俺だけアンラッキー!!
って…何で俺が選ばれたわけ?
「せこいやり方でラッキーを手にしたから」
そいつは、俺にそう言った。なにひとつ努力しないで、幸福に浸るなんて許されない、神様軍団もさすがにお怒りだ、だから、その神様軍団が送り込んでくる下級精霊とやらをボコボコにして、そいつらの親玉…つまり、ボスの上級精霊、神様を引っ張り出してほしい、そして世界の平和を守ってほしいと。意味が全く理解出来なかった。なにひとつ努力しないで幸福に浸るから神様軍団がお怒り、そこまでは理解出来た。だが、その先の話はどう考えても
「神様軍団邪魔だから、ころして」にしか聞こえなかった。
俺は、これが危ない話だと直ぐ分かった。だから、その場から立ち去ろうとした。酷い言葉の嵐が背中にぶつかっては消えた。俺は、そいつと眼を合わせないように速く歩いた。でも、無理だった。そいつの言葉が俺の足を止めた。
「アンラッキーな人生に戻されてもいいの?」嫌な言い方だった。
「でぶっちょで、好きな女の子にフラれて、親をいつも困らせて、居場所のない自分に」「何が言いたいんだよ…」
「自分のラッキーを守りたいなら、これから君に訪れるアンラッキーを倒さないといけないってこと、じゃないと、前の、嫌な人生に戻されちゃうよ」
俺は、そいつに耳をかしてしまった。これこそが不運、アンラッキーのはじまりだったのに。
「ここが君の隠れ家?」
俺は、そいつの事を無視して、鍵穴に鍵を差し込んで回した。ここは自分の家じゃない、だから玄関前で騒がれるのは困る。俺は不機嫌な顔のまま、扉を開いた。「あきら、ただいま」俺は、小さな声で、そう言った。返事は無かった。そうだ、今日は、あの人の祝日出勤の日。だからあの人が家にいるわけない。つい、いつもの癖が出たんだなと、俺は、恥ずかしさから俯いた。そいつは、そんな俺の顔を見て、ぶっふふと笑った。「あー、ラッキーの源」
俺は、そいつのその言葉が気に食わなかった。でも間違えてはいなかった。俺がラッキーな人生を歩めるのは、その人が汗水垂らして働いて、俺を助けてくれているおかげ。だから否定はしない。でも…
「ぎゃふん!!」「お前には関係ない!!」
俺は、そいつを家から叩き出した。暴力は得意な方だった。自分の都合が悪くなると、こんな風に直ぐ叩いた。別にそれが強い奴のすることだなんて思っていない。でもそれが、俺の弱さを隠す、唯一の方法だったから仕方ない。
「また、半べそかきながら人を叩くんだ。拳の神様は、それを怒ってたよ。拳は人を守る為のものであって、人の心を傷付けるものではないって」
そんな事は分かってる。分かってるから余計に辛くて、涙が出てくるんだ。俺はそいつにそう叫びたかった…でも「うるさい…」としか言えなかった。
「もう、そんな事はどうでもいいんだよ、君の部屋はどこ、無料宿泊マイスイートルームはどこ?」
カチンときた。「ぎゃふん!!」
俺はそいつを、2階の部屋、俺と旦那のベッドに突き飛ばした。俺は、そいつの隣に腰掛けて、訊いた。
「んで、何をしたらこのラッキーを守り切れるわけ」我ながら性格が悪いなと思った。「だから、さっきも言ったでしょ、神様軍団の親玉を引っ張り出して、ボコボコにするんだよ」
さっきと少し話が違うような気がした…。
「神様軍団はね、良いことをした人たちには優しいけど、悪いことをした人たちには、かなり厳しいんだよ、んで、その悪いことをした人たちリストに君がのっちゃったわけ…」「それってまずいの」
「まずいよ、まずい、セロリサラダよりもまずいよ、だからね、賢いおいらが、君のために考えてあげたわけ」
そいつは、落書き帳を召還して言った。「この本の表紙に君を含めた5人の名前が書いてあるでしょ」
そこには、そいつの言った通り、5人の名前が…。いや、1人だけ黒のマジックペンで塗りつぶされている、があった。
俺は、本を開いた。そこには…。
「赤金姫矢・あかがねひめや」
俺の名前、しかも偽名が書かれていた。その下には俺の働いた悪事がこと細かく書かれていた。とても読み上げられるレベルではなかった。あぁ…俺ってこんなにも悪い子なんだなぁと、つくづく思った。次のページをめくると、二人目の名前が書かれていた。
「はらぐろ…」「あー!!」
そいつは、俺から強引に本を取り上げると、黒いマジックペンを召還した。そして、慌てた様子で2ページ目を黒く塗り潰した。あやしい…。「アハハ、このページはね、見せちゃだめだって、神様軍団にきつく言われてたんだよ。だから、3ページ目から読んでね。ホイッホイッ」
そこには、たぶん二人目を抜かしての3人目の名前が書かれていた。
「金袋朗」(かねぶくろ・あきら)
俺は、本を強く閉じた。そして、そいつの胸ぐらを掴んで言った。「なにこれ、なんであの人の名前がここに書かれてあんの」このノートには悪いことをした人の名前だけが書かれているはず、それなのに、ここにあの人の名前がある。俺は、そいつに訊いた。「どうゆう関係」気になるのそれ?って感じで、そいつは俺を見た。そいつは俺に言った。関係なんて何もない、ただ、神様軍団が選んだ、悪いことをした人リストに載っていたから、名前だけは知っていたと。でも、なんであの人の名前がリストに載っているんだろう。俺が疑問に首を傾げていると、階段をかけ上がる、誰かの足音が聞こえてきた。(やばい…)
あの人が家に帰ってきたんだ。俺は、そいつを急いでクローゼットに押し込めた。…が間に合わなかった。
「ついに浮気しやがったか!!」
振り返るとそこには、俺よりは背が低い、中肉中背…だけど、ハーフ顔で、めっちゃ俺好みの短髪リーマンが立っていた。金袋・朗、俺が、世界で一番大好きな人だ。
「いや、違うよ、浮気じゃないよ」
「浮気じゃないなら、なんで隠す必要があるんだ」
普段は、べたべたしてくれないくせに、この事に関しては、かなりしつこい。
「俺はな、お前に色々と捧げてきたんだ、夢を叶える手伝いだってした、それなのに、こんな仕打ちがあるか、お前ふざけてるのか、エロ無しの夫夫生活がそんなに嫌だったか!!」
「嫌じゃないよ」「はいはい」
そいつは、半分あきれた様子で、クローゼットから出てきた。かなりのマイペース人間のようだった。「なるほど、金袋朗を選んだのは、愛や家族関係の神様だね」朗は、そいつを見て言った。「かっ…かわいい」「復讐しますわよ、三女神って知ってる?」
そいつは、朗を無視して言った。多分だけど、俺に向かって言っているんだ。だけど俺は、復讐しますわよ、三女神なんて知らないし、聞いたことも無い。そいつは、話を続けた。「あー、そうなんだ、おいらも、詳しくは知らないんだ」もう、どうでもよかった。正直めんどくさい。俺は、そいつを追い出してやろうと思った。その時だった。
バリバリバリ!!
二階の屋根を突き抜けて、光の矢のようなものが、一階と二階を串刺しにした。それは黒い落雷のようにも見えた。「おっーホッホッホッ、見つけたわよ、神様の宮殿に土足で踏入り、悪いことをした人リストを盗み出した、腹黒・金平糖!!」空から舞い降りてきたのは、黒い翼と白い翼をバッサバッサとさせた綺麗なお姉ちゃん三人組だった。
はらぐろ…こんぺいとう?それがそいつの名前だった。
「うっさいわ!!神様かなんかしらないけど、勝手に人間様、見下して、勝手に人の名前、書き込むんじゃねぇよ!!」
「悪いことをしたら、お仕置きをされるのは当然のことでしょ、それをうまく免れて、人生を楽に終えようだなんて考えてる奴等がいるから、世の中、無茶苦茶なんでしょう!!」
グサッグサッと、何か痛いものが、胸や頭に突き刺さった。確かにそうだ。なるほど、神様軍団をころ…倒すって意味がようやく理解出来た。あいつらが俺らに、罰を与えようとしてくるんだ。この腹黒・金平糖ってやつも悪いやつだけど、俺だって悪いやつなんだ。神様軍団を倒すなんて、神の冒涜だとか言われそうだけど、そんなことは気にしていられない。やるまえにやらなきゃ。やられちゃう。性格悪い?そんなのは、言われ馴れている。詐欺画像で男をたぶらかすような子は、だいたい性格悪いんだ。でも、あんな強そうな、お姉ちゃん三人組に俺みたいな運動神経の悪いやつが勝てるわけ無い。どうしたら、せこく勝てるんだろう、他人に任せる、えーっと朗、あっ、気絶している。多分だけどさっきの落雷のせい。まともに直撃なんか、してないよね。「ねえ、こんぺいとう!どうやって戦うの!」金平糖は、お姉ちゃん三人組にタコ殴りにされながらも、三つの武器を、俺の方へ投げてくれた。危ない…人生いきなりリセットされそうだった。
クレッセント・アクス。その名通り、三日月型の斧だった。でも、こんな重そうな武器持ち上げられるわけない。直ぐ分かった。これは俺には合わない。
ブロードソード。刀剣…却下。
ウタ。弓矢か、銅で作った輪が装飾品のように、はめられていて綺麗だった。これにしよう。遠くから狙い撃ちしてれば、撃ったあとを見なくてすむし、なにより、せこく戦える気がした。よーし、矢を入れるやつを鞄みたいに背負って、よしオッケー。あとは、あの翼を狙って矢を…
「放つ!!」
ブヨヨヨン。下手くそだった。矢は、力なく床に落ち、弦がビョヨンと震えただけだった。
「もう、金平糖の武器は、まともなのが無いよ、こうなったら、もう逃げちゃお」ずるいやつの考えそうな事だった。
「やっぱり、逃げるって選択肢しか、あなたには出来ないのね」
黒い大きな影が、俺の行く手を塞いだ。バッサバッサとやかましい女だった。いい忘れたが、俺は、子供を身籠れる綺麗な女の人が嫌いだ。理由は…もう!!とにかく嫌いなんだ!!
「あらあなた、人間のくせに、私達神様軍団に逆らう気?」
怖い。何も言えなかった。ゲームの世界では雑魚扱いのハーピィに、こいつら容姿が似ているくせに、いざ実物を前にすると、足が…脚が…ガタガタと震えて、あぁ…。俺は、その場に崩れた。人間が神様なんかに叶うはずが無いんだ。諦めよう、頭からガブリッンチョって噛まれて、何もかも終わりなんだ。朗の姿も見当たらない…たぶん、こいつが食べたんだ、確かハーピィって、モンスター図鑑で見たけど、男の人誘惑して食べるんだよね…あぁ、朗と一緒にいれるならそれでもいいか。俺は、矢を構えて、こいつの喉に矢が突き刺さるようにして、覚悟を決めた。「ウフフフ…賢い子ね、でも私、ハーピィじゃないから、かぶりつかないの」
「えっ…」「ここで連れ去って、地獄で痛め付けてあげるわ!!!」
閃光が見えた。あれ、空が見える。俺は、気を失った。
目覚めると、俺は、ベッドの上にいた。俺は、上体を起こして、瞬きした。「大丈夫か?」
見ると、俺の隣に朗が腰掛けていた。鼻には絆創膏、右腕には包帯を巻いている。もしかして、あいつらに…!!俺が立ち上がろうとすると、全身に激痛が走った。耐えられない痛みに、俺は、泣き出してしまった。
朗が、俺に言った。
「ただ、吹き飛ばされただけだ、お前のやるゲームキャラクターの痛みが分かっただろう」遠回しに下手くそだから、もうやめろと言いたいようだった。だが、今はそれどころじゃなかった。あいつらはどうなったのだろう。その後の話が出来るようになったのは、それから2週間後の事だった。
そして、2週間後。
「この人たち誰?」
腹黒・金平糖が二人の男前を連れて帰ってきた。