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ダンジョンマスター with 妖精 ~ひたすら型破り~  作者: 紅蓮グレン
第5章:マスターと依頼

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110/200

side ??? 兄の思い出と心の痛み

「ふう……」


 モータント大陸、ドラコ山麓にある【ドラゴンの巣窟】。そこのダンジョンマスターであるリーン・クレイティブ・カールはダンジョン内の訓練場でそう息を吐いた。彼女の前にはミニスタードラゴン、フライングドラゴン、グランドドラゴンが倒れ伏している。


「お疲れ様です、スターライト、ハイフライ、ドラン。」


 リーンがそう言ってドラゴンたちに頭を下げると、彼女の脳内にレッディルからの念話が届いた。


『鬼畜だな、主よ。階層ボスドラゴンを3体も戦闘不能にして……今冒険者が来たらどうする気だ?』

「あなたがいるなら大丈夫でしょう、レッディル? それとも自信がないのですか?」

『ハッ! 我がそのあたりの有象無象に負けるわけがなかろう。だが……』

「何ですか?」

『油断はできぬ。あのダンジョンマスターのような強さの奴が来た場合は苦戦を強いられるだろうしな。』

「あなたに勝てる冒険者など上位0.1%くらいなんですから、そんな心配はするだけ無駄なのでは?」

『いつもの慎重すぎる程慎重な主とは思えん発言だな。何かあったのか?』

「何かあったのか、ですって? まさかあなた、2日後が何の日か覚えていないんですか?」

『2日後? ああ、セントグリフ殿の祥月命日か。だから注意力が散漫なのだな。』


 納得がいったような声でレッディルはそう言う。


「ええ。兄上があの憎き人間に殺された日です。私をずっと育ててくれた兄上が……」

『相変わらずの執着だな、主よ。』

「兄上に執着してはいけないという法律でもあるのですか、レッディル?」

『そんなことは誰も言っておらぬだろう。セントグリフ殿に執着するなとは言わんが、いささか度が過ぎているのではないか?』

「少し五月蝿いですよ、レッディル。死にたいのですか?」

『都合が悪くなるとすぐ脅しに方向転換してはぐらかすその癖も治した方が良いと思うが……まあ、我とて命を無為に捨てようとは思わん。自己鍛錬の為少し出てくるぞ。』


 そう言うと、レッディルは念話を切った。


「都合が悪くなるとはぐらかす癖を直した方が良い、ですか……兄上も昔同じようなことを言っていましたね……」


 リーンは1人でそう呟く。最愛のもう死んでしまった兄、セントグリフのことを考える度に痛む心。もう二度と会うことなどできない、と分かっているにも関わらず、彼女は考えることをやめようとはしなかった。毎日毎日、時間さえあればセントグリフの墓に向かって手を合わせ、花を手向け、兄と共に暮らしていた頃の懐かしい記憶を呼び覚ます。兄のことを決して忘れないように。それが彼女の日課だった。



「兄上……もう会えない、と理屈では分かっているのに心で呑み込めません。執着してしまうのはおかしいのでしょうか?」


 セントグリフの墓の前で答えのない問いを口に出すリーン。彼女はセントグリフがダンジョン内で人間の冒険者に殺されてから、ずっと孤独なのだ。レッディルやスターライトなど、配下と呼べる者はいる。だが、彼女と対等な関係を結んでいる者はいない。気を許して話せる相手、それをリーンはずっと欲しているのだ。


「兄上……私が人間を殺せば兄上はお喜びになる、と思っていますが、これも兄上がいないという都合の悪いことをはぐらかすための行動なのでしょうか? 人間を殺した、という罪悪感を消すために兄上の死を言い訳に使ってしまっているのでしょうか?」


 彼女はまた答えのない問いを呟く。彼女にとって、最愛の兄を殺した人間は許すことのできない相手だ。しかし、それはあくまでセントグリフを殺した人間であり、普通の人間ではない。人間族そのものを目の敵にするのはやめた方が良い、とレッディルにもよく言われている。しかし、そんなことはリーンだって重々承知しているのだ。理屈は分かる。他の人間に罪が無い、ということも分かる。すべて理解している。にも関わらず、彼女は人間族を憎んでしまうのだ。


「なぜ私は人間族という種族そのものを憎んでしまうのでしょうか? 戦って、殺して、その繰り返し……私は何をしたいのかも分からないまま、戦い続けるしかないのでしょうか?」


 こう呟いた時、リーンは兄が言っていた言葉を思い出した。


【リーン、たとえ何があっても、絶対に戦いに心を呑まれちゃいけない。俺の心も、リーンの心も、本当は戦いたいなんてこれっぽっちも思っていないんだ。何かを守る為に戦うなら良い。でも、戦うことそのものは目的じゃないんだよ。自分の大切なものを守る、それが本当の戦いの意義だ。それを忘れてしまったら、ただの殺戮者になってしまうからね。】


「そうでした……兄上は戦うことを望んではいませんでしたね……兄上が戦う理由は、自らと私を守る為。そして、最終的に私を助けることにより重きを置き、自ら敵と戦い、そして……」


 こみ上げてくる涙を抑え、リーンは続ける。


「兄上は最期まで、何かを守る為に戦っていたのですね……私はいつの間にか、それを忘れていました……でも、私はこれ以上何を守る為に戦えばいいのでしょう……あのダンジョンのマスターに戦いを挑んで、捕らえて、人間を集める罠を作らせることができたとしても、それで一体、何が守れるのでしょうか……」


 リーンの瞳から涙が溢れ出る。兄が言っていた大切なことを忘れていた悲しさと自分が何をしたいのか分からない悔しさで彼女の胸はいっぱいだ。


「兄上……教えてください……私は一体何を守る為に戦えばいいのか、私は何をしたいのかを……」


 その答えを知る為に縋りたい相手には、もう二度と会えない。リーンは墓石にしがみついて、ひとしきり泣き続けるのだった。



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