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進化の系譜  作者: 数貴
一章 はじめて神様に願う時
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出会いって素敵だから?

「よしっ」


 紙で乱雑していたはずの部屋には最初訪れた時と同じくベットと机がある殺風景となり、外と下の階からは喧騒が常に響くこの宿から全ての荷物をまとめて背負ってから確認するかのように部屋を見渡していた。

 窓から差し込む光は体を動き出すには丁度良い活力を与えてくれる。


「よしっ!じゃないでしょう?」


 いつの間にか横に立っていたのか、腰に手を当てて嘆息しながら口を挟む。

 想像上の天使に近い形をした自称魔神は物足りない、もしくは何かを忘れてはいないか?と訊ねている。


「一体何だアモル?」


 アモルと呼ばれた魔神はなぜか機嫌を損ねていた。


「何だとは何だ!」


 なんでだ?

 何かお前にしたか?


「すまないが何の事かさっぱりだぞ?」


 再度部屋を見渡しても見事なほどに何も無く忘れ物でもない。

 気分屋とは知ってはいるがたまに理解を超える行動を起こしてくるのがただ単純に怖かった。


「あるわ!やってない事があるの!」


 やっていない事はないこれまで全て予定通りに事は進んだはずだし、失敗した行動も無かったはずだった。


「んー…少年の事か?」


 どうなるかはアモルも知っているだろうが一応は訊ねた。


「違う」


 だよね。


「じゃあ依頼完了の金銭?それとも宰相に報告か何か?」


 投げ渡したお金を拾ってはいない。

 ペンターから貰い受けた腰に在ったはずの巾着袋は教会に放り投げたままにしてある。

 教会への迷惑料とも言えるがその後サイリス公爵が勝手に処理はしているだろうが結局のところ惜しくは無かったのでそのままにしてきた。

 後は宰相の密使がまだの事ぐらいかだけどそんなこと気にするようなやつではないが…


「それも違う」

「わからん…」


 アモルの事はこれと言って理由があって行動しているわけではなくロックの魂に固執しているだけでそれ以外は天真爛漫でものすごくまれに空気を読むぐらいの性格だ。

 付き合いたくは無いと断言はできる。


「仕方ないわからないなら教えてあげるよ」

「はい教えてもらいます」


 素直に従う私。

 逆らっても時間がかかるだけだ。ただはいと頷いて飽きるのを待とう。


「それはずばりお別れの挨拶ですね」

「はぁ」


 私に向かって指を指しているのか何かしらのポーズなのか三本指を指し開き、可愛げを出すためにウインクもしていた。

 そこまできめ顔をされても困る。

 どうして良いかわからない感じになった。


「その気の抜けたような返事…魂抜き取るわよ?」

「嫌だからちょっと聞いて」


 冗談でも代価の価値が高すぎる。

 あまり調子に乗せても駄目かもしれない。

 何か嫌なことやってしまいそうな勢いだった。


「えーっ…」

「いやえーっとかじゃなくてね、別れをするってのは納得するところがある。それは大事だよね」

「うんうん」


 頷いてほとんど喋らなければ絶世の美女だ、喋っても顔は綺麗だ、目をつぶってしまうと駄目な子だ。

 何でこんな奴が身近にいるのかと考えるだけで憂鬱になる。

 けど魂渡さない限り憑いて来る…なんだかなあ。


「出会いって素敵なものだからなまた会える時に記憶が残るように言葉を交わす良いことだな」

「そうだよ」


 挨拶は重要だな確かに。

 交流を深めるために商人なんかは特に重要視している所も多い。

 しかし…


「けどね…誰にするんだそれ?」


 お別れするぐらいの仲の奴はとくにはいない。

 貴族の方々に挨拶を行っても良いがいまは良い顔もされないだろう。


「…いないの?」


 いない訳でもないかもしれないがにっこり笑ってまた今度と言うさわやかに去る事も不可能である、この街には二度と来ないだろうから。


「いやいると思うのか?と言うかずっと俺に取り憑いてたはずだから知ってるだろ?」

「…寂しい子ね」


 哀れんだ目でこちらを見ている。

 心配しているのか、ただからかっているのか私の知っているアモルではない。

 何か企んではいないか疑ってもしまう。


「今さらだな」

「でもさよならの挨拶をしたいと思って呼んだけど?」

「はい?」


 もしかして最初の会話からここまでは予定通りに彼女は進めて、呼んでいることを隠していただけだったのかもしれない。

 うん。迷惑だ。


「下の階に待たせてあるよ?」

「何故呼んだのか理解できるように頼む」

「出会いって素敵だから?」


 何故だろうこちらが間違っているように言われても困る。

 首を傾けて演技で困惑しているような表情を見せている。


「さっき言ったよそれ…と言うか首を傾げるな」

「私がさっき舐めて起こした」

「誰を起こしたか知らないが予定ってものがあるんだから起こしてやるなよ迷惑な……んん?舐めて?」


 聞き間違いかとも思ったが起こし方が私達の通常とはいささか差異があるようだ。

 と言うか違う。


「そうよ一番体性感覚で頭頂葉の意識しやすいようなところを繊細に舌で刺激して甘美な趣向で朝を迎えさせながら甘い吐息と共にささやいて起こしたの」


 変態以外の何者でもない。

 寝起きにやられたらやったやつを一先ずは殴るな私なら。


「……悪魔か貴様。と言うかお前は光子体?とかだろ、少なからず相手側が意識してないと触れないんじゃない?」


 霊体、光子体、光神体などは四次元以上の存在とみなされていて、その場に在る存在であり、肉体以外で動的な動きを行う際に必要不可欠な魂のようなエネルギーの存在。

 しかし在っても認識できない知る事ができない、つまりは大地にいる生命体にとっては触れる事ができない神のような存在であるのが一般論ではある。

 そこにあると知った時のみ偶然の産物として見えない存在として認識する事ができる。


 どちらにせよサキュバス?淫夢か?天使の見た目とそぐわな過ぎるぞ。


「一部物質顕現のために大量光力を消費したけど、どうにかね」


 現状では魔法に使われているエーテル体は半物質とも言われ、肉体とエネルギーを繋ぐ境目のような物でありエネルギーを物質に、物質をエネルギーにどちらにも扱う事ができ、それをどちら力として変換できることから全てに干渉する魔法のような力。”魔力”として広く扱われている。

 神と同質で光子体もしくは光神体である魔神が物質顕現させた、この世界に干渉したのならばそれは実際不可能に近いことである。

 そして神は物質体を持ってはおらずエネルギー又は光のみで存在を象徴している。少なくとも何かしらの肉体かエーテル体の物質体などの器が必要となる。神が現世に顕現し宿る物質的な器が”神器”だと言われている。

 

 つまりどうやって舐めたか?と言うと舌を神器と化した…私の理解の範疇を超えていた。

 しかしこんな馬鹿げた事を平然とやるから”自称”魔神とも言いたくもなり疑いたくもなる。


「…なんて無駄な行動を」


 新しい神器として現世と神世を自由に行き来できる神の舌が生まれた。その効果は知らないが目覚ましアイテムにしては度が過ぎていた。

 無駄だとも言いたくもなる、


「ほらほら待たせちゃ悪いからさっさと下に降りた降りた」


 仕方ないように適当な相槌を打ちながら荷物を背負い特に惜しむべくも無く部屋を後にする。


「実際この場で止めたのはお前のはずだけどな」

「いきなりは会ったりするのは驚くでしょう?前振りや準備も大事よ」


 きまぐれの前兆がわかるのなら欲しいよ。


「そうだな…いきなり言われて驚いたよ」


 そこまでわかっていてなぜ振りを大事にしてくれないのか…


「でしょう?」


 会話が噛み合っているようで合ってはいないがまあ良いさ。

 結局のところ一番驚いたのは舐められた奴なのだろうから。



 一階へと階段を下りて矢先、顔を紅色をしたフェルミナが今まで見た速度よりも二段階、三段階も上の速度で真っ直ぐに突っ込んで腹のえぐる勢いで拳を振り切りってきた。

 フェルミナを必死に止めようとしたアルロンが一瞬視界に入ったが言葉を交わす余裕も無く拳を綺麗に受け流す事もできずに木造の壁を割った…ではなく粉みじんとなった。


 私の傍にいるアモルに何かされたのだろうと言う可能性しかない、この街ではじめて背筋にひやりとした感覚があった。


 散った壁の修理代は誰持ちなのか?

 埃が舞い散るその近くに口をぽかんと開けた店主も状況が飲み込めず固まっている。

 私ではありません無実です。

 信じてくれるだろうか…。


「紅くなってる可愛いね」


 鬼となっているフェルミナを見たアモルは楽しそうだった。

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