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22話・お試しですと?

「なんの話か分からん。誰かと誤解してないか? 我はそなたのような綺麗な女性なら一度見たら忘れない。そなたを捨てる様な真似をするわけがない」

「うそつき」

「嘘など言わない」

 ヘリオスがわたしの髪を一筋すくい、口づけた。

「そなたのような美しい夜を纏った髪、月明かりを宿した瞳をした女性を一度見たら忘れるはずがない」

 確かにこの世界では金髪、銀髪、赤毛の人が当たり前でわたしのような黒髪の者はいないですからね。でもわたしがあなたに会ったのは十年前のこと。それをころりと忘れてますよね。あなたは。

「一度我を試してみればいい。それでわかるはずだ。あいつより我の方がいいとね」

 お試し? 何の話でしょう? 衣服を交換するみたいな言い方。きょとんとするわたしにヘリオスが顔を寄せて来た。ベット脇の壁際に追い込まれていてわたしは焦りを覚えた。こんなの嫌だ。好きでもない男に唇を奪われようとしている。

「止めて下さい。お戯れなら他の御令嬢をお誘いくださいな。わたし相手ではつまらないですよ」

「つまらないかどうかは我が判断することだ。そなたは黙って我に身を委ねればいい。悪い様にはしない」

 それならこんな事は止めて頂きたい。わたしは必死に抗った。

「おやめ下さい。ひとを呼びます」

 ヘリオスがのし掛かって来ようとするのをわたしは思いきり突き飛ばした。ヘリオスはわたしの反撃に驚いたようだったが口角を上げて笑った。

「ほほう。そなたは面白い女だ。気に入った」

 気に入らなくていいから。お願い。離れて。逃げ出そうとしたわたしの肩を彼が押し倒して来た。ベットの上でじたばたと身をよじるわたしを見降ろし勝利を確信した笑いを浮かべていた。

(いや! このままじゃ、この男の餌食にされちゃう!)

 紫色の瞳がわたしの顔に近付いて来る。

(いやだ。ナイル。助けて!)

 わたしは必死に両手を振り上げた。ビシッ。その手が思いがけず彼の頬を叩いていた。それも力強く。あら。打っちゃった。と、自分でも成り行きに驚いていると、

「いたああい!」

 ヘリオスが悲鳴をあげてわたしの上から退()いた。あっさり彼が引いてくれてわたしは内心ホッとしたが、次の彼の言葉に呆れた。

「父上にも、母上にも叩かれたことのない我を…そなたは叩いた」

 怒りに震えながらわたしに指を指して来る。そんな所は十年前から変ってないらしい。わたしは目の前の男に対し、建前だろうが敬意をはらうのが面倒になってきた。

「はあ? だから何? 人に向かって指さすな。あんた何さま? 失礼な」

 態度が豹変したわたしに、ヘリオスが脅える。

「そなたさっきとは態度が全然違う…」

「そりゃあ、猫被るわよ。一応、自分より身分が上の人には、睨まれるより媚びておいた方がお得でしょ。みんなそうしてんでしょうが?」

 貴族の者たちも皆、あんたの取り巻きは媚びてるだけで、そんなの見慣れた光景でしょう? と、言ってやれば、彼は震えながら

「そなたのようなあからさまな者はいない」

と、言ってくれた。それはどうも。

「早く出てってくれる? うっとおしいから」

「そなた我にこんなことしてタダで済むと思うなよ。そなたの正体をばらしてやる」

「上手く行くといいわね。皆、わたしがブラバルト一の聖女だと信じ込んでるみたいだから、下半身がだらしないあなたと、わたしとではどちらの言い分を、皆が信じるかしらね?」 

 とどめととばかりに神聖化されてゆく噂のことを持ちだせば、くそっ。と、ヘリオスはその場に頭を抱えて崩れ落ちた。

「お帰りはこちら…」

と、ドアを開けようとした所で、

「まりかっ」

 わたしの名を呼んで、部屋に飛び込んで来た人がいた。ヘリオスと似た容姿で銀の髪に青い瞳。十年前の面影がそこにある。わたしは見上げた。


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