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21話・月とすっぽん

「どうしてそれを…?」

「なんでも知っている。あいつのことなら。そなたもあいつから聞いてなくても、叔父上から聞いたことはあるだろう? 我とナイルセルリアンは双子だと」

 ナイルセルリアンとはナイルの正式な名前だ。わたしや彼と親しい者たちは本名ではなく愛称のナイルで彼を呼んでいた。この世界では双子はお目出度いとされる。ただ王家には双子のうち片方には魔法力の強い者が産まれることが多々ありその場合、魔法力の強い者は自我を押さえる為に修道院に送られて養育されるのだと、養父から教えてもらっていた。

 ナイルも先代パルシュ国王の子供であり王子だったのだ。養父は先代王妃の弟にあたりパルシュ国王一家とは密接な関係だったらしい。先代王妃は双子の王子が幼い頃に病で命を落とし、養父は亡き姉の残した甥たちを見守ってきたのだ。

「だからあいつが懸想している叔父上の養女とやらに一度会ってみたかった。あいつが聖職者を辞して娶りたいと思っている女とはどんな者か気になったから」

ヘリオスは、わたしに興味をもったのはナイルが執着している女性だからだと言った。わたしは皮肉に思った。もともとわたしはこの男の気まぐれで呼び出された存在なのだ。ナイルがわたしを娶りたいと思っていたなんて初めて聞いた。そんなことナイルから言われたこともないし、養父からも聞かされてない。もし、わたしをナイルが望んでいるならそれとなく養父から打診があってもいいはずだ。もしかしてまだ彼はわたしに対して罪の意識に捕らわれているのだろうかとも思った。

「しかしあいつも俗物だったということだな。美しいそなたと一緒になりたいが為に聖職者としての生活を捨てるなんて。気持ちが分からないでもないが」

 わたしはヘリオスの物言いが不愉快だった。ナイルと姿は同じでも内面は月とすっぽんのように違う。ナイルをこの男と同等に語って欲しくなかった。

「ナイルをそのように言わないで。ナイルはあなたとは全然違うんだから。あの人は心優しい人です。十年前、見知らぬ世界に呼び出されて哀しむわたしの傍にいつも寄り沿ってくれました。わたしの将来を心配して責任とると言ってくれました。無責任なあなたとは違います。男らしい人です。あなたとは姿が似ていても中身は全然違います」

「へぇ。言ってくれるじゃないか。あいつが男らしい? そなたの話の通りならあいつは十年前からそなたを狙っていたということになる。あいつはどうりで女に興味ないわけだ。幼女趣味だったとはな。さぞや幼女のそなたは可愛かったことだろう」

 どうしてそうなる? わたしは十年前、あなたのせいでこの世界に呼び出されてポイされたと言いたかったのに。どうやらこの男は覚えてないようだ。無責任なやつ。

 ナイルが幼女趣味なわけがない。あんなに清廉潔白な男性を欲望まみれのあんたと一緒にされたくない。彼の不運はこのヘリオスと一緒に生を受けてしまったことだな。などと思ってしまう。

「あいつはでもそなたが思ってる様な幸せとは遠い男だ。あいつより我の方がそなたを幸せにしてやれる。どうだ? 我に乗りかえないか?」

「はい?」

 乗りかえる? 一瞬、耳にした言葉が信じられない思いで見返すと、ヘリオスがにやりと笑った。

「女は優秀な子をなす為にこの世に存在している。そなたもわかってるだろう? 誰と一緒になればブラバルト大公国の為になるか? 叔父上はいま息災だがもし万が一、叔父上の身になにかあればそなたは成人前の弟を抱えて路頭に迷う事になるだろうよ」

「不吉な事をいうのは止めて下さい。失礼な」

 この時、本当にそんな日が来そうでわたしはぞっとした。今にして思えばこの時から彼が何か大それたことを計画していたように思えてならないが。

「我は取引しないかと持ちかけている。そなたは叔父上とは血の繋がりがない。あの大公一族の中でそなたに好意的な者は少ないだろう。皆気位が高いからな。なにかあればそなたは無一文で追い出されるだろうよ。我はそなたを保護してもいいと言ってる」

 ヘリオスは舌舐めずりをして言う。わたしは幼子にでもなった様な気持ちだ。目の前のオオカミに狙われている。でもここは毅然とした態度を崩すべきではないと思っていた。

「お断りします」

「いいのか? よく考えた方が良いぞ」

「あなたにすがってもその後、捨てられないとは限りませんから。あなたは前例がありますから信じられません」

 と、断れば、ヘリオスはそれでもめげずに挑んで来る。


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