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12.初めての戦利品整理

「あ、そういえば……」


 ルキナスさんとの握手が終わった瞬間、ティリが声を上げた。


「どうした、ティリ?」

「まだ今回の防衛戦の戦利品整理をしていません。」

「え? 戦利品? そんなのあったっけ?」

「あの重戦士と剣闘士です。遺体や装備はダンジョンコアに吸収することによってDPに変化しますから。まあ、武器に関しては吸収しないでご主人様が最終防衛手段として使ったり、武器を持てるモンスターに持たせたりといった使用法もありますが。」

「そうか、あの2人か……」


 俺はルキナスさんをチラッと見る。


「リチャード殿の好きになさるが良い。クリスもケビンもDランクだった故、それほど多くのDPにはならんだろうがな。」


 あの2人の元パーティメンバーだったルキナスさんの了承が取れたので、俺は奴らの遺体と装備をダンジョンコアに吸収させる。するとウィンドウに大量の文字が表示された。


【重戦士ケビン・ルイス・フェリトの遺体を吸収します。DPが10000P増加します。】

【重戦士の鎧、重戦士の盾、大剣を吸収します。DPが3000P増加します。】

【オリハルコンブレードを吸収します。DPが40000P増加します。】

【剣闘士クリストファー・ウィザロー・ケイルの遺体を吸収します。DPが10000P増加します。】

【剣闘士の服、剣闘士の肩当て、長剣を吸収します。DPが5000P増加します。】

【ミスリルソード、ミスリルバックラーを吸収します。DPが50000P増加します。】

【戦利品の吸収DP合計:118000P】


「宝箱から出た装備の方が亡骸より多くDP入るって……どんだけあれのレアリティ高いんだよ……」

「ミスリルもオリハルコンも希少金属、所謂レアメタルとか言われる類いのものですからね……ミスリルは採掘されたばかりの塊の状態であっても、レアリティランクはレアです。オリハルコンは、ミスリルよりも希少で価値も高いので、塊の状態でもレアリティランクはSRスーパーレアですね。ですから、武器の形にするとなると……えーっと……」

「ミスリルバックラーとミスリルソードはSRスーパーレア、オリハルコンブレードはSSRダブルスーパーレアですな。購入する場合は、この中で最もレアリティランクの低いミスリルバックラーであろうとも、500万ゴルドは下らんでしょう。その上、これらの希少金属造形武具は市場はおろかオークションにすらほとんど出回らぬ代物。これらを持つことは戦士系の職の者にとって憧れであり、持てた者にとっては誇りとなると言われていますぞ。因みに、ダンジョン内にある宝箱から出る確率は100億分の1ですな。」


 ルキナスさんは良く知っている。さすがは元冒険者だ。


「あ、そういえば、冒険者を撃退したらゴルドも手に入るんじゃなかったっけ?」

「はい。手に入るはずです。数値化されて、ダンジョンステータスに表示されますね。」

「でもさ、所持金増えてないよ。0ゴルドのままなんだけど。」


 俺はそう言ってダンジョンステータスが表示されているウィンドウを指し示す。そこの所持金の欄には無機質な文字で【0ゴルド】と表示されていた。


「あれ? おかしいですね……フェリアイルステップにはそこそこ危険なモンスターが出没するので、ある程度の実績持ちか身体能力に天賦の才を持っている者、それと自殺志願者ぐらいしか来ないと聞いています。まあ、野生ですからこのダンジョンのベースモンスターであるウルフの第一進化種と同列程度ですが、それでもそれなりに強力です。ですから、ここのモンスターをあれだけやすやすと討伐していた彼らはそれなりの実績を持っているはず。そんな冒険者が1ゴルド無しな訳はないと思うのですが……」

「だよな? じゃあなんで……」

「奴らは金など持っておりませんぞ。それこそ鉛貨1枚すらも。」


 ルキナスさんが急に、吐き捨てるようにそう言った。


「奴らは私に金の事は任せきり。金銭は私が一括して管理していたのです。私が会計を担当しなければ奴らはとっくの昔に破産して、奴隷か乞食になっていましたぞ。」


 ルキナスさんは苦虫を噛み潰したような顔で続ける。


「そもそも、奴らが魔術師を1人パーティに入れたい、と土下座して頼んでくるから、いやいやながらあのパーティに参加していたというのに……参加した途端こき使いおってあの恩知らずどもめ……私は奴らの機械でも奴隷でもない……」


 ルキナスさんの声がだんだんと低くなっていく。


「あの、ルキナスさん?」

「あんな奴らを冒険者ギルドに入れるなど、ギルドの上層部の連中も頭がどうかしているに違いない……いや、そういえばホイジンガのギルドマスターはとんでもない守銭奴だと言われていたな……後先考えず、儲けることしか頭にない単細胞のクソ野郎だとギルド職員が愚痴をこぼしていたし……」


 もはやルキナスさんの声は地の底から響くような、聞くに堪えないものになってる。ふとティリを見ると、ティリはおぞましい何かを見るような目でルキナスさんを見ていた。


「あの声は……ああ、あの声は……」

「ティリ? おい、どうした?」

「あの声は……私に『この死神め』と言ってきた今までのダンジョンマスターの声……」

「ティリ! しっかりしろ! トラウマを思い出すな! 俺の事だけを考えろ!」

「ホイジンガギルドめ……あの腐った性根ごと叩ききってくれよう……」

「ルキナスさんもしっかりしてください!」

「ああ……ああ……」

「ククク……フフフ……」


 俺以外のダンジョンの住人がおかしくなった。


「ああ、もう! 実力行使で行きますよ! ウォーターウルフ!」


 俺がダンジョンコアに触れて叫ぶと、コントロールルーム内に大量の水が降り注いだ。ウォーターウルフが遠隔で【アクアトピア】を発動させたのだ。俺も濡れるが、この際致し方が無い。ずぶ濡れになった2人は、目をパチパチさせている。


「あれ? 私は一体何を?」

「おや……私は一体何を……」

「良かった、2人とも元に戻ったか……」


 俺は安堵の息を吐くと、


「あの、じゃあゴルドはルキナスさんが持ってるんですか?」


 と聞いた。幸い、ルキナスさんは今度はおかしくならなかった。


「ええ。そういえば、リチャード殿に譲渡していませんでしたな。これは申し訳ない。」


 そう言ってルキナスさんは10枚の貨幣を渡してきた。


「これだけですか?」

「これだけ? 冒険者パーティの貯蓄としてはかなり多めだと思いますが。」

「でもこれ銀貨じゃないですか。銀ってそんなに価値は……」


 俺がそう言いかけた時、ティリが、


「違います、ご主人様。これは銀貨ではなくプラチナ貨です。」


 と言った。


「え? プラチナって色違うだろ? もうちょっと白っぽくない?」


 俺がこう言うと、ティリは一瞬硬直。そして、壊れかけたブリキの人形のようにギクシャクとした感じで首をルキナスさんの方に向けると、


「まさか、これってアレ・・ですか?」


 と言った。その質問に対して、ルキナスさんは深く頷く。


「然様。これは銀貨でもプラチナ貨でもなく、ミスリル貨。1枚で1000万ゴルドの価値がある故、これは全部で1億ゴルドですな。」

「やっぱりミスリル貨ですか! これを見ることができるなんて……」

「ティリ、ミスリル貨ってそんなに凄いのか?」


 俺が聞くとティリは目を剥いた。


「当たり前じゃないですか! そもそも前に……って、あれ? も、もしかして私、貨幣価値について説明してませんでしたか?」

「うん、全く。」


 こう言うと、ティリの顔が青くなった。


「も、申し訳ありません! わざとじゃないんです! 忘れていただけなんです! 嫌いにならないでください! 捨てないでください……ご主人様……捨てないでぇ……」

「泣くな。そもそも何で俺がティリのこと嫌いになったり捨てたりするんだよ。ダンジョンのかけがえのないパートナーにそんなことする訳がないだろ。それより、説明をお願い。」

「かしこまりました、ご主人様。この世界には、鉛貨、錫貨、青銅貨、銅貨、銀貨、金貨、プラチナ貨、ミスリル貨、オリハルコン貨という9種の貨幣が存在します。鉛貨は1ゴルド、錫貨は10ゴルド、青銅貨は100ゴルド……とその価値は10倍増しです。つまり、生涯で1度見ることが出来れば、それは癌が治るほどの奇運と言われるオリハルコン貨は、1枚で1億ゴルドの価値があることになります。そして、ミスリル貨もかなり希少でして、富豪や大臣などしか持っていないと言われているんです。」

「へー、そりゃ凄い。でも、じゃあなんでルキナスさんがそんなのを持ってるんです?」


 俺がそう聞くと、ルキナスさんは事もなげに答えた。


「なに、今までの稼ぎをコツコツと貯蓄した結果。あと、こんな物もありますが。」


 そう言って、ルキナスさんはポケットから黄金の塊を取り出した。


「純度99.99%、即ち24金の100gの黄金のインゴットですぞ。今の金のレート価値からすると……170万ゴルド程の価値ですな。」

「なんでそんなものまで? それは貯蓄の結果じゃないですよね?」


 俺が聞くと、ルキナスさんはちょっと顔を赤らめてこう言った。


「実を言うと、このインゴットは結婚の資金に充てようと思っていた物なのです。私にはまだ若き頃に契った獣人族の娘がおりまして……」

「ははあ、それで。因みに、その結婚資金ってのは、どのくらい必要なんですか?」

「200万ゴルド程ですかな。」

「あ、じゃあそのインゴットはルキナスさんが持っていてください。ああ、それと一つ確認したいんですが、その獣人族の子も冒険者ですか?」

「ええ。」

「なら都合がいい。その子がこのダンジョンに来たら再会できますね。よし、ティリ! このダンジョンの防衛を頑張って、獣人の大陸であるウィキュシャリア大陸までこのダンジョンの名を響かせるぞ!」

「はい! ご主人様!」

「リチャード殿、ありがとうございます……」

「良いんですよ。俺がルキナスさんの為にできることは、これぐらいしかないですから。」


 俺はルキナスさんと獣人の子が再会できるよう、そして結婚できるよう全力を尽くそうと決意したのだった。

ダンジョン名:‐‐‐‐‐‐

深さ:71

階層数:8

DP:15万8000P

所持金:1億ゴルド

モンスター数:204

    内訳:ジャイアントモール  10体

       キングモール     30体

       ウルフ        40体

       ソイルウルフ     20体

       ファイアウルフ    20体

       ウォーターウルフ   20体

       ビッグワーム     25体

       ジャイアントワーム  30体

       レッドイーグル     5体

       イートシャドウ     4体

侵入者数:3

撃退侵入者数:2


住人

リチャード・ルドルフ・イクスティンク(人間、ダンジョンマスター)

ティリウレス・ウェルタリア・フィリカルト(妖精)

ルキナス・クロムウェル・モンテリュー(人間、魔術師)

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