる1年に1度、1週間しかないチャンスだというのに……」


 リカルツがそうブツブツ言っていると、部屋のドアが突然ノックされた。


「何だ?」

「ギルド入会希望者が1名来ましたが、いかが致しましょうか?」

「どんな奴だ?」

「若い獣人の女です。種族的に言えば小型のイヌ種。」

「若い小型イヌ種の獣人か……よし、俺が直々に面会してやるとしよう。今すぐ連れて来い!」

「は、はい!」


 ギルド職員の足音が遠ざかるのを聞きながら、リカルツは口元を歪めた。


「クックックッ……この時期に小型イヌ種の獣人が来るとは、俺はまだ運に見放されていないようだ。獣人は総じて身体能力が高い上、バカが多いからな。適当におだてて、クエストを受諾させればいい。それに、小型イヌ種は奴隷としての価値も高い。使えん奴なら上手く言いくるめて奴隷にし、売り飛ばせばいいのだ。ククククク……」


 リカルツのあくどい嗤い声は、部屋の中に響くのだった。



「ルーア・シェル・アリネと申します。20歳です。」

「ふむ。君が入会希望者か。私はこのホイジンガギルドのギルドマスター、リカルツ・グレイ・ガルドスだ。以後よろしく頼む。」

「はい。よろしくお願い致します。」


 小型イヌ種の獣人、ルーアはそう言って頭を下げた。緊張しているのか、犬耳が少し垂れている。


「ハハハ、そう緊張しないでいい。君は獣人だから体力的な問題は無いだろう。このギルドに入りたいはっきりした理由と、なぜその若さで冒険者になろうと思ったのか。その2つを言い、それに私が納得すれば、君は晴れてこのホイジンガギルドのメンバーだ。」

「えっと、その前に1つ言わせて頂きます。私は、冒険者になりたいのではなく既に冒険者になっているんです。」


 ルーアはポケットからカードを取り出し、そう言った。そこには【Fランク ルーア・シェル・アリネ】と印字されている。


「ああ、そうか。君は獣人だったな。ウィキュシャリア大陸で既に冒険者登録を済ませていたという訳か。しかし、ならばなぜわざわざ君はこのゴーンドワナ大陸のホイジンガギルドに?」

「……実は、ウィキュシャリア大陸のギルドにあるクエストは、どれもとても危険であるにもかかわらず、報酬が低いという割に合わないものばかりなんです。以前なら、その収入でも十分満足できていたんですが……」

「何かあったのかね?」


 リカルツは心配そうな表情を浮かべて聞いた。無論、それは顔だけであり心では1ナノメートルも心配していないが。しかし、それを知らないルーアは理解して貰えるとでも思ったのか、少し嬉しそうな表情になり話し出した。


「先日、父が倒れたのです。植物状態になってしまいまして、1か月以内に20万ゴルドする上級回復薬を注射しなければ死んでしまうんです。でも、そんな大金はウィキュシャリア大陸のギルドのクエストをやっているだけでは1年かけても半分も稼げません。そこで、お金を何とかして稼ぐ為に割の良いクエストがあると言われているこのホイジンガギルドに……卑しいと思われるかもしれませんが、一刻も早くお金が必要なんです。父を助けるためには……」

「そうか、そのような事情があるとは……」


 リカルツは少し沈んだ調子の声とは裏腹に、心でほくそ笑んでいた。早く金が欲しいという奴ほど扱いやすい者はいない。目先の金に釣られて動くのだから、使えるだけ使ってやろう。もとよりこんな獣人の親など、どうなろうが知ったことでは無いのだから。そんな、あくどい思考を巡らせていたのだ。


「よし、分かった。そんなに大変なのならば、特別に入会金無しでギルドメンバー入りを許可する。少々危険なクエストもあるが、君の能力に見合ったもので20万ゴルド稼げるように、私が何とかしてあげよう。」


 リカルツは爽やかな笑みを見せた。その言葉にルーアは涙ぐむ。


「あ、ありがとうございます!」

「ハハハ、礼などいらんよ。私は困っている人を見ると、黙っていられないたちでね。そうだ、宿の代金もかけたくないだろう? 20万ゴルド稼げるまで、このギルドが経営する宿を一部屋無料で貸すから、そこに泊まるといい。」


 リカルツは善人ぶってそう言った。


「そ、そこまで? 本当にいいんですか?」

「いいんだよ。親父さんの命がかかっているのだろう? 困ったときはお互い様だ。人の好意は素直に受け取っておきなさい。」

「ありがとうございます、マスター!」


 ルーアの可愛らしい笑顔を見ながら、リカルツは奴隷としてかなりの高値が付きそうだ、と黒い嗤いをルーアに見えぬよう零すのだった。


 そして3日後、ルーアの元にリカルツはクエストを届けた。クエストの内容は、レーザーホースの蹄を50個以上持ち帰ること。報酬は個数に応じて上昇するが、最低でも5万ゴルド。リカルツには元より5万ゴルドより多く報酬を支払う気などさらさらないのだが、そんなことは知らないルーアは200個取ってくれば20万ゴルドに届く、そうすれば父を助けられると思い、クエストを受諾するとフェリアイルステップへと向かったのだった。

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