5ブレス<<< オレは女を口説く!
「ほっほっほっほ!」
走る小柄な女の子。
貧民街の裏路地。
強そうなお姉様三人が一人の女の子を追いかけていた。
正確には二人の女の子。
女の子が背中に小さな女の子を背負って走ってる。
ボーラガンで拘束具が音を立てて撃ち出される。
ロープの両端に球状の重りがついたもの。
大昔は狩猟用に使われてたやつ。
「うっひゃー!」
奇声をあげる女の子の脚に絡まる!
思った瞬間、後ろに目でもついてるのか前方に走りながら寸前でバク宙してかわしてる!
逆宙返りってやつだ!
「ヒュー! やるじゃん!
女の子を背負ったままなんて思い切りがいいな!」
「あんたたち!
女の子を襲うなんてどういうつもり!」
ぼろっちい建物から飛び降りてオレとサクラコが割って入る。
大通りからこの様子を見つけたオレたち、屋根に飛び上がって入り組んだ路地をショートカットして追いついた。
「なんだ貴様らは!」
「我らの邪魔をするな!」
「邪魔立てするなら容赦しない」
腰からコンバットナイフをスラリと抜き放つお姉様。
ジャケットの下にガンホルスターが見えた。
着ているものは私服。
だけど邪魔なオレたちを前にしてコンバットナイフを構える目つきや所作が特徴的。
「あん? 軍人?」
軍人にはちょっと知り合いがいるし、やり合ったこともあるからすぐに分かった。
二人のお姉様がオレとサクラコにコンバットナイフを突き出してくる。
残りの一人がオレの横をすり抜けようとする。
ほんと偶然。
足元に落ちていた鉄パイプを足で蹴り上げて手にキャッチ。
ナイフの刃を鉄パイプに滑らせてかわしつつ、オレの真横にいるお姉様に飛び回し蹴り。
後頭部にヒットした勢いで壁に激突するお姉様。
女でも刃物や銃を持ってたら手加減はしない。
サクラコはワンツーステップしながら、部分的にドラゴン化した手刀でコンバットナイフを受け止めてサマーソルトキック。
顎にモロあたりでノックアウト。
部分化ドラゴンは器用じゃないとできない。
つまりオレはできない。
それでも怯まずスローイングナイフに持ち替えてオレとサクラコに同時に投擲してくる。
器用だな。
鉄パイプであっさり撃墜。
サクラコも手刀であっさりキャッチ。
サクラコの毛皮は柔らかそうに見えるけど硬い。
「ちっ!」
ジリジリと後退って背を向けて逃げるお姉様の後頭部に鉄パイプを思いっきり投げつけるとダウンした。
近くで見ていた貧民街の住人から歓声が上がる。
「アナ! サクラコ!
よくやってくれた!」
「こいつら奴隷狩りか?」
「しばらく見なくなったのにねぇ?」
こいつらがそうかは分からないけど奴隷狩りを生業にするやつらはもうずっと見ていない。
ジャンク屋に出入りする度に出会うごろつきたちをぶん殴ってはふんじばってた。
そのせいか貧民街の治安はかなりよくなっていて乱暴をするようなやつらはほぼゼロになってるんだよな。
そういう時に女の子たちを保護することがある。
貧民街に長くいるみんなはそんなオレたちのことをよく知っていて、まあ言ってみれば人気者だったりする。
「こいつら警備兵に突き出しとくか?」
「どうかしら?
ほっといた方がいい気もするけど」
「そうだな」
住人たちにも放置したままにしておくように厳命する。
そういや逃げてた女の子はっと。
振り返るといた。
「大丈夫?」
無意識に両手を後ろ手に腰を斜め45度に傾けてきゃるんと聞いてた。
「キミ……」
俺たちの背後でバトルを眺めていた女の子が声をかけてくる。
背中に小さな女の子を背負ったまま顔を伏せてふるふるしてる。
そりゃ怖かったろうし身震いもするよな。
でもってこの女の子ったら……
「「かわいい!」」
二人の声がハモった。
すかさずはぎゅっと抱きしめる。
「へ?」
「また始まった」
サクラコ、そんなにため息つかなくてもいいじゃん。
「すっごいかわいい!
オレの女にならないか!」
濃青色の瞳とサイドポニーテールの青味がかったプラチナブロンドがキラキラと輝いてる。
まあ目立つこと。
服は薄汚れてるけどひらひらフリルのメイドファッション。
なんだか仕立てが良さそうで高そう。
なんでそんな服着てるの?
とにかくかわいい!
「え? ええ!?
いきなりすぎない?
びっくりなんだけど?
それってわたしのセリフかも?
キミたちもかわいいね!
特に赤毛のキミ!
なんてかわいいの!」
髪を振り乱しながら目をキラキラ輝かせてる。
「かわいくて強いってすごいね!
おかげで助かったよ!
さっそくで悪いんだけど一緒に連れてってくれない?」
「もちろん!
ほら、その子をよこしな。
代わってやるよ」
「ありがとう!」
女の子を抱っこする。
軽いな。
骨が浮くほど痩せ細っててだいぶ弱ってそうだ。
「妹だったりするのか?」
「ううん。
隠れる場所を探してたら見つけてね。
ここの人たちに食べ物を恵んでもらおうとしてたら追いかけられることになっちゃったのよ。
そうだ! こいつらの仲間がくるかも!
早く行こうよ!」
「う、うう。
ま、待てその方は我々の……ひ……」
「やかましい!」
意識を取り戻した私服軍人のお腹を蹴り飛ばす女の子。
また気絶した。
後の二人にもしっかり蹴りを入れてる。
「思い切りがいいな」
ぐぅ
女の子の腹の音。
「飯食ってないのか?」
「えへへ♪
実は何日か♪」
「オレたちのホームに帰ったら飯食わしてやるよ!
もちゃもちゃのオートミールしかないけどな!」
「なんでも食べます!」
「あ、グミあるからあげる。
あ〜ん♪」
「あ〜ん♪」
キラキラ笑顔でもぐもぐしてる。
おお! かわいい!
よし、帰ったら腹いっぱい食わしてやろう!
「まったく。
アナはどういうわけか女の子ばっかり拾うんだから。
面倒ごとばっかり増えそうね。
まあでも二人ともかわいい子じゃない。
これでとうとう100人目ね
また出費が増えちゃうわ」
「へへ。そうだな!
なあなあ、なんで追っかけられてたんだ?」
「えーと、あいつらはわたしを利用しようとする悪者なの!」
「利用って?」
「え!? んー、とにかく悪者なの!」
「そうなの?
それじゃあ帰ろう!
ところで名前は?」
「クインよ!
この子の名前は知らない!
キミがアナでキミはサクラコ。
二人ともよろしくね!」
笑顔がキラキラと魅力あふれる子だな。
みんなでトレーラーに乗るとサクラコがエンジンをかけた。
シェルターに帰ろう!
「アーレに問題。
ドラゴンって知ってるか?」
「おねえちゃんのこと!」
「いやまあ、そうなんだけどさ。
正確な言い方は知ってるか?」
オレの話を興味津々に聞く一人の小さな女の子に質問する。
こないだカントリーの貧民街で拾った新入りのアーレだ。
あれから十数日、すっかり元気になってここの暮らしにも少しずつ馴染んできてる。
笑顔がキラキラなクインは違う場所で誰かの手伝いをしてるはず。
「しらな〜い!」
「適合……なんだっけ?」
「適合有資格選別者」
サクラコに聞いちゃったけど、いまのオレは女教師!
なんにも知らないこの子に授業をしているところだったりする。
☆次回<<< オレの胸はでかい!