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episode4-1.自己犠牲を望む者と嫌う者

 アルフは横になっていた少女の肩を揺する。

 少女はすぐに瞼を持ち上げる。

 彼女は体を起こし、フードを被り直しながらアルフを見た。


「ごめん。奇襲を受けて……一応拘束はしたけど、眠ってる君をそのままにしておくわけにもいかないと思って」


 少女の視線がアルフの後方へ向けられる。

 縄で縛られた男達を見れば何が起きたのかくらいは容易にできる。

 詳しく説明している余裕もなく、アルフは剣を鞘へ収めると村の方角を見やる。


 赤い光と、それに照らされる黒い煙。

 彼の視線を辿ったことで少女もそれに気付いた。


「…………俺のせいだ。本当に申し訳ない」


 アルフはぽつりと言葉を溢すと村へと向かって歩き出す。


「いってくるよ。俺が引き起こしてしまったことなんだから、俺がなんとかしないとね」


 村で起きた火災。それを起こした追手の目的をアルフは悟っている。

 『我欲の為に小さな村を危険に晒した男』、『小さな村一つ救えなかった男』。そんな事実を作ろうとしているのだ。


(まさか一般人を巻き込むとは思っていなかった。俺の見解が甘かった)


 アルフは一度少女へ振り向いて苦笑すると、村へと走り出した。


(誰かの思惑通りになんてさせない。俺は、俺が選んだ事で後悔する訳にはいかない)


 確かな覚悟を抱き、森を駆け抜ける。

 その時だ。

 彼の後方から銀色の閃光が放たれる。


 それは彼の真横で減速し――少女の姿を残して収束する。

 石像と呼ばれる少女は片手に聖剣を持ったまま、アルフの隣を走りだした。


「な、君……っ」


 少女は真っ直ぐ前だけを向いており、アルフの驚きには知らんぷりをした。

 目を剥き、横目で彼女をまじまじと見つめたアルフだが、すぐに一つの考えに至る。


(……彼女のような人間が、この事態に目を瞑る訳もないか)


 老婆から聞いた話が事実だとすれば、慈愛の心に満ちた少女が誰かの危機から目を逸らすような事はしないだろう。

 村の人を助けるべく、彼女はアルフのあとを追ったのだ。


 森を抜ける。

 目の前に広がるのは赤々と燃える家屋。

 そして炎に囲まれた村の中を逃げ惑う人々と、炎の魔法を村へ放つ数名のならず者だ。


 アルフは剣を抜くとならず者へと向かって一目散に走り出す。

 少女へ何も声を掛けなかったのは、彼女が自分よりも優れた戦力を秘めているから。


 自分が口を挟むよりも的確に状況判断をするだろうと踏んだのだ。


 アルフはならず者の一人の背後を取ると、柄で後頭部を殴り、気絶させる。

 仲間が倒れた事で敵の存在に気付いたならず者の残りはアルフへと襲い掛かった。

 しかしアルフは彼らが振るう武器や魔法を起用に潜り抜け、次々と彼らの意識を飛ばした。

 顎を砕き、鳩尾を吐き、頸を強く叩きつける。

 そして村を襲った男達を無力化し終えた頃。自分の視界の端で村の子供を避難させる少女の姿をアルフは見つける。


 村人の殆どは炎から逃れたらしく、安全な場所まで退避した人々の会話から、村に残されたのはあと数名程であるらしい事がわかる。

 アルフは少女へ倣うように、逃げ遅れた村人を助けようと村の中へ潜り込む。


 声を張り上げて呼び掛ければ数名の声が上がる。

 残されていたのは足腰が弱い年寄りや子供だった。


 老人を抱き上げ、子供達に逃げる為の道筋を教える。

 そして村の外へと近づいたその時だった。


 耳をつんざくような雄叫びが聞こえた。

 鼓膜がビリビリと振動し、本能が警鐘を鳴らす。


 何事かと声のした方へ視線を向ければ一体の龍が地上へ降り立つ瞬間だった。


 ……人の里の殆どはもとは魔物の棲家であった場所を切り開いて作られた。

 それ故に災害などに見舞われた地域の中には、棲家を奪い返す機会を狙い続けていた魔物による襲撃被害を受ける場所もある。


 自身の持つ知識の中からそんな話を引っ張り出したアルフは顔を強張らせる。


(魔物が来るだけで厄介だっていうのに、よりによって龍が現れるなんて――)


 龍は魔物の中でも最強と呼ばれる存在。

 一般人が束になろうと到底勝てるような存在ではない。


 そして更に運の悪い事に、龍が降り立ったのはアルフ達の背後。

 怒りと飢えで鋭く光る瞳はアルフ達を真っ直ぐと見ていた。


 アルフは龍を見つめながら静かに老人を下ろす。


「ゆっくりでいいので、離れてください。できるだけ物音を立てず、道を逸れながら」

「いやしかし、それだとあんたは」

「この中で一番動けるのは俺ですし、正直一人の方が動きやすいんです」


 異を唱えようとする老人の言葉にアルフは首を横に振る。

 守る対象がいない方が身軽であるという事。これは本音であった。

 それを悟ったのか、老人は近くにいた子供達に移動を促し、共にその場を離れていく。

 しかし彼らが充分に離れるよりも先、龍は大口を開ける。


 そこからは赤々と光る豪華が渦巻いていた。

 あれを喰らえばひとたまりもないということはすぐにわかる。


(どうすれば――)


 龍へ近づいて気を引くか、その場で老人達を庇うか。

 選択に迫られたアルフが顔を顰めたその時。


 十本に登る鉄の槍が凄まじい速度を伴って龍へと命中する。

 そのうち何本かが龍の体を貫き、龍は怒りの咆哮をあげる。


 槍が飛ばされた位置ではそれを静かに見つめる少女が立っていた。

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