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進化の系譜  作者: 数貴
一章 はじめて神様に願う時
12/37

よーし君らは勉強のお時間です

「順調だったな」


 フェルミナと決闘してからの既に一週間が経過しているが今日も遺跡を探索している。いまだに神聖文字が書かれている扉は開いてはいないがそれ以外の場所をしらみつぶしに歩き続けてようやく全ての分岐路が壁に行き着いた。

 隠し扉等がなければ残りは扉のみ。球体に近いアメーバ状の地図が完成し残る記載事項はは中央の空白のみである。

 約束の期日は後五日。実際は地形調査が終了に壁に大穴をあけない限りは陥没の危険性はなく、私の心象的にはもう帰ってもいいんじゃないかな?と言う気持ちでもある。

 そして今は壁のような扉の前で私達四人は立ち尽くしている。


「えぇ残るはここだけですね」

 

 知っている。アルロンは読めない神聖文字をじーっとにらめっこしている。


「しかしやっぱり壁にしか見えませんな」


 知ってる。口を手で隠すように思考を続けているセイン。


「それでどうやって開けるの・・ですか?」


 知らない。決闘後帰路に着いたフェルミナはサイリス公爵からの教育的指導があったようで慣れない言葉遣いを詰まりながらも使い始めていた。


「現状別の道の線は薄くなったわけだけど、後は壊す、封印解除どちらかだな」

「どちらに?」

「でも恒久の勝利者、久遠の不死者、進化の守護者、法律の創造者、魂の簒奪者、奇跡の人間まずこれに該当する奴がいるか?この街の人間でも良いこれがいるなら話は別だけど」


 その問いにはセインが答えた。


「さすがにこれに該当するのはいないですよ。知ってますよこの六つの概念については」

「だよなあ」

「とは言ってもこの間帰ってから図書館で調べたんですけどね」

「前知って無くても今知ってれば十分さ」

「代行者のことですね…この扉の奥に何かあるって言う楽しみが沸きますよ」


 代行者とは神の祭壇を使わずに神の言葉が伝えられていると言われている。書いている本もそれ自体には確信がないが、五十年程前に存命していた奇跡の人間が神様と友人になって聞いた話しによると神の代理人であり、人々が神にお願いするのではなく。神が人にお願いする特殊な人物を代行者と呼ばれている。

 その人物は普通では考えられないようなギフトを所持している。


 恒久の勝利者の場合は常に勝利することしかない。

 久遠の不死者は言わば不老不死である。

 法律の創造者は無意識に世界のルールを改変させる事が可能である。

 魂の簒奪者は魂を奪った結果能力すらも奪うことである。

 奇跡の人間はすべての常識を覆す力を持っている神を殺す事もできる。

 そして進化の守護者はいまだ生まれた事がない。ゆえにどの様な能力かは不明であった。


 ただし強力な力を持ってはいても神の代行者である限りは神の定めたものを守らなければならない。つまり神が欲しい物があるなら生まれてしまうので悪い意味では神の奴隷と言われている。


「よし壊そう」

「了解…でどうやって?」

「陣形魔法を組もう。式と言霊は全部私がやるから私を中心に三角形の陣形を組んでくれ」


 陣形魔法とは複数人による魔法の効率化を図り、精霊魔法と原祖魔法を二つを重ねて同時に使用することを目的とした物である。

 配置でエーテルの道筋を作り、言霊で精霊を柱に定着させ、構築させた中心が放出をする。一般的に大規模魔法と言われ戦争での掃討として広範囲の使用を目的とした行動や、魔法としてのエーテルを圧縮させ密度を上げる事により城壁の厚い壁や魔法シールドが張ってある壁を壊すための貫通力を大幅に上昇させる。

 そして何より別種の属性を融合させる事が可能である。火と水など相対する魔法も合成が可能である。合成させた結果は火と水の二つの属性だけでなく合成させると一人では生まれることのない属性の反属性と言うものも追加される。


「集団で魔法を組んだことないんですけど?魔法も得意ではないですし」


 セインが嫌そうな顔をしている。


「仕方ないさこれの封印式を壊すのが十の十五乗のほど情報量をぶつける必要がある」

「何ですかその異常な数値は」

「別に単純に威力上げて物理的に壁を壊しても良いがそれだと魔神生まれさせるぐらいのエネルギーが必要だからな?情報で封印破壊だけなら四人でもいける…と思う」

「何言ってるかさっぱりです」

「同じく」


 フェルミナとアルロンは頭に疑問符が浮かんで何をすれば良いか判らずに体をゆらゆらと動かしながら待ちほうけていた。


「タナトス使役して壁壊せないんですか?」

「無理だな。後神域の扉の硬度は神と同等のはずだからな弱体化してるのなんて話にならないんだ」

「それこそ四人でどうこうならないでしょう?」

「いやだから扉を壊すんじゃ無くて封印を壊すんだよ。封印は神の恩恵ではなく魔法なんだよ」


 話についていけない二人は視線をいったりきたりと私とセインの交互に顔を向けていた。


「更に判らなくなりました」

「だよねー」


 意思疎通は大事だよね、フェルミナの件もあるし。


「よーし君らは勉強のお時間です」

「はい」

「短くお願いね」


 最近は人に何かしらを教えてばかりだな。

 今更ながらこんな場所で勉強するのもさせるのも初めてだ。ぼんやりと光の精霊が私達と壁のような扉をかざしていた。


「さくっといくぞ。神がこの世界に干渉するのはギフトと神器と神の祭壇だ知ってるよね?それと例外で代行者だが研究者の中には代行者は生命ではなく神器なのではないかとは言われてる」

「「はい」」


 素直な返事が返ってくる。だいぶ彼らとのやり取りも慣れてきた物だフェルミナの言葉遣い以外は。


「ではこの封印は神の干渉は?」


 確認するかのように二人に尋ねてアルロンが答えた。


「…もしかして扉の封印は神は干渉してない?」

「そうだ。だから神の封印ではない事が一つ」


 指を人差し指だけを伸ばした。


「じゃあなんで扉の硬度が硬いのかと言うと。神域とは簡単に言えば神器だ」

「「あー」」


 そしてもう一つ数えるように中指も突き出した。


「この二点から扉を壊すより封印を解くほうが楽なんだ」

「でも神様なんだから封印ぐらいやっちゃいそうですけどね」

「説明は省くが神は魔法が使えないんだよ」

「なるほど…じゃあ誰がここの封印したのですか?」


 不思議なのはわかるが、残念ながら答えは私もわからない。


「さあ?神ではない事は確かだ」

「はい勉強終わり。三人ともここを開けたいなら協力しろ、開けなくて良いならさっさと帰るぞ」

「判りました」

「仕方ないか」

「はいっ」


 話を終えて自分を中心に三角形の形を三人に移動してもらった。視線を動かして位置を確認のそれぞれに頷いていく。


「はじめるよ」


 手を挙げて合図を出し。一息深呼吸をしてから言霊を紡いでいった。


「一柱にノームの恩恵を」


 アルロンに向けて二線の横棒の指先で空中にルーン描く。


「二柱にイフリートの恩恵を」


 フェルミナに向けて上に広がるような三本線を空中に軌跡を描く。


「三柱にタナトスの恩恵を」


 セインに向けて縦棒の構築式を空中に描く。


「我々は一つである

 一つであった私

 私が求めていたものは情報錯綜

私が求めているのは理の紡ぎ

 貴方の思いを形にする

 過去の根源の否定を

 全てに進化を」


 三人から柱心に私に向かって火、土、闇色の細長い糸が緩やかな波を打ちながら円と乱れ散るように三角形を作り出し私の周囲を浮遊する。


「開け超越者の墓」



※※※


 周囲の木箱の焼印にカーフとサインが入っている横を通り商館の薄暗く狭い廊下を抜けて見える扉をコンコンコンと三度のノックをおこない相手からの返事を待って扉を開く。


「入れ」


 小さく扉の開く音が鳴ると二人の人物が椅子に座り僕を待っていた。

 整えられた黒いあごひげで気さくさが印象的な人物と初老を迎えているであろうが目つきは誰かを射抜くように悪く痩せ型の人物どちらも雰囲気や服装ともども豊かさを表していた。

 僕は彼らに協力を求めなければならない。


「お時間を割いてしまって申し訳ないですサイリス公爵、ペンター侯爵」

「かまわんよソウ君」


 サイリス公爵と言葉を向けられた痩せ型の人物は手で促して椅子に座るように指示をした。僕はゆっくりと腰を椅子に腰をかけたが会話するには少し不釣合いの背の高さであった。けど今はそこを気にはしてられない。


「早速ですが用件をお話いたします」


 緊張した顔つきで二人と会話を行う。さすがに貴族二人と孤児院の子供では格差がありすぎて気負いをしてしまって続きの言葉がうまく出てこない。


「緊張しなくても良いソウ君。きみのギフトはこの街のためによく働いてもらってこちらも助けられている。正式な評価は出来ない内容だが少なくとも私達二人は君を尊敬すらもしているさ」


 厳しい目つきだった人物がとても穏やかに笑顔を見せて僕の緊張をほぐそうとしているのがわかった。褒められている気分はムズかゆくもなるけど嫌いじゃない。


「ありがとうございます」

「かしこまらくてもいいですよ?私達のことは友人だと思ってもらえれば」


 太っているペンター侯爵と向けられた貴族はほっほっと縦に体を揺らしながら笑った。

彼らの笑顔に見せられたのか僕の顔も口元がほころんで緊張が多少緩和された。


「今回のギフトで見えた事について何ですけども。フロウ姉さん…シャイン・フロウで遊戯の火のギフトを持っている方はご存知ですか?」

「彼女については詳しく知ってはいる。良く私も彼女の舞踊が見たくて仕事を投げ出した事もあるぐらいだ」


 サイリス公爵からの話を聞いて僕は一先ずはほっとしたように息を吐いた。もうすぐ来るはずの死の宣告を回避するために彼らが貴族であるならそれの利益がある人物でないと動かない可能性もある知らない人物ならなおさらだ。


「実は彼女の死の未来が見えたんです。それも誰かに刺される…」

「なるほど」

「姉さんが誰かに恨まれるとは思いませんでしたけど僕はこれを止めたいんです…協力をお願いします」


 僕は座りながら深く頭を下げた。

 彼らの協力は絶対に必要だ、これから生きるために、これから殺すために。

 サイリス公爵はこちらへと立ち上がり僕の肩を優しく触れた。


「君が困っているときは私達は君を助けるよ。それにソウ君の姉さんもこの街の為に私達のために存分に働いてもらっていた。恩人を助けるのに友人に頭を下げる必要はない」


 僕は顔を上げて思わずぱぁっと明るい表情になった。


「まずはこちらで腕に自信があるものを常に何人かつけよう。荒事も解決できるようにねソウ君たちが動きやすいようにこちらも便宜を図ろう何か他にあるか?」

「いえっ!十分助かります!」

「未来を変える際にこちらに頼んでもらっても構わないからな無理はするなよ」

「お言葉に甘えさせてもらいます」


 よかった…これで姉さんを救えるはずだ…。

 殺しは犯罪だ。

 けれどそれを彼らが保障をした。

 この街で生活するために。

 後ろ指を刺されないように。

 また日常に戻るように。

 泣き出しそうな顔を我慢しながらサイリス公爵が僕に握手を求めていた。ペンター侯爵は椅子に座り常に顔は崩れることなくにっこりとしていた。


「ソウ君が幸せを掴みますように」


 気がついたときには救いの手をいとも簡単に握っていた。


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