最初の晩餐
話は絶えることなく続き、あっという間に夕飯の時間となった。普段、漫研では学食に食べに行くそうだが、今日は近場の店に行くとのことであった。
「入部希望者は、我々上級生が奢ります。…最初だけね。我々も、そんなにお金無いから…。」
豊田さんが少し力無く笑いながら言った。
「やったー!」
「ラッキー!」
キイチローとヨーコが同時に叫ぶ。お前ら、もっと遠慮というものを…と思いながら、鈴木とエミッチは苦笑していた。
「俺んち」という、いかにも学生向けらしいネーミングの「半」洋食屋にメンバーは着いた。少しくだけた店名とは逆に、メニューは割と正統派だった。皆がテーブルにつき、メニューを見ながら思案し始めた瞬間、キイチローは
「ステーキ定食!」
と宣言した。
「早っ、早過ぎるよ!」
「何でそんなすぐに決めれるの?」
「いや、一番カロリーが高そうで精の付きそうなものを…」
「どういう選択基準だ。」
「一番カロリーパフォーマンスが高そうだし…」
「カロリーパフォーマンスって何だ?」
皆が突っ込む。そうこうするうち、結局鈴木は定番メニューのハンバーグ定食、エミッチはパスタが好きとカルボナーラ、ヨーコは目が無いというクリームコロッケ定食を選択した。
結局ステーキが一番遅く来て、誰よりも早く決めたのにと腐るキイチローを皆であしらったりするうちに、食事が始まった。それからも何かとうるさい食事風景だったが、鈴木は楽しかった。
高校まではずっと実家で、まあ誰かしら居る食事が当たり前であったが、大学で一人暮らしとなり、全くの自由な食生活となった。初めはそれが嬉しくてたまらず、一人でコンビニ弁当などというごくつまらないことにすら感動していたものであった。しかし、それも数日経ち、新しい友人とも毎日飯を食う訳でもなく、一人の食事の割合がどんどん増えて来た最近では、誰も居ない食事というものに少し淋しさも感じつつあった。
それが、今のこの賑やか過ぎる食事。皆今日が初対面で、緊張している向きも少しあるが、キイチローのような奴がいるせいで、それも薄れて行く。何しろ奴の行動につっこむのに忙しいのだ。奴の存在に初めて価値を見出した気がした。
「そのハンバーグ、少し分けてくれよ。」
「えぇ、何で?」
「俺と鈴木っちの仲じゃねえか。」
「…分けるような仲になった覚えは無い。」
「そんな冷てぇこと言うなよ。…俺のポテトやるからさ。」
「…ステーキじゃねえのかよ。大体俺の方にもポテトついてるっつうの。」
「ふふ…今日が初対面なのに、随分気が合うんだね。」
「何処が!」
「あー、味噌汁も美味しい…」
あくまでマイペースなヨーコが味噌汁を啜りながら呟く。そう、洋食メニューなのに味噌汁。「半」洋食屋たる所以だ。しかし、どれも味は良い。まあコンビニよりは当然高いけど、ちょくちょく来てもいいな。などと鈴木は考えていた。