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中編

胸、胸と一部が五月蠅いです。

あと、下品です。

大事な事ですが、嗜好性癖は人それぞれです。


苦手な方は、ご注意下さい。むしろこの回をすっ飛ばした方が安全かと思います。

 果竪が居なくなったと知った時。

 それも、果竪が自分の意思で居なくなったかもしれないと知った時。


 凪国上層部のメンバー達は一同に思った。


 あ、これ本気でヤバイかもしれない。



 彼らは果竪の側にずっと居た。

 そして、幸か不幸か他者の能力を正確に判断する能力に長けていた。

 だからこそ、彼らは恐れた。


 素直で努力家な少女の本気と言う物を。


 どんなに高い才能があっても、磨かなければ花は咲かない。

 しかし、どんなに小さく弱い種でも、しっかりと土を耕し肥料と水をやり、手厚く育てれば--。


 満開の花が咲き、大きな実をつける。




「私に一体何が足りなかったのでしょうか?」


 玉座に座り、謁見の間での仕事終了後。

 そのまま玉座に座ったまま萩波は告げた。

 相変わらず、ヘタレモードが発動した萩波に、明燐は言った。


「男としての魅力」


 それ言ったらもう全部終わりだろう--と、その場に居た他の上層部達が心の中で突っ込んだ。主に男性陣。あと、既に退室したり、最初から来ていない者達も多いが、はっきりいって彼らもここに居たなら同じように叫んだだろう。


「私以上に魅力的が男が居るとでも言うのですかっ」


 萩波は心外だ--と言わんばかりに叫んだ。


「果竪以上に魅力的な殿方は居なくってよっ!」


 明燐も負けじと力強く言い放った。

 確かに萩波の言うとおりだが、明燐の言う事も最もだった。


 穏やかで優しいし一生懸命だし、性別関係ない対応だし、でも女の子には特に優しくて親切だし。あと、とっても頼もしい。


 ただ、果竪は女だ。


 貧乳だろうと女だ。

 いや、周囲がでかすぎるだけだ。


「どんな困難や苦境にも立ち向かう果竪の素晴らしさを思い出してごらんなさいませっ! 涼雪と共に熊狩りに勤しむあの果竪の男らしさは正しく『真の漢』ですわっ」


 それ、女としての評価じゃないだろ--というツッコミは聞こえない。


「とにかく、そんなヘタレでは果竪に相応しくありませんわ」

「へ、ヘタレ……」


 ヘタレ--果竪が関わらない時の萩波には縁遠い言葉。

 しかし、果竪が関わると無二の親友とも言える言葉だった。


「とりあえず、果竪が居ない時の陛下ならば完璧だと思いますわ」

「果竪が居ない時の、私」

「というか、どうして果竪が関わるとそうヘタレになるのですかっ! ロリコンで鬼畜でヘタレなんてもうどこにも救いようがないじゃないですかっ」


 確かにプラス要素がどこにも無い。


「いいですかっ?! 果竪が居ない時の陛下です!」

「む、難しいですね」

「大丈夫ですわ! いつもの極悪非道の怜悧冷徹冷酷万歳、鬼畜で残忍、けれど高貴さと色香に溢れた陛下を演じれば良いのです! いえ、素をお見せ下さい! 素をっ」

「素を--」

「そうです! 良いですかっ?! ここで男を見せなければ! 今、陛下はデッドオアアライブの真っ最中なのですわっ!」


 どこにアライブ要素があるのか。

 どちらにアライブ要素が感じられるのか。


 とりあえず、どちらだろうと果竪は嫌がるだろう。

 あと、後者だと怖がると思う。


 萩波は、果竪にだけは自分のそういった冷酷さとか残忍さとかを見せないようにしている。


 上層部も同じように冷酷さや残忍さを見せないようにしているが--果竪が軍に入って暫くの間、徹底的に苛めた際にそういう所を見せてしまっているので、あんまり意味がなかったりするが。


 殴りたい、果竪を苛めていた時の自分達を。


「それにしても、まさか果竪が居なくなるとは」

「いや、むしろ遅いぐらいだろう」


 その場に居た上層部は話し合う。


 そう……遅いぐらいだ。


「追っ手は」

「宰相を中心にかかってる。茨戯も出たし、朱詩は--」

「他の仕事があるみたいだけど、すぐに終わらせて捜索に加わるだろうな」


 そして自分達も。


 はっきりいって、仕事は山のようにあったし、今の時点で一神何役も掛け持ちしている。けれど、果竪を探さないという選択肢は上層部には無かった。


「陛下は果竪への甘やかしが足りないんですっ!」

「っ?!」

「もっとデロッデロに甘やかすべきですっ!」

「それはいつもやってますっ」


 とりあえず、上層部は萩波の甘やかしている光景を思い出した。


『果竪、新しい服を作りましょうか』

『自分で作る』


 果竪は、スチャッと裁縫道具を取り出し、古着をしっかりリサイクルした。


『果竪、装飾品などは』

『自分で作る』


 果竪は、質の悪い天然石を磨きまくって装飾品作りをした。


『果竪、食べたいものは』

『自分で作った』


 果竪は、大根を籠に沢山入れて背負いながら調理場に行った。

 そして、美味しい大根料理を萩波や上層部にも振る舞ってくれた。



「ダメだ、俺には甘やかしている陛下というのが想像出来ない!」

「というか、なんで記憶の中でもそんなに雄々しいんだよ、あいつっ」

「あいつはどこまで自立心が旺盛なんだっ」


 その後、ぬいぐるみなども自分で製作し、繕いものも自分で一生懸命に行い、壊れた家具も何とかかんとか自分で工夫して直していた果竪の姿を思い出し、上層部は嘆いた。


「きっとあれだ! 『私をしっかりと甘やかせない貴方達になんて興味ないのよっ!』っていうあれだ! 俺達は、果竪に見限られたんだっ」

「すげぇ……仕事では、多くの女達をその口一つで身を投げ出させてあらゆる情報を捧げさせてきたって言うのに、俺達」

「あれだ、果竪は女じゃな」


 冗談だった。

 彼は冗談で言ったが。


「おっと手が滑ったあぁっ!」


 隣に居た友神に、思い切りぶっ飛ばされた。それでも傷つかない男の娘の麗しき美貌。もはや呪いだ。


「お前! 果竪が男とかふざけた事言ってんじゃねぇよ!」

「冗談に決まってんだろっ! いくらペチャパイどころか真っ平らな胸しかなくたって果竪は女だろっ!」

「真っ平ら?! おまっ!世の中の男の半数は貧乳好きなんだからなっ」

「そうだ! 世界の半分を貧乳教なるものが統括してるんだぞっ!」

「しかもツルペタはその派閥の最大だっ!」

「果竪は見事なツルペタなんだからなっ!いや、その上のツルペタストンだっ」


 その場に居た、数少ない上層部女性陣は思った。


 果竪に殴られてしまえ--と。


「お前ら、確かに貧乳教は世界の半分を占めているが、残り半分は巨乳教なんだからなっ!」

「そうだ! 巨乳だって負けてないっ!」

「貧乳がなんだ! んなもん、男の娘となんら変わらないから男の娘だって胸があるだろ、『女』だろとか言われたらどうするんだっ! 女は『胸が大きい』! 俺はそれしか認めないっ」

「おい、ならうちの貧乳達はどうすんだ」

「涼雪はあるだろ」

「小梅もある方だったな」

「果竪に比べればな」


 これに、貧乳教?の男性陣は怒った。


「馬鹿! 果竪は、貧乳教の中では尊き神レベルの位置づけなんだからなっ」

「そうだ! 貧乳教で神レベルに認定されるのは、信者達のそれはそれは厳しい審査に潜り抜けた者だけだっ!」

「果竪はそれを潜り抜けた猛者、いや、勇者だっ!」

「五月蠅い! 巨乳こそ全てっ」

「巨乳教を舐めるなっ!」

「あの揺れる絶景を知らないこの愚か物どもがっ」

「女は胸があってなんぼ--」


 彼の恋神である、上層部女性陣の一神が見事な顎への一撃を放った。彼女は、巨乳ではない--いわゆる、普乳。


 そう、貧乳と巨乳しか居ないのなら、それ以外の間の大きさの者達はどうするのか。


「あんた達は今、私達を敵に回したわ」


 凪国上層部の女性陣には、巨乳が多く、普乳がそれに続く。貧乳はほんの僅かだ。


 しかし今、普乳の女性陣達はバキバキと手を鳴らし、笑顔で凪国男性陣に迫った。


「ちょっ! そんなら俺が大きくしてやるからっ」

「いらんわんなもんっ!」


 もう一撃放って自分の恋神を吹っ飛ばす女性陣を皮切りに、そこは大乱闘となった。


 その様子に、明燐は口を開いた。


「陛下、今こそそのカリスマ性を発揮する時です」

「全力で関わりたくありません」


 萩波は、その素晴らしい判断力でそう言い放ったのだった。


 その後、巨乳派VS普乳派VS貧乳派での大乱闘は暫く続いたが--。


「いいかっ! 山より平原の方が使いやすいんだよっ!」

「地震でも揺らせない地盤最強平原をなめるなっ!」




「なんだろう? 激しく殴りたい気がしてならないのは」


 遠く離れた地の村の食堂で、果竪は出された薄い肉を箸で貫いた。その固い肉に箸が見事突き刺さった光景に、周りの者達が「すげぇっ」という感嘆の声を上げた。


「か、果桜?」

「なんかこう、意味も無く相手をどつきたくなる時ってありますよね? 激しくっ」


 果桜はガンガンっと箸で肉を突き刺していく。それは細切れになり、もはやミンチレベル。


 果桜って、以外と切れやすい?


 玉環は果桜の様子に少しだけ椅子ごと後ずさった。


 一方、果竪はそんな玉環に気付かず、がつがつと肉を叩いていく。なんというか、小麦粉をコネコネして、思い切り台に叩き付けたい。

 叩き付けたいったら叩き付けたい。



 そんな中、果竪は何も自分の怒りに囚われていただけでは無かった。

 彼女はきちんと周囲に気を配っていたし、こちらを見てひそひそと話をする者達にも気付いていた。


 そのうち--三名ほどの男達がこちらに来る。

 二十後半頃の見た目の男達はそれなりに容姿は整っていたが、その目に宿る光に果竪は静かに身構える。


「なんか、不似合いな組み合わせだな。姉弟か?」

「何で私が年下なんですか」


 果竪の言葉は、彼らにとって斜め上で予想外だった。


「私の方が年上なんですけど」

「え? でも、この娘の方が身長も大き」


 果竪は、箸で肉を突いた。

 もうミンチ状のそれは、ミンチになりすぎてむしろハンバーグの種と化している気がする。


「いや、そこは重要じゃないだろ」

「じゃあ何が重要なんですか」


 果竪の問いに、男達がたじろぐ。

 なんだろう、その死んだ魚のような目は。


「重要--いや、重要なのは、不似合いな組み合わせだけど、どういう関係かって事で」

「友神ですが」

「友神っ?!」


 驚いたのは男達だけではない。玉環もだ。

 玉環はその言葉に、嬉しそうに顔を赤らめるてもじもじする。

 男達は、反対に嘲笑した。


「友神、ねぇ? 不釣り合いだと思うけどなぁ、それこそ」

「だから何が不釣り合いなんですか?」

「そりゃもちろん」


 彼らは、玉環と果桜の美貌について言及しようとしていた。玉環は眼鏡をかけていたが、それでも隠しきれない高貴さとか、気品とか、麗しさとか、色香とか、そういうものを男達は敏感にかぎ取っていた。


 そして彼らは、玉環に用があった。

 果桜はいらなかった。むしろ、邪魔でしかなかった。


 ただ、彼らは紳士なので言葉でご退場願おうと思った、が。


「まさか、胸っ?!」

「は?」

「あなた方も、玉環の胸に惹かれて--」


 一応、玉環には眼鏡をつけさせている。もちろん、それで玉環の美しさは隠しきれるとは全く思っていないが、それ以上に隠しきれていないものがあった。


 胸。


 最初はサラシを巻いたが、「痛いから嫌だ」という玉環の我が儘でサラシを巻かないで放置した。なので、その柔らかで形良く大きくて張りと艶のある胸は服の上からでもしっかりと存在を主張していた。


 もし、いつもの果竪であれば、きっと彼らは玉環の隠しきれない美貌と美しさに惹かれて来たのだと分かっただろう。

 けれど、今の果竪はイライラしていた。とってもイライラしていた。


 しかも、どこか遙か遠くで自分の胸について貶されている様な気がしてならなかった。


 胸が何だ。


 胸の大きさが何だ。


「このっ! 巨乳好きの変態!」


 いつもの果竪は神に当たる様な性格では無かった。

 しかし、どこか遙か遠くで激しく自分の胸を貶められたかの様なイライラ感は抑えきれず、果竪はのこのこと近づいてきた男達を罵った。


 それこそ、玉環の胸目当ての男達なんて。


「へ、変態っ?!」

「巨乳好きのどこが悪いっ」


 巨乳が好きなだけで変態扱いは酷い。

 一神は素で反論したが。


「五月蠅い! どうせ大きな胸が揺れる所を見るのが大好きなんでしょうっ!」

「それのどこが悪い! 大きな胸が美しく揺れる絶景を知らずして男が名乗れるかっ! そもそも、巨乳じゃなきゃ--それこそ、貧乳なんて揺れる要素がないだろ」


 その頃、どこかの国のどこかの王宮では



「五月蠅いわね! 胸なんてただの飾りよ!」


 某貧乳の凪国上層部の女性陣の一神は叫んだ。

 それに反論するのは、偉大にして勇敢たる凪国上層部の男性陣達だった。


「違う! 胸は男のロマンが詰まってんだ!」

「そうだ! たとえどんな貧乳だろうと、男の手をもってすれば大きく出来るんだっ」


「果竪の胸は?」


「物事には難攻不落の要塞というものがあるんだ」

「そうだ。あれは誰も攻め入る勇気のない絶対領域なんだ」

「そもそも、揉んで動くだけの肉が無いだろ」




「うっさいわぁぁぁああああっ!」


 果竪の突然の絶叫に、男達は後ずさった。


 テレパシーも使えない現在。

 それでも、果竪はどこか遠くで自分が激しく貶められている事を悟った。


「そんなに好きなら自分のを膨らませれば良いでしょう! 自給自足してよっ」

「え」

「いや」

「それはちょっと」


 男達は戸惑った。

 というか、どうしてこうなる。


 とにかく、何とかして最初の目的に戻らないと。


「その、この娘はあんたに相応しくないから俺達が」

「胸好きの変態」


 思い切り蔑んだ瞳で見られ、男達は申し訳なく思った--本当に少しだけ。

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