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0.目覚めたらダンジョンマスター

「起きてください! 起きてくださいってば!」


 女の子の声が聞こえる。きっと妹だ。毎朝起こしに来てくれる妹、健気なことだ。だが、俺の眠気は取れていない。


「んー……あと5分だけ……」

「何悠長なこと言ってるんですか! 早く起きてくださいよ!」


 ん? 反応がいつもと違う。いつもならここで『あと5分だけだよ』とか何とか言って、ベッドから遠ざかって行くはずなのだが……


「あと5分だけだ……」

「あー、もう! 無理矢理起こします! アクアトピア!」


 その声と共に、俺の顔に大量の水が降り注ぐ。


「あぶあぶあぶあべべばばべば!」


 息を吸えない苦しさ。口の中に流れ込んでくる冷たい感触と液体。


「ふう……起きました?」


 顔に降り注ぐ水が止まったので俺が目を開けると、そこには身長10cmくらいの女の子が浮かんでいた。金髪で目は翠色、手足は人形のように細く、背中からは4枚の透き通るように薄い羽根が生えている。どこからどう見ても妖精だ。


「……夢だな。感触もあるなんてリアルだ。」


 俺はそう言いつつ、眠ろうとする。


「もう! 起きたんだから真面目にやってください! アクアトピア!」


 また大量の水。


「あぶあぶあぶあべべばばべば!」


 息を吸えない苦しさ。口の中に流れ込んでくる冷たい感触と液体。


「ふう……起きました?」


 顔に降り注ぐ水が止まったので俺が目を開けると、そこには先程と同じ、身長10cmくらいの女の子が浮かんでいた。金髪で目は翠色、手足は人形のように細く、背中からは4枚の透き通るように薄い羽根が生えている。どこからどう見ても妖精だ。


「……夢だな。感触もあるなんてリアルだ。」


 俺はそう言いつつ、眠ろうとする。


「もう! 起きたんだから真面目にやってください! アクアトピア!」


 またまた大量の水。


「あぶあぶあぶあべべばばべば!」


 息を吸えない苦しさ。口の中に流れ込んでくる冷たい感触と液体。


「ふう……起きました?」


 顔に降り注ぐ水が止まったので……と、このままでは無限ループに入りそうなので俺はムクリと起き上がり、頬をつねる。痛い。夢ではなく現実のようだ。


「やっと覚醒してくださいましたか。」


 目の前に浮かぶ妖精が大袈裟に嘆息するようなジェスチャーを取る。俺が辺りを見回すと、そこは壁、壁、壁。ドアも何もない立方体の部屋の中だった。俺はどうしてこんなところにいるのか思い出そうとして……


「……何も思い出せない。」


 おかしい。何も思い出せない。記憶が全くない。自分の名前も、年齢も何もかも分からない。唯一覚えているのは、妹が一人いることだけ。妹の名前も思い出せないが。


「記憶を失って困惑するのは分かるのですが、お話を聞いて頂けますか?」


 目の前の身長10cmくらいの妖精は、俺にそう言ってきた。


「その前に、君は誰だ?」

「私はティリウレス・ウェルタリア・フィリカルトと申します。ティリとお呼び下さい。」


 俺の問いに答えた妖精ティリは、空中でぺこりと頭を下げると、話し始めた。


「ここは、未完成の地下ダンジョン、その最深部の【コントロールルーム】です。ダンジョンを作るために必要な罠やアイテム、モンスターなどは大体ここで購入できますね。嗜好品や食料も可能です。」


 そう言うとティリはさっと手を振り、ビー玉ほどの大きさのキラキラ光る玉を取り出した。


「そしてこちらがダンジョンの中枢であり心臓であり核である最重要品、【ダンジョンコア】です。このコアはあなたの命と直結していまして、冒険者などに持ち去られたりするとあなたは命を失うことになります。ですから、死にたくなければそれこそ死ぬ気でダンジョンを守ってください。てへぺろ♪」


 そう言って舌をペロッと出すティリ。何気にウザい。


「【ダンジョンコア】は触れることによりステータスをオープンすることができ、そこで所持金やダンジョンポイント、ダンジョン内モンスター数や撃退侵入者数などを確認できます。ちょっと触ってみてください。」


 ティリの指示に従い、俺は空中にフワフワと浮かんでいる【ダンジョンコア】に触れる。すると、ブゥオンッと耳に残る低音が響き、目の前に半透明のウィンドウが出てきた。


ダンジョン名:‐‐‐‐‐‐

深さ:0

階層数:0

DP:1000P

所持金:0ゴルド

モンスター数:0

侵入者数:0

撃退侵入者数:0


「見事に低い数値だな。まあ、未完成だし当然か。」

「ええ。最初にDPは1000P付与されているので、それでダンジョンの造営をするんですが、その前にこのダンジョンの設置場所を決めましょう。」

「設置場所? 決められるのか?」

「はい。草原や山の中、砂漠に森林、好きな場所に設置できます。」

「ティリはどんなところがいいと思う?」

「うーん……そうですね……」


 ティリは顎に手を当てて少し考えるような仕草をすると、


「草原の真ん中にダンジョンが急に出来たら騒ぎになりますし、森林だと強力なモンスターが侵入してくる可能性があります。砂漠は灼熱地獄ですから侵入者が少なすぎてDPやゴルドを稼ぎにくいですし……あ、そうだ! 山脈に挟まれた平地なんかがいいと思います! すぐ近くが山脈なら街もあまりないでしょうし、強力な討伐隊を編成しても山越えに時間がかかります。加えて見つかりにくいですし、ちょうどいいですよ!」


 と答えた。成程、確かに住み心地もよさそうだし、それでいいか。


「よし、ティリの案を採用する。それで、位置設定ってどうすれば良いんだ?」

「えっと、ダンジョンコアに手を当てて、メニューオープンと言えば、メニューが見れたはずです。そこから地図で場所を選べば位置設定ができます。ただ、一回設置した後は、動かすことができないので注意してくださいね。」

「ああ。分かった。じゃあ、メニューオープン。」


 ダンジョンコアに触れてそう言うと、今度は音を立てずに半透明のウィンドウが出現した。そこに並ぶメニューの中から地図を選択すると、6つの大陸名が表示された。


①ゴーンドワナ大陸(人間族が生息)

②ルロリーマ大陸(魔族が生息)

③ウィキュシャリア大陸(獣人族が生息)

④モータント大陸(龍族が生息)

⑤ゲンディファイン大陸(エルフ族が生息)

⑥ナンキョック大陸(氷人族が生息)


 ……⑥の大陸名がなんか引っかかる。だがなぜ引っかかるのかは分からない。過去に見知ったことがあるのかもしれないが、記憶が無いからわからない。俺は一つずつ大陸の詳細を確認する。どうやら人間族は知力、魔族は魔力、獣人族は体力、龍族は戦闘力、エルフ族は霊力、氷人族は隠遁力に優れているらしい。俺自身が人間である以上、同族を殺すのは気が引けるのだが、そんなことも言っていられないので、とりあえずゴーンドワナ大陸を選択し、大陸の中心から離れた場所の山脈に挟まれた草原、フェリアイルステップという土地にダンジョンを設置した。


「ここは気候変動がそれ程激しくないですし、快適に過ごせますね。それに、草原にも山脈にも危険なモンスターはそれほど存在しませんから、いいチョイスだと思いますよ。」


 ティリに褒められ、ちょっと嬉しかった。


「じゃあ、次はダンジョンの作成にかかりましょう。ダンジョン開通までに365日の猶予がありますし、私がサポートします。マスターは、焦らず1つ1つやり方を覚えていってください。」

「了解。頼りにしてるよ、ティリ。ところで……」

「はい、何でしょうか?」

「なんで今俺の事マスターって呼んだんだ?」

「マスターはダンジョンマスターですから。」

「理由安直だな。」

「だって、マスターじゃなかったら私はマスターの事を何て呼べばいいんですか? ずっと『あなた』って呼んでるのは気が引けますし、マスター以外に呼び方がありません! そもそも、マスターは記憶を失っていらっしゃいますから、お名前が分かりませんし。」

「じゃあ、そのうち名前考えようかな……まあいいや。じゃあ、改めてよろしく、ティリ。」

「はい、マスター。」


 こうして俺のダンジョンマスターとしての生活が始まった。まずはダンジョン作成だ!


ダンジョン名:‐‐‐‐‐‐

深さ:0

階層数:0

DP:1000P

所持金:0ゴルド

モンスター数:0

侵入者数:0

撃退侵入者数:0


ダンジョン開通まで残り365日


住人

ダンジョンマスター(人間)

ティリウレス・ウェルタリア・フィリカルト(妖精)



作者コメント


新連載、平和主義ダンジョンマスターの話です。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 管理ゲームのような設定がよく盛り込まれていて、まるで自分が体感しているような感じが良かったです。 リソースの分配や、進めるにつれ出来ることが増えていくというのがリアリティを感じさせます。 …
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