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2話・入浴までが大変なのです

 いつもわたしの身体を洗う為にハインツが用意してくれる盥風呂だ。ハインツが予め炊事場でヤカンに沸騰したお湯をもらい、それを井戸から汲み上げた水で適度なぬるま湯にしておいたものだ。その中でわたしは石鹸と共にごしごし洗われるのが日課となっていた。

 入浴は嫌いではないわたしでもさすがに異性に洗ってもらうのには抵抗がある。だから入るまでにハインツとちょっとした鬼ごっこ状態になってしまう。彼の手はちょっとごつごつしていて力任せに洗われると薄い毛で覆われた皮が擦れてかなり痛い。

『痛い。痛い~』

 悲鳴を上げて逃げようとしても逆にますます強い力で抑えつけられてしまう。全身洗い終わる頃には、わたしはへとへと状態で、四肢が震えていた。

「さあヒメ。体を拭こう。どうした? そんなに震えて。寒いのか?」

 井戸の脇の楡の木の下にハインツは腰を下ろしわたしを自分の膝の上にのせると遠慮なくタオルで拭いてくれるのだが力の加減が恐らく分かってないらしく、わたしは毛を引っ張られて悲鳴を上げ続けた。

『痛い~。痛いのよ。この馬鹿ハンスっ』

 そこへ見ちゃいられないねぇ。と、ばかりに入り込んで来た、ハスキーな声があった。

「ちょっとハインツちゃん。加減してあげたらどう? 相手はこんなに小さな子猫ちゃんなんだから」

 わたしたちがお世話になってる宿屋のおかみさんだ。ちょっとごっつい体系の逞しい女性で朝にはなかったはずの髭が夜になるとうっすら生えてたりする。女性嫌いのハインツが唯一、まともに会話が出来る女性でもある。本当は元男性だけど。

 そのおかみさんは炊事場からわたし達の様子を見ていて気になったらしい。

「そうか。痛くて鳴いてたのか? それは悪いことをしたな。ヒメごめんよ」

 ようやく分かってもらえたようだと、わたしは安堵して毛づくろいをする。こんな時、言葉が通じないって不便だと思う。本来男性なのによく気が利くおかみさんに感謝だ。ただ成人してる男性をつかまえてハインツちゃん。は、ないと思う。突っ込む気にもなれないので放っておくことにする。

「この子偉いわよね。なんだかハインツちゃんの言ってることが良く分かってるみたいじゃない? 滅多にお漏らしもしないし」

 それはレディーとして当然の嗜みですから。と、わたしが胸を張れば、ハインツが可笑しそうに頭を撫でて来た。彼に頭を撫でられるのはそう嫌なことじゃない。

「ああ。ヒメは可愛いよなぁ。ヒメがお嫁さんになってくれたらなぁ」

 ハインツが笑いながら言う。あなたがいつもそうだとわたしも嬉しいんだけど。夜になると性格変わるよねぇ。毒付いたわたしの声が漏れていたらしい。幸い「にゃあ」と、ふたりには聞こえていたようだった。

「いやあ。かわゆいよねぇ。黒ちゃん。にゃあうう。って肯定してるみたいだね。そうか。あんたもハインツちゃんのこと大好きなのね? うふふふ」

 それは違います。見上げた先でおかみさんと目があった。いいからいいから。と、頭を撫でられて「ちょっと待っておいで」と、彼女は炊事場に戻ってしまった。


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