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進化の系譜  作者: 数貴
一章 はじめて神様に願う時
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朝から飲むのは普通だけどな

「うー…頭痛い…」


 先日のお酒が残っているのか宿屋の二階から降りていく足取りが多少ふらつきながら頭を抑えている。

 朝食を取ろうとカウンターへと席へ移動する際に目線を移すとすでにいくらかの円卓テーブルには幾人席を囲みぶどう酒とそれに合わせたおつまみが並べられていた。自嘲気味に笑ってから一人カウンター席へ座った。

 料理をしている人がカウンター越しに見えたので1枚の青銅貨を横に置いてから声をかけた。


「朝食取りたいのですけど」


 声に気がついた男性の店員は近づいて貨幣を握ってから愛想よく話しかけてきた。


「おたくも飲むのかい?」

「いやいや普通の朝食でお願いします」

「朝から飲むのは普通だけどな」

「うん凄くわかった、できるだけあっさりした食べ物頼むよ」 


 ここでは一般的な常識は通用はしない。そう思う事にした。店員は奥へと戻り調理を再開し始めた。

 手持ちぶさたになった私は体をくるりと回して周囲を眺めていた。


(朝から皆さん楽しそうで…深夜働いてる人たちが今飲んでるのかな?)


 どうとないことを考えながら食事を待っていると入り口からこちらに気がついたと思ったら向かってくる女性の姿があり私の横に座ると話しかけてきた。


「ねぇねぇイルミスさんだよね?たぶん」


 薄い黄色のへそぐらいまであるようなケープの下からは露出が高そうな服装が見え隠れしていた、その露出を隠すような形でパレオのような布を腰に巻いていた。ただしどちらも装飾品としては細かい模様があり一見しても高いものだと分かった。

 このような知り合いはいないのだけども先ほどの疑問に答えることにした。


「確かに私のことですけど…えーっと誰かな?」

「あれ知らない?あれれ?ペンター侯爵の紹介なんだけど」

「聞いてはいないですけどペンターさんからの使い?ってことで良いのかな?」

「そうそう連絡する事があってペンター侯爵が来られないからあたしが伝言みたいな?」


 あまり物事を考えない人なのかもしれない。多少馴れ馴れしい活発そうな雰囲気を持つ言動だが顔とスタイルが良いだけあってどんな人にも印象がよさそうだ。


「分かりました。それでどのような伝言ですか?」

「うん伝言はペンター侯爵は急用のため今日以降時間の都合がつきにくくなるためイルミス・ロックの仕事が完了するまで私がペンター侯爵の代理として視察します。っと言うことです」

「なるほどだけど完成した地図は直接本人に渡したいけど?」

「うんそれは仕事が終わってからそれはサイリス公爵家の方に渡して欲しいだそうです。元々こっちからの依頼だしね譲渡に関しての委任状もあるわよ?信用できないなら誰かに聞いてもいいよ」


 手渡された手紙をにもサイリスに委託するようにと書かれていたので後は渡す際に公爵から証明魔法でもなんかでも貰えば良いだろうしな。


「まあ了解した」

「じゃあしばらく宜しくね。私はシャイン・フロウって言うのシャインって呼んでね」

「あぁ頼むよ」


 求められた握手に私はすぐさま答えた。周囲の視線が少し多くこちらへと向いていた気がした。それからお店の店員が食事をこちらへ持ってきていた。


「お待たせしました…あれ?フロウちゃん」


 ベーグルサンドに塩焼き魚とぶどう酒を私のテーブルに置きながら隣にいる女性を見てそう答えた。おいぶどう酒やめて今日は働くんだたぶん。


「あーやっぱり!昨日凄いよかったよ!」


 少し興奮しているように店員はシャインに近づいている。一方シャインは落ち着いたように手であしらっている。


「ありがとね!私のも朝食なんか頂戴」


 店員はすぐ持ってくるから待っててね!などと勢いそのままに厨房へと戻っていった。横目で見ていた私は多少この辺りで有名な人物のかなと考えていた。こちらへと顔を向きなおしたシャインは先ほど聞いた事をまた聞きなおしてきた。

 

「ねえやっぱり私の事知らないの?」


 知っていて常識みたいな顔をされた。


「んー美女なのは知ってる」

「違うよ!いや合ってるけど!違うの!おだてても何もでないよ。いやだから私のこと見た事もないの?」

「…そうだなぁ服装は見た事がある昨日周囲で踊っているこの服になんか似ているような」


 わずかに残念そうにうなだれてからこちらに視線を戻した。


「うーんショックだなあ自分から言うのもなんだけど昨日の火の閃光をギフトで操ってたのが私…ちゃんと演出見ててくれた?結構頑張ってたんだけどなあ」


 なるほど確かにこの都市では有名な人物だろうと納得が言った。ただ昨日来たばかりの旅人に知ってる?などと聞かれても知らない物は知らなかったのだ。


「なるほどあれは確かに凄かった…すまないな高台から踊っているようには見えていたけど顔までは見えなくてな。しかしやっと分かったよこちらに視線が多い理由が」

「気になるならごめんね。うーん凄かった…か。うーんまあいいか。それよりも聞いてるよ珍しいギフトなんだって期待してるよ」


 反応が薄いのに肩透かしを食らったのか少し拗ねている感じがした。目立つ事が好きな子なのかもしれない。


「期待されても困るんだけど…まあ見せる事もできるし別に良いか」

「うんうん。私も休暇貰ったし良い暇つぶしが見つかってよかったわ、それに旅とかよくしてる人なんでしょう?面白い話聞かせてね」 


 私はただの暇つぶし要因であった。シャインは微笑みながら私のコップに手を付け始め、それはお酒だと言う言葉を飲み込むぐらいに凄まじい飲みっぷりであった。


「ぶどう酒はお酒じゃなくて神のお水なのよ」



※※※


 簡素とした長椅子が並べられ中央には人より大きな十字架が奉られている。正面と側面の高い位置にはそれぞれステンドグラスがあり日の光が差し込んでいた。深くフードをかぶっている人物が膝をつき祈りをささげていた。


「貴様が神に祈るなど笑い話もならんわ」


 正面とは別の入り口から入りながら喋りかけてくる人物がいた。こちらも姿を隠している。


「ははっ!冗談きついじゃないの俺は神様って奴は信じてるぜ!教会にもちゃーんとお金を入れてることあんただって知ってんだろ?」

「お金を入れてるだと?馬鹿なことを言うな貴様はそれは賄賂を送ってるだけだ…この街に出した損害分もついでに返してもらおうか」

「分かってる分かってるってだからこうして来てるじゃないの」

「まあいい…依頼内容は密偵から聞いているか?」

 

 祈りを捧げていた奴は立ち上がり相手の耳元に顔を近づけた。


「大体は聞いてるけどいいのか?あんたが主導してるって話だったぞ?」

「かまわん…だからこそなのだ、それに他のやつらもこれに同意している。所有している人間は殺しても構わん必要があれば何人か別の奴らを使っても良い…だがそれ以外の特に街の人々は殺すなよ」

「金さえもらえれば良いさ…それで期日は聞いてねえけど?」

「地図が完成してこの街を出る前までに全て終わらせろ」

「了解っペンター様」


 たっぷりと嫌味を乗せた声が教会の片隅に響きペンターと呼ばれた男はもう一人の男を嫌そうに一瞥した。


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