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進化の系譜  作者: 数貴
一章 はじめて神様に願う時
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もうちょっとだけ待ってろな

 今の僕にとっての黄金よりも貴重な価値を持つ時間がまどろんだ意識の中で刻々(こくこく)と過ぎ去っていた。

 今日と言う日は巻き戻らず、こぼした水は全部を拾い集めることが叶わずに土に吸収され、残る水も泥にまみれて飲むことはできない。

 いや実際には地べたを這いずるならば飲むことは可能だがそれは全く別のモノへと変化して当初得たかったものとは全くの別モノになってしまうのだろう。


「大丈夫?」


 清潔感のない灰色の硬いベットで目を覚ます。

 二、三度目を瞬きをして実際に体が覚醒したこと実感をする。

 いつのも灰色のベットが更に暗く見えていた。

 心配そうに僕より年下の子供が僕の体を心配をしている。同じ孤児院で育っている子供だ。

 見開いても光はなく、ベットから動かずに窓の外を覗いても松明の赤い灯火ともしびの明るさが一番大きく輝いている。

 露店のお店に食べ物屋が増え、仕事をやり終えた人々がお酒を陽気に飲み明かし、そして空には満天の星空があり空を見上げても誰もまぶしさ目をつむることがなく意識があった頃に世界を照らしていた太陽は沈んで薄い月明かりが僕らを見下ろしていた。


 気絶してからどれくらい経過したのかは知らない。

 けれど今は…。

 今はもう夜だった。

 

「あああぁぁぁ……」


 慟哭どうこくが僕の世界に響いた。



※※※


 広い教会の中に寂しく男女が二人。

 剣を携えている男性、拘束されている女性。

 そしてどちらも膝をついているのが見受けられた。

 ステンドガラスから月明かりが差し込んではいるが十分な光量ではなくそれを補うためにいくつかの壁に備え付けられてあるロウソクが灯してある。

 見ようによっては罪人を裁くために用意された一つの状況とも見て取れるが実際のところはどうなのか知るすべは教会の中にいる存在のみ知ることができるであろう。


「教会なんかに連れてきて懺悔でもさせる気?」


 細長い手足に巻きつけてある鎖で身動きが取れずに無機質な石で出来た十字架の神の御前おんまえに放り出されているシャインだった。


 元々はお祈りをするための場所であったが大司教、法王以外の各種族の長などが管理するようになってからは一つの教育の場として、騎士の忠誠を誓うため、政治を執り行うためなどの管理する場所、儀式をする場として提供されるようになっていた。

 宗教自身は未だに残ってはいるが高位の司教、司祭や奴隷など貧困層の一部を除けば祝詞を唱えることすらも叶わずにギフトによって神がいることを断言させられているこの世界では神に祈ることがほとんど無い。

 もしかしたら神がいない世界とならば希望を得るために神に願うことが多くなっていたのかもしれない。

 当たり前のように神が身近に感じる生命体は不自然な何かがあふれていることには誰も気がつかない。


 そして、なにより死を遠く感じる生命となってしまった。

 力を持つものが増え、恐怖心が少なくなり、どんな病でも治すことができて、大地の恵みを増やすこともできる。


 全ては神に管理されていた世界が、すべての存在は神の力を持っていた。

 神は信仰によって生きているのにも関わらず誰も祈る存在がいなくなりつつある世界。

 神が子達に愛を与えた結果が全ての進化を止める事となり、希望がもろく崩れそうな世界となった。


 この世界でお祈りをするのは一部を除いたらすでに狂信者の目を向けられる恐れすらあるがある。しかし偽名のセイン・グロスは神に祈るのを一日も欠かさずやめたことはなかった。

 今からこの場で行うことの懺悔ではなく、ありがとうの感謝の言葉で生を噛み締めての祈りでる。


「俺がお祈りしてる最中は今度から邪魔するなよ?」


 長い祈りが終わったのか目を開いて固い石の地面についていた両膝をゆっくりと伸ばしながらセインは立ち上がる。

 邪魔をされたことに表情を変えてはいないが明らかな拒絶の意志を持って冷たい声色こわいろに伝えられた。

 彼の突き刺さるような言葉に呼吸が重苦しくなり緊張したように体が震え始めた。


「さてと…神様は寛容だからな懺悔の言葉、告発を神の代理として受けるが何か言いたいことはあるか?」

「私は何もしてないしこういうこともされる覚えがない…一体なにがしたいの?」


 なんのためにここに連れてこられていたのかすら未だ理解が出来ていなかった。ソウくんいわく私を殺すために、セイン曰く私を教育するために。

 殺すのなら何故早く殺さないのだろう?すでに拉致をされて長い時間が経っていたその間やったことはここに連れてこられ、食事を出されて、彼が祈るのを眺めていただけだった。やっと彼が喋ったと思ったら神の代理などといっている始末であった。


「シャイン・フロウお前はこの街の物と言う契約を結んでいるんだ」


 奴隷として買われたのならまだしも自らの身で稼いでいるシャインにとっては首をかしげるような言葉に対し怪訝そうに顔しかめた。


「…物だなんてそんな事契約したことない」


 契約という言い分も引っかかるがそう言った魔法証明または通常に雇用や孤児院への入所許可の契約書ですら書いた覚えはない。


「まあどうせ子供の頃に結んだ契約だろうから覚えてはいないだろうがな、簡単な口約束だろうが屋根を与える代わりにどうのこうの言われたんじゃねえの?この街に来た時は無一文だったろ?」


 そう言われると「この街のために頼むよ」などと言われて相槌を打つかのように「任せて」と返事をした事ぐらいならあるだろうがたったそれだけのことで契約という言葉を仰々(ぎょうぎょう)しく使う彼に違和感を感じた。

 しかしながら少なくとも未だ王がいないこの街を中心とした周辺地域では、一応は属国として成っており法として人間としての権利があり、何を成すかを自らで選ぶ権利が定められている。


「…だとしてもやっぱり街の物なんかじゃない私は私だ」


 当然の返答で、当たり前の疑問であった。

 私は今まで捨てられたことはあるが売られてはいない、そして誰かに買われた覚えもない。

 私から見上げる彼の姿は楽しそうに狂気に満ちて今この瞬間を幸福に感じているような汚い笑顔で直視させないようにはばかっていた。

 なぜ彼はこんなにも平凡でない非日常で生きてそれが好きなのだろう?考えても仕方がないことだが何かが引っかかるように気になっていた。


「自分自身の権利というものが確かにあるがな。それよりはお偉いさん方にとっては利益を吸い続けることが重要でな」


 お偉いさん方となると一人だけではなく複数?

 確かに貴族達は偉いとは知ってはいるがなんで偉いのかは私は知らない。彼らは税をかけ民衆を導き、戦時では指揮を取る。別に貴族がしなくても別の誰かでも十分できるのに誰もが偉そうにしていても仕方がないと諦めたように遠くから眺めるのが私たち平民の感覚だが…。


「そんなのそっちの勝手じゃない!」


 噛み付くような視線をセインに向けて精一杯今の拘束されている体勢から熱くなった意識を挟む。


「勝手だが悪いか?上のものが下を管理する別に何も悪くないだろう。そうやって研究隔離するところもあるぐらいだし」


 偉そうにするのは良い。だからと言って勝手気ままに私たちとの関係は実質対等でなのではないのか。

 そしてもう一つとある事が気になった。


「あなた…今更昔のことを思い出すのもアレだけど考えてみればおかしなものね、あんなに近くに研究所があったのにこの街のみんなは知らない…いえ見て見ぬふりをしていたわ。それになんでそんな言葉が出てきたの?」


 誰しもが意識を遠ざけていたこと。自分には関係がないことには無視をする。生きるために必要な処世術でもあるのは確かなので私はそれを悪いとは思わない。

 ただしあの虚無の空間でしかなかった施設の中身を知る人はそう多くはないはずだった。

 研究隔離。私とソウ君ならばそう言った事が連想されてもいいかもしれないが今この場で発言するにはいささか違うような気がした。

 特殊なギフト、隔離施設を知っている、そして何より私たちと同様にこの街にいるということ。

 私が知りたかった答えを彼は語り始めた。


「懐かしいなあ……あぁ実は俺も小高い山に隠れてある施設にいてな。あそこは管理自体はとある男爵家がしていたんだが訳あってその後サイリスが運営していたんだよ」

「あなたもあそこに……」


 私には守るべき人がいたから狂わずに済んだのかな?

 私もひょっとしたらこんな変な子になってたのかな?


「ん?何か勘違いしているようだけど施設いたからと言っても俺は捕まっていたわけじゃないぞ?」

「確かに誰もいなかったわね」


 あそこはまだ他の子がいないか再度探して見たが私たちのように牢屋に入れられている子達は他には誰もいなかったはずだ。


「いやいやもう一人いたろ?」

「もう一人…?」


 先程とは打って変わって忘れてもらっては困るような飄々(ひょうひょう)した表情を見せて随分と話しやすく柔和な態度になっていた。


「これに見覚えがあるだろ」

「あっ…」


 これといって彼の手に取り出されたのはひとつの仮面。何年間も鉄柵越しに言語、一般常識、世界の歴史など不思議な仮面のから教えてもらった、仮面からの言葉が私の全てだった時の青いような白いような斑色まだらいろをした笑顔に切れ目がいれてある仮面であった。

 手に持った仮面で顔を隠し昔を思い出させるかのように付け入る隙がない無機質な言葉で語りかけてくる。


「こうやって仮面を付けて会話するのは久しぶりか」

「あなたがあの時の」


 過去の彼を私は憎んではいない、どちらかと言えば感謝をしていたのかもしれない。

 ただし恨んでるといえば今この現状を恨んではいる。

 長いあいだずっと閉じ込められてはいたが彼に教えられた教育は役に立ったしギフトの扱い方、魔法に関しても多種多様な事を教えてもらっていた。暴力を触れられたこともなく、ただ私たちを教育するために淡々としている印象でしかなかった。

 不満点と言ったら食事があまり美味しくなかったぐらいな思い出しかない。

 仮面野郎は教育者としては優秀であることを街に来て他人に触れては認識はしてはいる。私とソウ君は他の人たちよりも知恵がある者であったことは事実だ。


「名付け親を忘れるのは少し寂しいなぁ」

「何で今更こんな所に…」


 結局のところなぜこんな事をされてるのかは貴族のせいでしかない事しかわかってはないない。

 ソウ君いっていた、彼はなんで私を殺そうとするのだろうか?依頼があったから?何かが違っているきがする。


「こっちはこっちで色々あってな」

「なんで貴方は貴族の言いなりになんかなっているの?」


 私が知っている彼は優秀な仮面のはず。


「大人の事情ってやつかな。それに特にすることがなくてなただの暇つぶしだ」


 結局は何もわからなかった。仮面の奥からはどんな表情をしているかを全く見ることができなかった。


「話もまとまりそうにねえし、それに時間もない簡単な二択にするぞ」


 彼は上げて両手を人差し指を順番に上げながら話した。


「一つ目はこの街から死ぬまで管理されながらに踊り続ける。もう一つはこの場で死ぬか選ばせてやるよ」


 彼から出てきた言葉は残酷で私を縛り付けるものでしかない悪意でしかない選択肢を提案をしている。

 仮面をつけていてもいなくても彼の百面相のように変化していく声、表情、雰囲気、感覚からは鳥肌が立つような寒気がするほどの恐怖しか感じることしかなかった。


「頭おかしいんじゃないの?ただの横暴よ!」


 精一杯の虚勢を探らせないように必死となって彼の言葉に反発する。

 それを見抜いてはいるだろうが私だってこのまま買い殺されるつもりなんて全くなく、今彼から殺されるのもまっぴらゴメンである。


「そうだ横暴だな」


 なぜこんな横暴が通るのかいくら貴族だからといっても不思議でしかない。

 実際問題私がこの街から消えたら有名だと私自覚し、この街の住んでる方達はほとんど私のことを知っていることを理解もしている。

 いくら何でも貴族がやる手法ではな異様に感じる。


「私はただ外の世界を見たいだけなのに…」


 鉄柵の世界から大きい街の世界を知った感動をもう一度自分の足で味わいたいだけなのだ。


「別に街の外に出ても構わないが…それは上の許可を得て管理されながらだがな」

「守られて…じゃないわねもう。見られ続けて歩くのはもう疲れただけ、ただ私は自由に縛られるものがなく旅を憧れてるの」


 今みたいに鎖がついたたま歩くのはただの奴隷と同じだ。それでは新しいことを知ることの感動を得ることはないだろう。

 しかしそれを理解をできないほど馬鹿な人ではないはずなのに…。


「夢見がちな女性なことで」


 彼の言葉は私を受け入れない。私の言葉は彼に届かない。


「辛い思いをしても悲しい想いもしても私は私として生きたいの」


 私の願いを打ち砕くように彼の口から重く選べない選択肢が私の前に突きつけられている。


「……なるほどねありがたいご高説はもういいや、選べ。鎖につながれて悠々自適な生活を送るかか自由を得て俺の手で死ぬか」


 彼と私は何かが決定的に違った。その何かが全く理解できずにただ淡々と言い合った数だけの時間が過ぎ去りステンドグラスから入る月光もゆっくり動いていた。

 何も喋らずに朝になりそうなほど静かな空間が、何もない時間が流れた。


 このままずっと待つことは彼は許さないだろう。いずれかは何かを選び取らなければならない先延ばしすることもそう長くは出来ない。

 けど彼の言っていることはどちらにしても死ぬ選択肢でしかない。私が選びたい選択肢は生きる選択肢だ。


「どっちもいや…」


 私は生きたい。


「もう一度」


 聞こえてはいたのだろうがその発した言葉を確かめるように再度私に促した。


「どっちもいやだよバーカ」


 二度目の台詞は彼に届いたのだろうか?私はこんな状況で生きることを選んだことに私自身を誇りそして口元が笑った。

 カチャリと彼が剣を抜く構えをとりはじめていた。

 私は彼を見ていたが彼は私を見てはいなかった。


 彼が鞘から抜いて剣を持つと同時に遠くはない場所からゆっくりと扉が開く音が静寂した教会へと響いた。

 その姿は腰までかかる透き通った銀にも近い蒼い髪をなびかせて、顔つきは穏やかであり厳しくもある壮健でもあり澄んだ白っぽい肌をしていた。

 まるで土埃にまみれた旅人のようにねずみ色と黄色を合わせたのに近いマントを覆っているが紅色のクリスタルで出来ている美しくゆらりゆらりと輝いている剣を携えているのは一介の騎士であるようにも見えた。

 仮面の男性も踊り子の女性も場違いに入ってきた彼のことを誰だか知っていた。


「なんだよロック今いいところだったのに」


 抜いた剣をもてあそびながらこちらをイルミス・ロックを眺めていた。

 この介入者にシャインは驚きそして救われた表情をしながら懇願した言葉を漏らした。


「助けて!!」


 なぜこの場に彼がいるのその事を私は知らなかった。けど構わなかった、私にとっては助かる一筋の光が見いだせたのだから。


「早すぎたか…」


 何が早すぎたのかも私は知らない。

 ゆっくりと彼がこちらへと歩いてくる、今まであった時よりも暗いせいなのか変に威圧感があるような気もした。


「もうちょっとだけ待ってろな」


 セインは何かを待ってもらいたいみたいだったが待つ必要なんてない。お願いだから早くこちらに来て助けて欲しい。


「あぁ」


 イルミスはそれに同意するかのように頷いていた。


 一体何に同意しているのだろう?彼は私を助けに来てくれた救世主じゃないのだろうか?

私の考えが何かおかしいのだろうか?疑問に感じ口を動かす。


「えっ?…どういう―――」


 彼女の言葉はそれ以上は続くことはなかった。


「これで依頼終了だ」


 ソウという少年が見た夢から変化した未来は彼女の何故こうなっているのか判らない今の現状を理解できていない戸惑うような顔をだけなのかもしれない。


 彼女の背中には柄の箇所が背中に接触するぐらいまで深く剣が動かなくなった芸術品のように突き刺さっている。


 イルミスはただそれを当たり前のように眺めていた。

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