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戦いの動機

 大聖堂。その鐘楼の上。そこから見下ろす景色に現実味を感じている自分がばからしい。そもそもこの世界は軍人将棋の盤面でしかないのに。普通の軍人将棋と違って『勇者』なんて駒があるだけの。『魔王』とやらはそれを知っているのだろうか。それとも知らずに駒として踊っているのだろうか。

 白い家屋群に動く人影は万を超えているのかもしれないが、なんでそれを守らねばならないのか、そして女神の望みが何なのか。もう、何もかも考えている意味はないのかもしれない。ただ、生き残るために戦う。それだけだ。

「やあ、同志諸君。仕事は順調かね。」

手紙類の仕分け室。ここで帝国指導者への嘆願書などが仕分けられて、選り抜かれたものがこの身の机に乗る。現状では毎日数千通の文書がここを出入りしている。一時期は連日万を超えたこともあった。過労に倒れたものに見舞金を出してやったこともあったし、差し入れに疲れに効く浴場の切符を支給したこともあった。今日は温泉旅行を支給するつもりである。

 今週の仕事を終えてすぐに帝都中央駅に行けばすでに列車がいる。それは夜行列車である。豪奢な一等食堂車で夕食をとりつつ列車は駅を出でて、それで寝台車で寝る。家族のある者に応じた個室を与えよう。朝に起きれば間もなく我が指定の保養所。そこで一泊、一日中温泉街を楽しめるように組んだつもりだ。翌日夕刻に戻る列車に乗ることとなる。そのあと直接職場に通ってもらうことになるが。


 旅行の説明を皆に聞かせた。行き先の案内の紙も配布した。その帰りに今まさに開封した『風に装われた』封筒を見つけた。しょっと取り上げて、中身を出してやると、それは本だった。パラパラとめくってみれば、それはよくある権力者をあてこすった官能小説とでもいうものである。登場人物はこの身か。面白い、読んでやろうじゃないか。

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