この街で一番美味しいお酒はどこ?
この街の中心と言われていて他の建物より幾分か高い時計塔までシャインと共にやってきた。彼女は朝食にさらにぶどう酒を飲んではいたがほのかに顔に朱色がさしているぐらいで足取りもはっきりしていた。
「こんなところまで来てなにするのイルミー?」
その指先で誰を誘惑しようとしているのか。
「別にいやらしい事するわけじゃない」
酔っ払いの誘惑ほどたちが悪い物はない…
そしていつの間にか妙なあだ名で呼ばれていた。
時計塔の中に入るよう先日頼んでいたので入り口に立っていた兵士に一礼をされ中にどうぞと促された。
中から見る時計塔は大きい歯車が幾多にも噛み合いながら周り続けて上を見ても長い空洞になっていて上へと登るための階段は壁際に大きく螺旋状に上へ上へと続いていた。
この部屋の中央に立ってから隅に座ってるのシャインのほうを向いた。
「それじゃあ始めるけど…まあ派手なのは期待しないでくれ」
「他の人のギフト聞くのなんてあんまりないし楽しみ~」
一呼吸を入れた後に私はナイフを取り出して指からわずかに血が出るように傷をつけて一滴地面に垂らしてから真言を唱え始めた。
『私は貴方であり貴方は私ではない
全ての知恵を結晶に、全ての記憶は私に 包ませる
私は貴方のすべてを思おう、だからこそ貴方に生を教える
私は貴方の傍にいる、決して貴方を貶めない
ゆえに語ろう貴方の生涯を、大地の魂を守護するために』
目の前の空虚な空間に紅色をした氷の結晶または木の枝別れのような形、樹枝状結晶が精製されていく。
「アテナ・ポリウーコス」
私の手の上には顔より大きな結晶が浮きながらが淡く紅色光を放ちそれに取り巻くように六角形をした同色の結晶が渦巻いていた。
「うぁあなにそれ欲しい」
女性らしい素直な感想に私はクスッと笑った。これだけを見れば確かに凄くきれいな宝石と見えるからだろう。
「悪いけど渡せないよ。これは宝石じゃないからな」
「へぇじゃあ何?」
「これはこの街の知恵の魂だ」
「草木とかにも魂はあるって言われてるけど、街に魂ってどういうことなの?」
興味があったのか思ったより真剣にこちらを見ていた。
「まあ魂の代わりいや肉体の代わりかな?…まあ使ってみれば分かるけど」
「使うって?なにどうやるの?面白そう」
「うんじゃあこれに触れながらこの街で知りたいことを言葉に出してみて」
シャインは温かみのあるクリスタルに迷いなく触れて言葉を発した。
「この街で一番美味しいお酒はどこ?」
ぶれないな彼女は…
『五日前にこちらの街に到着した商人でカーフ商館に逗留しています。公爵家への献上品としての品物で名は月仙と呼ばれる桃からできたお酒です』
彼女はクリスタルに触れてからはしばらくぼーっとしていた。何かを言いたげな顔をしていたり、悩んでいるような表情を見せたりと妙な顔つきをしていた。
「分かるけど解らないんだけど?」
何らかの答えが出ないのかシャインはこちらに向いた。
「そう深く考えなくても良いよ、どうせ俺にもわからないから…単純に触れていた者に対してこの街に関して聞いたら答えるそういうものだと思えば良い」
「でもこれって喋ってるって言うよりテレパス?見たいなものなのね言葉の記憶と視覚の記憶が同時に頭に流れ込んでくる感じ」
彼女が感じていたのはまとめて言葉と視覚の記憶が与えられた事に嫌悪感ではないが妙な違和感を感じていたからだった。
「大まかに言ったらそうだね。まあこれで予想はつくと思うけどこれにこの街の地図を教えてって聞いてたら答えを見せてくれる。そうやって書き写したら仕事は終わりだね」
「なるほどーそうなると書き写すのが一番面倒そうだねこの街広いし」
「うんそれは仕方がないね、他の人を使うわけにもいかないしひたすら聞きながら描き続けるしかない。幸い食事もお酒も美味しい街だし長く逗留しても苦痛じゃないのがマシだよ」
いろんな事に納得したようにうんうんと頷いていたが、はっと気がついたようにシャインはしゃべり出した。
「さっき商人がどこにいるかのも見れたけどもしかしてこれってこの街なら誰だっていつでも見えるの?」
「知りたいことを指定しなければわからないから見たい人がいるならその人の名前とか特徴がわからないと厳しいかな」
どこか疑いのまなざしをこちらへ向けて少し悩んだようにこう答えた。
「…つまりイルミーはいつでも私を覗ける訳ね」
「…そういう事にもなるな」
妙な沈黙が二人の間に流れた。
※※※
この街に来てから常に続く喧騒も慣れはじめた。
ここの商人達は常に二人以上で露店などを出してなど余計な知識までもが最近では判るようにもなり、交代で半日づつ商売をしているのが多いと感じる。
よく見るのは朝は野菜や果物などの商品を売っているが夕方になればお酒や肉または特産品などを多く売っている店だ、魔法書などのお店は表立ってはあまり多くはないが裏通りの見た目どおり街灯が少なく設置してある道にお店を置いている。
何より平和な街に見えているのに反して剣や槍などの武器、またそれに合わせて防具などが大量に売っている事がわかる。
この街の特徴の種族でも仲が良いと言うのが大きなきっかけで違う種族でもチームを組み易いのが一番の理由である。
とんがり耳が特徴的なエルフ族はエーテル貯蔵量が他種族と比べて多く操作できる。
魔族もが角が生えていて尻尾があり大きく元々に闇の精霊魔法が誰にでも内臓して扱えて肉体も原祖魔法での防御や保護や強化などの肉体操作を得意とする。
ドワーフ族は武器の扱い、器用さに長けたりフェアリー族は全ての精霊魔法を使役できたりと種族によって役割を分けてチームを組んだ方が効率的には最良であるからである。
ただし人間と言う種族は全てにおいてバランスが良い、悪く言えば何も出来ない全体で見れば器用貧乏な種族である。
もちろん体の器官も肉体が強い魔族やドワーフ族の方が圧倒的に強いはずだ、しかし目の前にいる彼女は次々の対面する相手と酒を飲み比べしていた。
彼女の後ろにはギャラリーが溢れているが、目の前には挑んだ破れて積み重なっている多種族がいた。
「あぃえおいしいお酒♪」
さすがに幾人も相手をしたせいなのかろれつが回らず片手にコップを持って入るが体全体は円卓にうなだれていて周囲もこれ以上は無理だろうなどと遠目で見ていた。
宿屋の自室でひたすらに夕方まで地図を製図していたのだが隣に居座っていたシャインが早く飲みたいと催促を促していて気が付いていたら外の円卓テーブルで食事をしていた。
弱みと言うわけでもないがギフトの件で引け目も感じていたのでなし崩しに今晩の食事代を奢る事になっていた。
「奢るのは良いんだが飲みすぎじゃないのか?」
目も焦点が余り合わず同様に飲んでいた方達もそれじゃまたななどと言って早々に積み重なっている奴らを抱えてどこかへと帰っていった。
取り残されたように円卓を囲んでいるのは二人だけになる。
「んっふっふっーうち大丈夫…だから聞いて聞いて!」
不敵な笑いを浮かべた後に体をこちらへともたれかかる。酒臭い……
「私この町だーい好きなんだ!みんな私に優しいし褒めてくれるしお金だってそれなり持ってるし踊りも好きでやってるからみんなが喜んでくれるって…あぁ良いことやったな!みたいに感じる事もいっぱいあるよ」
うんうんと適当な相槌をうちながら自分もちびちびとぶどう酒を口へと運んでいた。
「でもね?でもね?大好きなんだけど違うとこにも行って見たいんだ!そう私は旅がしたいの!…私はねこの街から出た事がないのまだあたしはちっちゃい世界しか知らない私の全部はここにしかないとか考えちゃうの…私このままで良いのかなって?旅をして知らない食べ物食べたり新しい踊りも覚えていろんな人達に出会って、しゃべって、別れて、もっともっと知りたいの!」
少しづつ喋っている暗く落ち込んでいるように聞こえ始めた。
「うん知りたいの世界を…でも出来ないって分かってるだって踊り以外は何も知らないんだもの…でもねイルミーは二つ名持ちでしかも世界を知ってるでしょう?」
彼女は酔ってはいるが何らかの決意を持ってこの話をしているのが見て取れた。ある程度どの様なことでもまじめに返答しようと考えてはいる。
「あぁ全部は知らないけど自分の足で歩いた所は記憶に残ってるな。二つ名持ちの事も知っているのならそれ相応の実力を持っているって思ってもらっても構わない」
彼女はそれで十分だと頷いていた。
「聞きたい事は二つ私は旅には出たいけど無様にのたれ死にたくはないから…私が旅に出たらどうなる?それと良かったらイルミーと旅がしたい私に出来る事なら何でもするよ」
なるほどね…この街での有名人である彼女がなぜよくも知らない旅人の視察に着たのかがようやく納得が言った。
自分の無力さを分かっていてしかも違う街へと行きたいと思っても彼女自身が金なる木であるためこの街は彼女を手放さないだろう、そこに二つ名持ちの旅人が現れたのなら興味が引かれて志願でもしたのだろう。
二つ名と言うのは国ごとが定めた宮廷魔術師または国王守護騎士であり、事実上二つ名を定めた国の最大戦力の一端と言っても過言ではなく同時に各国ごとに十人満たない数しかいない。
「そうだな…君がもしこのまま一人もしくは数人護衛を付けて旅に出た場合は恐らく一週間経たずに後悔することになる盗賊に襲われて奴隷売買で高値で売られるまたは護衛に裏切られる可能性が高いどちらも女性に生まれたことを後悔する結果になるだろう。そして二つ目一緒に旅がしたいと言うが少なくとも私は国の任務を受けて今ここにいる。そして任務には安全な物はないその傍にシャインがいたら私の弱みだと思ってすぐ様に襲われるだろう…すまないな」
返答を聞いたシャインは俯いてこちらを見ないように顔を下げた。
彼女は自分自身の価値を知っているのかは不明だが…
人に知られるという事はそれだけ枷になる。
彼女を連れて外にはでる事は難しいとしか現状は言えない。
「うんごめんね無理言っちゃって…でもありがと正直に言ってくれてあーあ弱いなあ私は」
湿っぽく聞こえる声からは悲しみよりも結果が分かっていたような雰囲気も取れた。
しばらくの空虚の時間がすぎていきシャインは顔をこちらに向き直した。
「うん仕方ないよね…じゃあイルミーの知ってる世界のこと教えてよ私は諦めないこれから強くなるんだから」
「そうだなまず私の国から話そうか…」
自嘲気味に笑ったシャインの表情から様々な思惑が浮かんだ。
もし何者の邪魔が入らないのならば後悔することなく外の世界を知る事が可能だったのだろうと哀れんだ気持ちが生まれてしまった。