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ダンジョンマスター with 妖精 ~ひたすら型破り~  作者: 紅蓮グレン
第5章:マスターと依頼

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side セントグリフ シスコンとフェアコン

『おーい、リチャード! 起きてるんだろ! 返事してくれよ!』


 友好獣のダンジョン内にそう声が響く。声の主はセントグリフ・クレイティブ・カール。龍族の幽霊で、今は友好獣のダンジョンに居候している。


「何だよ、セントグリフ。せっかく惰眠を貪っている俺の安息の時間を邪魔しやがって……」


 そうぼやきながらやって来たのはリチャード・ルドルフ・イクスティンク。友好獣のダンジョンのダンジョンマスターであるが平和主義という、なんとも奇特な人間である。


『ダンジョンマスターの癖に惰眠を貪るとか、緊張感なさすぎだろ。ティリちゃんが泣くぞ。』

「ティリが俺に惰眠を貪れって言ったんだ。『最近ご主人様は働きすぎです! もっと休息を取ってください!』ってな。」

『直接惰眠を貪れとは言ってないだろ……まあいいけどさ。』

「それより何の用だ? 重要な話だったら聞いてやるが、くだらない話だったら消し飛ばすぞ。」

『デッドリーな2択はやめてくれ。』

「それはお前の話次第だ。さあ言え。それとも消えるか?」


 そう言って七星の宝石杖を構えるリチャード。この男は平和主義の癖に自らに迷惑をかけてくる相手には容赦をしない。初見で殺される相手はまずいないが、それが自分への迷惑になるなら別らしい。やはり不思議な人間である。


『言うからまずその杖を降ろしてくれ。そもそも言う為にお前を呼んだんだから言わない訳ないだろ?』

「俺の名前はお前じゃない。リチャード・ルドルフ・イクスティンクだといつも言っているだろう。お前は本当に物覚えが悪いな。」

『それを言うんだったら俺だって名前はお前じゃねえよ! セントグリフ・クレイティブ・カールだ!』

「居候の分際で何言ってるんだよ。それよりさっさと話せ。」

『チッ、お前との舌戦には勝てないな。まあいいけど。話はリーンのことだよ。』


 リーンというのは、セントグリフの妹だ。龍族の住むモータント大陸でドラゴンの巣窟というダンジョンのマスターをしている。


「リーンがどうかしたのか?」

『いや、前に聞いたことの再確認。本当にリーンのダンジョンを攻める気はないのか?』

「毛頭ない。言っただろう。俺の協力条件は『こっちに攻めてきた時のみ』だ。攻め込むメリットも薄いし、何よりうちのモンスターたちは防衛専門だ。ダンジョンを攻めることなんかには使わない。どうしてもダンジョンを崩したいなら、俺が直接乗り込むし。」

『相変わらず頑なだな。』

「そもそも、なんで今になってそんなことを聞くんだ?」

『リーンが心を病みそうな気がしてさ、心配なんだよ。』

「もう十分病んでるんじゃないか? 兄に恋心を抱いてる時点で正気の沙汰だとは思えないんだが。」

『そういうことじゃない。真剣な話だ。』


 そう言うと、セントグリフはリチャードを見据えて話し出した。


『明後日は俺の祥月命日なんだ。俺がダンジョン内で殺された日、ってことな。』

「それがどうかしたのか? 別にお前が死んだ日だからって、リーンが急に狂ったりするわけじゃないだろ? 既に狂ってるようなもんだし。」

『今までも狂ってないけど……でも、リーンは俺に執着してたから、俺の命日が近付いたらどうなるか分からないし……』

「だからって俺にどうしろと? 俺は別にお前の妹と物理的にも精神的にも深層心理的にも種族的にも関係性は皆無なんだが。それに、リーンがお前に執着してるのと同じくらいお前だってリーンに執着してるだろ?」


 リチャードのこの言葉に、セントグリフは反論した。


『はあ? いくらリチャードでもそれは聞き捨てならないね! 俺のどこがリーンに執着してるっていうんだよ!』

「リーンの暴走を止める為に幽霊になってまで腕の立つダンジョンマスターを探しまくってたところ。」

『それのどこが執着なんだよ!』

「普通の生物は幽霊になってまで妹の暴走を止めようとしたりしない。ということで、お前はシスコンだ。妹萌えだ。」

『執着より言い方がランクアップしてるし! なんでお前は俺に対してだけ態度が違うんだよ!』

「それはお前がシスコンだからだ。」

『シスコンじゃねえ!』

「じゃあお前はリーンがどうなっても知ったこっちゃねえと?」

『そんな訳ないだろ! リーンがどうなってもいいなら必死にダンジョンマスターを探したりするか!』

「なら、お前は妹が大事。そして、お前は俺とティリに嫉妬した。ということは、お前は妹に対して少なからず恋愛感情を持っている。つまりシスコンなんだ。」

『グッ……』


 リチャードのこの言葉にセントグリフは言い返せず黙り込んだ。


「シスコンはシスコン、シスターコンプレックスだ。認めて楽になれよ。妹が大切なんだろ?」

『そりゃそうだけど……シスコンってのは貶し言葉だろ?』

「それは受け取る相手による。俺はティリコンとかフェアコンって言われたら最高の褒め言葉として受け取るし。」

『ティリコンにフェアコン? 何だよそれ。』

「ティリコンはティリウレスコンプレックス、フェアコンはフェアリーコンプレックス。どっちも俺の造語だ。」

『要はティリちゃんにベタ惚れってことだな。』

「そうだ。だからお前もシスコンでいいじゃないか。自分が大切なものに執着するのは、決して悪い事ばかりじゃないと思うぞ。守りたいから執着するんだし。」

『……そうか。確かにそうかもしれないな。』

「だろ? お前は難しいこと考えないで、妹のことを考えてりゃいいんだよ。攻めて来たらちゃんと返り討ちにして再会させてやるから。」

『リチャード……』


 セントグリフは目を潤ませる。リチャードはそんな幽霊に対して、容赦ない言葉を投げかけた。


「という訳で、俺の安眠を妨害した罰はしっかり受けろ!」

『は? 何が『という訳で』なんだよ?』

「問答無用だ!」

『ちょっと待て、リチャード、話し合おう!』

「無駄だ!」

『俺たちはコンプレックス仲間だろ!』

「それはそれ、これはこれだ。さあ、訓練場へレッツゴー!」


 そう言うと、リチャードはセントグリフを無理やり訓練場へと引っ張っていくのだった。セントグリフがどうなったか、それは彼の名誉と尊厳を守る為、ここでは言わないことにする。

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