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進化の系譜  作者: 数貴
一章 はじめて神様に願う時
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覚えてなさいよ

 私は黒い魔法瓶を取り開き空中に黒い軌跡を描いていった。真っ直ぐな縦棒にその棒の上に斜め線を二本。


「ヤミフクロウ」


 言霊に応じて描いたルーンの空間を裂いて黒いフクロウが現れた。


「どうするおつもりで?」


 遺跡で奮闘中のフェルミナとは対象的に適当な石の上に後ろに手を伸ばしてのんびりと座っていたセインは突然の魔法使って何をするつもりかと端的に尋ねた。


「もしもって事があるからなこいつを転移で飛ばしてフェルミナをこっそり監視させる。私のギフトを使えばヤミフクロウの目と同期させてフェルミナをこちらからでも見えるようにしておく」

「意外にお優しいんですね」

「まあこちらもフェルミナを怒らせずに出来なかった責任もありますからねえ」


 私も大地に生えていない乾いた老いた木の上に何もないことを確認してから腰を下ろす。一枚の紙と小さ目の羽ペンを取り出ししゃべりながら何かを記載していく。


「それで今回の人選は誰なんですか?おそらくサナリス公爵なのでしょうけど噂ぐらい聞いてはいましたけど親にしてその子供ありってことですかね」

「えぇその通りですけど…やはり今回の件は遺跡の独占所有が目的で?」

「恐らくはそうでしょう。これだけの広さとなると冒険者に通行料を取るだけで数年は簡単に利益が出ますからね、もし財宝や資源などが見つかったら所有物だと言って私服を増やせますからね。そして何より娘を第一発見者とすることによって他の有権者よりもアドバンテージを得る事ですね」


 従来のダンジョンの所有者は第一に土地の所有者第二にそれの発見者となっている。第一の件については土地はストリア街の物としてはあるが個人の所有ではなかったので街全体の物となる。しかしこれを管理する人は必要であることから第二の件案の発見者が優先的な管理者の権利を得る事が可能となる。


「聞かなきゃよかった…」

「遅いですよ」


 冗談交じりに肩を落としたセインにははっと笑った。


「まあだからこそなんですけどねこう言う嫌がらせができるのは」

「ほう?」


 怒られないならそれに越した事はないのだろうな。


「つまりは私達が嘘をつけば良いんですよ」

「いきなり結論からきましたね」


 今まで口を挟まなかったアルロンが横から体が前のめりになるような気持ちに入ってきた。


「どういうことなんですか?」

「順序良く説明するならサイリス家が利権を得るためにフェルミナはここにくる必要があった。しかしそれを証明するのが私達三人の役目なんですよ…恐らくはね」

「つまりフェルミナがここにいなかったと言えば良いと?」

「簡単に言っちゃえばそうだね、私達三人ともがいなかったと言えばもちろんサイリス家は異議を申し立てるだろうが実際こそこそと利権を得るためにやってることならば他の有力な貴族たちも黙ってはいないからな他の貴族が私達の味方をしてくれる」

「…サイリス家から恨まれませんかそれ?」

「安心しろ嘘はつかないさ。だからこうやって手紙を書いてる」


 読んでみろとばかりに今丁度書き終えた紙をアルロンに手渡した。


「えーっと…[今回の敬称ストリア遺跡に関する題目に致しまして―――。ロスティア国 近衛魔導騎士団 地図のイルミス・ロックの名においてフェルミナ・サイリス・フォン=リスタ公爵家三女の同行は能力に値する物だと正しく認可されたものかを判断し、また不当であったと判断された場合においてはこの件案については無効な事と効果を発生する事とする。異議がある場合においては各領内の同意の申し立てがあってすることができるものとする。]」


 つまり駄目な子ならここには居なかった事にするぞ、それで文句があるなら他の貴族が同意を得たならいいよ。


「実際貴族に恨まれたくはないですから居なかったと言う事にはしませんけど、こう言っておけばある程度許容はしてくれますよ特にお金が好きな貴族ならね」

「んーやっぱり不安ですね…大丈夫なんですかこれって」

「八割位平気かなたぶん、少なくともセインとアルロンはともかく彼女はこの難度をクリアできるレベルではないのはどう抗おうにも事実ですからね」

「たぶん…明日起きたら牢屋の中とか嫌ですよ?」

「ひんやりしてて良い目覚めかもな」

「日差しが当たらない石って冷たくて気持ちいいですよね」

「わかるわかる」


 セインが乗ってきたので私もつい同意してしまった。


「わらかないって」


 半分呆れられながら紙を返してもらってそのまま封をした。


「それを持って行くならついでに食事も私が取ってきましょうか?」


 アルロンの申し出に甘えて銀貨を一枚と手紙を一緒に渡した。何か食べたい物がありますか?と尋ねられたが好きなのかってきてくれと言ったら困ったような顔をしていた。銀貨だと食事代を差し引いても駄賃としては多く感じていたのだろう。


「じゃあ四人前頼むぞ」

「行ってきますね」


 そのままアルロンは街の方へと走っていった。

 手紙を書き終わったので律儀に待っていたヤミフクロウを地面に四つ棒がの交錯して中央に四角形の構築式を手で描いてからその場に移動させて転移の魔法を行使した。こうも何度も転移を使っているのでさすがに疲れが見え始めてはいたのか額に汗が出始めていた。

 

「疲れましたか?」

「少しですね、ですが転移で疲れてるわけではないんですよウィル・オー・ウィプスを召喚した時が一番疲れましたね」


 ウィル・オー・ウィプスは先ほど遺跡の明かり代わりとなっていた光る球体の召喚精霊のことである。


「確かにこの遺跡はシャドウが濃すぎますね半端な錬度の魔法だと簡単に喰われるような多さだったので目を疑いましたよ、その代わり何かあるという確信ができましたけどね」


 冒険者としてはやはり宝物を含め何かがあるという期待感が大事なのだろう、若干怖がっているようで楽しそうな表情をよく見せていた。


「そういえば彼女の力量はどうなの?」


 腕を組んで考えるような表情を見せたセインだった。


「彼女の年齢にしては優秀だとは思いますよ治癒が使えるはずですし。ただ実戦経験が圧倒的に足りて無いでしょうね、遠出するにも騎士クラスの護衛を雇っていたとも聞いていますし」

「お嬢様と言えばそんな物かやっぱり」


 私は納得はしていたものの予想通り過ぎる答えにため息をついていた。


「こう言っててなんですけど、最近ではこの領内の王を決めようなどと意気込んでいる方々もいますから彼らも微妙な立場にあるわけですからあまりいじめないようにしてくださいね」


 サイリス家当主はまだ見てはいないからわからないがフェルミナに関しては話してわかったことはある。


「悪い奴ではないのはわかるよ必死で頑張ってるのはな。ただ融通が利く良い奴でもないけどな」

「それは仕方ないですね」


 いつまでもこうして談笑しているわけにはいかないのでヤミフクロウの見る目と指定してギフトの効果を発動させた。



―フェルミナ視点≒ヤミフクロウ視点―


 どうしてこう言う事になったのか。

 私は間違ったことを言っていない、どう見たって彼は怪しいし二つ名持ちは私の目標だあんなだらだらと適当に人生を生きてるようなやつなんかになれるわけがない。いやなってもらっては困る。

 それに私にはお父様から頼まれたこともある入り口に誰よりも先に入って来いって言って私の強さを認めて二つ名持ちがいるから良い目的にもなるだろうって…。

 確かにこの封印は解けない、いや理解できない。エニキア神聖文字は私も読めていたので今現在できることは壊すことぐらいしかないけど私の魔法では破壊は難しい。そして彼は二つ名持ちの人はなぜか治癒が使えると言った。教会の治癒指導は女性以外には教えてはならないまた出来ない規則があるのに、文字が読めるのは教会の聖書教本を買えばどうにでもなるが男性ではギフトを除いての治癒行為は女性しか出来ないはずなのに。

 ともかく納得ができない。自分の中のイライラが募っていくのがわかって子供扱いをされたとわかった時には実際は言わない様なことを怒り任せに言い放った。だって馬鹿にしたのが悪いんだから。

 暗い。

 先の方にほんのわずかに目印として光っているのがこちらから見える。これだけ判りやすい目印があるのに賭けなんて成立するのだろうか。確かにここまでは二刻ほどかかったがそれは足場、側壁、天井など警戒をしてかなりゆっくり来たものだここには敵もいないし罠もない一刻もいらないで帰れる自信がある。

 ひとまずは明かりだ。


「精霊サラマンダー火を灯して」


 彼女の指を指した所に明かりを出そうとして火がぼっ点いたと思ったらすぐさま消えた。


「えっ…」


 あれどうして?

 もう一度同じように言霊を発するが先ほどと同様に点いたと思ったら消えていた。

 なにがどうなってるのか判らないけど火がここじゃ使えないのかな精霊を呼びすぎると機嫌損ねてこう言うことになるのはよくあるけど?となると光?

さっきの彼は光精霊の使ってたしそうなのかも。


「光の精霊レイよ明かりを杖に宿らせて」


 背中につけていた小さい杖を取り出してから言霊を発した。光が杖に宿った…と思ったら数秒としないうちにどんどん明かりが薄くなっている。いやこれは光が暗闇に喰われている。


「これってまさか全部闇の精霊…」


 何で今更気がついたのか。周囲にずっとあったはずなのに。

 先ほどまでは当たり前のような明かりなんで疑問を持たなかったのか。いくら暗闇だからといって一切先が見えない不自然な明かりの中にいたのに。

 何で彼の残した目印だけは光って見えるのか何で闇の精霊ばかりなのか疑問はあふれ出てきてはいるが、今私がする事はここから出ること、それはここから歩いて帰ること。

 私は黒い足元を見た。

 先が見えない。

 道が見えない。

 崖が見えない。

 見えるのは蛍の光ほどの彼の残した目印だけ。

 あそこまでどうやって行けば良いのだろう。

 私に飛行の魔法は出来ない。

 いえ出来たとしても闇の精霊に喰われてしまってそこが崖なら私は助からない。

 明かりは一瞬だけなら点けれるけど精霊はそう何度も呼べない。

 どうやって帰れば良い?

 どうやって…

 私はここから動けない。

 動けない。


「動けない……」


 一度口に出してしまうと溢れ出る様に怖さが出てくる。

 嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ。

 怖い怖い怖い怖い。

 何で私がこんな目に、こんな怖い目に、誰か助けて、怖いよ助けてよ、死にたくない。

 地に足をつけていたはずがいつの間にか腰を下ろして彼女は泣いていた。

 私が彼を馬鹿にしたのが間違いだったのだろうか、みんなに迷惑かけたのが駄目だったのだろうか、でも今までも私は一人でやってきた助けを求めることなんてしたことなかった、どうしたらいいかわからなかった。


「ごめんなさい」


 体全部がうなだれ泣き顔を地面につけて誰に対してかわからない謝りの言葉を言っていた。

 今まで生きていて一番泣いていたかもしれない。

 どれだけの時間泣いたのかもわからないぐらい泣いた。

 赤ん坊のように泣いていた。

 ふと彼女は顔を上げてほんのわずかに光る目印を見てここから動く方法を思い出した。彼は言っていた「這いつくばって出ることになる」と。

 再度目印を見た。彼はどうやって目印を置いてきたのだろう?次の目印はあそこまで行ったらちゃんと見えるところにおいていたはずだ確か。

 そして彼女はまるで赤ん坊のように四つ足で目印へと目指した。これならば手で確認しながら動くことは出来る。手も膝も痛いけど治癒で治しながら行くしかない。

 時間もかかるだろう。けど確実だ。

 これを判っててこんな事させたイルミスはボコボコにしなきゃ気がすまない。元々は彼のせいだ。私はこれほどまでにわけがわからないのは初めてだ。怒ってるから帰る意欲がある。泣いて悲しんだのだから謝りたい気持ちもある。私自身どうして良いのかわからなかった。

  

「覚えてなさいよ」


 鼻声の声は暗闇によく響いた、私の今の正直な気持ちでの言葉であるが、私はこの不思議な気持ちは一生忘れる事はないのだろう。

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