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1話・子猫のわたしと女嫌いなあなた

 ヒィ~。ハァ。ハァ。ハァ。ハァ。ハァ…

(きつい~)

 全力で閉ざされた空間を逃げ回っていたわたしは息が上がって来ていた。さっきから何度も同じ場所をクルクルと走り回っている。これじゃきりがない。と、思いつつも、今のわたしには走って逃げるしか出来なかった。そんなわたしの背後から若者が迫って来る。

「さあ。ヒメ。もう逃げられないぞ」

『やめてよ。ハインツ。お願い~』

「そんな可愛い声を出しても無駄だよ。さあ。観念するんだ」

 ハインツは、わたしが逃げるのを楽しそうに見ている余裕があった。彼は体力がそんなにないわたしに走るだけ走らせて疲れたころに手をのばしてくる…と、考えたところでまた彼にしてやられた。と、気がついた。

(あ~もう。わたしのばか。バカ。馬鹿。これじゃあ学習能力がないみたいじゃないの)

 逃げる気力も失せその場に後ろ脚を折ってへなへなと腰を下ろしかけたわたしを、ハインツは笑顔で捕まえた。

「はい。ヒメお疲れさま。汗もかいたし丁度いいよね?さあ。お風呂に行こう」

 待ち構えていたハインツに首根っこを掴まれては降参するしかない。猫の身ではやれることは限られていた。首には小さな守り石が下がった赤いリボンを付けられていて首根っこを掴まれると軽く首が締まりそうで地味に痛い。

(参りました…)

 うな垂れるわたしを、ハインツがにやにやと笑って見る。

「最初から大人しく言う事を聞けばいいのに。さあ。綺麗に洗ってあげるからね。行こうヒメ」

 わたしをひょいと小脇に抱え、彼は陽気に鼻歌なんか歌いながら階段を下りてゆく。

 ハインツは金髪に青緑色した瞳の持ち主でけっこう美男子だ。年齢は本人から直接聞いた事はないがおそらく二十代前半。ひょんなことから彼と、その彼の連れのおじさん魔導師ハンスと共に一カ月ばかり同居生活をしている。

 わたしを抱き上げて機嫌よく宿の外に出たハインツは宿屋の前でたむろしていた少女三人と目が合い、うわぁ。と、体を硬直させた。

「こんにちは。ハインツさん」

「これからお出かけですか?」

「今日もその子と一緒なんですね」

 彼はひぃ。と、わたしにしか聞こえない悲鳴を漏らし、口を引き結ぶと、ダッダッダッ。と、その場から駆けだした。後から追って来るのは、彼女達の黄色い悲鳴。

「きゃあああ。みた。見た? 今の?」

「あ~ん。あの冷たい瞳。何とも言えないわぁ」

「あの心を鷲づかみにするような、刺す様な瞳」

「いやあん、あの冷たさが何とも言えない」

「すてきぃ~」

 あ~あ。ハインツ脂汗だらだらだよ。わたしは彼の腕に抱かれてハインツの横顔を眺め見た。目鼻立ちが整っていて男前の顔立ちをしてるのに、残念なことに彼は大の女性嫌いなのだ。

「なんだって女はあんなにかまびすしいのだ。うっとおしい」

『仕方ないんじゃない。原因はあなただから』

「もう少し慎ましいというか、大人しい女性はいないものか…」

 同意を求めるようにわたしを見てもね。あなたの女嫌いがなんとかならないものかとハンスも悩んでるけどね。と、彼に言ってもしょうがない。わたしは猫だから。何を言っても「にゃあう」と、しかあなたの耳には届かないんだから。

 でも確かにこの世界の女性達は逞しい。男性達は女性達におされぎみで、大人しい気がする。身分問わずほとんどの家庭がかかあ天下だしね。

 まあ。なかには異例な男も存在する。それがパルシュ国王で、なぜかわたしを狙ってるもの好きな男だ。その男からわたしは逃げている状態で…

「さあ。洗うぞ」

 おや。考えごとをしていたらいつの間にやらたらいの前に運ばれていた。ハインツは腕まくりをして盥の温度を確かめている。

「よし。良い温度だぞ。ヒメ」

 確かに盥のなかのお湯は適温でわたしは不覚にも「なう」と、鳴きながら体を湯に浸していた。


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