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第4話



 はぁ???って感じだった。あたしたちの今までの5年間は?

 あたし<家族ってこと?または、家で服を着てる女<家で裸の女ってこと?

 今までの家族<これからの家族ってこと?または家の中で服を脱いでくれる女くらいいくらでもいるってこと? 結婚しようってのはあくまで条件付きで、のめないのならそれはそれで用無しってこと?




 あたしのユウジへの想いやら、言われたことやらもう本当に考えが堂々巡りで、ぐるぐると回るばかりでまとまらなくて不快だ。あたしたちの仲が進展したと浮かれていたことに対しても、突き落とされたというか、突き放された感で非常にショックだ。

 結婚できないって、じゃあ、今までの5年間は?

 あぁ、また思考が最初に戻ってしまう。



 「頭の中が整理できない。帰る。」



 あたしは鞄を持って立ち上がった。

 ユウジが慌てて立ち上がり、二歩踏み出したところで正座で足が痺れたのか、崩れるように蹲った。

 そして、ドラマでよく見るような恋人を呼ぶ必死の表情であたしの名前を呼ぶ。でもあたしには分かる。ユウジのその表情はあたしが部屋から出て行くという行動により生じたものではなく、足の痺れから来ているものだと。



 「ユカリ!」



 「とりあえず、落ち着いたら連絡するわ。

そっちの条件は出たんでしょ?だったら、あたしは考えて結論を出すわね」


 「ちょっ・・・・あ”ぁ”!!」



 急にユウジが悶えだした。少しの動きで激しく痺れがくるあの魔の時間が来たらしい。あの痺れはいつも時間差で来て堪らないけど、今日はユウジの足止めとなって良い働きをしてくれる。



 「じゃぁ、見送りは結構よ。ご家族にもよろしくね。」



 ユウジは下を向いて脛を抑えて唸っているばっかりで、その表情は見えない。

 フローリングの上に直で正座をするからこうなる。



 あたしはふん、と鼻を鳴らすと、思いっきりユウジの足を踏みつけた。仕上げにぐりぐりと踏みにじる。

 う”お”ぉ”ぉ”と頭を振り乱して叫ぶユウジを睨むと忘れ物がないか確認して、もう一度鼻を鳴らして部屋を後にした。



 チラッと見えたユウジJr.が哀れなほど縮んでいたのが瞼の裏に焼き付いて離れない。





 「お邪魔しましたー」



 半ばやけくそのようにガヤガヤと声が聞こえるリビングに叫ぶと、今まで騒がしかったリビングがピッタリと静まった。あのリビングの中は裸のユウジ一家が和やかにお茶でも飲んでいたんだろうと想像して、お会いしたこともない方々がリアルな想像になる前にパンプスに足を突っ込んでユウジ宅を後にした。






 怒りに任せて適当に歩いていたけど、足も疲れてきたし、さすがにどこか分からなすぎて、立ち止まって携帯のGPSで検索した。



 「わ」



 駅からかなり離れている。

 もう歩きたくないあたしは家までタクシーで帰るか、駅までタクシーに乗るか悩んだ。でも、家までどのくらいの料金が掛かるか分からない。車の場合、あたしとユウジの家は40分足らずだと言っていた。それって結構料金が掛かりそうだ。念のため諭吉さんを3人連れてきたし、カードも持っている。しかしいくらお給料後とはいえ、タクシーで諭吉さんを失うのはバカバカしい。タクシー会社に迎えを頼み、しばらく待ちぼうけて迎えに来たタクシーに乗って駅に向かった。




 タクシーの中でも悶々と考える。

 ”喧嘩して家を飛び出すとすぐに彼が追って来てくれてぇ、”お前が必要だ”って言ってくれて・・・”とか何とか言って惚気てた会社の後輩に言いたい。

 あたしの彼は裸で過ごすので、すぐには追って来れません。むしろすぐに来たらお巡りさんのお世話になってしまうような人なの。ふん、マヌケすぎて笑えない。




 こんなことで、結婚って白紙になるようなものなんだろうか。

 そんな簡単に人生って折れ曲がったり、捻くれたりするものなんだろうか。

 もっと早く知ってたら、覚悟を括るなりなんなりできたのに。

 


 携帯の着信をバイブレーションにしているせいで、鞄が震え続けてる。痺れから復活したらしいユウジが鬼のように着信を残しまくっている。

 そのせいで電車の隣の席の人が、あたしの鞄をチラチラ見てる。電源を切ればいいんだけど、それをしたら、本当にユウジと終わってしまう気がしてできない。なんでもないような顔をして、震える鞄を抱き締めて寝た振りをした。




 早く家に帰りたくて、足早に帰宅したあたしはリビングを開けて目を見開いた。



 「おかえりー、喧嘩したんだって?」



 昨日あたしが家用にと買った有名パティスリーの洋菓子を前にして、のほほんと紅茶を傾ける母親ときっちり服を着込んだユウジがいた。

 ユウジはあたしを見るとバネのように飛び立ち上がって、ユカリ!と叫んだ。



 「なんで来たの!」


 「話しが途中で終わったから、誤解してるんだろうと思って」


 「誤解も何も、裸族の仲間にならない人はお断りなんでしょ!」




 ユウジはキレイに整えられた眉を顰めた。



 「ナチュラリストって言って欲しいな」


 「くっだらない!自分でも裸族って言ってたでしょうが!

それに言い方はどうであれ、裸でしょうが!布一枚纏ってない!」



 吐き捨てるように言ったあたしに対して、ユウジは窘める様に言った。



 「そんな親の仇みたいに見ないで欲しいな」



 だんだんヒートアップするあたしに対して、ユウジはすっかり冷静さを取り戻している。

 あたしは今にも舌がもつれそうなくらい激してきてるのに、ユウジは肩を竦めると日本人特有のアルカイックスマイルを浮かべた。



 「ユカリ、落ち着いてくれないと最後まで話ができない」


 「落ち着いたら連絡するって言ったじゃないの!今日は帰って!」



 バカバカしい。どうせ話さないといけないなら、すぐに追いかけて来てくれればよかったのに。裸だからできなかったのでしょうけど!そうしたら、タクシー代だって電車代だって必要なかったし、人目を気にして震え続ける鞄を抱き締める必要なんてなかったのに。



 「ユカリ?着替えてきたら?」



 お母さんが初めて口を開いた。

 とてもやんわりとした、穏やかな口調だった。



 「ユウジ君、とりあえず座って?

ユカリ、紅茶を用意するから、着替えたらまたいらっしゃい」



 あたしはお母さんに促され、当初の目的である着替えと(ブラジャーは着用)、不本意ながら目の毛細血管からヘモグロビン等が除かれた液体(つまり涙)が滲んで崩れた目元と、興奮からテッカテカになったメイクをすっかりオフした。

 そしてふんわり斜めに額に掛かる、優しげだった前髪は赤いゴムでちょんまげになり、コンタクトから家用のピンクチタンフレームの眼鏡へと変わった。



 もうどうだっていい。

 こんなに素をユウジの前で晒したことはない。さすがにLサイズのだぼっとした伸びかけたTシャツと高校で使っていたハーフパンツは封印したけど。ほんの少しだけ気を使って女友達とのお泊り会に使う有名部屋着メーカーの可愛いやつを身に着けた。



 例えば、あたしがユウジ家に嫁ぐとして、ちょんまげ、オシャレではない実用的な眼鏡、マッパ。

 どんなに相手を可愛いと思い、どれ程の愛情を持っていても醒めるのも時間の問題だ。まだ可愛い部屋着でも着ていれば目くらましが使えそうなのに。



 「おまたせ」



 「・・・・・」




 ユウジは初めて見るあたしのくつろぎ仕様の姿に言葉を失っている。

 視線がちょんまげの先っぽから足の指まで素早く走る。




 「ユウジが誠意を持って、家でのくつろぎ姿を披露してくれたから、あたしも見習おうと思って」




 ワザとらしく小首を傾げて、ぶりっこの小娘のようにテヘペロしてやった。




 視界の隅でお母さんが額に手を当てて、大袈裟に溜め息を吐くのが見えた。







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