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6話・変態ハインツ

 日が落ちて早々に黒猫の姿がポンっと弾けて人間の姿に戻ったわたしは、さっそくハインツに言い寄った。

「ねぇハインツ。どうしてあの時、止めたのよ」

 ぎょっとした顔の彼が腕を振り回し仰け反る。

「それ以上寄るな。近付くな。こっち来るなっ」

 しっ、しっ。と、手で追い払われてわたしは呆れた。まただ。また始まった。

「分かったわよ。はい。はい。あなたには半径一メートル以内には近付かないからそれでいい?」

「よし」

 わたしはふたりの間で取り決められている不可侵条約に従うことにした。彼から一定の距離を置いて離れる。

 ハインツは重度の女性嫌いなのだ。女性に体の一部でも触れられると身体中に蕁麻疹が出てひどい時には気絶するらしい。女性が近付いて来ると動悸が激しくなって気分が悪くなると聞いていた。

 彼はわたしが猫の姿の時は平気だが人の姿に戻ると拒絶する。初めのうちは、わたしも極端に嫌われて気分を害した事もあったが、今は彼の奇病と納得してるので彼のそんな態度に慣れてきた。

 わたしが彼の側から下がってる間に彼は椅子に腰かけて頭を傾けて何やらしていた。わたしはそれが気になった。

「何の話かなぁ? 姫」

 見た目だけは良い男が片耳に小指を突っ込んでいた。ほじくり出した耳カスを見て、

「おお。おっきいのがとれた。どうだ。凄くないか?」

 と、喜んでいる。耳掃除をしていたらしい。それをわたしに見せつけなくてもいいのに。わたしは弱冠引いた。オヤジだ。オヤジ。ここにオヤジがいた。

 あまり他人には見せられない光景だ。特に彼の見た目に騙されて言い寄って来る昼間の御嬢さん達には見せてはいけないな。と、密かに思う。

(とぼ)けないでよ。昼間の出来事よ」

 彼の態度に呆れそうになるがそれでも声を絞り出すようにして言えば、関心がなさそうに返された。

「昼間? ああ、きみがお腹がすいてどうしようもなくて、鳴き騒いでた件?」

「違います」

 彼は指にのせた耳カスをふう。と、息を吹いて飛ばした。わたしは、うわあ。こっちに飛ばさないでよ。きたないな。と、思いながら眉を吊り上げた。

「あなたってわざとでしょ? わざと言ってるのよね?」

「そんなに怒ることかい? 姫。せっかくの美貌が台無しだよ。その夜空のように黒く艶やかな髪に星のきらめきを宿した様な琥珀色の瞳。しっとりとした絹のような肌に柔らかな頬。甘いベリーのような唇をいつの日になったら俺は賜る事が出来るのだろうね? 俺の姫」

 わたしは黒い髪にちょっと明るい茶色いした瞳をしていて、一応、目鼻立ちは整ってる方だが美姫と称される貴族の令嬢のように華やかさはなく、地味めな顔立ちの部類にはいると自分では思っている。それにこの男は女嫌いなのだ。本気で言ってるわけではないことが分かっている。彼が気に入ってるのはわたしのもう一つの姿。

「それはわたしが猫の姿の時でしょ?」

「ああ。可愛くていつどんな時でも、傍に置いておきたいと思っているよ。彼女の為なら何でもしてあげたい。出来ることなら明日の朝にでも俺の奥さんにしたい。(つが)いたい」

「変態」

 猫と番いたいだなんて、あなた頭おかしいです。わたしの非難するような目を受けてハインツは悪びれる気もないようだ。

「愛し合う者達に種族の差は関係ない」

「そこ関係あるからっ」

 あなた一体どんな環境で育ってきたんですか? 生身の女性は苦手なのに動物の雌に欲情するって。それに昼間あなたが恋してる猫の正体はこのわたしなのに。本人を前にして堂々と番いたいだなんて言わないで欲しい。


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