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エピソード010:儀式の代償と、山積みの報告書

2025/07/02 本エピソードを含め、第一章を大幅に加筆修正しました。

眩い光が収まり、暴走していたコアがようやく鎮静化すると、俺はその場にへたり込んだ。全身の力が抜け、指一本動かすのも億劫だ。汗が目に入って、やけに染みる。


「シルス!」


一番に駆け寄ってきたのは、フェリクラだった。彼女は俺のそばに膝をつき、ハンカチで俺の額の汗を拭ってくれる。その手は、まだ少し震えていた。


「……大丈夫か」

「大丈夫じゃないのは、あなたの方です……。シルス、無茶、しすぎです……」

彼女の声は、安堵と、そして少しの怒りが混じっているように聞こえた。


「……あんた、一体何者なのよ」

遅れてやってきたクラウディアが、壊れた魔力測定器を片手に、呆然と俺を見下ろしている。その隣で、ガイウスさんも「とんでもねえもんを見ちまったな……」と呟きながら、頭をガシガシと掻いていた。


三人の視線が、痛い。特に、フェリクラの真っ直ぐな視線が、一番痛い。

(ああ、もう最悪だ……。見られた。一番見られたくない奴に、俺の黒歴史の全てを……)


俺は、羞恥心と疲労感で、いっそこのまま意識を手放してしまいたかった。だが、現実はそれを許してくれない。


「……さて、と」

俺は、気力を振り絞って立ち上がった。

「コアは安定した。だが、問題はここからだ」


俺の言葉に、三人はきょとんとしている。

「問題って……もう、解決したんじゃないのか?」

ガイウスさんの問いに、俺は力なく首を振った。


「解決? してないさ。これは、面倒事の始まりに過ぎない」

俺は、壁一面に張り巡らされた魔力管を指さす。

「この施設の報告書、誰が書くんだ? そもそも、市の台帳にすら載ってない、完全に違法な建築物だ。これをどうやって『発見』したことにする? 偶然見つけました、で議会が納得すると思うか?」


さらに、俺は鎮静化したコアを指す。

「このコアの処遇はどうする? このまま放置すれば、またいつ暴走するか分からない。かと言って、撤去するにも、莫大な予算と人員が必要だ。その予算、どこから出すんだ? 市民の税金か? 議会が紛糾するぞ」


スライムの被害報告、住民への補償、施設の管理責任の所在……。考えれば考えるほど、胃がキリキリと痛む。

これが、魔法の現実だ。世界を救うような派手な奇跡の後には、必ず地味で、面倒で、誰もやりたがらない事務処理が山のように発生する。魔法の神秘性なんて、報告書のインク代と、課長の胃薬代に消えていくのだ。


「……つまり、俺たちの残業は、まだ始まったばかりってことだ」


俺がそう結論づけると、クラウディアは顔を青くし、フェリクラは心配そうに俺の顔を覗き込み、そしてガイウスさんは「役人ってのも、大変なんだな……」と、遠い目をした。


俺は、このどうしようもない現実を前に、ただ一つ、心に誓った。

(……絶対に、定時で帰る)


その固い決意だけが、今の俺を支える、唯一の希望だった。


シルスです。危機は去った。だが、本当の戦いはここからだ。

伝説の魔法の代償は、世界の危機ではなく、山積みの書類でした。これぞ、公務員ファンタジー。

次回、地上に戻った俺たちを待ち受けていた、さらなる面倒事とは。

評価やブックマークで、俺の残業を応援してください。切実に。

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