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K大漫研物語  作者: 北村 功至郎
始まりの日
9/21

眠れる天才?

 鈴木は幾つかの絵を描き上げ、豊田さんやエミッチも続けていたが、キイチローは

「ふーん…」

とか

「上手いもんだね…」

とか、気の入っているようないないような感想を言いながらグルグル回り、ビールをあおったりポテチを食ったり漫画を読んだり、ただうろうろしていた。

「キイチロー、お前さ、何かさっきからウロウロしてて気になるんだけど…自分も描いたらいいんじゃない?」

「ああ…まあ、俺もほら、あんまり描いたことは無いから、何だかやりづらいっつうか…。あと、なかなか気分が乗って来ないというか…」

「ああそうですか。まあいいんだけど、気が散るんだよね…」

「うーむ、そうか…」

言いながら彼は遂に座り込み、紙とシャーペンを手に取った。すぐに描くかと思いきや、何やらうむむと唸りながら、描き始めもせずただ紙を凝視している。

「…あ、キイチロー君。そんな悩むなら、無理して描かなくていいんだよ。」

と豊田さんが声を掛けたが、

「いや、今コンセントレーションを高めている所なんです。」

などと、分かるような分からんようなことを言う。まあいいや、放っておこうと皆が思い、それぞれの絵に戻って一、二分、突然奴は動き始めた。

 何やら凄い勢いで、シャッシャッシャッとシャーペンを走らせている。気になることこの上無かったが、鈴木は取りあえず今自分の描いている絵に集中することにした。数分後、

「よし、こんなもんかな。」

とキイチローは呟き、シャーペンを置いた。

「どれどれ?」

と覗き込んだ豊田さんが、

「何だ君、上手いんじゃないか!」

と珍しく大きな声を出し驚嘆した。

「ホントだ、凄い!」

エミッチも続く。気になった鈴木は彼の紙を覗き込んで絶句した。そこにはとてもリアルな男性像が完成していた。リアルと言っても写真調ではなく、やはり漫画になってはいるのだが、陰影も質感も織り込まれ、存在感溢れる絵だった。

「…凄い、何だ、あまり描いたこと無いって、嘘ついてたのか?」

鈴木はつい本音が出て、問うた。上手いのに隠すなんてずるいという思いも混じっていた。

「いや、ホントに漫画は描いたこと無いんだって…でもまあ、美術は好きだったかな。」

シャーペンを回しながら、さらりと言う。

 鈴木は何だか情け無くなって来た。自分はずっと漫画を描きたくて仕方が無かったのに、いざ描くと思うように描けない歯がゆさ。そのくせ、へらへらしていたキイチローがちょっと本気になると、圧倒的に差のある絵を見せつけられてしまう空しさ。思わず嘆息した。エミッチも、鈴木ほどショックは受けていなそうだが、しばらく無言だった。

 しかし、そんな空しさはすぐに薄れることとなった。その後、いくら豊田さんが促しても女子陣が言っても、キイチローの筆はぴたりと止まってしまったのだ。全く不思議なことだった。続きが見てみたいとか、もっと他の絵も見たいとか、幾ら言っても駄目なのである。

「今、一つ絵を描いたんだから、ペンを移せばまた別の絵が描き始められるじゃないか。」

などと、鈴木が当然のような顔をして言っても、

「うーん、集中力を使い果たしちゃったんだよねえ。」

などと訳の分からないことを言う。しばらく押し問答を続けた挙句、豊田さんの

「まあ、無理してもしようがないし。あくまで楽しく自由に描く場だからね。」

という言で一段落となった。

「いいじゃん、アタシは恥ずかしくて、とても人前で絵を描くなんて出来ないんだから。」

まだ一片も描いていないヨーコは、膝を抱え口を尖らせて言った。

「まあ、慣れさ。慣れて行けばそのうち描けるようになるよ。」

「うーん、そんなもんですか…」

ヨーコは今一つ信じられないと言う表情で、テーブルの上にしたたり落ちた缶チューハイの汗をくるくるとなぞっている。

 ヨーコにとってはどうか分からないが、鈴木にとっては初めての、楽しい時間だった。皆で輪になって描ける。他の人がどのように描いているか見れる。他人への感想を言うのも勿論だが、自分が描いたのに何らかの感想が言ってもらえる。そのような場はこれまで無かった。こんな面白い場なら入部しようと、描き続ける高揚感のグルグルの中で思った。そこには、女子がいるからなどという邪心は、珍しく微塵も無かった。


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