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進化の系譜  作者: 数貴
一章 はじめて神様に願う時
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その常識嫌だ

 街を作るためにはまずは川の水質調査か水脈を掘り起こす事から始まって飲み水として可能かどうか、雨でどれほど増水するか、水脈としての貯蔵力はどれほどかである。

 それが十分とすれば人と食料を送り整地するための土地の高さや広さなどの測量と地質調査を行うはずなのだがこの土地は先が見えないぐらいの地平まで全て平地であった。まるで最初から誰かが手を加えて整地をしていたように不気味に綺麗すぎた。

 まっさらな白い紙と色鉛筆を得た子供のように貴族達は勝手気ままに地図の基盤となる測量を全くすることなく急ピッチでそれぞれの思惑を描いて作っていき何とか完成して見栄えは街の見栄えは良いものの出展場所の使用権で争う露店も多かった。そして現在、地図を作成が困難な状況となっているのである。

 しかし現在イルミスが抱えている問題はまた別のことであった。


「んー」


 いくつかのテーブルに積み重なっている紙、椅子の背もたれに体を任せるように羽ペンを置いてイルミスは思考している。


(元々これはあったものか?でも問題は入り口がどこにもないって事か、となると誰も気がついていない?)


 口には出さずに頭の中で今描いていたはずの紙をじっくりと見直す。


(けどあまりにでかすぎるから誰かが気がついても良いはずなのだが…)


 納得がいかない様子で頭を抱え悩んでいる。その悩んでいる頭を払拭するかのごとくシャインがノックもせずに自分の後ろの扉を勢いそのままに開いてきた。


「元気にしてるー?すぐ仕事終わらせて遊びにいこー!」


 日の位置はまだ高く一般的に私も含めて仕事に精を出している人が大多数である。


「いや今日は飲まない、これから少し出掛けるつもりだ」

「どこに行く気なの着いてくよ」

「保存食、水、後は気休めにナイフとロープを購入しようかとね」

「保存食ってどこかへ行っちゃうの?」


 彼女の目からは不安のような寂しげな表情が瞬間見て取れた。


「んーちょっと問題があってな…地図を作成していたんだが見えない箇所が出てきたんだよ」

「見えないって、いや聞けば見えるでしょうそれ」


 それとはイルミスが発動したギフトによって精製された街を見通す紅色の宝石の魔法道具のことだ、今は机の上に動かないように固定されて置いてある。


「うん確かに見えてはいるんだけどその見えてる映像は真っ暗なんだよ」

「つまり?」

「つまりは日の光が入らないほど密閉している地下に遺跡らしき空洞があるから街の陥没の可能性も踏まえて調査に行くんだ」

「ダンジョン?!」


 驚きの表情と入り混じって喜色な表情がシャインから見えている。


「その通りだな」

「でもそんなの聞いた事がないよ?」


 そうなんだよなぁなどと頭を抱えて私は悩んでいたことを口にへと出した。


「これの一番の問題はこの街の人は誰も知らないって事なんだよ…正直貴族が何か隠してるとも考えてたけど調べても街自体が完成する前から誰も入ってない」

「井戸とか地下室とか掘り当てる事もあるでしょう?」

「この街は大多数が川から水を引っ張っているから井戸自体は水の貯蔵としか役目はなくそれほど深くはない。知られてる地下もお酒の貯蔵庫ぐらいしかなくまったく深くない深さまでしか掘っていない」

「あとはこの街ではないという事からあんまりギフトが機能しなくてな、崩落や陥没が無いかどうかの確認の報告だけにして中身は冒険者達が調べてくれるだろう」

「お宝とかあったらいいね私も一緒に行きたいな~」

「いやこの都市の所有物になるから勝手に中身取ったら罪になるよ」


 後ついてくるのは無理だと言ってから会話を戻した。ケチっと小さく聞こえた気がしたが気にはしない様にしよう。


「様子見程度に行くつもりだから一応ペンターさんか執事でも良いから言っといてくれない?一応視察官でしょう」

「じゃあイルミーとの買い物が終わってからね」


 買い物に着いてくる気満々らしい。今からじゃあ出るかと述べた後に服を着替えるから先に下の階で待っていろと促した。しかしシャインからは予想外の言葉が出てくる。


「えっ?見てちゃ駄目なの?」

「その常識嫌だ」


 実際傍に居ても気にはしないがそう言われたら凄く気になってくるのが不思議だな。




 露店商が多い街ではあるが立ち寄る冒険家も多く、冒険家専用の商店も多く立ち並んでいる。メインストリートよりも人通りは少ない位置に建てられてはいるが道を歩いている最中商店を窓越しに覗いても商売繁盛と言っても良いぐらいの人の出入りではあった。

 一先ずは特殊な物を揃えるわけではないので目に付いた商店へと足を運びその扉を開けた。


「いらっしゃいませー」


 店頭に入るとすぐさまに声を掛けられる。こちらへと元気が取り得のような若い青年が商品の案内を促した。


「今日はどういったものをご所望ですか」

「ロープと使い捨てれそうなナイフをいくつか欲しいんだけど、あと在ればSサイズ魔法ビンを5つ」

「ロープの長さとナイフの種類はどうなさいます?」

「ロープはとにかく長い奴で持ち運びが可能な物で頼む。ナイフは出来れば手のひら程度でまとめれそうな奴を10本ほど見繕ってくれ」

「少々お待ちくださいね、暇なら商品でも見ててください」


 その場でぐるりと周りを見回してみるが魔法道具以外は通常の雑貨屋でも売ってあるような品物ばかりであった。視線を次へ次へと移していくと後ろからついてきていたはずのシャインが目の前にひょいっと軽快に出てきた。


「ねえねえダンジョンに行くって割りに物が少ない気がするんだけど?」

「いや攻略するわけではないからな?調査なただの調査」

「んーでもやっぱり憧れるじゃない?未開ダンジョンの宝箱!」


 遺跡などは多くは先人達の足跡により道筋、罠、魔物などすべてわかっている状態の比較的安全度の高い遺跡多いが、未踏の遺跡などには冒険者が溢れかえるぐらいの一攫千金を夢見るもの達が多い。それだけに期待と言う言葉が他よりも大きい意味合いで使われる。


「宝箱なんて基本ないぞ?どちらかと言えば野ざらしにして放置してあるお宝のほうが多い」

「えぇ!宝箱開けたらどっカーン!見たいなのは?」

「それはあるなが宝箱自体が同じダンジョンに以前来た人が何も知らない初心者を騙すための箱だと思った方が良い」

「知りたくなかったそんな現実!」

「でもまあ宝箱は少ないけど宝物はあるからロマンは在るさ」

「今までどんなのがあったの?」

「まずは魔剣かなあ」

「わぁ!お宝っぽいそういうの待ってました!」


 嬉々として体を乗り出してくる。どこに?教えません


「他にも同様の魔法宝具、歴史書、原祖魔法構築式、後は金銀財宝?とかかな」


 密着している体を離すように手で肩を押し出しながら話を続けた。


「原祖魔法構築式?」

「ものすごく簡単に言っちゃえば新しい魔法の宝物だ」

「ふーん…魔法ってややこしいよね私精霊魔法しか使ったことないよ楽だしね」

「その辺りは才能や人種に関わってくるからな」

「はい先生」


 どうぞと手を挙げた生徒風のシャインに次の言葉を促した。


「私に才能ありますか?」

「才能はあっても経験がないな」

「私は経験豊富な美人さんです」

「そうだな」

「淡白過ぎるよ…」


 にっこりとした可愛さをアピールした顔をこちらに向けたと思ったら腕がうな垂れたように崩れ下がった。そして出るタイミングを計っていたのか青年が商品を抱えてこちらへと戻ってきた。


「お待たせいたしました短剣十本はレッグバッグに取り出しし易いのをお付けいたしました」

「それでどれくらい?」

「そうですねナイフ全部で銀貨二枚、魔法瓶は一つ当たり青銅貨一枚、魔法ロープが付加属性の伸縮と硬化の二つがついていますので長さ強度ともエーテルを込めるだけで調整ができます。ただ値段は銀貨二十枚ほどいただきまして合計は銀貨二十二枚と青銅貨は五枚です」


 備え付けてあるテーブルの上に置いたロープを触れて軽くエーテルを流した。するといとも簡単に長さがテーブルより下へと落ちながら伸びていること確認してから答えた。


「良い品だなこれで構わない」


 イルミスは巾着袋か銀貨二十三枚を出し渡してから釣銭は要らないと意思表示をした。どうせペンターさんのお金だ。


「どうもー」


 青年の気分は上々にさわやかな笑顔を見せてから頂いた銀貨を自分の持っている巾着へと入れていく。


「軽装って言った割には高くない?」


 どうにも気になっていたのか背中腰にまとめてある魔法のロープに興味津々と先をちまちま引っ張っている。


「このロープが結構良い商品だからな、普通にこれが出てきたときは驚いたよこの街には良い特性付加師がいるかもな」

「特性付加師ってロープに魔法かけるだけでしょう?何でそんなに高くなってるの?そんなのいくつでも作れそうじゃない」

「いやその職業は誰もなりたくはない職業なんだよ」

「凄く高く売れるじゃん」

「あぁ特性付加師はそれ以外の魔法が使えなくなる」


 一体どう言うことなのか一瞬判らなかったように疑問符を頭に浮かべてからしばらく硬直をしていた、そして今理解したように驚いていた。


「えっ?…いやでも使えなくなるって意味がわからないんだけど?小さい火でも何でも使えない物なの?」

「そうだ当たり前の一般生活で使いそうな物が使えない、そして才能が有り無しも含めて人生観を賭けるほどの賭けに近い。その代わり才能があるものが成功した時の見返りはかなり大きい特性付加しか出来ないといっても自分自身に永続して特性付加に付ける事ができるからな。反射とか付けられたら魔法頼りのやつらは一掃されるかもな。才能がないものは生活するのも厳しいがな」


 世の中そんなに甘くないのだと納得したように言葉をシャインは止めた。生徒風の彼女への説明も一区切りついたのでそのまま店の出口をへと向かった。


「ありがとうございましたー」


 青年の声が後ろ髪を引くような綺麗な声が響いた。通行路へと足が戻り確認のように声を出した。


「あとはいくつかの食料と水は宿に頼めば出してくれるし終わりかな」

「お疲れーじゃあ私はペンター侯爵のところに伝えてくるわね帰ってきたらいつもの酒場に集合ね」

「疲れは残したくないんだが」


 ひらひらと手を振って来た道とは別方向へとシャインは歩いて行った。彼女の後姿が見えなくなるまでそちらを見てからこの地点から見える脇道と住宅の小窓チラッと目線を通した。


(ペンターさんの子飼いが遺跡の事はどうせ伝えてそうだけどな)


 この街に着てから二週間ほどだが監視の目が此方へ常に向いていたのは気がついてはいた。シャインが連れ添っている時には別の意図の視線が多かったが、人をイラつかせるような視線が一切離れない、またその数が多い。

 予想としては密偵なのだが同時に殺意も混ざっている、ギフトで調べても良いが間接的にシャインから情報も得ているはずなので判っていてやっているのであまり意味がない可能性もある。此方のギフトの使用がわかったら逆に強硬手段も取ってくる可能性があるし、何もしてこないただ見ているだけの物という物は思いのほかやり難いと渋い顔になる。


(この街から無事に出れそうにない気がしないでもなくはない)


 今後起こるであろう不明瞭な不運であろう事に対して憂鬱になりながら宿へととぼとぼ帰っていった。


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