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進化の系譜  作者: 数貴
一章 はじめて神様に願う時
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卑怯です!

 フロウ姉さんはどこから買ってきたのか十人は囲める長いテーブルの上にヤギと羊で作られているフェタチーズと露店で売ってある炭火で焼いてある串焼肉とそれに添えて野菜を大量に置いていた。僕と別れた後に再度露店へと立ち寄ってお土産として買ってきたらしい。テーブルの周囲には合計十人の子供達と孤児院を管理している叔母さんが二人いる、何人かは姉さんの近寄ってワイワイと騒いでいる。


「みんな遠慮なくたべてねー」


 姉さんの言葉にテーブルを囲んでいた子供達がいっせいに手を伸ばしていた。ゆっくりと扉を開けて僕が入ってくるのを気がついたのかフロウ姉さんがこちらへと声をかけた。


「ソウ君おかえり。早く食べないとなくなっちゃうぞ」

「ありがとう姉さん、けどこれだけ買ってきてくれたら今日食べきるのは無理なんじゃ…」

「いやーわかんないよ?みんな成長してるしソウ君もね」


 姉さんの笑顔はとても眩しかった。やっぱり何としても守りたい。

 けど問題は相手が誰なんだろう。姉さんはどう考えても恨まれるような人ではないし、人付き合いも僕達家族以外はほとんど一線を引いての距離を保っている。

 一番怪しいのは姉さんが好きな男?

 でも姉さんが好きな人が姉さんを刺すとは考えれないし。今までの経験上その起点となる人を何とかすれば良い訳だけど…うーん。

 まずは孤児院の仲間達にフロウ姉さんが帰ってからギフトで見た事を話そう。みんなで監視をしていれば何かわかるかもしれない。


「ソウ君最近寝てないのクマができてるよ?」


 僕の髪の毛を撫でながら姉さんが心配そうな目でこちらを見てきた。


「大丈夫だよちょっと最近勉強してたんだ」

「…勉強か。うん頑張ってねただちゃんと寝ないと駄目だよ?」


 ちょっと不自然だったかもしれないがでも構わない。疑われようが嫌われようが僕達は姉さんを守るために平気で嘘をつく。


今までもそうだった。

けど未来を変える方法はそう多くはない。

偶然変わる事だってもちろんあった。

でも確実に変える事が出来る事もある。

僕はそれを実行する。

他に変える方法をまだ知らなかった。

だから僕は人を殺す。

知らない人を殺すことによって姉さんを守る。

だってそれ以外の答えを知らなかった。



※※※


 いつもの宿の一階で深夜にお酒を注文をする。ただしフェルミナはただのリンゴジュースだ。

 四人で四角いテーブルを囲み今日の出来事を話していく。


「フェルミナは帰らなくて大丈夫か?多少の怪我もあるし疲労はあるだろ?」

「イルミス…さん心配ないです、怪我はもう自分で治癒して治しました疲労に関しては明日寝て直します。それよりも今日のことが色々聞きたい事があります」


 さん付けに格が上がったようだ。他のセインとアルロンは空気を読んでなのか口を挟もうとはしない。


「そうだな判る範囲で答えようか」


 ありがとうございます。と座りながら一礼をしてから手を突き出して指を言葉に合わせて動かしていった。


「聞きたい事は二つです。一つ目あの遺跡の中の闇の精霊について、二つ目はギフトについてですわ。もう一つあるのですけど聞いたら自信が無くなりそうなんで聞かない」


 三つ目はフェルミナとの戦闘で手加減したかどうかかな。喋る内容が顔に出やすいたちらしい。


「順番に話していくかまず一つ目あの遺跡のついてだがまず闇の精霊だと思ったのは何でだ?」

「あれだけ黒を象徴したのは闇の精霊ぐらいしか思い浮かばないわよ」

「実際あれは闇の精霊ではないんだ確かに闇に関係する物ではあるがあそこの領域すべては一つの神域のはずだ」

「神域って…神がいるんですか?」

「あぁだから闇の精霊ではなく闇携わる神に近いものだ」


 セインとアルロンがおぉっと同時に歓声を上げて席を立ち上がり、そして同時に座った。話を続けてもらいたいらしい二人してこちらに視線を向けてきた。息が合ってるな。


「いる。もしくはいた。このどちらかだろう誰もこの遺跡に気がつかなかったのは恐らくは聖域化されてたからだろう」


 アルロンは何かに堪えきれずに震えながら質問をしてきた。


「神域とか聖域ってあの神器とか神の祭壇とか…あれですよね?ですよね?」

「興奮しなくてもそうだ」

「おぉぉ…」


 アルロンが両手でこぶしを握り、奇声を上げようとして声が出ていない薄い声が絞り出ていた。セインにいたってテーブルにひれ伏しては泣いていた。


「えっ?何?」


 フェルミナだけが感情が取り残されていた。てっきり知っているとは思ったのだが教会での神の扱いとこの二人の神の扱いが違うだけかもしれない。


「フェルミナにとって神はどう言う扱いだ?」

「ギフトの恩恵を与える物?違うの」

「いや合ってるがそれだけじゃない。まずは神は存在するかは知ってるか?」

「存在したからってこの世界にギフト以外では干渉する者ではないとは聞いてはいます」

「いや違う神がこちらに干渉するにはギフトと神器とよばれる代替物と神の言霊を授かる祭壇のどれかなんだ」


 それを聞いてもやはり特には感情は動かないでいるフェルミナだった。


「ふーんそれで?」


 アルロンが喋りたいのか体を乗り出していた。


「神器はまず何か知っている?」

「知らないわよ見たことないし」

「じゃあ能力は?」

「聞いたこともないわ」


 全てに納得がいったような頷きながらしゃべり。彼自身のことでもないのだが自信満々に話を連ねていった。


「だからか…いくつか知ってる物を言うけどまずはアルテミスの矢」

「アルテミスは神の名前ね確か」

「アルテミスの矢。それは放つと外れない、そして絶対の死をもたらす」

「外れないって度合いがわからないのだけど」

「ほぼ絶対だ。神様に当てる事もできると言われているほどだ、それにどこで弓を引いても隣に国にいたとしても当たる」


 聞いたフェルミナは理解ができないような顔をしていた。


「そんなのありえないでしょう」


 話を次に進めたかったので口を挟むことにした。


「フェルミナ。アルテミスの矢は存在する実際に試射もされた転移で飛ばせるような距離を越えてな…証人はそれを見ていた人々だ。私も見ていた、と言うか私の国で保管されてる」

「…つまりこの遺跡にもそれと同じような神器があるって事?」


 ジュースを飲んで自分を落ち着かせるように何度もコップを触っていた。


「恐らくはある。無い可能性のほうがかなり低い」


 おまけに言葉を付け加えておいた。


「あとアルロンとセインが喜んでる理由はそれを発見するだけでも莫大な報奨金が得られるからだ」

「少し納得いきました」


 少し軽蔑するような目線で二人を見ていたが公爵家であるものとお金の価値が同じだと思うほうが無理と言う物だ。二人はそんなことを気にせずに両手を挙げて喜んでいる。

 店員に更に追加のお酒と簡易的な料理を注文をしていた。


「それでここにいる神は誰かわかりますか?神聖文字?でしたっけそれっぽいこと言ってませんでした?」


 セインは話しながら追加されたお酒をどんどんと口の中に入れていく。


「判らないって言いたいとこだんだけどなあ…」

「もしかしてタナトスですか?」


 二人共えっとした表情でフェルミナに顔を向けていた。気がついていたのか。


「そうだなこれは二つ目の質問にもなるが恐らくはタナトスだな」


 死そのものを神格化した神。人の寿命が尽きる時におもむき魂を奪い去って行く死神。

 別名魂の案内人、英雄や凡人などの質の違う魂を次の輪廻転生までの冥府か冥界いずれかに選別を行う。

 魂は生命が生まれた時に宿り、生命が死する時に帰る、そして一般的には天国や地獄と言われる次の生命が生まれるまでの間の保管所へ案内される。

 この三つに流れがあるがこのいずれかが欠けている者もいる。生命に宿らずに冥界や冥府を旅する者、不死により死ねない者、魂が管理されない者。


「そうです精霊の名前で一切聞いた事が無かったから…一体何なんです貴方のギフト」

「あんまり話したくはないけど。もうほとんど理解してるんじゃないか?」


 しばらく考えた顔を見せたが迷いながら答えた。

 

「神を操作する能力…言ってて馬鹿らしくなりますね」


 起きた出来事だけ言えばそういう事にもなるが実際は違う。


「これは一応私自身の機密問題だけど漏れても構わないが他には黙っててもらえるかな」


 一言念を押してから私の都市の守護者のギフトについて語った。


「私のギフトは周辺地域を神器として代替物として創造することだな。んー何て言えばいいかな、その地域を守護している精霊や神などを地域の魂を写して情報を結晶化させることによって知覚化と視覚化、契約や奉納などの制限が無く使用できることだ」


 フェルミナは一人頭を抱えながら考えている。


「タナトスがいたから先ほど能力が使えたと?」

「そうだな、だから遺跡の中に似ている能力だったわけだ。ストリアの街の結晶の場合はイフリートが無条件で召喚できるはずだ」

「…つまりその場所で扱えるはずの最大級の魔法が簡単に扱えちゃうってこと?」

「最大級は使えないさ自分の許容量分までだが…神力の場合はだいたい一割でれば良いほうだ。それでも使った結果はあの通り」


 みなが当たり前に持っているエーテル量もしくは魔力量とは別に精霊魔法を扱うための才能は許容量などと呼ぶ事が多い。精霊は使う人によって強さ、器用さ、大きさなどの差がある。精霊がエーテルを与えてくれるのだが与える量は精霊がいかにその人を気に入っているか、奉納が正しいか、などの精霊自身の意思によって変えられる。

 神の力自身も同様である。身近な物ではギフトだがそれは真言を捧げることによって神とのチャンネルを開き発現を行う、精霊も言霊を捧げるもしくはこちらがやって欲しいと言う意思を示すことで発現する。


「卑怯です!」


 制限がない事は疲れない回数制限のあるはずの精霊魔法を無限に扱えると言う事になる。フェルミナに卑怯と言われたのは間違ってはいない。これほど汎用性が高い便利なギフトはあまり見た事がない、しかしギフトについての制限はもちろんあるがそれも現状では余り意味がないものであった。


「そんな事いわれてもな」

「さすがの二つ名持ちって奴ですかね~」

「そのおかげで聖域が見つかったわけですもん何でも歓迎ですよ」


 アルロンとセインは背の高さが合わない同士で肩を組んで見事な酔っ払いが完成していた。

 明日を休みにしてよかったこれは二日酔いコースだ。



※※※


―グロス・セインの思考―


 俺は嘘をついていた。


 こうやって潜り込んだ甲斐があるものだな。いきなりあの大魔法を使われたらどうしようもなかっただろう。


 彼のギフトは恐らく使用範囲の制限、遺跡の結晶なら遺跡に近い場所でしか使えない。この街の結晶なら街にいる範囲でしか使えない。つまり街で殺すなら精霊イフリートにさえ気を使ってれば良い。だいぶやりやすくなった。


 転移などの強さは予定外だがこれならばいけるな。そして奴のギフトもこの街の魔法付加師に頼んで火耐性の防具を作らせれば良い、値は張るがこれぐらいならペンターも守銭奴野郎も金は出すだろう。


 しっかしペンターもうるさくなったもんだ、ちょっとこの前守衛が生意気だったから腹をぶった切ったらあっさり血を流して死にやがった。俺にきれる前にもうちょっと訓練させれば良いんだ。


 まあそいつのギフトと名前だけちょっと借りてるがな。どうせ死んだんだもう言葉も発しないだろうしあんまりしょぼいギフトだから興味はないし他人の真言使ってもどうせ何もおきねえしな。しょぼいギフトなら適当な魔法でごまかせるし。


 イルミス・ロックかぁ…聖域まで見つけてくれてこいつは俺と一緒で良い奴だよ。


 あぁ良い奴だ。そして死んでくれて俺の借金の足しにまでしてくれる。


 旦那達も人が悪いよねせっかくお友達になれそうなやつを殺しちゃうんだもの…殺すのは俺だがな。


 フェルミナ嬢も扱いやすくてすっげぇ助かる。話を誘導するだけうまい具合にギフトを使わせることも出来たしあんた胸はねえが良い女になるよ。


 けどこうなるとどうやってやるかなあ…。


 あっそういえば忘れてたな、シャイン・フロウの教育させなきゃならんのがな。かごの鳥がぎゃーぎゃー騒ぐもんだから目をつけられる。


 守銭奴が金なる木を手放すわけがないだろうに。まあ楽な仕事だちゃっちゃと俺のギフト使えば終わるし良い金になる。


 はっはっはっ。


 こうも予定通りだと猫かぶるのも楽しいよ。


 世の中は俺の良いように動いているな。


 神様ありがとう!

 


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