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2-2 魔女の襲撃の件

それは夜更けのことだ。

ヴァロは奇妙な気配を感じ目を覚ました。

寝ているフィアの上に人影が浮かんでいる。

「魔女」

ヴァロはかろうじて声をささずにすんだ。

薄目で状況を確認してみる。

浮かんでいる人影は四つ。


窓が開いている。どうやらそこから侵入してきたらしい。

ヴァロは意を決して、ベットから跳ね起き、近くにある剣を手に取った。

「そこまでだ」

この間合いなら相手の魔法が発動する前に攻撃できる。

ヴァロは剣の柄を握り締めた。

「あらら、見つかっちゃった」

その瞬間部屋中を突風が吹き荒れた。

ヴァロは自分の勘違いを悟る。魔法は既に発動していたのだ。

そんなヴァロをあざけるように、魔女の甲高い笑い声が部屋中にこだまする。

「フィア・・・」

ベットに寝ていたはずのフィアの姿がない。

ヴァロはすぐさま窓の外を確認する。空には五つの人影が浮遊している。

あのどれか一つがフィアであることは疑いようがない。

ゆっくりと人影は小さくなってゆく。

ヴァロは舌打ちして、バックと剣を持ち二階の窓から身を乗り出した。

屋根を伝って通りまで転げるように降りた。

夜の街は昼の姿とはうってかわって街は静かだった。

人はおろか猫一匹すら見つけることができない。

ヴァロはすぐさま空を見上げ、魔女の位置を確認する。

幸いまだ肉眼で確認できる。

ヴァロは全力で駆け出した。


「裸のねーちゃんでもそこらに歩いてねえかなぁ」

トランは物見やぐらの上からソーンウルヒの町を一望していた。

「そんなのいたら夜警の任務に人が殺到してるぜ」

「へっ、ちげえねえや」

管を通して下の管理室とつながっている。夜勤の当番は暇である。

「しっかし、なんだね、当番とはいえ罰ゲームだね。

戦時中でもないってのに夜の警備ってのは」

「それがいいってヤツもいるんだから気が知れないよな」

「へぇー、そんなのも・・・おや、人影発見」

双眼鏡を通して、人影が通りを走っているのが見えた。

トランは目を細める。人影には見覚えがあった。

「知り合いだ。少し行って注意してくる」


ヴァロは焦っていた。

魔女たちはどんどん遠ざかってゆく。

このままでは魔女たちには追いつけないのは明らかだ。

「そこのお兄さん、こんな夜更けにお一人で散歩ですかい」

背後から声をかけてきたのはトランだった。

ヴァロは振り返ることなく空を見ている。

「そういえば夜間警備だったな」

「こんな夜更けに一人でふらふら歩いていれば、不審者と間違えられても不思議じゃないぞ。

極秘任務中の人間がすることですか?」

「なあ、トラン。空には星しか見えてないよな」

トランはヴァロの眺めている方向をまじまじと見てみる。

「ああ。星しか見えないぞ」

「・・・そうか」

トランは夜目がきく。訓練生の時から夜ふらふら出て歩く常習犯であるのに、捕まったためしが一度もない。

事実今回もヴァロを真っ先に見つけてきた。

ヴァロは確証を持った。やはり普通の人間には見えていない。

魔女のよく使う姿消しの魔法。ヴァロは生まれながらに魔法に対しての耐性がある。

何万人に一人の割合らしいが、ヴァロは今はじめてこのことに感謝した。

今魔女たちは普通の人間には存在が認識できていないと思っている。

なら魔女たちは回りくどい寄り道などせず、目的地に直接向かうはず。

「トラン、この先には何がある」

ヴァロは空を見上げながらトランに問いかける。

魔女たちは徐々に遠ざりつつある。

自分の足で追いつくことは困難だろうし、もうじき肉眼で捉えきれなくなる。

「貴族の屋敷跡だけしかないが・・・」

ヴァロの視界から魔女たちの姿を捉えきれなくなった。

ヴァロは視線を空から外すとトランに向き合った。

「頼む。そこまで俺を連れてってくれ」

「・・・重要なことなんだな」

ヴァロの緊張を察したのか、トランの声のトーンがいつもより低い。

「ああ」

「そのかわり今回の件、後で話してもらうからな」

「話せるときが来たら・・・な」

「少し待ってろ」

トランはそういうとその場から駆け出した。


「さてと・・・」

ヴァロはヴィヴィに言われたとおり、鳥の置物の頭を三回叩いてみた。

「・・・こんばんは、こんな時間になんの用?」

ヴィヴィの眠そうな声が使い魔を通して聞こえてくる。

「時間がないから単刀直入に言う。フィアが魔女の連中にさらわれた」

「・・・何があったの?」

使い魔を通してヴィヴィの驚きが伝わってくる。

ヴァロは今までのいきさつをかいつまんで説明した。

「四人も・・・なんで。しかもどうやって居場所を特定したの・・・?」

「それはこっちが知りたい」

それはヴァロも疑問に思っていたことだ。

街の中で見張っていたことも考えられるが、

ヴァロたちがソーンウルヒに来た事は半ば偶然であり、特定されることはないはずだ。

なら、連中は自分たちの居場所を特定する手段を何か持っているのかもしれない。、

ヴァロがあの宿にいたことを知っていたのは数名。

兄ケイオスはそんなことをするわけがないし、兄ケイオスの近しいものに裏切り者がいるとは考えにくい。

それに一般人が魔女と関係をもっていることはまずないといっていい。

ならヴィヴィはどうか、短い付き合いだが、このヴィヴィに限ってははそんなことはしないとヴァロは確信を持っていた。

もう一つの可能性を考えてみる。

「なあ、相手の居場所がわかるような魔法は存在するのか?」

ヴァロには魔法の知識がない。率直にヴィヴィに疑問をぶつけてみる。

「・・・ある。だけどそれは・・・」

「あるんだな・・・。まあいい、この話はあとだ。もう一つ聞いてもらいたいことがある。

連中は浮遊魔法を使ってた。浮遊魔法は長距離移動には向かないと聞いたことがある。

ならどこかで一旦魔法を解くはずだ。連中はこの先をまっすぐに進んでいった。

聞いた話では、この先に使われなくなった昔の貴族の屋敷跡があるらしい。

自分はそこが魔女のねぐらだと思うのだが・・・」

「ヴァロの推理はほぼ間違えていない。

浮遊魔法は長時間式を維持するのが困難だから長距離移動には適さない。

ただその屋敷には立ち寄るだけで、そこから先は馬車に乗り換えると思う。

連中は・・・というか魔女一般は一所に留まることはあまりしないはずだから」

「馬車・・・考えてなかった」

ヴァロは思わず舌打ちした。

盲点だった。魔女が馬車を使うことは正直考えていなかった。

馬車に乗り換えられたら、追跡は困難になる。

まして相手は魔女である。どこに拠点があるか分からない。

「ヴァロの話だと、視覚魔法も併用していたって話だし、それぞれ役割を分担してる可能性がある。

魔法の役割分担にはそれ相応の魔法調整が必要になるのよ。

それぞれが繊細な力配分でその魔法式を行使しなければ干渉が起こり、

無効化されてしまう」

「つまり?」

「ひとりひとりが魔法使いとしてはかなりの使い手になる・・・」

ヴィヴィの話は若干は予想していたことだ。

四人の魔法は魔法使いではないヴァロから見ても洗練されたものだった。

「ヴァロ、ここは一旦引きなさい。いくら訓練を積んでいたって、

そんな相手を四人も・・・あなただけじゃ無理よ」

「やってみなければわからないさ」

今を逃せばフィアを奪還するチャンスは永遠に失われるかもしれない。

あの時少女にヴァロは自分が生きる理由になるといった。


ヴィヴィと話しているうちにトランが馬に乗ってやってきた。

自分の馬とは別にもう一頭の手綱を握っている。

「ヴァロ、乗れ」

「感謝する」

ヴァロはトランから馬の手綱を受け取ると、馬に飛び乗った。

「無理を言ってすまない。しかし、よく二頭ももってこれたな」

「俺に野郎とあいのりする趣味はねえよ」

「そうだったな」

この悪友は昔と変わらない。

「いっとくがこれは貸しだからな」

「ああ、つけといてくれ」

そういうとヴァロは馬を走らせる。

それを眺めている人影があることをヴァロたちはそのとき気づかなかった。


「おい、屋敷を一望できるような場所はないか?」

「あるにはあるが・・・」

「屋敷ではなくそこに向かってくれ」

トランの案内した丘の上からは屋敷が一望できた。

遠目ではあるが屋敷からは青白い光が出ている。

「あれは・・・」

「鬼火だ・・・」

魔法の火は通常の火よりも青白い。その火をヴァロの師は鬼火と呼んでいた。

「知ってるのか?」

「まあな」

あの館にフィアをさらった魔女がいると見て間違いはないだろう。

ならば、ここからは相手にこちらの存在を気づかれないよう、徒歩で近づくのがいいだろう。

ヴァロは馬から飛び降りた。

「ヴァロ、待てよ」

「すまない、馬は返しておいてくれ」

ヴァロは馬から下りると、ヴァロはしゃがみこみ、靴の確認をはじめる。

「少し待てよ。相手は魔物だ、ただ事じゃないぜ」

「聖都にはそのために行ったんだよ」

バックから取り出した鉄芯を両腕に仕込む。

「まさか・・・おまえ・・」

「そのまさかさ。俺は連中と戦うための訓練を受けてきた」

ヴァロはそのために聖都に派遣されたという名目で、騎士団領から三年間派遣されたのだ。

「・・・『狩人』か。聖都に行って戻ってこないと思っていたらそんなことしてたんだな」

トランは異端審問官を『狩人』と呼んだ。異端審問官の通称は一部の人間しか知らない。

なら、トランは魔女の相手は一般の人間ができないことを知ってると見ていいだろう。

ヴァロはその事実が少しおかしかった。

「成長しているのはなにもお前だけじゃない」

ヴァロは剣を鞘から静かに引き抜いた。剣には耐魔の文字が刻んである。

『狩人』の所持している魔具に近い。

「必ず戻れよ」

「ああ」

そういうとヴァロは屋敷に向けて駆け出した。





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