8話・素直じゃなくて
「なあ。ハンス。マリカにかかった魔法はどうしたら解けるんだ? 夜の間は食事がいらないからお金はかからなくて便利な体ではあるが、その代わり服が肌に張り付いて脱げないなんて。厄介な魔法だ」
「もう。何言ってるの。ハンス」
確かにわたしはどういう仕組みになってるのか分からないが、猫の姿の時はお腹が空いても人の姿に戻った後ではお腹が空かない。それと肌に服がべったりと張り付いて脱ぐことが出来ないので着替えが出来ないのには不便を感じてはいる。でもそれはハインツに言われるまでもないことだ。
怪訝な目を向けたわたしに、ハインツが苦笑した。
「このまま一日の半分を猫の姿で一生過ごすわけにはいかないだろう?」
あれ? さっきとは違う事を言ってる。わたしに猫の姿のままでいて欲しいような事言ってたのに。不審な目をハインツに向ければ罰の悪そうな顔をした。ハンスが解析してくれる。
「この人は素直じゃないんですよ。あなたのことを心配してるくせにああやってからかって。よく男の子が好きだと言えない相手の女の子を苛めて楽しむ様なところがあって…」
「ハンス!」
ハインツが頬を真っ赤にしてハンスを止める。わたしは可笑しくなった。
「やだぁ。ハインツったら。あれってわたしをからかってたの? なんだ。本気にしちゃったじゃない。ああ。驚いた。そうよね。猫に求愛ってあり得ないわよね。あははは」
わたしの発言にハインツは啞然とした顔をし、ハンスにも笑われていた。なんかわたし変な事言ったのかな? まさかあれって本気じゃないよね?
ハンスがその場をとりなすように言う。
「まあ、とりあえずマリカさまにかけられた魔法は強力でして今の時点で完全に解くには無理があるかと思われます。マリカさまを心から愛する御方の愛がないと…」
「マリカの旦那なら可能だったということか?」
ハインツはわたしを哀れむように見る。わたしは、その人を思い出しかけて切なくなった。わたしが完全に元の姿に戻るには、彼と同等か彼以上の魔導師に術を解いてもらうしかない。
ハンスもそこそこの実力のある魔導師で彼のおかげで一日の半分は人間の姿に戻ることが出来たのだが彼に解術出来たのはそこまでで後は無理だと言われていた。この魔法を完全に解くには、深い愛情が必要なのだとハンスは言う。なぜならわたしに魔法をかけた人はわたしの亡くなった愛する旦那さまだったからだ。