99.凍れる獅子と燃え上がる闘志
「グオオオオオオオ!」
フリーズライオンは大きな咆哮を上げている。その目は相変わらず血走っており、正気を失っているように見えなくもない。
「状態は空腹だから何か食物が欲しくて暴れてるのかもしれないけど……」
俺は杖を油断なく構えて呟き、セントグリフに話しかける。
「セントグリフ、お前さ、配下のドラゴンが腹を空かせてたらどうする?」
『餌をやる。当たり前だろう。』
「やっぱそうか。でも、今の状況で餌をやっても……」
『さらに暴れるだけだろう。それに、ちょっとやそっとじゃ落ち着かないだろうしな。』
フリーズライオンはまだグルグル唸っている。影にマサナリが潜っているし、ポリュートの召喚獣やギルバートたちはまだ健在だから今のうちに決定打を叩き込みたい……と考えていると、セントグリフが話しかけてきた。
『リチャード、お前は何かしら決定打を考えておけ。それまでは俺が戦闘する。お前は頭脳が一番の取り柄なんだから。』
「お前はその楽天家っぷりが一番の取り柄だな。じゃあ頼むわ。」
『任せろ。あんなホワイトライオン如きに負ける程俺は柔じゃないからな。』
そう言うや否や、セントグリフはその巨大な体をくねらせて一直線にフリーズライオンに突撃した。慌てて進路上にいる召喚獣や冒険者たちが避ける。障害物がいなくなったセントグリフはフリーズライオンと至近距離で対峙すると、
『氷属性でも限界を超えた冷気に耐えられるか? 【氷結のブレス】!』
と叫んで吹雪のような極寒の冷気を吐き出した。フリーズライオンの身体があっという間に冷気の暴風に呑み込まれる。しかし……
「グワオオオオオオオ!」
吹雪が消え去っても奴はまだぴんぴんしていた。まあ、氷属性無効を持っているから当然なのだが。
『この程度じゃあ限界じゃないか。なら……【白炎のブレス】!』
セントグリフは氷結のブレスに効果が無かったことを確認すると、今度は白い灼熱の炎を吐き出した。氷属性は水属性の上位互換属性だが、火属性の上位互換属性である炎属性には時として敵わないことがある。実際、セントグリフが吐き出した業火はフリーズライオンのタテガミを焦がし、少しばかりダメージを与えたようだ。
『お、効いたな。じゃあ次は……』
セントグリフの連撃は続く。身体を縦に伸ばし、高速で回転することで竜巻を生み出す【竜巻の舞】。傷をつけた相手の動きを鈍らせる【麻痺爪】。人間族には真似できない龍族特有の高威力の技で、フリーズライオンと戦っている。しかし、奴も負けてはいない。氷柱や氷塊を自らの周囲に作りだして撃ち出したり、部分的な【氷像化】でタテガミを氷にして突き刺しに行ったりと、その攻撃のレパートリーや威力はセントグリフに勝るとも劣らない。
「グオオオオオ!」
『負けるか!』
いよいよ両者は肉弾戦に突入した。大きさ的にはセントグリフの方が勝っているが、フリーズライオンも強靭だ。【氷像化】を使って全身氷になったフリーズライオンの突進をセントグリフが鉤爪の付いた手で受け止め、両者の動きが止まる。力は拮抗しているらしい。
「炎が効いたってことは、弱点は炎かもしれないな……でも、あんなでかいライオンを一撃で燃やし尽くせるほどの炎なんて……」
俺はいい考えが思い浮かばず焦り始める。フレイムトルネードであれば奴の意識を刈り取れるかとも考えたが、あれは対象が意識を失うと消えてしまう。そして、それは一秒にも満たない一瞬でもだ。つまり、強力な精神で抵抗されたりすると、本当に僅かに意識を失っただけであの炎の竜巻は消えてしまう。それ以前にあんなものはたとえ異空間であっても人前でぶっ放すようなものではないのだが。
「ご主人様!」
俺がうだうだと考えていると、俺の前にティリが飛んで来た。そういえばずっといなかったな。ティリの存在を一時的とはいえ忘れるなんて……極限状態は恐ろしい。
「どうした、ティリ? ってか、今まで何してたんだ?」
「ルキナスさんとルーアさんとキャトルさんと4人で、決定打について話し合ってました。」
どうやらルキナスさんたちもこの状況を打開するための策を考えていたようだ。
「で、思い浮かんだのか?」
「はい! セントグリフさんの【白炎のブレス】が効いたってことは、ご主人様が最も得意とする炎属性は効果があるってことです。ですから、【豪炎の激情】とかでダメージを与えて、最後に炎で貫く、っていうのを考えました!」
「豪炎の激情……ああ、混合武技か。でも、あれ使ったら残り魔力で貫けるような気がしないんだけど。」
「不安がるなんてご主人様らしくないですよ。いつでも敵には全力で立ち向かい、撃破する。勝利を確信して、堂々と戦場に立つ。私はそんなご主人様の方が好きです。それと、ルキナスさんとルーアさんとキャトルさんからありったけの魔力を貰ってきたので、私と力を合わせて撃てば、きっと貫けます!」
ティリはそう言い切った。自信があるらしい。
「よし、分かった。俺はティリを信じよう。ただ、チャンスは1回だぞ。」
「はい!」
ティリは威勢良く頷いた。俺はドラゴンスレイヤーを抜くと、チラッと清鈴の方を見る。
「清鈴さん、魔力は溜まりましたか?」
「すみません、まだ回復しきってはいないです。あのランクのモンスターを封印するには、もう少し要りますね。ただ、動きを止めることくらいならできます。」
「じゃあ、いざってときはお願いします。」
俺はそれだけ言うと、ドラゴンスレイヤーに炎属性を付与。そして、
「炎属性混合剣術武技、【豪炎の激情】!」
と叫んで縦横に振り回した。剣筋の中心に来るのは、勿論フリーズライオンだ。
「グオオオオ!」
フリーズライオンは慌てたように自らの周囲に氷の壁を張る。しかし、セントグリフが尻尾の一撃でいとも容易くその壁を粉砕した。セントグリフはそのまま急いで戦線離脱し、その数瞬後。
――ドゴオオオオオン!
炎と隕石が激突し、大爆発を巻き起こした。爆風が吹き荒れ、砂塵が舞い上がる。【ウィンド】で砂塵を晴らすと、フリーズライオンはまだ立っていた。だが、体のあちこちの毛が焦げており、タテガミも損傷している。ダメージは大きい。これなら押し切れる!
「ティリ、魔力供給を頼む!」
「はい、お任せください!」
ティリは俺の肩に座った。そして、力を込めるような仕草をする。すると、俺の身体に魔力が流れ込んできた。力が漲り、心が滾る。今なら何にだって負ける気がしない。
「よし、溜まった! これだけあれば、インフェルノでもいける!」
「じゃあご主人様、その魔力を【フレイムランス】の要領で一点集中して撃ち出しましょう! 炎の高まった圧力で貫けるはずです!」
「了解! じゃあ一緒に行くか!」
「はい!」
ティリはそう返事をすると、俺と手を合わせる。そして、俺たちは手を突き出して、
「「貫け! 【インフェルノ・フレイムランス】!」」
と叫んだ。極太の炎の槍がフリーズライオンに迫る。
「グ、グオオオオ!」
フリーズライオンは咆哮を上げ、氷柱や氷塊を飛ばし氷壁を作るが、そんなものは障害にもならない。炎の槍に触れた途端、氷柱も氷塊も一瞬で蒸発。勢いを衰えさせることなどできていない。そして、炎の槍は最高速度のまま氷壁の中心をぶち破り……
「グオオオオオオオオオオオオ!」
フリーズライオンの断末魔が響く。奴の身体を炎の槍が貫いたのだ。近付いてみると、もう既にフリーズライオンは息絶えていた。
「こいつは食物が欲しかっただけかもしれないけど、これは仕方ない。悪いな。」
俺は亡骸を見下ろしながらそう呟くと、ソウル・ウォーサイズを心臓と思しき部分に突き刺す。すると、ソウル・ウォーサイズが虹色に輝き、フリーズライオンの身体から白い光球が浮かび上がった。そして、それはソウル・ウォーサイズに吸い込まれ、お馴染みの機械音声が。
【ダンジョンマスターが剣術混合武技を使用しました。剣術スキルをレベルアップします。】
【B+ランクモンスター、フリーズライオンの魂を捕獲しました。】
「よし、捕獲成功。」
剣術レベルアップについてはスルーし、俺はフリーズライオンを呼び出してみることにした。
「【サモン・フリーズライオン】!」
すると、俺の横にフリーズライオンが出現。身体に焦げ跡もなく、元気そうだ。
「これ、食べるか?」
俺は持っていた携帯食料の骨付き干し肉を差し出してみる。すると、フリーズライオンは、
「グオオ!」
と吼え、干し肉にかぶりついた。一心不乱と言う表現がぴったりの食べ方だ。あっという間に肉を平らげ、骨をしゃぶっている。暴走する程空腹だったんだから、そのくらいするのは当然か。
「よし、お前の名前はアイスガレオだ。いいか?」
「グオ!」
フリーズライオンは一声そう短く吼え、頷いて尻尾を振った。どことなくイヌっぽい。
「じゃあ、これからよろしくな。」
「グオオオオ!」
アイスガレオが頷くのを確認し、俺はウォーサイズにアイスガレオを戻す。
「無事討伐成功ですね。良かった。」
清鈴が話しかけてくる。
「そうですね。セントグリフも、お疲れ。」
『リチャードに労われると、なんか気味が悪いな。』
「シバくぞ、お前。」
『シバけるもんならシバいてみろ。』
「約束を反故に……」
『申し訳ありませんでした!』
俺たちがこんな小芝居を繰り広げていると、ヴェトルさんが近寄ってきて言った。
「リチャード、それに安倍君、助かった。2人は救世主だ。先程、領主から使いがあってな、今夜、宴会で優勝の表彰と共に、2人を名誉市民として表彰することになった。ぜひ出てくれ。」
「……俺はここの市民じゃないんですが。」
「俺も東国の人間ですよ?」
「領主は言い出したら聞かないのだ。兎に角出てくれ!」
「……分かりました。」
「……光栄です。」
俺たちはそう答える。こうして、突如として起きたモンスター襲撃事件は終わったのだった……となれば丸く収まったのだが……
「またなんか来たぞ!」
ギルバートの声が響いた。そちらを見ると、アイスガレオがぶち破った穴から、半透明のモンスターが2体、闘技場内に侵入してきていたのだった……
【リチャードのステータス】
リチャード・ルドルフ・イクスティンク
種族:人間
職業:ダンジョンマスター、魔術師
レベル:271→280
スキル:鑑定眼(Lv6)
剣術(Lv8→Lv9)
刀術(Lv2)
鎌術(Lv6)
槍術(Lv16)
杖術(Lv34)
体術(Lv6)
投擲(Lv2)
狙撃(Lv6)
自動回復(Lv2)
神将召喚(Lv1)
話術(Lv3)
幸運(Lv6)
疾走(Lv7)
壁走(Lv7)
隠蔽(Lv2)
非表示(Lv2)
罠解除(Lv4)
武器造形(Lv3)
全属性魔法(上級)
念話
降霊
影潜
無詠唱
全言語理解
毒属性無効
呪属性無効
聖属性無効
邪属性無効
地属性無効
闇属性無効
火炎無効
技能:炎剣(魔法剣)
炎槍(槍)
捨て身タックル(体)
混合武技:豪炎の激情(炎)
水流の乱舞(水)
荒れ狂う疾風(風)
猛毒の抱擁(毒)
浄化の閃光(光)
称号:妖精の寵愛(全魔術の威力上昇)
大魔術師(適性ある魔術の威力大上昇)
スキル収集家見習い(スキル獲得率小上昇)
龍を討伐せし者(物理耐久力、回復力大上昇)
破壊神の破砕腕(物理攻撃力大上昇)
称号収集家見習い(称号獲得率小上昇)
氷炎の支配者(氷、炎属性の攻撃力大上昇)
霊の天敵(霊族モンスターへの攻撃力小上昇)
瘴気喰らう者(瘴気系の悪影響中減少)
気高き守護者(防御魔術の威力小上昇)
称号収集家助手(称号獲得率中上昇)
ウェポンメイカー(武器造形成功率中上昇)
影の支配者(闇属性魔術の威力中上昇)
嵐神の加護(風、嵐属性の威力大上昇)
強奪者の素質(倒した相手のスキル、称号奪取率小上昇)
邪を祓いし者(浄化属性魔術の威力中上昇)
神獣との契約者(戦闘勝率大上昇)
スキル収集家助手(スキル獲得率中上昇)
栄誉の強奪者(倒した相手のスキル、称号奪取率中上昇)
トラップブレイカー(罠解除成功率中上昇)
称号収集家(称号レア変化率小上昇)
魅惑の微笑み(異性魅了率小上昇)
主の上に立つ者(配下の命令遵守率中上昇)
ダンジョンを攻略せし者(ダンジョン攻略成功率小上昇)
名付け親見習い(ネームモンスター強化率小上昇)
微笑みの紳士(異性魅了率中上昇)
神将との契約者(戦闘時負傷率大減少)
微笑みの貴公子(異性魅了率大上昇)
スキル収集家(スキルレア変化率小上昇)
リジェネゲッター(自動回復の回復率小上昇)
称号コレクター(称号レア変化率中上昇)
支援されし者(支援系魔術の効果小上昇)
豪炎を制する者(炎属性の攻撃力大上昇)
所持武器:アイアンナイフ(N、鉄製のナイフ)
ウィンドナックル(R、風属性物理攻撃可能)
ソウル・ウォーサイズ(SSR、死霊系に特効)
ドラゴンスレイヤー(SSR、全属性対応)
神秘の破砕銃(UR、神秘の聖銃の上級武器)
烈火の神槍(LR、黒迅の魔槍の炎属性特化上級武器)
七星の宝石杖(GX、七属性の威力大上昇)




