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【第2話 改定版】茜色の﨑津湾と、赤く染まるマリア像

【お知らせ】

本作をよりお楽しみいただけるよう、第2話の描写を一部改定(ブラッシュアップ)いたしました!

﨑津湾での甘酸っぱいひとときと、SE思考による緊迫した暗闇の警告アラートシーンをより臨場感たっぷりにお届けします。

【読者の皆様へ】

ご訪問ありがとうございます!

第2話は、夕暮れに染まる﨑津湾(さきつわん)が舞台です。

沈みゆく夕陽と「海上のマリア像」を背に静かに祈りを捧げる四郎の可憐な横顔、そしてそれに思わず見惚れて大パニックになる林の甘酸っぱいやり取りをお楽しみください。

しかし、ロマンチックな雰囲気も束の間……17世紀の天草に、代官の冷たい刃が忍び寄ります。

それでは、第2話をご堪能ください!

一、 茜色の﨑津湾と、赤く染まるマリア像

大江の隠れ庵でのささやかな宴を終え、静かな一夜を明かした二人は、翌朝山道を下りて小さな漁港から手漕ぎ船を出した。木櫂(きかい)が水をかくギィ……ギィ……という重い音が、静かな海に心地よく響く。

「……林よ。昨夜の芋料理、思い返せば悪くなかったぞ」

船首に座る四郎が、すっと長い脚を崩して振り返った。潮風がその澄んだ黒髪を揺らし、凛とした美しい側顔を掠めていく。

「本当? 台湾の醤油や調味料があれば、もっと本格的な味付けにできたんだけどね」

アーシュアンが背筋を伸ばして微笑むと、日差しのもとで現代的な服越しにも伝わる185cmのスマートな体格と、整ったアジアン美男子の輪郭が際立った。

「たいわん……お前の故郷か。不思議な男だな、お前は」

四郎が少しだけ瞳を細め、まっすぐにアーシュアンを見つめ返す。その神聖なまでに澄んだ瞳と至近距離で視線が交差し、アーシュアンは思わず喉を鳴らした。昨夜からずっと、この美しい頭目のふとした仕草に心が揺さぶられ続けている。

目指すは潜伏キリシタンの里、﨑津(さきつ)湾。西の空には、血のように紅く、そして黄金のように輝く夕陽が沈もうとしていた。波静かな内海は、まるで茜色の絵の具を溶かしたように美しく染まっている。

やがて、船が小さな湾の入り口を回ったその時だった。

穏やかな波間に、ぽつりと佇む神聖な影があった。沖合の岩場の上にひっそりと佇む、海上のマリア像。沈みゆく夕陽の紅い光を全身に浴びたその姿は、まるで奇跡のように眩しく、鮮烈な朱色に染まり上がっていた。


二、 光る箱と、可憐な頭目の動揺

(うわ……めちゃくちゃ綺麗だ……)

沈みゆく夕陽と鮮やかなマリア像の圧倒的な美しさに息を呑んだアーシュアンは、エンジニアとしての習慣のように、無意識のうちにポケットから黒い薄型端末——スマートフォンを取り出していた。現代の癖で画面をかざし、レンズの光学センサーで構図を固定すると、シャッターアイコンをタップする。

『カシャッ!』

静かな海に響いた小さな機械音と、画面を一瞬満たしたフラッシュの光。

それを目撃した四郎が、弾かれたように目を見開いた。

「な、なんだ今の音と光は……!? 林、その手に持っている光る箱は一体何だ!?」

「あ、ごめん! あまりにも綺麗だったから、思わず『写真』を撮っちゃって……ほら、これだよ」

アーシュアンが高画質ディスプレイを差し出すと、そこには夕映えの海とマリア像、そして画面の隅に映り込んだ四郎の美しい横顔が、寸分違わず鮮明なデジタルデータとして記録されていた。

「なっ……!? ま、マリア様と……私があのような小さな箱の中に写っておる……!? お前は……絵師なのか? いや、一瞬で姿を写し取るとは、どのような南蛮の秘術なのだ……!?」

普段は大勢を率いる神聖なオーラを纏う大将が、黒い板スマホを恐る恐る覗き込み、目を白黒させて動揺している。そのギャップがあまりにも可憐で、アーシュアンは思わず吹き出しそうになった。

「秘術じゃないよ、僕の時代の『カメラ』っていう技術さ。景色もそうだけど……君の横顔があまりに綺麗だったから、ついね」

「な、なにを戯言を……っ! き、綺麗などと……!」

不意打ちの言葉に、四郎は耳の先端まで真っ赤にし、ぷいっと横を向いてしまった。


三、 夕映えの祈りと、赤面する隣の青年

船首に立っていた四郎が、静かに膝を折り、胸の前で両手を合わせた。

夕風がふわりと吹き抜け、彼女の着物の袖と、澄んだ黒髪を軽やかに揺らす。伏せられた長い睫毛(まつげ)の影が、茜色に染まる透き通った肌に落ちていた。まっすぐにマリア像を見つめるその瞳は、夕映えの光を映して深く、どこまでも澄み切っている。

(……あ……)

気になって横目を向けたアーシュアンは、ふと目に入った四郎の横顔から、目が離せなくなった。

紅い夕陽の残光が、彼女の可憐な輪郭を優しく縁取っている。過酷な運命を背負う「神童」としての神聖さと、今にも茜色の空へ消えてしまいそうなほど儚く美しい一人の少女の素顔。

夕日に染まるその神々しいまでの美しさを間近で目にした瞬間——

『ドックン…………!』

アーシュアンの胸の奥で、脳裏まで響くほど激しい鼓動が跳ね上がった。

(な、なんだこれ……!? 心臓の脈拍数が……異常上昇している……!)

あまりの脈打ちように、耳の奥まで一気に熱くなっていくのが分かる。顔全体に血が上り、アーシュアンの顔は夕陽の赤さ以上に真っ赤に染まっていった。

(靠腰(カオヤオ)……! 僕はなんでこんなにパニックになってるんだ……っ!?)

隣で赤面して怪しく挙動不審になる青年に気づくこともなく、四郎は茜色のマリア像へ静かに祈りを捧げ続けている。だが、その一筋の祈りを捧げる可憐な横顔を目に焼き付けたことで、アーシュアンの中でひとつの確固たる感情が芽生えた。

『歴史上の人物』としてではなく——この隣にいる愛おしい少女を、自分のすべてをかけて護り抜きたい、と。


四、 竹の桟橋への上陸と、漆黒の闇

「……ふぅ。マリア様、今宵も無事に海を渡れましたことを感謝いたします」

祈りを終えた四郎が立ち上がり、すっと振り返った。

「……? 林よ、どうしたのだ? 顔が夕陽以上に赤いぞ。風邪でも引いたか?」

「えっ!? あ、いやいや! 何でもない! ちょっと夕焼けの光量が眩しかっただけで……!」

「光量……? もう日は沈んだというのに、不思議な奴だな」

四郎はくすりと可憐に微笑むと、船を岸へと誘導した。

辿り着いたのは、﨑津の集落の裏手にひっそりと伸びる、古い竹で編まれた竹の桟橋(カリヤ)だった。四郎は身軽な動きで桟橋に飛び移り、船に残されたアーシュアンに向かって、すっと細い手を差し伸べた。

「落ちぬよう、手を取れ」

「あ……ありがとう」

小さく温かい四郎の手の感触に、アーシュアンの心臓が再び跳ねた。

無事に足場へ降り立ったその瞬間——まるで世界からすべての光が奪われたかのように、太陽は水平線の向こうへと完全に姿を消した。街灯など一つとして存在しない17世紀の天草。一寸先も見えない圧倒的な漆黒の闇が、静寂とともに港全体を覆い尽くしていった。

「うわっ、真っ暗……! 本当に視界がゼロだ」

「ふっ、慌てるな。私はこの地の暗闇など見慣れて……きゃっ!?」

「うおっ、危ない……っ!」

カッコよく言いかけた直後、足元の竹の結び目に引っかかった四郎が盛大に体勢を崩した。

暗闇の中、アーシュアンは長い腕を伸ばし、倒れてくる四郎の腰を抱き寄せるようにしてガシッと受け止めた。

「……っ!?」

腕の中にすっぽりと収まった、驚くほど細い身体。ふわりと甘い香りが鼻腔をくすぐり、アーシュアンの胸に四郎の柔らかい体温がダイレクトに伝わってくる。

「だ、大丈夫……? 怪我はない?」

「……あ、あ痛(あたた)……っ! な、何を抱きついておるのだ無礼者……っ! 離せ!」

「いやいや、助けた側に向かって無礼者はひどくない!? 離したらまた転ぶよ!?」

「転ばん! 私はちょっと足の裏で桟橋の竹の強度を確かめていただけだ!」

「どんな確かめ方だよ! 完全につまずいてたでしょ!」

「うるさい! 早く離さぬか……っ!」

闇の中で耳まで真っ赤にしながら必死に強がる四郎と、185cmの体格で彼女を支えながら呆れてツッコミを入れるアーシュアン。緊迫した空気の合間に、二人の絶妙な掛け合いが響く。

四郎がバタバタと離れそっぽを向いたが、アーシュアンは気づいていた。手すり代わりに握られた服の裾を、四郎がまだギュッと掴んだままであることに。強がりつつも本当は暗闇が少し怖くて離せない可憐さに、口元が思わず緩む。

「……暗くなったな。灯火(ともしび)を出さねば——」

四郎が誤魔化すように懐から火縄を取り出そうとした、まさにその時だった。

『ビィィィィン! ビィィィィン!』

アーシュアンの脳内で、甲高い激しいアラート音が鳴り響いた。

(この警告周波数は……危険ログだ!)

視界の闇を切り裂くように、血のような真っ赤なホログラムウィンドウが明滅する。

╔═════════════════════════════════╗

【緊急システム警告:高レベル敵対生体反応の接近を検知!】

【対象識別:富岡城代官・寺沢家刺客部隊】

【アクティブクエスト発動:『闇夜の突囲(包囲網突破)』】

 概要:暗視・敵感知を駆使し、追手を回避して河浦の隠れ里へ脱出せよ。

 失敗条件:四郎または林の捕縛・死亡

╚═════════════════════════════════╝

(真っ赤な緊急クエスト……! 追手か!)

「林、伏せろ……っ!」

四郎が瞬時にアーシュアンの首根っこを掴み、竹の桟橋の影へと押し倒した。

直後、漆黒の闇の奥から、ゆらゆらと揺れる数多の松明(たいまつ)の炎が現れた。ザッ、ザッ、ザッ……と、重苦しい足音が静かな港の静寂を踏みにじっていく。

「捜せ! この近くに邪教の頭目・四郎が潜んでいるとの知らせだ!」

「逃がすな! 代官様のお命じだ、見つけ次第切り捨てよ!」

暗闇を照らす炎の群れと、刀を握りしめた代官の刺客たち。息を殺して密着するアーシュアンと四郎のすぐそばまで、刃の冷たい気配が刻一刻と迫っていた——。

【読者の皆様へ】

第2話をお読みいただき、ありがとうございました!

四郎の素顔にドックンと鼓動を跳ね上げ、自分の命に変えても彼女を護ると決意した林。……ですが、余韻に浸る暇もなく突如鳴り響いた「赤色のアラート」と刺客の足音!

迫り来る寺沢家の刺客に対し、二人はこの漆黒の闇をどう脱出するのか――!?

次回の**「第3話:夜の脱出劇と、五色の虫追い祭り」**もぜひお楽しみに!

「四郎が尊い!」「ドキドキした!」「続きが気になる!」など、感想や応援コメントをいただけますと執筆の大きなパワーになります!

もし作品を気に入っていただけましたら、ページ下部からブックマーク登録や**評価の「★」**を押して応援していただけると非常に嬉しいです!

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