まるで宿に泊まったら何かがあると?
この世界には魔法と言う物が存在する。例えば酸素を操ることが出来る物は酸素の量を減らす事により目の前の火を消す事が可能であり、また気体中の酸素分圧の酸素量を増やせばその場は猛毒の場となる。この様な物質を構成する具体的要素操る魔法を原祖魔法と言う。
また全ての物には魂を持った精霊が宿っていると言われている。例えば木で宿る精霊ドライアド、風ならばジンなどの多種多様な種類がいる、それらに願望と波長が合った時のみ精霊は生物に対し奇跡の作用を行う。木々を成長させたい水を生み出したい火を起こしたいなど精霊の種類によっても特長がある。そうして精霊の奇跡を操ることを精霊魔法と言う。
二つの大きな違いは原祖魔法はエーテルと言われる内の光またはエネルギーを消費することであるが精霊魔法は外から精霊にお願いをしてエネルギーを取り込む事ができる。つまりは原祖魔法は疲れるが精霊魔法は疲れないのである。
そしてもう一つ”ギフト”と言われる神々からの贈り物と呼ばれる全ての生命が必ず一つ持ちえている異能の力が存在する。真言によって恩恵を受けるがギフトによって得る奇跡は主に普遍的概念、つまりはイメージの顕現や抽象的な物事の発生、空が飛びたいなどの夢を実現できる。ただし誰でも空が飛べるわけでもなく唯一つの何かを神々から授かっている。一般的にはギフトまたは概念魔法などと呼ばれている。
このギフトは昔からあったものではなくこの街ストリアが出来たと同時の百年ほど前に突如と生まれた魔法である。
「ようこそお待ちしておりましたこの街の商業管理を任されておりますヒアテロ・ペンター・フォン=シュバーレと申します」
整えられた黒いあごひげで気さくさが印象的貴族でこの大きな家の主は一礼を行い握手を求めてきた。
「こちらこそイルミス・ロックです、以後お見知りおきを」
少年から中心地まで案内をされてここまで来たのだがこちらの屋敷は他とは比べ物にならないほどに大きく、また庭には個人としては大規模の大荘園が広がっていた。その間を通るように執事に花の説明を受けながら案内をされて今に至っている。
「こちらがエスアレンス宰相からの紹介状ですご確認ください」
彼は受け取り蝋で固めてあった封をナイフで切り取り中身を拝見した。一言うむと頷きながら言葉を発してからこちらに視線を変えてきた。
「それでは早速ですが依頼内容はご存知ですかな?」
「聞き及んでおります、この都市の全ての見取り図を作成ですね」
貴族の男性は少しづつ私に近づいてくるような前のめりの姿勢になっている。
「そうですこの都市の見取り図、この街全ての道を書いていただく…そう私は貴方がどうやってそれを描いていただくのか気になっているのです。」
「えぇ確かにこの街全てを製図するのは一苦労でしょうが…」
私が喋っている途中に話を割り込んできた。この街の商業の興味と熱意は似ているように感じた。
「そうです私達もこの街の地図を作ろうにも…いやぁ嬉しくもありますが人が多く、また露店商売がそのつど店の配置などを変えたりしていますからまず地面が見えてない状態になりまして、いや見えないといっても大まかな地図はこちらでも制作はしたのですけどそれの出来栄えがあの道がないこの家ないなどと不十分な物ができてしまいまして。そう考えていましたエスアレンス宰相に丁度良いのがいると聞きまして、それで一体どのような方法で?それが私達にもできるのならぜひご教授してもらいたい」
今の顔は貴族の顔ではなくとても顔が近い怪しげなひげを生やした商売人の顔をしている。私は一呼吸をいれてから返答をした。
「特殊な方法でやります、もうお分かりかと思いますがギフトを使います」
その答えに予想をしていたのかなるほどと言いながらしゃべりだした。
「ほうさすがは噂通りギフト自体が地図に関係しているものだったのですね、それで恐縮な事ながら能力と詩節について教えていただきたいのだが…」
「えぇ教えても構わないのですけれどただそれが他の人にも出来るかと言ったら正直微妙なところです」
それを聞いた貴族は屋敷に響くような声で大きく笑い、落ち着きを取り戻した後に又話し出した。
「いやぁすみませんな、確かに貴方と同様のギフトを使うなどのそういう下心がなかったわけでもありませんけども…今回重要な事は他にこの街の見取り図が漏れてしまう可能性があるのではないか心配をしていたのですよ。戦闘狂への国なんぞに流出してしまったその次の日にはストリア自体が無くなってしまいますからな!」
なるほどそう言う事かと私は頷き相手との距離を元に戻しながら言葉を出していった。
「だから一人で地図を描くことが可能な私を呼ばれたのですね…もしかして以前も地図を書いて失敗したと言っておりましたけど」
相手はわずかながら口を曲げて苦しげな表情を見せ手であごのヒゲを落ち着かない様子で触れていた。
「えぇ全貌を把握できないように複数人に…人もある程度信用が置けそうな人物に厳選をいたしまして更に区画を分割して地図を作成しそれを引っ付けた結果がただの大枚の無駄でありました。」
気を落としていたペンターさんはすぐに居直ってから私に続々と話しかけてきた。
それで期限はいつぐらいまでに?
こちらで用意する物は?
魔法も使用しますか?
などと強欲なほどに質疑応答を繰り返した。
それからしばらく経ってから、後ろで控えていた初老の執事がその主に対して耳打ちをしている。
こちらに視線を戻して申し訳なさそうに答えてきた。
「御呼びだてしたのはこちらでしたのに申し訳ないが、予定が入っておりましてここで失礼とさせていただきます…それと最後に宿はどうされますか?もちろん我が家に客人として逗留なさっても構わないのですけどこの街ならば宿屋に泊まることをお勧めいたします」
まるで宿屋のほうが高級であるかのような振る舞いに貴族としておかしいのではないかと思ってしまった。
「まるで宿に泊まったら何かがあると?」
「そうですね例えで言うのでしたら…素晴らしい料理を出すのが貴族で楽しい料理を出すのが宿屋もしくは酒場ですね」
「ふむ…あぁなるほど今はお祭りでしたかな?確かに祭りの時はみなで騒いで飲んでとした方が私としても好きですね」
ペンターさんは口をにやけて笑いだしそうな顔をしていた。
「そう祭りなんですよ!…えぇこの街にとってはこれが毎日の事なんですよ。」
「はぁ?……一体そんなお金がどこから…」
私は呆気にとられたような声を出した後賄賂でもやっているのだろうかと言う本音をでてしまった。ペンターさんは驚いた私に満足そうにしていた。
「ふふっ、それではこの街での滞在費は全てこちらが賄いますので楽しんでください」
私は執事から小さいながらずっしりと重みがある袋を受け取り、また後日に会いましょうと言われてからそのまま出口へと案内された。玄関先まで戻り振り返り執事を見てもにこやかな顔をしてこちらを見送りされた。
日も暮れて街路にはせわしく人が行き通い、各要所ごとに揚松明が人の手により火の明かりが灯されていっている。
「せっかくだし楽しむか…」
そうやって私は早い足取りで人のごった返した場所へと楽しみに進んで行った。
※※※
酒場選びまたは宿選びに重要なのはなんなのだろう?
やはりはじめにでてくるのがお酒が美味しいところと言われるがそれほど美味しいお酒を出すところならば世間は評判といった物は広がりやすく、またこういった飲食に関して言えば美味しければ美味しいほど楽しくは食べれない。
行列に並んでうまい飯を黙々と食べるだけもしくはお偉いさん方の貴族までとは言わないが偉そうにしている騎士が仰々しく偉そうにはっぱを利かせている事が多い。
なのでまずはお酒が美味しいお店は息苦しい可能性が在るので却下だ。
では次にお客が多いのならば広いお店はどうだろう?
広いなら良いと言う者も在るがそれは一人でゆっくり過ごすのならばと言う限定である。
ホールが広いければ広いほど客同士のいさかい接触も少なくまた広く取れる分他と一人出来ても迷惑がかからない。
また二人でゆっくり女性と飲むのであれば広い場所で落ち着いて飲めるのだが今の私は一人だ。
寂しい。
では狭い店は?
狭いから駄目だ。
その一言で終るが恐らく店に入っても常連さんしかいないのだろう。
その空気に耐えれる身内ならば可ではある。
疑問ばかりだが正解に近い答えを持っている奴に尋ねたほうが早いだろう。
入り口近くの出店のところまで戻り知っている少年も呼び止めて案内してもらう。
「うわっ!ビックリしたなぁいきなり肩掴まないでくださいよ」
「食事おごるからしばらく拠点に出来そうでいい感じに飲めるところを教えてくれるか?」
「あぁお店はたくさん在りますしね結構悩まれたんじゃないですか?」
やっぱり判ったのかと言った苦笑いを見せた。
隠したことでもなかったがやっぱり散々歩き回ったのが判るらしい。
「あぁ美味しくて評判の店に行ったら行列で、広い店に行ったらすっごい静かで一言喋るのにも抵抗があって、狭い店に行ったら一見さんお断りで途方にくれてた」
「ははっ旅人さんで悩まれる方も多いですからね僕の仕事も終ってますのですぐに案内したしますよ」
「悪いな。ちなみにどんな店がお勧めなんだ?」
「狭いようで広く見せてる店です」
「つまり?」
「格別広いお店ではないですがお店の外までテーブルと椅子を出しているお店でまた二階、三階とあればさらに良いです」
「利点は?」
「お店自体が稼ぎたいと思っているのでお金さえ持っていれば美味しいお店に負けないぐらいの食事を出しますし、広さが大きくなくても人数を多く扱っているので情報の他よりも量があります。量が在ったら精度も増します」
「なるほどねえ横に長ければ人が集まるってわけか」
「そうです後縦に長ければ固定客も取っていると思っていただければ構いませんので二階以上在るお店でしたら空いてさえいれば泊まれるはずです」
小さい体に商売道具であった木箱を慣れたように持ち上げて此方を促す様に歩きながら言葉を出した。
「では行きましょう」
この街の名産はこの少年ではないかとも錯覚をしている私がいた。