閑話:ネームモンスター!(side シルヴァ)
皆様、お初にお目にかかります。私の名はシルヴァ。友好獣のダンジョン最古参の1体にしてこのダンジョン初のネームモンスターであるエンペラーモールでございます。私の仕事は主殿と主殿の仲間とこのダンジョンを守護すること、あとはダンジョン通路の穴掘りです。
『おい、シルヴァ。聞こえるか?』
脳内に我が主、リチャード・ルドルフ・イクスティンクの声が聞こえてました。スキルの【念話】を使用されたのでしょう。
『いかがなさいましたか、主殿。』
『コマンダーモールの居場所を知らないか?』
『コマンダーモール、ですね。少々お待ちください。』
私はそう念話で主殿に言葉を送ると、周囲にいるモンスターを探知し始めました。これはエンペラーモールの特殊能力で、同族のモンスターを周囲100kmに渡って探知することができるのです。コマンダーモールの反応は第4階層の深さ40の真ん中程。眠っているのか、全く動きません。
『第4階層の最深部、深さ40の通路の真ん中程におりますが。何か御用なのでしょうか?』
『ああ。さっきダンジョン内トラップである落とし穴の破壊報告がウィンドウに出たから、アイツに修理させようと思ってたんだ。まあ、壊れた原因もアイツだったみたいだがな。』
『どういうことでしょうか?』
『大方、通路で前転でも使ったんだろ。で、ジャンプし損ねて棘付き落とし穴に転落。硬化した身体が棘をへし折った、って感じだと思うぞ。』
『あのバカ……叱って参ります!』
私は勢い込んでそう念話を送りましたが、主殿は断られました。
『いや、それはしないでいい。皇帝であるお前が叱ったら総帥のコマンダーモールが必要以上に深く反省してモール部隊第1分隊の士気に影響が出るかもしれないだろう? だから、俺が叱ってくる。』
それを聞いて私は大急ぎで止めました。
『それだけはおやめください!』
『何でだよ。』
『主殿が直々にお叱りになられた場合、彼は私に叱られるより深く反省してしまうはずです! その方がずっと大きい影響がでますので!』
『そうかねえ……じゃあいいや。ティリに頼むことにする。』
『それもやめた方が良いかと思いますが。』
『何でだ? 俺の意向をティリに伝えて貰おうと思っているだけなんだが。』
『万が一にもティリウレス殿がコマンダーモールを敵対認定した場合、彼が灰燼に帰してしまいますので……』
『……お前はティリを何だと思ってるんだ?』
『主殿の忠実なる秘書であり我々にも優しく接してくださる優しさと主殿に敵対する者には容赦しない破壊の権化のような感情を持つ方、ですが。』
『俺に忠実ならコマンダーモールには攻撃しないだろ。』
『失礼かと思いますが、そうとは言い切れません。やはり私が叱って参ります。』
『……分かった。そこまで言うなら今回はお前に一任する。やんわりと注意しておけ。士気に影響が出ないようにな。』
『了解いたしました、主殿。』
私は念話で主殿に了解の返事を送ると、コマンダーモールの元へと向かいました。
『あのモグラ、ダンジョンのトラップを壊すとはどういう了見だ! 今すぐに我が愛刀で八つ裂きにしてやる!』
『お待ちください、ムラマサ様! トラップ破壊程度で八つ裂きは流石にやりすぎ……』
『貴様は黙っていろ、ローディアス!』
私が第4階層最奥に着いた時、このような言い争いの声が聞こえてきました。この声の主は武者鎧を纏った骸骨と浮遊する青白い人型の幽霊。ムクロノショーグンであるムラマサとクレバーゴーストのローディアスです。
『ムラマサ、八つ裂きにしてしまうとダンジョンの戦力が減る。主殿にも叱られますし、配下から除外されるかもしれない。やめておいた方が良いかと。』
『ん? ああ、シルヴァ殿か。』
『シルヴァ殿、何卒ムラマサ様を止めるのにお力添えを!』
私が声をかけると、ムラマサとローディアスがこう言いました。
『ムラマサ、私は主殿より直々にコマンダーモールを叱るよう命を受けましたので、ここは私に任せて頂きたい。』
『成程、貴公の命ならば仕方ない。ではシルヴァ殿……』
『あとは私が引き受ける。』
私がそう言うと、ムラマサはローディアスを連れて第5階層へと下って行きました。
『さて、あのバカはどこに……』
私は探知を展開しながらコマンダーモールを探しました。彼が引っかかった地点はどうやらここから400m程先のようです。通路を進んで落とし穴を覗くと、そこに何やら毛玉のような丸い物が落ちていました。前転形態のコマンダーモールです。
『起きろ、総帥。』
『うぐぐ……シルヴァ様、お叱りは受けますのでまず私を引き上げては頂けないでしょうか?』
『不許可である。叱るのが先だ。きちんと反省したらその後引き上げてやる。』
『ぐう……』
その後、私は1時間程コマンダーモールに説教をしました。このダンジョンは主殿が作ってくださったものであり、そこを壊すなど言語道断である、と。
『分かったな? 冒険者の迎撃訓練をするなとは言わない。だが、お前とて分隊の総帥なのだから、もう少し自覚と責任を持つように。』
『はっ! 申し訳ございません。』
『よし、合格だ。』
私はそう言うと、前足を思いきり地面に打ち付けました。その振動は落とし穴の底にいたコマンダーモールを空中に打ち上げます。私はそこを狙って思い切り体当たりをし、救出に成功しました。
『荒業ですね、シルヴァ様。』
『文句があるのか?』
私が睨むと、コマンダーモールは首を大急ぎで横に振りました。
『兎に角、もうトラップを壊したりするな。故意でなくとも幾度も壊せば主殿の逆鱗に触れるであろうからな。』
私は最後にもう1度注意をし、下層へと戻りました。イレギュラー対応は面倒な為、主殿に任せず私が解決しよう、と思いながら。




