僕も身近なことぐらいは救いたいから
「すみません体力つくやつを四人前」
露店の主は串焼きにして厚みのある豚肉を彼に渡した。受け取った彼はお金を支払いそれを来る前に買っていたのか高さのある木の器に大量の野菜と切り分けてある果物と一緒にそれを入れたそのまま街の外の方へと走って行った。
僕は露店の前に置かれているテーブルの上に乱雑に乗せてある木皿を一つに重ねてもう片手で手早くテーブルを拭いてから露店の裏へと持っていった。
「それが片付いたら今日はもうあがって良いぞ」
露店の主から今日の僕の仕事は終了だと伝えられた。
「はい」
素直な返事を僕はした。最近の僕は調子が良い、仕事も慣れてきたおかげか当初は筋肉痛で動けなかったりもしたが今ではお客さんと話すのも楽しい。それに良いお客さんから銀貨を貰ったし。
水桶で皿を洗い流してから別の水桶を使って井戸から水を入れて先ほどあった水桶と同じ位置へと戻した。
「それではお疲れ様です」
「おうまた明日な」
ニカッと大きく白い歯を見せて僕を見送ってくれた。
今からどうしようか。
まだ日が沈むには多少の時間があるし色々考えたい事もあるけどせっかく懐があったかいから少し別の露店を見て周りたい誘惑もあった。
「今度みんなと一緒に行こう。みんなもおいしいの食べたいだろうし」
この子の今住んでいる家は孤児院であった。人数はそれほど多くはない施設で彼もまだ十二、三歳ほどの年齢ではあったがそれよりもまだ若い子供達や赤ん坊の子供だっていた。みんなと一緒に食べたほうがおじさんたちも楽しいって言ってるし。露店の小間使いとして働くようになって様々な人を見るようになって僕が学んだことの一つでもあった。
「ソウ君どうしたの~」
後ろから僕に抱き着いてきた。背が高く露出が多いようでケープで一応は隠してある服装で髪の毛をぐりぐりと弄られた。さすがに僕も恥ずかしいので抱きつかれている体を離して体を後ろに向けた。
「フロウ姉さん僕ももう一人前ですから頭なでないで」
そう言ったらまた頭を撫でられた。何で?
「どうしたのこんなとこでお手伝い終わったの?」
「今日は早く終わったんだそれでちょっとぶらぶらと歩いてたの」
再度手を頭から離すように払った。僕は彼女のことは好きや嫌いとかで言ったら大好きだ。ただし大好きと言うよりも尊敬と言う意味のほうが大きい。彼女は僕と同じ孤児院出身なので本人いわく僕のことを弟のように可愛がっていた…だそうです。
彼女は孤児院の維持するために自分が貰ったお金を全て払っているらしい。それなのに彼女自身はお酒意外は何も買わずにすべて孤児の子供達に誕生日プレゼントや各種のイベントを振舞っている。
何でそんなに優しくしてくれるのかを聞いた事があるが彼女は「全部には優しくできないけど自分の手の届く範囲の人は救いたいじゃない?」などと言っていた。酒癖以外の行動力に関しては僕は頭が上がらない。孤児院にいる僕も含めて子供達は一度は救われなかった子としてきた子供が多かったのもあるが、彼女はまさに僕達の救世主でもある。
「姉さんはどうしたんですか。最近は男の人と一緒にいるみたいなことを聞いたよ?」
そうだ最近ずっと男の人と長い時間一緒にいると言う噂を聞いた。近所の露店商の人や常連のお客さんも僕にあの男は誰だと聞いてくる人が多い。話し姉さんには幸せになってほしいそうは思ってはいてもどんな人なのかどんな関係なのかはすごく気になる。
「今日は別の人がいてねー私がついてると邪魔だから寂しく散歩してたの。そんなところにソウ君がいるんだもの頭撫でるしかないよね」
「こっちで噂になってましたよ姉さんが誰かと仲良くしてるって。頭を撫でるのから離れてください」
僕のこんなボサボサの髪を撫でてどうしたいのだろう。元々姉さんは知り合いの男性と仲良く歩くような人ではない子供達と仲良く歩く姉さんは想像できても男性とデートしているとこすら見た事がない。
「一応は仕事なんだけどねあんまり言えないけど侯爵から貰った仕事で会いたい人だったからね。もう振らちゃったんだけどね」
あっけんからんとした表情で振られた事実を述べた。正直姉さんが振られるとは思わないが諦めてはいないかもなとは感じた。
「意外すぎてなんと言って良いか」
なんと言って良いかは判らなかった。けど少しだけ僕はほっとした気はした。
「気を使ってくれるのかー成長したねー。…うんそうだね最近戻ってなかったし院に今から行こうかなもうソウも帰る?」
一緒に帰りはしたかったが僕にはまだやる事があった。
「まだ少しやる事があるから先に行ってて姉さん」
「判ったまた後でねー」
僕の頭を一撫でしてから彼女を向きを変えて歩き始めた。手を見えなくなるまで振ってから僕は考えをまとめ始めた。
(僕も身近なことぐらいは救いたいから)
僕は細いひと気がない曲がり角へと入り誰も見てないことを確認してからゆっくりと目を閉じた。
そして僕はギフトを使った。
『貴方の生れ落ちたその日から
私は貴方を知りたい、私が知るのは死の掟
長い糸を私は測る、夢幻の創造の測定者
私は貴方に触れ合いたい、貴方の運命が尽きるまで
可能性を内に秘め、渇望する動く運命を』
僕は真っ直ぐな決意でその先にある結末を見る。
「ラケシス・ピント」
僕は昨日の夢を見た。
それは誰かが刺される夢だった。
そして聞こえたのはただの一声だった。
その声は姉さんの声にとても似ていた。
すごく、ものすごく似ていた。
間違えない僕の姉さんだ。
血のつながりは無くても僕達の大切な姉さんだ。
相手の顔は見えない顔だった。
誰だこんなことをするのは許すわけにはいかない。
大丈夫この未来はきっと変えれる。
だって僕が気づいたから。
僕は大人と手で喧嘩したら負ける。
僕は大人と足で走ったら恐らく負ける。
僕は大人と口で喋る事はできる。
手足ではかなわないけど口ならまだ戦える。
それに姉さんはこの街ではみんな知ってるしみんな愛している。
協力してる人ならたくさんいるはずだ、絶対絶対変えれるはずだ僕が知らない人の見た死の運命を変えれる事を何度も経験をした。
こう言うときのための今までだ!僕の大好きな人たちを守るため、僕達の手の届く範囲の不幸を無くすため。
姉さんが刺されるのがたぶん遠くはない…それまでは僕達が目を離さない。
これからもみんなで笑って過ごすんだ。
目の前には先ほどの人の少ない通路に視覚が戻りそのまま大通りへと足を進めたが空の眩しさに当てられてなのか体がふらついていた。
※※※
「お疲れ様」
木に固定してあるロープをエーテルをこめ短く操作をしてその勢いで穴からフェルミナは這い上がってきた。彼女が戻ってくるとアルロンが立ち上がり持っていた水筒を差し出した。彼女の足は大きな怪我をしてないがすり傷が多く見えるが顔は気力が満ちていた。
すでに日も暮れて薪を集めて火を灯していた私達であった二刻とは言ったがすでに予定の三倍近く時間が過ぎていた。
「明日は休憩してあさってから再開でいいかフェルミナ?」
さて彼女はどの様な返事をするか…。
「えぇいいですわ…ただし私と戦ってください」
彼女の顔はこれまでと違う顔をしていた。この黒い暗闇の中で何を思ったのか何を考えたのか、それには私にはわからない。
けど私はこれを断りにくい。実際問題不適切な行動でフェルミナを単独行動させたがパーティーに必要情報を伝えていなかった。多少の引け目を感じてしまったのは事実でもある。
「判った受けよういつが良い?」
「今すぐ」
「体調は大丈夫か?」
「大丈夫エーテルも誰かさんのおかげでそこまで消費してないし。それに今の私は絶好調なの」
彼女は本気で俺を試してるのか。自分の中で正解が欲しいそんな感じに見えるな。困ったな強くなってる彼女は苦戦しそうだ。
「膝の傷は直さなくて良いか?」
「全然平気」
「そうか…」
セインとアルロンを離れるように手で促して彼女に向き直し再度フェルミナに覚悟の言葉をかけた。
「勝とうと思うなら諦めてくれそれでもやるのか?」
「跪く練習をしてもいいのよ?」
「…わかったルールは何でもあり相手が敗北を認めるか戦闘不能状態にすること殺すつもりできても構わない。それでいいな?」
彼女はこくんと頷いてから杖を前に突き出し戦闘態勢にはいった。
「セイン合図のほうを頼む」
私は手袋を取り出して手の平、手の甲の両手どちらにも別種の魔法構築式が描かれているのを装着した。
セインは一歩だけ前に出ると楽しみなのか口がわずかに歪んでいた。
「はじめ」
その声と同時にフェルミナは言葉を紡いでいた。
「サラマンダー!槍で手足狙い撃て」
四つの火でできた槍がイルミスの手足に向かって一直線に突き進んできた。想像より早い。
「壁」
イルミスの正面に大地が盛り上がり彼を立ち塞さぐ様に厚い一瞬で壁が出来上がった。
「左右迂回。アルラドネ束縛」
(転移を使うか?いやこれは誘いか)
正面は自分で作った岩の壁で視覚を遮り、左右からは恐らく火槍で狙い撃ちにそして下からは細く白い糸と緑の糸と赤い糸がが大地を割って突き刺す様に無数に沸き始めて足を絡み取るように動き始めている。
(残りは後ろか上か)
「月の精霊ハンウィ…落ちよ月の涙!」
更に畳み掛けるように言葉を紡いでいた。月の光がまるで人の手のように滑らかに私に触れようとする触れた瞬間私の服がわずかに溶けた。だいぶ練られてる作戦だな。
(あえて誘いに乗るか)
最後の逃げ道の後方へと下がる。視界が広がり全ての攻撃が目の前に映り私の突き進んでくる。両手を広げ手の平の斜め線が平行に二本入った構築式と二本が交差して斜め十字のばつの形が見えた。
「歪ませ遮れ」
怒涛の攻撃を全て風がやわらかい壁のようになぎ払い、氷が鏡のように左右を守り月の光を反射させ火槍を溶けない氷で遮った。瞬間気がつかなかったが誘いの内容が今わかったギフトを使うために距離を稼いだわけだ。
『私は一つの角を持っていた
かの力は神のごとく、夢では体が高揚し
全ての知覚を認識し、鋭い牙が生まれる
私の今は素敵な夜、貴方の血肉を求めている
私は人であり月の民、ゆえに冷徹な鬼となる』
声は聞こえたが彼女の姿は大地が邪魔をしていまだに見えない。
「月鬼」
目の前の大地が瞬間割られていた更にこちらに追撃を入れようと土煙が舞う中に拳を突き出してきた。
フェルミナは頭の額に一つの角が生え、口からわずかに見える二つの牙が生まれ頬が少し朱に染まったように見える。
突き出したフェルミナの右の拳を左方向へと風で流そうと迎撃体制に入ったが流すはずの風に抵抗してそのまま風の壁を突き破り私の体を目掛けてきた。
私は体ごと動かして回避行動を取る。
(フェルミナが治癒を学んでいる理由がわかるな)
フェルミナの肉体は現在負荷をかけすぎて自ら損傷を負うような動きを見せている。だが彼女自身がギフト使用と治療を重ねて使う事により永続して行動可能状態にしている。
右拳が回避されたとわかると続けざまに体の体重移動の動きに任せて一回転しながら左足での回し蹴りを放つ。受ける事は難しいのなら回避行動を行うしかない。けれどこれ以上下がるのも後がなくなる追撃速度は彼女のほうが上だ。
「氷盾よ押し込め」
左右に展開してある氷の鏡を二重に重ねるさらに追加して四重に彼女の蹴りを止めるようにいや止められるように彼女は足の裏で押し込んだ氷の盾をそれ以上に先に進ませないように止められる。もう片足を器用に大地を蹴ってから空中で両足で刺すように盾を壊そうとした。
ただ二枚までは壊れたが残り二枚が壊されずに仕方なく彼女を勢いを取り戻すために数歩後ろへ下がって前のめりの体勢でこちらの動きを定めていた。
「ちゃんと防御しろよ」
少し大人気ないが勢いのある彼女を殺す以外で止めるにはギフト使ったほうが楽だな。バックから黒い結晶を取り出してそれを浮かせてそして両手の指を開き十本の黒い縦棒の軌跡を描いた。
「飲めタナトス」
今まで月明かりに照らされていた大地は黒くなり周囲の木々も起こしていた火も黒に染まった。
―フェルミナ視点―
良い調子だ二つ名持ちをここまでは優位に立って攻撃を出来ている。ずっと洞窟の中で動きながら考えて作戦を練りに練りこんだそれが相手の油断もあったが攻撃を常に仕掛ける事が出来た。
ただどうもうまく受け流されているような…そして氷が硬い。並み大抵の魔法ならどんな物でも壊すことができるギフトなのに絶対量?私との魔法が何が違うのだろう才能かな?深さが違いすぎる。
けどこれからの追撃もまだ考えてある。いやあるはずだったのだが。
「飲めタナトス」
彼はギフトの結晶を取り出したかと思うと闇のルーンを描いていた。黒い結晶は怪しく光それを中心に何か周囲を変化させているような気がした。
まだ魔法に関しての耐久力、破壊力現状は私のほうが上だ。そう考えていたのは甘かった。世界が黒くなった。また洞窟の中に戻ったみたいだった。けど相手は見えてるしどんな大地にいたかも覚えている。
これ以上何もさせないように地面を蹴って彼をぶん殴ろうと考えた。
ただ踏み込んだ足には地面がなかった。地面ではなく黒い沼のように足を取られどんどん闇へと体が落ちていく。
「なんで?!」
魔法の規模が違う多少抗って位置を変えようとも周囲全てが沼と化し更に黒い底から這い出るように黒い風が私を覆って拘束を始めていた。これをどうやって防御しろって?精霊を呼ぼうにも何の反応も示さない、この魔法のせい?今の私に抗うすべはない。
どんどん抵抗する力も落ちて体が肩まで闇に覆われていた時に彼は近づいてこうしゃべった。
「大丈夫か?」
この状態にしたのはあなたよ。動く力もなく口だけは動かせるようで何の抵抗も無かった。
彼は強かったそれで良いじゃない。
「負けよ」
どこまで手加減されていたのかはわからないけど私の持てる力は出し切った。それでも勝てなかった。彼は闇の沼に手を突っ込んで私の感覚が薄れている腕を掴んで同じ高さまで引っ張り上げた。
見回したら黒い世界は終わりまたいつもの夜に戻っていた。
なんだか恥ずかしくなってきたな。彼の掴んでいる手を離してから彼を上目遣いでじっとにらんだ。
すっきりしたはずだが何だか釈然としない。なにかイラついたので目の前の彼の腹を軽く殴った。
今までの戦闘が嘘のように簡単に当たった。彼はとぼけた様子で痛いなどと言っていたが、すでに顔は笑っていた。
やっぱり納得がいかないわ。