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2-3 遭遇戦

ヴァロは潜むように周囲から建物の中を探る。

廃れた貴族の屋敷だ。

敵は四人、それぞれ広間でなにやら話している。内容までは聞き取れないが。

広間の中央にはフィアがいるのが確認できた。

納屋のほうに馬車があったが、幸いなことにまだ移動はしないようだ。

「ヴァロ、どうしてもやるつもり?」

懐からヴィヴィが聞いてくる。

「それしかないだろう」

訓練をうけていたとしても魔女の相手となれば危険が伴う。

まして相手は四人、魔法の使えない人間がまともにやって勝てる相手ではない。

「・・・ったく、言い出したら聞かないわよね、誰かさんといい勝負だわ」

ヴィヴィは肩をすくめるようなそぶりをした。

「結界やトラップの類もないということは・・・」

「油断しているということね・・・。ただのんびりしていると馬車に乗って移動されちゃうわよ」

ヴィヴィの言葉にヴァロは頷く。


魔女が一人になるのを見計らい、ヴァロは静かに行動を開始した。

四人一度に相手をするよりは、個別に撃破して行ったほうが確実と判断したためだ。

魔女との戦闘において、もっとも重要なことは間合いだとヴァロは師から教わった。

魔女の魔法は射程が長く、かなりの弾数をもつため、

魔法の使えない人間が距離をとって戦う行為は自殺行為と同義とされる。

また弓矢等による攻撃も相手の防御魔法に阻まれてしまうという。

絶対的な不利な条件であることは疑いようがない。

ヴァロは慎重に死角から静かに標的に近づく。

「なんだ、おまえ・・・」

魔女は異常ともいえる反応を見せた。

気づかれた・・・視覚系の魔法か?

ヴァロは作戦の失敗を悟ると全力で魔女の元へ駆け出した。

突然の侵入者にその魔女は魔法の構成を組み立てる。

簡単な構成であり、そのために魔法を使えないヴァロにも容易に予測が可能だ。

魔法式が完成し、光球が魔女の手から放たれる。

魔女の放つ光球を、ヴァロは無造作に片手で押しのけた。

魔法耐性の極めて高いヴァロにしかできない行為だ。

周囲の壁にぶつかり、光球が爆発する。

魔法で作られた光の球が素手で押しのけられ、魔女の表情に動揺がはしる。

その隙をヴァロは見逃さなかった。そのまま間合いをつめ、みぞおちに拳を叩き込む。

「っ」

魔女は悶絶し、その場に倒れた。

「まずは一人目」

刃物を使って一撃でしとめることも考えたが、フィアの元同胞ということもあって、魔女を殺すことには躊躇した。

光球は予定外だったが、結果として一人倒せたことにヴァロは手ごたえを感じていた。


「なんだ、こいつ・・・」

光球の爆破の衝撃音ですぐさま仲間の魔女が駆けつけてくる。

ヴァロは魔女を確認すると魔女に向けて一直線に走り出す。

魔女は後ろに後ずさり、魔法式の構成を組み上げる。

ヴァロが魔女に到達するより早く、魔女の魔法の構成が完結する。

薄い膜のようなものが魔女の周りに現れた。

防御魔法とよばれるものだと昔師に言われた。

魔女にも得手不得手あるらしく、とっさに組み立てる魔法は個人差がある。

それらにはいくつかのパターンがあり、それぞれの対策をヴァロは教え込まれていた。

ヴァロは口に笑みを浮かべた。

「想定済みだ」

ヴァロは手にした鉄芯を思い切り結界につき立て、後方に飛ぶ。

「なに」

魔女はありえないものを見るような目で、防御魔法の膜に突き刺さっている鉄芯を

凝視していた。普通防御魔法は対象の物理攻撃をうけつけない命令がされている。

はじくという現象は刺さるという現象はありえないのだ。

その現象を引き起こす原因は鉄芯撒きつけられた布にある。

この布は魔法を吸収する特性がある。

魔力を吸収し、防御魔法が徐々に消え、起爆布がみるみる赤く変色していく。

防御魔法が崩壊し、爆発が起こる。

防御魔法が吸収され、爆発をまともにうける格好になった魔女は爆風で壁に打ちつけられた。


防御魔法崩し。

ヴァロの師が初手でよく使う手であり、やたら防御魔法を使う魔女にはかなり有効な殺し手である。

「ゴホ、ゴホ・・・くそっ」

壁に打ち付けられた魔女は口から血を流している。

おそらく壁に打ちつけられた衝撃で口を切ったのだろう。

魔女がまだ意識を保っていることにヴァロは驚いていた。

すぐさま光の球が数発、魔女の手から放たれる。

ヴァロは前に飛んでそれをどうにかかわす。

ドゥゥゥゥン

数発の光の球が数発屋敷の壁に直撃し、轟音をともなった爆発を引き起こした。

「防御を解け、ねずみは起爆布を持ってるぞ」

背後から魔女の甲高い声が聞こえてくる。

防御を解いてくれるのならこちらとしても都合がいい。

目の前の角を曲がればフィアのいる広間に出る。ヴァロは足を止め、広間のようすを伺った。

こちらを警戒しているのが遠目からでもわかる。

ただここでまごまごしてると、さっきの魔女に挟み撃ちを食らってしまう。

「ヴィヴィ」

「警戒はしてるけど、さっきみたいな視覚系の魔法は使ってない」

「好都合だ」

ヴァロは目の前にあった椅子をカーテンで覆い、二人の魔女のいる頭上へほおりなげる。

魔女はそれを光球で迎撃し、跡形もなく破壊する。

爆発と同時にヴァロは広間に躍り出た。

目前の広間には魔女が二人いる。

こちらに気づくとすぐさま光球を放ってくる。

二三発はかわしきれず素手で叩き落とした。

爆音が響きわたり屋敷全体が揺れる。

爆風が巻き起こり、埃が巻き上げられ、視界が遮られる。

ヴァロは建物の位置を正確に把握していた。

爆煙の中、ヴァロはフィアの元へまっすぐに駆けつける。

「フィア、走れるな?」

「ヴァロ!!」

フィアの手を引っ張り、ヴァロは屋敷を抜ける。背後からは魔女たちの罵声が聞こえてくる。

ひとまずは奇襲成功といったところだろう。最低でも一人は戦闘不能にしたはずだ。

もともと魔女を狩るためにここにきたわけではない。

あえて殺さなかったのはこちらに対魔法用の装備があることを知らしめ、相手の警戒をさそうため。

加えて殺した場合、報復に血眼になってこちらを探しにくる場合があるためだ。

もっとも四人もの魔女を同時に相手にして勝てる自信もなかったが・・・。

付け加えるなら彼女たちと同じ結社であるというフィアに配慮したのもある。

妥当な判断をしたとは思うが、一つだけ気がかりなことがあった。


魔女たちは、フィアの居場所を特定できる方法を持っているのではないのか?


その疑問がどうしても頭を離れない。

もちろん今回急襲されたのは、たまたま偶然が重なっただけなのかもしれない。

フゲンガルデンで

ヴィヴィは何か方法に心当たりがあったようだが・・・。

ヴァロはちらりとフィアを見る。

「来てくれると信じてた」

フィアの眼差しはヴァロを信用しきっている。

「その言葉は連中から逃げ切ってからだ」

ヴァロは内心あせっていたが、フィアの前でそんな姿は見せられない。

どうにか笑みを取り繕った。


「どこへ行こうというのかしら」

不意に空から声が聞こえてきた。

ヴァロがその声に反応し、空を見上げると三人の魔女が空に浮遊している。

魔女の周りには石やら木の破片やらが浮かんでいる。

いくらヴァロとはいえ一度にあれだけを回避し、

いくら魔法抵抗が高くても、何らかの物質を介してなら魔法抵抗は意味を成さない。


ヴァロは自分の考えが甘かったことを悟った。


相手は実践経験があるコトは間違いないだろう。

さらに魔女とはいえ、視界を奪ったはず。それでも短時間でこちらの居場所を特定してきた。

こちらの居場所を特定するなんらかの手段をもってることは疑いの余地はない。

フィアを置いて自分だけ逃げれば助かるかもしれない。

だが、そんなことは死んでもごめんだ。

相手は三人。そしてその三人を確実にこの場で仕留めなくてはならない。

ヴァロは覚悟を決め、三人の魔女に向き合う。

「この人、私たちの攻撃を受けて無事みたいですね」

「魔法耐性・・・?少し強すぎない?」

ゆっくりと空から魔女がヴァロたちを囲うように降りてくる。

警戒しているのか、ヴァロたちとはある一定の間合いをとっている。

「防御魔法も破られてるし、ほんとコイツ最悪だわ。どう殺そうか?」

魔女の一人がいらだちをぶつけてくる。二番目にヴァロと対峙した相手だ。

「ねえ、それよりこいつ持ち帰って解剖してみましょうよ」

「そうね。臓物まで魔法耐性があるのか調査してみるのもいいわね」

目の前では物騒な会話がされているが、ヴァロは気にしていなかった。

手持ちの武器は『鉄芯』と手持ちの剣のみ。

周囲は三人の魔女に囲まれて、挙句に相手はこちらを警戒し間合いをとっている。

突破口すら見いだせない。この状況は絶体絶命とでもいうのだろうか。

ヴァロは活路を見出せずにいた。

「市街地での魔法使用というのは関心しないな。無用心にもほどがある」

唐突に男の声が聞こえてくる。

それは意外にもヴァロの聞いたことのある声だった。

「なんだ、貴様・・・」

魔女が言い終わる前に男は間合いを詰め、手にした剣で女の体を貫く。

その攻撃は標的に余韻をあたえることなく、躊躇なく断末魔の悲鳴すら許さない。

魔女の亡骸から無造作に引き抜いた。

「お前ら、魔女だな」

男の顔には凄惨な笑みが浮かべられていた。

それには標的になっていないはずのヴァロも戦慄をおぼえた。

「自己紹介がまだだったな。俺はギヴィア。異端審問官をしてる」

その言葉に魔女が過剰ともいえる反応を示した。

「『鮮血のギヴィア』か!!!何故お前らがここに!メイナにげ・・・」

メイナと呼ばれた魔女の胸から剣が突き出ている。

既に腕から力は抜け、目の焦点はあっていない。

「対応が遅すぎ。君らさ『狩人』を見たら二人いるかもしれないって、

先生から教えられなかった?」

事切れた魔女の背後から場違いな涼しげな声が聞こえてくる。

背後から現れたのは長身痩躯の優男。


「貴様はどうする?」

魔女は後ずさると、そのまま地面から離れた。

ヴァロがフィアを連れ去られたときと同じ魔法だ。

ギヴィアの表情には余裕があった。

「おめでたいやつだ。逃げられると思ってるのか?」

男がそういった瞬間、浮遊していた魔女の腕がタクトごと落下する。

あまりに突然のことに魔女は何が起きたのか理解できなかったようだ。

背後の魔女に声をかけた際に師が魔女の右手に仕込んでいたのをヴァロは見ていた。

ギヴィアの魔具の一つ、『鋼糸』。

その硬度を使用者が任意に変化させるという、ただそれだけの道具にしか過ぎないが、

ギヴィアが使うと剣よりも恐ろしい殺人道具に変わる。

「あ」

落ちた腕に魔女の視線が向かう。

ギヴィアはその瞬間を見逃さない。

立て続けに男の放つ数本の鉄芯が、魔女の体に吸い込まれるように突き刺さる。

ヴァロの扱う鉄芯もギヴィアのこの技をまねたものだが、あくまで牽制を目的として使っている。

攻撃としては余程近くまで接近しなければ、標的に命中させることは厳しいからだ。

それとは違い、ギヴィアの扱う技は相手に致命傷を負わせることを目的としたものだ。

鉄芯を数本体に受けた魔女は、たまらず制御を失い地に落ちた。

「やめといたほうがいい、抜けば肉がえぐられる」

ギヴィアの鉄芯はヴァロのそれとは違い、かえしがついている。

そのため無理に引き抜こうとすると、傷口を広げることになる。

さらにギヴィアが魔女とやりあう際には毒を仕込むこともあるという。

ただ鉄芯は魔女以外にも使用することも少なからずあり、殺傷性があまりにも高すぎるため普段は使っていない。

「防御魔法を解いていたのが仇になったな」

一歩一歩踏みしめるようにギヴィアは魔女に近づく。

「この出来損ない風情が!我々にこんなまねをしといてただですむと・・・」

魔女の表情が憤怒から恐怖に変わる。

その瞳に移したものは人の形をした死神。

それは憐憫も哀れみもなく男は無表情に彼女を見下ろしていた。

「言いたいことはそれだけか?」

男の眼差しが魔女を射抜く。

魔女の目の前にあるものは抗うことのできない絶対的な死。

「・・・いや、死にたくない」

誇りもプライドもなく、地を這いながら逃げようとする姿はただ哀れであった。

「それじゃさよならだ」

背後からの男の無慈悲な一閃が、魔女を頭と胴体に分けた。


一方的な惨劇が終わる。


フィアをヴァロは隠すように自分の影にした。

「なんであなたがここにいるんです?」

「聞きたいのはこっちだ。どうしてお前がここにいる?」

しばし二人は無言で向き合う。

言葉とは裏腹にヴァロの心臓はバクバクだ。

「俺は・・・騎士団の任務中です・・・。内容は話せません」

「任務中・・・そういえば所属はマールス騎士団だったか」

つまらなそうな顔でこちらに視線を投げる。

「で、馬鹿弟子。お前の後ろにいる女はなんだ」

ヴァロの背筋に冷たい汗が流れ落ちるのを感じる。

「ただの人間・・・です」

師の視線を受け止める。

ヴァロにはその一瞬が一刻にも感じられた。

「そうかただの人間か、なら問題はないな」

ギヴィアはくるりと反転し、ヴァロに背中を向けた。

「倒壊した屋敷のほうの一体の処分完了しました」

闇の中から先ほど魔女の一人を倒した男が姿を見せる。

「ウルヒ。魔法を使用した魔女は狩り終えた。俺たちは撤収だ」

「了解」

ギヴィアの言葉はヴァロへのあてつけだろう。

フィアは魔法は使ってはいないが、魔力を持っていることは明白だ。

だが、ここでそれを師が追求しないということは・・・。

ウルヒと呼ばれた男がこちらに近づいてくる。

「はじめまして。俺の名前はウルヒ。君の師とはコンビを組ませてもらってる。

なにかあったら言ってくれ。力になる」

そういってウルヒは柔和な笑顔を浮かべた。

その表情を見る限りでは先ほど魔女を惨殺した人間とは思えない。

「はじめまして、ヴァロといいます」

「君の事はギヴィアから聞いてるよ。それじゃ、またね」

ウルヒはそうヴァロに言い残し、遅れないよう小走りにギヴィアの後をついていった。

二人の姿が視界から消えるとヴァロの体から汗がふきだしてきた。

師をうまく欺いたというよりは、今回気まぐれで見逃してもらったというほうが正しいだろう。

事実ヴァロは師を出し抜けたことなど一度もない。

フィアの手前どうにか立っていられたが、いなければ地面にへたれこんでいただろう。

対峙するなら魔女のほうがましである。

「フィア・・・」

気づくとフィアが手で地面を掘っている。

「埋めるのか・・・」

「うん、かわいそうだから」

ヴァロは黙って彼女を手伝った。




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