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進化の系譜  作者: 数貴
一章 はじめて神様に願う時
18/37

邪魔だったからな

 剣に沿って滴り落ちる赤い血が抜き去ると同時に地面に溢れかえった。

 支えられていた体もドサリと何かが事切れたように倒れこみ巻きつけられていた鎖も蜃気楼のように消えていった。


「これで良かったんだろ?」


 仮面を被り直したセインがイルミスに問う。


「あぁ…無駄な手間が省けたから助かるよ」


 もしセインがシャインを亡き者とするのに失敗していたのならイルミスが手を加えていたのであるような言葉を返す。

 

「報われないねえシャイン嬢ちゃんは…信じて助けられると思ってただけに更にな」


 剣を突き刺した本人もふに落ちない気持ちがあるのか何かしら言葉に突っかかりがでてしまっている。

 彼女のために十字を手で交差させ数年間であったが成長を見守っていた彼にとっては弟子のような存在であり研究材料であった。もしかすると何かしらの感情が生まれていたのかもしれない。


「かもな」


 笑顔で感情を殺すセインとは違ってイルミスの表情はただの無感情に見えた。

 何者にも恐怖せず、全てを諦めている顔、ただの作業としてこちらに来ているだけの印象があった。

 攻撃性は全くないが次の瞬間首を刈取られてもおかしくはないそんな冷たい空間をセインは感じていた。


「…サイリスから急に依頼の変更を聞いたんだが元々は教育するだけの話だったんだ。殺すつもりはさっぱりなかった恨んでもないし別にこの街を出させないだけなら俺のギフトを使えばどうにでもなるからな」

(彼女の研究はもう済んでる…だからいらないといえばいらないが……)


 彼女を殺す考えを持つ人物は限定されている。

 偶然ならば依頼はしない。必然ならば彼女に関連する何か…。

 彼女はこの街と研究所のみしか動いた事がない。しかも街の人間はこの街から出さない努力、護る努力はしても殺すことはしない。


「なのにだ?なんで全く関係のないお前が殺そうと考えたんだ?ちょっと興味が尽きないな」

(もし研究所での何かしらの恨みや策略の可能性があるのならば…)


 剣に付いた血を拭い彼に一歩だけ近づく。

 威圧感も何もないがこれほど人と接しているのに目の前に人がいる事が矛盾しているかのごとく彼が薄い存在のように感じた。


「いやいやいや別に言わなくてもいいぞ。お金さえ貰えれば俺はそれでいいし、神域の案内もしてもらった恩もあるしな」

(我々の害になるだろう)


 剣を鞘には戻さず抜き身のまますぐに動かせるように手になじませて力を抜き神経を集中させた。


「そうか」


 もしもの時の仕込みはしてある。


「ただな一つだけ俺もイルミスに用があったんだよ。ちょっとだけ聞いてもらえるか」

「…」


 多くは語らない彼に警戒だけは募り仮面の奥はすでに笑顔ではなかった。


「俺が受けた依頼はもうひとつあるんだよ一個目は知っての通りシャインの教育。まあ変更されたからこうなったわけだけど…それがなぁもう一個の方は別に変更もなにも聞いていないんだけどどう思う?」

「さあな」


 何を聞いても彼はぶれない。

 ただ黙々と問いに答えているだけで、まるで人形と話している気持ちにさせられた。

 

「聞いてないのかぁ。サイリス公爵から出された依頼だったんだけどねえやっぱり知らない?変更されたとかも?」

(これの答えが真実でなくても嘘であっても…)

「あぁ」

「了解、了解。じゃあこっちを片付けるから先に帰って良いよ」

「わかった」


 何の警戒もなく振り返りそのまま扉へと歩く動作を見せる。

 俺の勘違いか?それとも罠か?こうも簡単に隙を見せられたのならどんな素人でも異質に思う。なんせたった今人を殺したと言うのに…。


「あぁそうそうちょっと待ってよ俺としていたことが忘れてたよ。そう依頼料今払ってくれるかなその腰巾着の半分でいいからさ」


 彼は振り返りこちらを虫のように眺める。ひでえ目をしている。

 整えられているはずの顔なのだが子供が見たら泣き出しそうな顔をしていた。

 大量に硬貨が入っているだろう腰巾着を半分ではなく全部丸ごとこちらへと放り投げてきた。


「それとおまけに首置いてイってよ」

(神様俺に幸運を)


 そのまま袋を受け取らず地面に落ちて金属同士があたるような音がした。


「『ちょこまか動くな!』」


 突然と教会内に鎖が多い尽くしイルミスに向けて四方八方から鎖が彼を縛ろうと襲い掛かる。


「っふ―――」


 イルミスはただ一振りけさ切りする。その鎖の隙間を縫って距離もあるというのに分散した紅の光が一糸乱れず間にある教会の椅子を焼き切り。

 その大きい濃密な大きい炎、小さい炎が相まって数十にもなる紅が緩やかな鳥の飛ぶ軌道のように全て俺に向かってきた。

 溜まらず私は回避できずに幾多も光がぶつかった。


「効かねえよ!!」


 ダメージを受けた形跡はボロボロになった腕輪と彼を覆っていた服が犠牲になっていただけだと、予定通りだったと歓喜の表情を見せながらまとわり付いた火も服に付いた埃を払うように簡単に消し去った。


「しっかし超こええなあ折角金貨払ってまで作った防御装式が一瞬で消し飛んじまったよ」


 このために魔法付加士に大金をはたいて製作させていた装備だが多少の威力が緩和させれば御の字ではあったが完全に一撃は防いだのに余裕の笑みがこぼれた。

 実際片手ぐらいの損傷は仕方がないとたかをくくっていた位で意気込んでいたのだが嬉しい誤算であった。


「割と平気そうだな」

「あぁお金がなけりゃ消しカスのように塵になってたかもな惜しまなくてよかったぜ」


 俺は正直に答えた。

 サイリスが言ってた事が良くわかるぜ。

 金を生み出すのは能力プラス人材だとな。


「じゃあもう一発くらいな」


 さすがにもう一撃は無理だ。

 けど一回防げればこちらも一回ぐらいのチャンスがあったんだよ。


「ハッッ!無駄無駄もう何もできやしねえよ!」


 イルミスの片足に鎖が一つ巻き付いていた。

 それを斬りつけようとした右手が更に鎖で拘束されその場から逃げようとした動きを見せた瞬間残りの手足に鎖を骨に食い込むように突き刺した。


「あぁこれがお前のギフトか…」


 食い込んだところから血が鎖に滴りじっくりと落ちていく。


「そうそう今ルールが適応された…定めたものは単純明快の攻撃不可!そしてイルミスさんの詰みだよ」

「それでお前も攻撃できないだろう?」


 捕らえてはいるが予想外の返答に俺を悩ませる。

 さすがは二つ名持ちってところか?隠してある能力がまだまだありそうだ。


「…イルミスさん俺の能力知ってる奴、しかも対価の方を知ってる奴はほとんど生きてはいないんだがなぁ…そこまで詳しい事がわかるギフトだったか」

「そうかもな」


 うかつには近寄りたくはない。だが確実にこの場でどうにかしないといけないとなると…。

 いや大丈夫か。


「だとしても貴方を殺すのは造作もない」

「ならさっさとしたほうが良いのではないのか?」

「聞きたいことを聞いてからな。『私はプロメテウスのメンバーの中核の一人だ神の為に生きる信徒のでありそれに害なす者は全て敵だ』分かったか?」


 私自身の事そして誰が敵なのかを正直に私は述べる。

 そして私の先払いの対価を支払った事となる。


「なるほどね対価としてか…便利だな」


 何故俺のギフトを知っているかはまだ後回しだ。

 こんな面倒な奴敵でないのなら殺したくはないし関わりたくもない。


「そして聞こう『貴様は何者で我らの敵なのか?』」

「『私は幾多の者でありそして敵ではない』」


 初めて聴いた言葉に疑問符を浮かべる。

 そして敵はではない…か。だが幾多…?名前を多く持っているもの?


「面白い回答だが…一体どう言うことだ?」

「さあな」


 俺は待っていたものを見つけ出し。そのままこちらへと来るだろうと確信した。


「…分からないのなら仕方ないか」

「もう終わりか」


 あぁもう終わりだ。だって俺が手を出さなくても殺せる準備が整ったのだから。


「あぁ少しばかりの時間稼ぎがな」


 イルミスの更に後ろからソウという少年が走ってくるのが見えた。

 顔は泣きじゃくって、鼻水をたらし、足はずっと走り続けていたのか多くの擦り傷と歩くたびににじんだ血の足跡が残っていた。

 そんなことを気にせずにソウ君は亡骸となったシャインに近寄っていく。

 血が広がっている彼女の体をゆっくりと触れて嗚咽おえつの声をはく。


「…ぁぁ」


 彼女の死を直面した少年に対して遠慮もなしにセインは言葉を挟みこむ。

 少年は死んだ瞬間を見て予知をしていたのならば少なからずこちらに来る可能性が十分にあった。

 それを見つけた瞬間神様に感謝したいよ。


「なあ少年よ来た早々で悪いが『イルミスがシャインを殺した』つまりこういうこった」


 少年に言うはずの言葉をイルミスにも聞こえるように大きな声で諭すように紡いだ。


「なるほどな…まぁ間接的にはそうかもな」


 ただし聞いているのか聞いていないのか分からず少年は彼女を必死に呼びかけながら抱きしめ泣き続ける。

 彼の手は体は血に染まる。


「うっ…あぁあ……何で……一体なんでこんな…姉さん……姉さん………血止まって…動いてよ……ぐすっ……あぁぁどうして………」


 絶望しているとはこう言うことなんだろうな。

 俺には身内がなくなったとしてもこんな表情は一生できやしない。


「ほら少年憎い敵はあそこに鎖で巻き付けてある剣も貸してやるから一思いに恨みを晴らせ。大事な姉さんを殺した奴に報いを与えるんだ」


 セインは姉妹の横に立って血を拭ってある剣を少年にしっかり握らせるように手から手へと力強く渡す。


「はぁはぁ……うぅ」


 呼吸をするのも難しくなっている少年はだれの目も合わせず握った剣も力がはいっていなかった。


「『ほら立ち上がってイルミスに顔向け』」


 無理やり言霊で少年を動かす。

 だらんとした手足も今にも落としそうな剣を持ちながら恨んだ目でイルミスを眺めた。

 彼を確実に殺すのは今しかない。


「ほらしっかりしろ姉さんのためにも彼を殺すんだ」

「何で…」


 何を感じて姉さんの亡骸を見たのだろう。

 何を思って彼を見ているのだろう。

 考えるだけで研究し甲斐があるな。

 この後少年をそのまま隔離しても良いかもしれないな。


「何で貴方が姉さんを…」

「俺ではなくそいつだがな殺したのは」


 無駄だ。法には逆らえない、逆らうのには神の代価が必要だ。


「嘘をつくな!僕は知ってるんだ…この未来を知っていたんだ!!貴方が姉さんを殺したのを予知していたんだ!」


 俺が定めた法だがな。

 ついつい口が歪んでしまいそうだ。


「そうだ少年『私達は彼を殺したい』」


 そうこれが最後の決めてだ。


「…僕は彼を殺したい」

「じゃあ彼の傍へ行きな」


 俺とイルミスは攻撃が出来ない。彼には神の祈りを代価に鎖で縛ってある。

 そして剣を持って動けるのはこの場では少年ただ一人。


「…うん」


 ゆっくり歩く少年からは教会の中央の道に往復した血の足跡が残り今にも倒れそうな体を明らかに無理をして剣を引きずりながら前に進み復讐をするためにイルミスの前に立つ。


「なんで姉さんを殺した…」


 ほら最後の一言だ。

 それに元々は貴様の依頼だからなあながち間違っちゃいない。


「邪魔だったからな」


 繕った言葉でない素晴らしい響きなことで。


「―――」


 少年は力強く歯を噛み締めて姉さんを殺した剣で彼の首を刈取るように切りつけた。

 姉さんの思いによって成った復讐はすぐに実行に移された。


 彼の首は飛ばなかった。

 肉も骨も血も体の全ては先ほどと変わらない。


 金属同士が当たる何かの音がした。

 振るった剣は何かに阻まれ勢いよく弾かれるような硬い音がなり勢い任せに振るった反動で体が地面へとひれ伏せていた。


 元々剣の扱いに長けてたわけでもない少年ははじかれた剣の重さに耐え切れなかったのと少年の体力と気力が尽きていたせいかそのまま泣き倒れたのだろう。


 同時に疑問と驚きがセインに浮かぶ。


「馬鹿な?!」


 彼を護っていたのは鎖。

 その鎖は私のギフトで生まれた消して切れない鎖。

 私が神に願うことで生まれた忠誠の鎖。

 決して彼を護るために鎖ではない。

 もちろん少年も鎖に誤って剣を向けたわけでもない。


「悩んでるところ悪いがお前も選べよルールを解いて戦うか、そのまま眺めて終わるか」

「何を…」


『私は貴方の全てを奪おう

 貴方の魂は私の物、貴方に還す物などない

 私の血を神にくべよう、そして貴方は抜け殻となる

 神に愛されていたのは私、神に愛されなくなった貴方

 私は魂の災厄、貴方の生涯をここに冒涜する』


 いつしか本で見た、逸話で聞いた、酒の肴となった聞きたくは無かったその真言。


「簒奪者……あぁ糞が!!」


「プシューケー・ロック」


 ステンドグラスを体で叩き割り、世界の災厄から逃げるように脱兎のごとく教会から離れる。

 すぐ様に人ごみに紛れいつも通りの祭りとして賑わっている街並みを誰かにぶつかって嫌味を言われても気にせずにただあの場から離れるために全速力で喜色の街を走り抜ける。


(あぁ何だってんだ一体。魂の簒奪者だと!!)


 魂の簒奪者。

 全てを奪うもの。

 記憶、知識、肉体、魔力、そしてギフト。

 生命を全てを冒涜し尽くすある種の一つの頂点としての能力者。


 ギフトが生まれてからこの百年余りで名を売った人物が幾人もいるがその中の一人が簒奪者である。


 八十年前ギフトが生まれて間もない頃に多くの研究者達が研究を重ねていた時代にとある街で魔法やギフトが一切使えないと一時期話題になった街があった。

 もちろん研究者はこぞって原因を調べるため遣いを出したり、危険を承知で自らの身でそこへおもむいて行った。

 もしかすればギフトが何故生まれたか分かるかもしれない。神の恩恵の根源を知る事が可能かもしれない。そんな淡い期待を胸にいざ到着しても至って普通の街で一万人程度の貧しくも裕福でもない普通の街であった。

 それに加え村人は皆魔法もギフトも使えていた。

 何故か不思議とそんな噂が飛び交ったのかは知らないが根も葉もない嘘だとわかった彼らはすぐ様帰路に着く。

 だが道中もしくは国へと帰り着いてからなど誰かに言われてから気がつくのはそれぞれだが、その街を訪れた者。幾人かが元々魔法とギフトが使えない記憶にすり替わっていたらしい。

 簒奪者は村人を奪うのではなく更に言うなら力ある者を狙い奪い続けていたのであった。

 それが話題になったギフトと魔法が使えなくなる街は廃れそして多少離れた漁村は人が増え商人も増えて徐々に盛り上がりを見せていた。

 そしてその噂が飛び交ってから翌年には簒奪者は王となっていたらしい。

 誰も疑わずに、誰に戦うこともなく、ただ奪い続けた結果に王の椅子に座った。

 その真実が、すべてが明かされたのはその王が病に伏せて死に際に白日のもとなった。彼自身が語った物語で元々はただの猟師であったという。

 その時まではその国の国民も、屈強な騎士も、知恵のある研究者も、誰もが王が簒奪者だと気がつけなかった。

 だが気がつかなかった結果は簒奪者が王になってから周囲五国を統一している英雄となった。

 その後王がいなくなったら滅ぶかとも思われたが奪い取ったのは物には神器を三つ自分が死んだ時のために子供達に持たせてあることを知り亡くなった後にも国が大きくなっていった。


 簒奪者は神すらも奪えると話題に良く上がる人物となり。


 まだ時が間もないだけ在って誰もが知っている逸話である。

 

「こんなとこで会うことになるとは…」


 苦々しい表情を見せて思考を始める。

 元々奪われてたってことか?俺の鎖が?何なんだよ…。

 あぁ…駄目だ普通に逃げるだけじゃ。

 けど逃げるしかない。捕まれば奪われる。

 奴の能力は奪った者全てを自分の者としている…。

 細心の注意を払い逃げて、足を止めず逃げて、そして見苦しく逃げ続ける。

 奴には都市の守護者のギフトもある。最低でもこの街を出なければ確実に居場所がばれる。

 ひとけがない曲がり角に入りなるべく暗い道を通ろうとする。

 いくら肉体強化したところでそう長時間持つわけでもないし、また教会から姿を消えるほどの全力で魔力を放出したせいか街を出る前にエーテルが足りなくなりそうなことにも苛立ちを覚えていた。


 けど何で奴なんかがあんなギフトを…。


「いや待てよ?」


 思い出せ…。矛盾している点がある。

 何で俺は奴のギフトを真言を知っていた?本で調べたからだ。

 何故俺は本で調べようとした?神域の扉に書いてあったはずだ。

 どこが間違っている…彼が触れても扉は開いていなかった。

 そうだ開いていなかった。


「だけどそれなら地図は…」


 走る足を止めて荒い息を整えるため、脳に酸素を送るため自身の考えに確信を持たせるために更に深く思考を進める。


 奴の今まではずっと誤魔化してきた訳ではないはずだ。地図を制作する時も、タナトスを使ったときも、イフリートの恩恵の剣で切りつけられたときも。確かにあったものだ。

 ならば扉文字が間違っていたのか?いやフェルミナはあの文字が読めていたはずだ。間違いに気がついたのなら口に出していたはず。

 簒奪者ではない?ならば何だ?ただ隠していただけか?しかし神域での封印術を誤魔化し程度でまかり通るものでもない。

 間違った解釈をしているだけか?簒奪者であってあの空間にはいなかった?

 間違い…誤魔化し…そして幾多の者とは…変身者であり狡知の神ロキ。


「幻か…?」


「間違った事象に認識させるギフトか…」


 これが正解に近い答えのはずだ。

 どこまで走ったのかは知らない。すでに相手の幻惑の手の内なのかもしれない。

 冷静になりゆっくり後ろへ振り返る。


「どう何だその辺は?」


 それに次に生まれた簒奪者のギフトの所有者は十五年前に死んだと同胞から聞いた。

 そんな簡単に化け物が生まれるわけがない。

 逃げられないのなら生きる可能性が高いほうを選ぶしかないか。

 呼びかけたに答えたのはいつも通りの人の良さそうな顔つきをしたお酒を一緒に飲み交わして友人になれそうな雰囲気をまとっている。


「さあね」


 今でもその憎たらしい笑顔でもあった。


※※※


 間違ってはいないが正解でもない。

 彼は絶望するだろう何故幻もつかえると考えなかったのだろうか。

 知識があるものは希望が在るほうへ、幻を見せていなくても自分自身で錯覚させているのかもな。

 別に私は彼を殺すつもりは無かったが…僅かな真実の情報を漏らすわけにはいかない。

 一手間増えるな…。


「間違ってはいないな」


 多少の距離があっても彼の動きからは焦りが見えて今にでもこの場を去りたいようも見える。

 彼はこの場で死ぬだろう。


「じゃあやるか」

「その余裕顔無くしてやりてえな」


 彼にやれる事は唯一つ。

 幻と信じるなら自分でそのルールを変えるしかない。

 そして私は絶望を与えるのが確実なのか…。


 同時に私とセインは更に距離をとり二人同時に全く同じ真言を唱えた。


『『貴方を不変な掟で戒めよう

  私の愛は鎖である、ゆえに貴方は幸福である

  全を束縛する生の道を、運命のない滅びの道を

  この世界はゆがんでいるから、私の世界は私だけの物だから

  神のみ私を咎めれられる、なぜなら私は鎖なのだから』』


 鎖で広くはない路地裏に視界を遮るほどに敷き詰められる。

 希望と絶望が入り混じった曖昧あいまいで、そして恨めしそうな顔でこちらをにらむ。


「でめえが俺の神様に言葉を交わすな!」


 最後の最後に彼が口を挟んだ。


「「テミス・ジシバリ」」


 長く幅が狭い路地をおおっていた鎖がどちらかの意思によって動き出す。

 鎖はセイン・グロスに向かって全て襲い掛かった。

 体全体に巻きつけられた鎖は身動きを封じられて目線と口を僅かに動かせるぐらいであった。


「あぁ神よ…」


 彼が自分のギフトに裏切られて絶望し夜であった空を見上げても星空は見えなかった。

 何の抵抗もせずにただぼんやりと上を眺めそして私が彼に歩きなれた石道をカツカツと小気味良い音を鳴らしながら近づき頭を掴んだ。


「運が悪かったな」


 セインがいたはずの空間は元々何もなかったように存在を奪われ消え去った。

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