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1-2 魔女の鳥

騎士団幹部には執務室がそれぞれ分け与えられる。

騎士団領防衛の最高責任者モンガス=ノーリス。

この騎士団領の外壁と結界を管理している。

基本騎士団は基本実力主義。ゆえに騎士団領は世襲制をとっていない。

だが外壁と結界の管理は唯一例外的に世襲制がとられていた。

ただ実態が見えないため、噂の耐えない役職でもある。

もちろんその半分以上がやっかみであろうが・・・。

ヴァロはそんな相手から招待をうけるとは予想だにしていなかった。

彼にとって晴天の霹靂ともいえよう。

ヴァロは意を決してドアを叩いた。

「入りたまえ」

ヴァロはゆっくりとドアを開けた。

部屋の中はこぎれいなものだった。

机の上はきちんと整理されていて、本棚に置いてある本はあるべきところにおいてあった。

知っている幹部のものは年中書類が山積みになっている。

不自然なことといえばは机の真ん中に鳥の置物が置いてあることだ。

「そう身構えなくてもいい。とがめるためによんだわけではないよ」

モンガス卿は白髪でどちらかというと柔和な顔をした男だ。

身なりはきちんもきちんとしている。育ちのよさが見てとれる。

ヴァロは意図が読めず内心困惑したが、それをかろうじて顔に出さずにすんだ。

「君の噂は聞いてる。うちの若手の有望株とか。三年前なんでもその腕を買われて、

聖都の方まで出向くことになったそうじゃないか」

「お褒めいただき、ありがとうございます」

ヴァロは丁寧に会釈した。

「お互い忙しい身だ、前置きは抜きにして本題に入ろうか。実は君にある頼みごとをしたいという方がいらしてね。

ただ君の立場というものもある。私はやめるよう説得したのだが、どうしてもと聞いてくだされない。

モンガスの言っている意味がいまいちわからない。

立場という言葉が妙に引っかかった。

「頼みごとというのは?」

「詳細は依頼した当人の口から直接聞いていただけるかな」

そういうと鳥の置物の方に視線を向けた。

どう見てもモンガスの視線の先には鳥の置物だけしかない。

「はじめまして」

鳥の置物がいきなり言葉を発した。

ヴァロは反射的に腕に隠しこんでいる鉄芯に手をかけた。

モンガス卿がそばにいなければ問答無用に攻撃していただろう。

なにしろそこにはヴァロたちの天敵がいるのだから。

「こんな姿で挨拶ごめんなさい。話をしたいというのは私よ」

その鳥の置物は恭しく頭を下げる。ヴァロは無言でその鳥と対峙する。

モンガス卿はこうなることが分かっていたように頭を抱えている。

「攻撃はやめてね。端末壊されたら直すの結構苦労するんだから。それにこの端末を壊したところで私に傷一つつけられないわ」

鳥の置物が片翼を広げ、制止のしぐさをする。

魔女が使い魔を使うことは師から教わって知っていた。

そしてその使い魔を殺しても使役している本人には傷一つ与えられないということも。

「あらかじめ言っておくけど、私に敵対の意思はないし、彼も術にかけてるわけじゃないから誤解しないように」

そうこのフゲルガルデンには魔法を使えないという結界が張られている。

また結界のことは機密事項であり、一般の人間の知るところではない。

だからこそヴァロは魔女を連行してこれたという経緯もある。

「わかった。敵対する意思がないというのなら仕事を引き受ける前に、いくつかの質問に答えてもらう」

目の前には魔女。ただモンガス卿の手前あまり手荒なまねはしたくないというものもあった。

今後のために情報を引き出すのも悪くないかもしれない。

「・・・いいわ。答えられるものならね」

モンガス卿がなにか言おうとしたが、その鳥は片手でそれを制すそぶりをした。

「魔女はこのフゲンガルデンの中では魔法を使えないはず。どうやってその使い魔を動かしてる?」

その点が最大の疑問だった。

何故この魔女は魔法を使えないこの結界の中で、魔法としか思えないものをつかっているのか?

「ええ、とおり。私は魔法を使っていない。そしてこの結界の中では魔法を使えないのは私も例外じゃない。

厳密に言うならここの結界に拒絶されてしまう」

「ならばその鳥の使い魔は?」

「私はこの結界の管理者でもある。結界の力を利用することは造作もない」

管理者というのは初めて聞いた言葉だ。

「管理者・・・とはなんだ」

「その字面通りの意味よ。こんな大掛かりな仕掛けただの人間が扱えるわけないでしょ」

この騎士団領の防衛に関する重要な事柄だ。

ヴァロは彼女の言葉に妙に納得していた。

結界の技術はその性質上機密とされている事柄である。

古くは五百年前に構築されたと聞いている。

どうやって構築したのか、謎の部分が多くあり、文献もほとんど見たことがない。

それならばモンガス卿が魔女とつながりがあってもおかしくはない。

「他にその管理者は何人いる?」

「管理者は魔女の中でも私を含めて現在四人」

「名前は?」

「それは答えられない。それぞれが教会関係者で、

ただあなたたちとは敵対する立場にはいないとだけ答えておく」

魔女の言葉だ、信用はできない。信用はできないが、モンガス卿の手前それを口に出すのは

はばかられた。

「・・・やれやれ、ギヴィアはあなたにまだなにも話してないようね」

「なぜ、師の名前を知ってる」

魔女の口から出てきた言葉にヴァロは過剰に反応した。

異端審問官通称『狩人』。その構成員は一部例外もいるものの大部分が秘匿されている。

ギヴィアというのはヴァロの師でもあり、

正直魔女から師の名前が出てくるとは思いもしなかったというのが本音のとこだ。

「ヴァロ君もういいだろう?」

見るに見かねたのかモンガス卿が横から口をはさんできた。

「なら最後に俺を選んだ根拠はなんだ?」

「あなたが最も適していると判断したためよ。私の勘もあるわね」

魔女という魔法の行使者から勘という不確かな言葉を聞いて、ヴァロは少しだけ頭が痛くなった。

この魔女はこの騎士団領の結界を管理しているという。

結界の生成は教会が管理しているらしく、この大陸の主要な都市には必ず張ってあるという。

大昔の大戦の名残と聞くが、その文献が一切がどこにも存在しないのも不自然であった。

それが作っている者が魔女ならばいろいろと合点がいく。

「それであんたの頼みたいことはなんだ」

「あなたの捕まえた魔女と少し話がしたい。あなたは魔女の給仕でもあるのでしょう」

現在騎士団内で対魔の訓練を受けているのは極一握りの人間だ。

「私はあなたの立会いの下で彼女と話をする。

これならやましいことがあってもすべてつつぬけなのだから問題ないでしょう」

前例はないことだ。ただモンガス卿の手前、断るのも気が引けた。

ヴァロが断ったとしても、他の誰かに依頼することもありえる。

それならば、魔法に耐性のある自分が適役だろう。

ヴァロは小さなため息をついた。どうやら拒否権はないようだ。

「具体的には?」

その言葉を承諾と受け取ったのか、その鳥の表情が緩んだ気がした。

「この置物を給仕の際に懐に忍ばせて連れていってくれればいい」

「分かった」

「それじゃ、決まりね。よろしく」

その鳥は握手の代わりに羽を差し出してきた。

すべてこの魔女の思惑通りのような気がしないでもない。

ヴァロは頭を抱えつつも、魔女の差し出してきた手を握り返した。


執務室から来る際に、この魔女はヴァロのポケットに入り込んできた。

「いいじゃない。どうせ明日例の魔女のところへ行くのでしょう?」

ヴァロも若干の抵抗を見せたが、この言葉で押し切られた。

ポケットを我が物に占拠するこの異邦人はきょろきょろと周囲を見渡している。

「あまり目立つようなまねはするなよ」

「どうせばれはしないわ。どうせならこのまま魔女とあわせてくれてもいいのよ」

「無茶言うな。あそこには見張りもついてるんだ。いくらなんでもいきなりは無理だ」

理由もなく今頃のこのこ魔女と会いに行ったら、妙な嫌疑をかけられかねない。

ただこのまま、この魔女を放置しておくと何を言い出すか分からないのが怖い。

「明日の昼ならどうにかあの魔女とあんたを引き合わせる時間も作れると思う」

「ふーん。いいわ、この件はあんたにまかせる。

ならこれ、明日の朝になったらまた話せるようにしとくから。

じゃ、おやすみ」

そういうと使い魔は木彫りの置物に戻った。


よりにもよって対魔の訓練を受けた自分が魔女と共犯とは、妙なことになったものだ。

ヴァロは小さくため息をついた。

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