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10話・求婚ですか?

 ハインツはドアを背にして腕を組み動こうとしない。わたしと睨みあいが続いた。

「俺は迷惑だなんて思ってない。きみのことは乗りかかった船だと思っている」

「ハインツ?」

 ハインツの青緑色の瞳が懇願していた。

「ここでお別れなんて寂しいことを言うなよ。マリカ。俺たち知り合ってから一カ月しかたってないけど、俺たちはきみを仲間だと思っている。もっと俺たちを頼ってくれよ」

「ハインツ。ありがとう。でも…」

「とにかく今はきみは出歩くのは危ない。きみがアイギス公子のことが気になるならその対策をこれから皆で考えればいい。きみはもっと俺たちを利用すべきだ。遠慮なんかしないでね」

 ハインツが一歩踏み出してきてもわたしは動かなかった。女嫌いの彼がぎりぎりわたしに近寄れる範囲まで近付こうとしていた。だからそれ以上のことが起こるなんて思いもしなかったのだ。

「マリカ…」

 すぐ目の前にハインツの顔がある。へ? どうして?と、思いつつもわたしは拳をつきだしていた。ちょうど拳で唇を塞ぐ形となる。

「何するのよ。ハインツ。ハンスが見てる前で」

「おお。見たかハンス。マリカに近付けたっ」

 膨れるわたしを前にして悪びれる様子もなくハインツは興奮した様子でハンスを見た。

「はい。見ましたよ。姫さまにグーでパンチされたのを。あともう少しでしょうね。ハインツが普通にマリカさまに触れられるのも」

 ヨッシャー。と、息も荒くハインツが拳を振り上げる。

「これで女性嫌いも治るはず。そしたら俺はマリカを嫁にして番になる」

「却下」

 わたしは即判断した。やっぱりハインツ、わたしを完全に猫にすることを諦めてないんだな。と、思った。ハインツはあからさまにがっかりし、ハンスは笑う。

「ひどいな。マリカ。俺は本気なのに」

「グッドです。さすがマリカさま」

「ありがとう。ハンス」

 ハンスが笑いながら提案した。

「では本人から許可を頂いたのですから、さっそくハインツには働いてもらいましょうかね?」

「ハンス?」

 したり顔のハンスが薄笑いを浮かべていた。ハインツは自らの失言を悟ったようで、しまった。と、いう顔をしたが遅かったようだ。

「ハインツには、華々しく活躍していただきましょうか? マリカさまの為にも。これで姫さまの愁いも晴れますよ」

 その言葉の意味が分かったのは、さらに数日が経ってからのことだった。 



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