屋敷
車寄せにとまった馬車めいた実際牛車ななにか。ここに着くまでは全く無言であった。まあ、どう話してよいものか、話題がない。まさか機関銃や市街地戦術の話題をふるわけにもいくまい。砲迫の効力など、どうでもいいことを頭に巡らせながら、ここまできた。
戸を開けて飛び降りてみる。鋲打ちの軍靴はいい音を立てて車寄せに当たる。そうして、いつかやってみたかったように、ヴィルヘルミーナ女史をエスコートしてみる。いつもされる側ばかりで面白くないのだ。格好いいじゃないか、儀仗に慣れたもののエスコートって。
面食らったような、苦虫を噛み潰したような、そんな表情でお姉さまは私の手を受けて下り立つ。こちらは楽しい。『一度やってみたかったんですぅ』なんてうそぶいてみるのも楽しく、そして一度やってみたかったのは事実だ。そうして、二人並んで屋敷の中へ。気分はウキウキだ。まあ、いろいろありすぎてハイになっているのだ。そもそも最近対等な会話なんてしていなくて久しいから、それが無性に楽しい。玉座は全く孤高である。
大きく重厚な扉。それが軋みもせずにさっと開いたのには驚いた。よく見れば相当な工夫の跡があるのだろうが、それは見られなかった。そうして目を引くのは電燈。この街は帝国で初めての大規模火力発電所を有し、市電も建設しつつある。帝国でいま最も発展著しいのはこの街であろう、帝国統計白書あたりで明らかだったはずだ。そしてこの電燈はそういう意味ではまさにステータスシンボルであるのだ。電球が目立つようになっているのもそのゆえんではなかろうか。知らんが。帽や外套を使用人に任せて、お姉さまについてゆく。しかしなんだ。いい屋敷だ。




