85.ギルドの名付け親
「あっ、リチャードさん!」
ウェーバーの教会に転移し、そこから歩いてギルドに入った俺を迎えたのは、いつも以上にハイテンションなユリアだった。
「きっと来てくれると思ってました! ケインに速達にして貰った甲斐がありましたよ!」
「今日はいつになく嬉しそうですね、ユリア。」
「勿論です! 冒険者の憧れであるA+ランクになれるだけじゃなくて、ギルドの名付け親ですよ! リチャードさんはご存知ないかも知れませんが、王国直属統括組織であるギルドの名付け親に選ばれるなんて、もの凄い名誉なんです!」
そう宣言するユリア。
「へー。ダンジョン1つ攻略した程度でそんな名誉が貰えるんですね。ちょっと安売りしすぎじゃないですか?」
「ダンジョン攻略って本来は凄く難しいんですよ。リチャードさんからしたらそうでもないかもしれませんけど……」
「そうですね。ダンジョン攻略は、普通クランって呼ばれるパーティよりずっと大きい冒険者グループが派遣されますから。」
俺の疑問に反応したのは、ユリアだけではなくレナさんもだった。
「あ、レナさん。お久しぶりです。今日はコバルト連れてきましたよ。」
俺はそう言うと、異次元倉庫からアクアクジャクに進化したコバルトを出した。
「あ、ありがとうございます! わー、コバルト、大きくなったね! 立派に進化してるよ!」
「ミャーンミャーン!」
レナさんは倉庫から飛び出したコバルトを抱きとめ、頬ずりをする。コバルトも嬉しそうに鳴き声を上げた。
「リチャードさん、あのクジャクって……」
「ああ、ユリアはあったことがありましたね。最初にユリアが来た時に自害用のナイフを弾き飛ばしたウォータークジャクです。今はアクアクジャクですが。」
「あ、やっぱりあの時の! ってことは、間接的に私を助けてくれたのはリチャードさんだったんですね!」
「それはそうですが、今回は抱き付かない方が良いですよ。見えてると思いますが、俺の肩の上にしっかりティリが座っていますよね?」
俺は右肩の上に座っているティリを撫でながら言う。すると、ユリアの表情が凍りついた。
「あ、そ、そうですね……お久しぶりです、ティリさん。」
「お久しぶりです、ユリアさん♪ そんなに怯えなくても、ご主人様に何もしなければ私も何もしないから大丈夫ですよ♪」
ティリはナデナデが嬉しいのか、弾んだ声でユリアに挨拶をした。
「レナよ、ペットとの再会が嬉しいのは分かるがそのくらいにしておけ。ユリアが呆れているぞ。」
軽く溜息を吐きながらヴェトルさんがカウンターの中から出てきた。
「あ、マスター。こんにちは。」
「こんにちは、ヴェトルさん。」
「うむ。」
ヴェトルさんはそう言って軽く会釈。
「して、リチャード。ここにいるということは依頼を受けてくれた、ということでいいのか?」
「依頼、っていうのはギルドの名付け親の件ですか?」
「そうだ。」
「それでしたら、受諾ってことで大丈夫ですよ。」
「ならばよかった。ではどうせだから来賓室で話そうではないか。」
ヴェトルさんはそう言うと、俺たちを来賓室へと案内してくれた。
「うわ……すっごい豪華だ……」
「調度品に金をかけるのは無駄なような気もするが、これは本部からの指示だ。領主などの重要人物も招く部屋でもあるから、出来るだけ金をかけろと言われていてな。煩わしいかもしれんが、我慢してくれ。」
調度品のあまりの豪華さに唖然としている俺を見てヴェトルさんは苦笑い。
「まあ、兎も角座れ。」
ヴェトルさんはソファを指し示す。俺はユリアと共にそこに座った。
「さて、では改めて話をさせて貰う。まず、お前たちの功績を王都ハイデガーにあるギルドの本部に連絡し、それと共にランクアップの許可も求めた。協議に時間がかかったようなのだが、正式に認可が下りたので、今日からお前たちはA+ランクだ。これが新しいギルドカードだ。」
そう言ってヴェトルさんは黒いカードを俺たちに差し出した。そこには金文字で
【A+ランク魔術師 リチャード・ルドルフ・イクスティンク】
【A+ランク探索者 ユリア・エステル・ローレライ】
と刻まれていた。
「ダンジョン攻略は相当な偉業だからな。特別にブラックカードだ。」
「このカードって、なんか普通のギルドカードと違うんですか?」
「ああ。ブラックカードは権威ある冒険者のみが持てる最高のカードだ。それを提示すれば、どこの冒険者ギルドでも立場が証明される。ユリアはここのギルドメンバーだからあまり使う機会はないかもしれんが、リチャードはどこのギルドメンバーでもないのだろう? これを持っていればいろいろと便利だから、無理を言って本部から貰っておいた。」
「お気遣いいただきありがとうございます。」
「なに、礼には及ばん。」
ヴェトルさんは少し頭を掻く。
「それより、ここからが本題だ。お前たちがCランクダンジョンである【死霊のダンジョン】をぶっちぎりの世界新記録で攻略してくれたおかげで、我らがウェーバーギルドは1つ星ギルドになった。そして、それには星を付けるもととなった偉業を為した冒険者が名を付けることになっている。ギルドに相応しければ何でもいいから、どんどん案を出してくれ。」
「んー……」
俺は少し考える。ダンジョンの名前みたいにサクッと決める訳にもいかないからだ。威厳ある感じとか、強そうな感じとかが良いだろうし。
「えっと、【煌めきの冒険】とかどうですか?」
「それは却下だ。そんな冒険者を煽るような名前を付けたら、駆け出しの冒険者が命を落とす原因になりかねん。」
ユリアが案を出したが即却下される。
「じゃあ、神獣系の名前付けるのはどうですか?」
「ふむ、神獣か……悪くはないが、どのようなものを付ける?」
「例えば、【不死のフェニックス】とか、【天翔けるペガサス】とか。」
「響きは良いが、このギルドに関係がない神獣の名を無闇に使う訳にはいかない。」
ユリアはめげずにどんどん案を出すが、悉く却下される。
「ヴェトルさん、つまり関係があれば神獣の名前を使ってもいいんですか?」
「うむ。関係があれば構わん。」
「じゃあ、【グリフォンの光翼】なんてどうでしょう?」
「……宝物の番人か。お前は軽く恐ろしいものの名を持ち出すな。だが、その神獣も関係者が……」
「いますよ、ここに。来てくれ、レオライトニング。」
俺はヴェトルさんの言葉を遮ってそう言う。すると、俺の横の空間が揺らぎ、そこに有翼の純白ライオンが現れた。神々しい輝きを放っている。
『リチャード・ルドルフ・イクスティンク、我が契約者の1人よ、何用であるか?』
「特に用はない。強いて言えば、お前の種族名を使いたいんだが、使っていいかって聞きたいくらいだ。」
『その程度、別に構わん。使いたければ勝手に使え。』
「そうか。急に呼んで悪かったな。」
『いや、これは我の礼の一環だ。いつでも呼んで貰って構わぬ。』
そう言うと、レオライトニングは空気に溶けるように消えていった。
「はい、神獣本体の許可もとりましたし、これでいいですよね?」
「……うむ。色々と突っ込みたいことはあるが、まあいい。ユリアはどうだ?」
「私はリチャードさんがお決めになったなら何でもいいです。私もレオライトニングさんと契約してますし。」
「お前もか?」
ヴェトルさんは目を見開く。
「はい、私もです。」
「リチャードなら何を起こしても驚かない自信があったが、ユリアがやると驚いてしまうな……立派になったものだな。」
そう言うとヴェトルさんは立ち上がり、
「では、このギルドの名を【グリフォンの光翼】に決定する!」
と宣言した。すぐさまギルド内にもギルド名決定の放送が流れる。
「これで終わりですね。じゃあ俺は帰ります。」
俺はそう言って帰ろうとしたが、そこでヴェトルさんが面倒な一言を放った。
「待ってくれ、リチャード。ついでだから、ギルド内の交流戦に出場してくれないか?」




