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エピソード008:秒読みの時限爆弾

2025/07/02 本エピソードを含め、第一章を大幅に加筆修正しました。

俺からの通信を受け、クラウディアとガイウスさんがドーム状の空間に駆け込んできたのは、それから十分も経たないうちだった。二人は、部屋の中央で禍々しい光を放つコアを見て、絶句する。


「……これが、元凶」

クラウディアが、自身の持つ魔力検知器の針が振り切れているのを見ながら、呻くように言った。

「なんて魔力密度……。計算上、暴走までのタイムリミットは……あと、一時間もないわ」


その言葉に、場の空気が凍りつく。外部に応援を呼ぶ時間も、まともな対策を立てる時間も、絶望的に不足している。


「おいおい、マジかよ……」

ガイウスさんはそう呟き、愛用のバールを固く握りしめた。クラウディアは、測定器の数値を睨みつけたまま、顔面蒼白になっている。


「……俺が、見つけたんだ」

俺は、誰に言うでもなく呟いた。その声は、自分でも驚くほど、重く響いた。

「フェリクラの知識と、俺の……まあ、なんだ、勘、みたいなもんでな」

俺は、隣で唇を噛み締めているフェリクラの肩を、無意識にポンと叩いていた。

「だから、こいつの責任の一端は、俺にある」


普段の俺なら、絶対に言わない言葉だった。責任なんて、面倒事の最たるものだ。できることなら、誰かに押し付けて、さっさと定時で帰りたい。

だが、目の前で明滅するコアは、俺とフェリクラが「発見」してしまったものだ。見て見ぬふりはできない。そして何より、この状況で「あとはよろしく」と背を向けるほど、俺は無責任な男ではなかったらしい。自分の新たな一面の発見に、内心で悪態をつく。


「シルス……」

フェリクラが、心配そうに俺の顔を見上げる。その瞳に、俺は覚悟を決めざるを得なかった。


「何か方法はないのか、クラウディア」

俺が問うと、彼女は厳しい顔で首を振った。

「物理的に破壊すれば、魔力が一気に解放されて、この一帯が吹き飛ぶ。かと言って、放置すれば、いずれ暴走して同じ結果になる。詰んでるわ」


「……一つだけ、方法がある」

俺は、静かに告げた。その言葉に、三人の視線が一斉に俺に突き刺さる。

「古代の儀式魔法だ。暴走する魔力を、別の次元に転送して、時間を稼ぐ」


「儀式魔法ですって? 正気なの、シルス!」

クラウディアが叫ぶ。「そんなもの、成功率も低ければ、術者の負担も計り知れない! あんた、死ぬわよ!」


「死ぬよりはマシだ。残業で死ぬのも、爆発で死ぬのも、どっちも御免なんでな」

俺は、不敵に笑ってみせた。胃は、もうとっくに限界を超えて、何か別の次元に到達している気がした。

「それに、俺は『伝説級の魔法使い』なんて大層な名前で呼ばれてた時期もあってな。伊達じゃないところを見せてやるさ」


だが、その言葉とは裏腹に、俺の思考は別の懸念で埋め尽くされていた。

(……まずい。非常にまずい。この儀式、効果は絶大だが、準備と詠唱が死ぬほど恥ずかしいやつだ……!)

学生時代、ふざけてこの儀式を披露した結果、三日三晩、同級生から笑いものにされた黒歴史が脳裏をよぎる。

(それを、この三人の前で、特に……フェリクラの前でやるというのか? いや、無理だ。絶対に無理だ!)

その、あまりにも個人的で、しかし切実な理由が、俺の次の言葉を決定づけた。


「俺がやる」


その言葉を合図に、俺は仲間たちに向き直った。

「クラウディア、あんたの技術じゃこのコアの暴走は止められない。ガイウスさん、あんたのバールじゃ話にならない。そして……フェリクラ」

俺は彼女の名前を呼び、一瞬、言葉に詰まる。

「……あんたは、関係ない。これは、俺が見つけてしまった、俺の責任だ」


いつもの無気力な俺からは想像もつかないような、冷たく、有無を言わせぬ響き。俺の真剣な眼差しに、三人は思わず言葉を失った。


「何を馬鹿なことを言っているの! あなた一人が責任を負う必要なんてない!」

最初に我に返ったクラウディアが、ヒステリックに食い下がる。

「そうですよ、シルス! わたくしだって、発見者の一人です! 責任は、わたくしにも……!」

フェリクラも、震える声で訴える。その言葉が、逆に俺の決意を固めさせた。


(……馬鹿野郎。お前に責任なんて、あるわけないだろうが)

俺は、心の中で悪態をつく。彼女を、こんな危険な場所に連れてきてしまったこと自体、俺の落ち度だ。これ以上、彼女を危険な目に遭わせるわけにはいかない。そして何より、あの儀式を見られるわけにはいかない。


「これは俺の管轄だ。責任も俺が取る。だから、君たちは下がってろ」

俺は三人の背中を押し、無理やり瓦礫の陰へと避難させる。ガイウスさんは、俺の覚悟に何かを感じ取ったのか、ぐっと言葉を飲み込み、二人を促してくれた。


安全な距離まで離れたことを確認すると、俺はついに覚悟を決め、再びコアと対峙した。

「さて、と……」

俺は独りごちる。

「始めますか。史上最高に恥ずかしい、残業代わりの一人舞台を」


シルスです。どうやら、腹を括る時が来たようです。

自分で見つけた時限爆弾は、自分で処理する。公務員として、当然の責任ですね。

……ですが、その処理方法が問題です。

次回、俺の封印されし黒歴史……伝説の儀式魔法が、孤独に炸裂します。

果たして、俺は羞恥心に打ち勝ち、無事に残業を終えることができるのか。

評価やブックマークが、俺の胃薬と羞恥心を和らげる薬になります。よろしくお願いします。

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