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episode2-2.聖剣を持てない剣士

 その後アルフが何を話そうと、少女は反応を示さなかった。


「俺が力を手に入れる事を良しとしない人が沢山いるんだ。だからさっきみたいに奇襲を仕掛けてくる連中が来るかもしれない。万が一にも、聖剣を手に入れられたくないんだろうね」


 村で買ったサンドイッチを食べながらアルフは涼しい顔で言う。

 自分と共にいる事で面倒ごとに巻き込まれるだろうと言われているにも拘らず、拒絶する様子もない。

 彼女が何も言い出さないのを免罪符に、アルフはその場に居座り続けた。


「まあ君は俺より強いだろうし、聖剣も使えるだろうから問題ないだろうけれど。……さっきの刺客も聖剣が既に持ち主を選び終えた事を悟ったからこそ撤退したのだろうし」


 まさか聖剣に頓着せず、それどころか一時的とはいえ他者に差し出すような真似をするような者がいるなど、襲撃者も思いはしなかっただろう。

 聖剣に選ばれたような最強からその武器を奪う事など出来やしないだろうと考え、敵はアルフから簡単に身を退いたのだ。


「君さ」


 アルフは横目で少女を見る。

 彼女はフードに顔を隠したまま村で一番安いパンを食べていた。


「俺と一緒に来ない?」


 黙々と食べていた手が止まる。

 彼女がアルフの言葉に初めて反応を示した瞬間だった。意外な提案だったのだろう。

 そしてそれを見たアルフはやはり彼女は言葉を理解しているし意志もあるのだろうと確信する。


「俺には力がいる。自分が聖剣に選ばれるような器ではない事は理解している。……けど、どうしても必要なんだ」


 少女は再びパンを食べ進め始める。

 言外に提案に頷くことはないと言われているような気はしつつもアルフは食い下がった。


「君が触れてから一定期間であれば他者でも聖剣が振るえる事は先程の流れでわかった。だから俺が力を欲する時に聖剣を貸してくれるだけでいい。……それか、君自身が聖剣の持ち主として力を貸してくれるでもいいのだけれど」


 アルフは整った顔を少女へ近づける。

 フードの下に隠された瞳と目が合った。


「衣食住、全て一級品に揃えられる。そこらの仕事よりよっぽどいい待遇は保証するよ。必要であれば、その膨大な呪いの解呪に必要な技術や知識も惜しみなく提供しよう。……どうかな」


 一分程沈黙が流れる。

 少女はアルフを見つめ返しながらも小さな一口でパンを食べ続けていた。

 至近距離で見つめれらながら動揺一つ見せないとは大したものだと、アルフの胸の内には最早呆れに似た感情が湧く。

 彼は苦笑して大きく肩を竦めると少女から一歩離れる。


(ま、想定内だけれど)


 彼女が何かを承諾してくれるような未来は到底見えない。

 気長に口説こうと自分に言い聞かせ、彼は少女の傍らに残っていたサンドイッチを置く。


「それ、あげるよ。さっきのお礼だから何かを請求したりはしない」


 村へ行ってくると、恐らく少女が気にもしていないであろう自分の行き先と、また戻って来るという事を告げてアルフはその場を後にしたのだった。



***



 村へ辿り着き、野営に必要な道具や保存食を買い足していると明るい子供の声が聞こえる。


「あ、さっきのにーちゃん!」


 それはアルフに『石像ねーちゃん』こと、少女のことを教えた少年だった。


「どーだった!?」

「うーん、駄目だった」

「うぇぇ……そっかぁ」


 大きく肩を落とし、本人よりも分かりやすく落ち込んでみせる少年を見てアルフは笑う。


「ごめんね、応援してくれたのに」

「いけると思ったのになぁ……聖剣様ってキビシーんだなぁ。……あ、石像ねーちゃんには会った?」

「会ったよ。やっぱり口は利いてもらえなかったな。……不思議な子だね」

「変わってるよなぁ」


 変人と評しながらも、少年の顔は曇っていない。

 その様子から、あの少女に向ける信頼のようなものをアルフは感じ取っていた。


「ねぇ」

「ん?」

「あの子と仲良くなりたいんだけど。どうすればいいかな」

「え、マジ!?」


 自分よりも少女を知っている人物であれば彼女の懐へ入り込むきっかけをつかめるのではないかとアルフは考えた。

 そしてそんな彼の言葉を、純粋な少年は言葉通りに受け取る。


「ねーちゃん、おれらとは仲良くしたがらないし、聖剣ぬきに来る人達もほとんど気を悪くして帰っちゃうからさぁ。ねーちゃんに友達できるなら、おれも手伝うよ!」


 少年はアルフを連れて一軒の小屋へと向かうのだった。




「ねーちゃんの事なら、多分ここのばーちゃんがくわしいと思う」


 小屋の戸を指して少年が言う。


「彼女の知人とか?」

「んーん。でもこきょー? が近かったんだって。ばーちゃんもおれが小さい時にこっちに来た人だからさ」


 アルフの問いに答えながら少年は戸を叩く。

 少し待つとゆっくりと戸が開き、そこから年老いた女性が現れる。

 鋭い目つきを持つ、気難しそうな女性へ少年は変わらず元気な調子で声を掛けた。


「ばーちゃん!」

「なんだ急に。旅人なんぞ連れて」

「にーちゃんが、石像ねーちゃんと仲良くなる方法知りたいんだって!」


 少年がそう告げた瞬間。

 老婆の顔が一層険しくなる。

 そこには警戒と軽蔑、そして微かな憤りが滲んでいた。

 その反応に内心驚きつつも外面の良い笑みをアルフは浮かべる。


「帰れ」


 しかし告げられたのはその一言のみ。


「な……っ、ばーちゃん!」

「お前にはわからんだろうが、これは単なる友達作りの話ではない。……そうだろう、若い旅人よ」


 老婆の言葉の真意が分からないのか、少年は困惑したようにアルフと老婆を交互に見た。

 だがアルフは自分があの少女を聖剣の為に利用しようとしている事、そしてそれを良く思われていないことを即座に理解した。


「否定はしません。しかし、害意がある訳ではない」


 アルフは懐から細かな紋章が刻まれたブローチを取り出す。

 そして少年には見えないよう背中で隠しながら老婆の手にそれを握らせる。


「可能であれば彼女の意志を尊重したい。利害が一致すればそれ以上に好ましいことはありません。……だからこそお伺いしたいのです。『仲良くなる』方法を」


 老婆の手にブローチを握らせてから手を離す。

 そこでアルフの手に隠されていたものを初めて視認した彼女はハッと何かに気付くと見る見るうちに顔を青くさせ、強張らせた。


「あ、貴方様は……」

「どうか、お話だけでも。……ね?」


 何かを悟った老婆がそれ以上口走らないようにとアルフは口元で人差し指を立てる。

 老婆は口籠ったまま、警戒の眼差しでアルフを見つめるのだった。


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