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第十八章

気づくとまた親指の爪を噛んでしまっていた、最近何かといらいらしてしまう。


俺は病院の廊下を歩いていた。


里村先生の見舞いに行くため、この病院を訪れたのは初めてだった。


廊下を曲がり、目的の部屋に近づいた時だった。


キャップを被った女性と衝突してしまった。


「あっ、失礼しました。」


彼女は俺の顔を見て一瞬固まる。


「すみません。」


そして短く詫びると、そそくさと立ち去った。


顔に何か付いてるか?


スマホのカメラで確認したが問題は無さそうだ、


俺は部屋を確認し、ノックをした。


「どうぞ。」


中から穏やかな女性の声が聞こえた。


ドアを開けると、窓際のベッドに座った女性が微笑んでいた。


「こんにちは。」


俺は少し緊張しながら言った。


「こんにちは。今日はお客様がたくさんいらして下さるのね。」


女性は優しい笑顔で迎えてくれた。


「五十島信護と申します。須田優司を…血の繋がった実の兄だと思って暮らしていました。」


自己紹介をしながら、俺はそう付け加えた。


「そうなんですね。須田優司君の担任をしておりました里村久恵です。」


里村先生はそう言って微笑んだ。


「どうしてこちらへ?」


初対面の俺に、里村先生は穏やかに尋ねた。


「お見舞いです、お加減は大丈夫ですか?」


里村先生は少し俯いた。


「優司君が亡くなってから食事や睡眠がうまくできなくてね、少しずつ良くなってはいるんだけど…。」


弱々しく笑う里村先生を見て、胸が締め付けられるような思いがした。


「それと…。」


俺は少し言葉に迷ったが、勇気を出して続けた。


「裁判を傍聴してました。兄に良くして下さってありがとうございました。」


頭を下げると、里村先生は少し驚いたような声になった。


「わざわざそれを言いに?」


里村先生はそう言いながら、俺の顔をじっと見つめた。


「お父様にはお会いしたことは無いけれど、素敵な方なのでしょうね。」


その言葉で親父のことが頭に浮かび、少し嫌な気持ちになる。


だがそこで里村先生の言外の意図に気付いた。


俺は再び頭を下げる。


「母がご迷惑をお掛けしたようで、申し訳ありません。」


里村先生は慌てて手を振った。


「ごめんなさい!そんなつもりじゃなかったの!」


彼女の声には本当の申し訳なさが滲んでいた。


しばらくの沈黙の後、彼女は言った。


「お母様は意志の強い方でしたね。」


その笑顔の裏に、何か言いたいことがあるのはわかった。


やはり母は里村先生に何か迷惑をかけたのだろう。


だが、それ以上は聞かない方がいいと判断した。


話題を変えることにした。


「そう言えば先程の女性はお知り合いなんですか?」


「実は今日初めてお会いしたの。以前お母様がご依頼された探偵さんなんですって。樋口さんと仰ったかしら。」


「母が?」


思わず声が出た。


母が探偵を雇っていたことは初耳だった。


「優司君とお母様…の間に距離を置くよう一時的に優司君が別の場所で暮らしていたんだけど、その時お母様の依頼で優司君を探したそうなの。それをお詫びしたいと。」


里村先生は俺に気を使ってかなり言葉を選んでいるように見えた。


「そうでしたか。」


虐待している母親の元に子を返す手伝いをしたというのか、どういう意図だったのだろうか。


「今日はありがとうございました。お加減が悪いところ突然押しかけてしまい申し訳ありませんでした。」


立ち上がり礼を言うと、里村先生は温かい笑顔で応えてくれた。


「またいつでもおいでなさい。」


病院を後にした俺は、すぐにスマホを取り出した。


『樋口』『探偵』とキーワードを入力する。


すると『樋口探偵事務所』という検索結果が表示された。


場所を確認すると、そう遠くない。


迷いはなかった。


すぐに向かうことにした。


扉には『樋口探偵事務所』と書かれた質素な看板がかかっていた。


中に入ると、奥から先ほどの女性が顔を出した。


俺を見ると、彼女の表情が一瞬固まった。


「先程の方ですね?どういったご要件でしょうか?」


「突然すみません。里村先生から、母、須田沙良から依頼を受けていた探偵さんだと伺ったもので。ネットで調べたら樋口探偵事務所が出てきたので来てしまいました。」


彼女は一瞬目を見開いたが、すぐに表情を引き締めた。


「大変申し訳ありませんが、他の方のご依頼についてお話することはできません。」


にべもなく断られた。納得できない俺は、もう一歩踏み込むことにした。


「ではなぜ里村先生には母の依頼を受けたと伝えたのですか?虐待している母親の元に子を返したのはなぜですか?」


その質問で彼女の顔に一瞬苦い表情が浮かんだ。


「お引き取りください。」


それだけ言って、彼女は俺を事務所の外へと促した。


背後で閉められたドアの音が、俺の苛立ちを増幅させる。


事務所を出て、空を見上げた。


親指の爪を無意識に噛む。


最近、この癖が頻繁に出る。


いや、元々今日は診療所に行く予定だった。


探偵事務所のドアを背に、スマートフォンを取り出して道順を確認する。


青木診療所。


そこには何か手がかりがあるかもしれない。


裁判で話していた青木先生の診療所だ。


あの時の弁護士と兄さんのやり取り、そして先生の口ぶり…何か引っかかるものがあった。


大通りに出てタクシーを拾う。


行き先を告げると、車は滑るように動き出した。


窓の外に流れる景色をぼんやりと眺めながら、昨夜の姉さんとの口論を思い出していた。


「DNA鑑定が間違ってるわけがないじゃない!」


姉は頭から決めつけていた。


「姉さんだって裁判見ただろ!絶対にDNA鑑定に何かあるんだって!」


あの裁判…やっぱり妙だった。


裁判を傍聴していた時の記憶が蘇る。


DNA鑑定について高津弁護士が質問した時の、兄さんのほんの一瞬の動揺。


それを捉えたかのような、青木先生の慎重な物言い。


あの時感じた疑問が、確信に変わりつつあった。


青木先生なら、何か知っているはずだ。


あの違和感を、姉さんも感じなかったはずがない。


それでも姉さんは、気のせいだと取り合わなかった。


姉の態度にも、そして、母さんと別れて以来、どこか抜け殻のようになってしまった父さんにも、言いようのない腹立たしさを感じる。


大好きだった、尊敬していた父さんは、もういない。


だから俺が確かめるしかないんだ。


考え事をしているうちに、タクシーは目的地の前に着いていた。


「ありがとうございました。」


料金を払い、車を降りる。


目の前には、古いが清潔そうな『青木診療所』の看板。


大きく一つ深呼吸をする。


よし、と心の中で呟き、俺は診療所の自動ドアへと足を踏み入れた。


「すみません、青木先生はいらっしゃいますか?少しお伺いしたいことがありまして…。」


受付の女性に、できるだけ落ち着いた声で話しかけた。


受付の女性は少し驚いたように俺を見たが、すぐに事務的な口調で応じた。


「青木先生ですね。どのようなご用件でしょうか?ご予約は…。」


「予約はしていません。急で申し訳ないんですが、須田優司の件で…どうしても先生に直接お話を伺いたくて。」


『須田優司』の名前を出すと、受付の女性の表情がわずかに曇った。


彼女は内線電話で何かを話し、しばらく待つように言った。


待合室の椅子に腰かける。


数人の患者が静かに順番を待っていた。


壁に貼られた健康に関するポスターを眺めるふりをしながら、内心では焦りが募る。


親指の爪を噛むのをぐっと堪えた。


そして待っていた患者は診察を終え帰っていき、待っているのは俺だけになった。


「五十島信護さん、どうぞ。診察室へお入りください。」


俺は立ち上がった。


案内された診察室のドアを開けると、白衣を着た初老の男性が穏やかな表情で座っていた。


彼が青木修二先生、裁判の時より少し痩せているような気がした。


先生はボサボサの頭を掻きながら声を掛けてきた。


「どうぞ、お掛けください。」


先生に促され、向かいの椅子に腰を下ろす。


「それで、五十島信護さん。須田優司さんの件で、私にどのようなご用件でしょうか?」


先生は静かに切り出す。


俺はゴクリと唾を飲み込み、単刀直入に本題に入った。


「先生、先日の須田優司の裁判、傍聴していました。」


先生は黙って頷く。


「法廷での、先生と高津弁護士、そして兄…須田優司の、DNA鑑定に関するやり取りを聞いて、どうしても納得できないことがあって、今日伺いました。」


俺は続けた。


「兄は…須田優司は、本当に父…五十島謙と血が繋がっていなかったんでしょうか?あの時の鑑定結果は、本当に間違いなかったんでしょうか?」


青木医師の表情が少し硬くなった。彼はゆっくりと口を開く。


「裁判でも申し上げましたが、患者さんのプライバシーに関わること、特に遺伝情報については、たとえご家族であってもお話しすることは…」


予想通りの反応に、俺はポケットに手を入れた。


「先生、俺は本気なんです。」


そう言って、俺は二つの小さなビニール袋を、診察机の上に置いた。


中には、数本の髪の毛が入っている。


「これは兄の…須田優司の毛髪です。こちらは父の。」


兄さんの遺体は無縁仏になるところだった。


そんな兄さんを、父さんは引き取りたいと言う。


俺も姉さんも気持ちは同じだったので、話はスムーズに進んだ。


そして遺体を火葬する前、髪の毛を貰ったのだった。


俺は先生の目をまっすぐ見据える。


「俺は、もう一度調べてほしいんです。本当のことを知りたい。」


先生は机の上に置かれた二つのビニール袋と、俺の顔を交互に見つめる。


その顔から表情が消えた。


驚きとも困惑とも違う。


何か重いものを受け止めたような顔で、しばらくの間、沈黙が診察室を支配した。


「わかりました、五十島さん。あなたの真実を知りたいという強い意志は理解しました。」


遂に沈黙が破られた。


「ですが、これは非常にデリケートな問題です。それでも、というのであれば…。」


先生が淡々と続ける。


「通常この診療所で手配するDNA鑑定では、1〜2週間程度お時間を頂くことになります。それでもよろしいですか?」


気持ちが通じたのだ、思わず顔が綻ぶ。


俺は嬉しくなって、


「はい!お願いします!ありがとうございます、先生!」


先生に頭を下げた。


「結果が出るまで少し時間がかかります。また連絡しますので、今日はこれでお帰りください。」


診療所を後にし家に向かう、体が軽い気がする。


とはいえ楽観できる状況ではないことは分かっているつもりだ。


思い通りの結果が出るとは限らないし、そもそもが全く的外れな予想を点ててしまっているかもしれない。


それでも何かが動き出した、そんな気がするのだ。


軽い足取りで自宅の玄関ドアを開ける。


靴を脱ぎ捨て、リビングへ向かおうとしたところで、ソファに座っていた父さんと目が合った。


「信護、どこへ行っていたんだ?」


父さんの声には、心配とどこか力のない響きがあった。


「……別に、どこでもいいだろ。」


苛立ちを隠さずに吐き捨て、そのまま自分の部屋へ向かおうとする。


「時期が時期だし大学受験も近いんだから、あまり出歩かないほうがいいよ。」


その言葉に俺の中で何かがプツリと切れた。振り返り、父さんを睨みつける。


冷たい声が出た。


「受験か、そう言えば父さんが母さんと離婚したのって、兄さんが高校受験の年だったよね。」


我ながら、意地の悪い言い方をしたものだ。


父さんの顔色が、明らかに変わった。


その表情を見て、ほんの少しだけ罪悪感が胸をよぎる。


だがすぐにそれを振り払い、俺は父さんに背を向けて階段を駆け上がった。


自室に入り、ドアを乱暴に閉める。


ベッドに鞄を投げ出し、ドサリと腰を下ろした。


あんなこと言わなきゃ良かったと思う。


父さんを傷つけたいわけじゃない。


ただ、あの頃の輝いていた父さんの姿を知っているからこそ、今の抜け殻のような姿に腹が立って仕方がないのだ。


ふと、小学生の頃の記憶が鮮明に蘇る。


父さんが勤めるやまと銀行の「親子参観日」。


広いオフィスには他の親子連れもいて、父さんは時々俺ら子供向けに銀行の仕事について簡単な説明をしてくれたりもした。


でも仕事の電話が頻繁にかかってきたり、部下の人が相談に来たりもしていて、父さんが忙しい人なんだということはよく分かった。


俺が一番覚えているのは、そんな合間に見た父さんの仕事姿だ。


一人の女性社員が、ファイルを手に少し困った顔で父さんのデスクにやってきた。


「五十島代理すみません。こちらの書類の確認、お願いできますでしょうか?」


父さんは笑顔でファイルを受け取ると、すぐに真剣な表情になり、いくつかのページを確認した。


「ああ、高橋さん。ありがとう。ええと、ここの部分は…明日午前中までに部長へ提出する必要があるから、それまでに最終確認を済ませておいてください。不明な点があれば、またすぐに聞きに来て構いませんよ。」


その口調は穏やかで丁寧だったが、指示ははっきりしていた。


女性は、


「はい、承知いたしました!ありがとうございます!」


と元気よく返事をし、自分の席へ戻っていった。


父さんがテキパキと指示を出し、頼りにされている様子が伝わってきた。


しばらくすると、今度は支店長だという、一番偉そうな人が父さんのところにやってきた。


彼は僕に気づくと、


「お父さん、頑張ってるか?」


なんて笑いかけてくれたけど、父さんに向き直ると真剣な顔になった。


「五十島君、例の月次報告の件だが、来週早々には目を通したい。準備は順調かね?」


父さんはすっと姿勢を正し、少しも慌てずに答えた。


「はい、支店長。問題ございません。データ整理もほぼ完了しておりますので、予定通り週明け月曜日に提出いたします。」


自信を持ってはっきりと答える父さんの姿。


支店長も、


「そうか、いつも通り頼むよ。」


と頷いて去っていった。


難しい話の内容は分からなかったけど、偉い人にも堂々としていて、仕事を任されている父さんが、すごく大きく、格好良く見えた。


すげぇ…父さん、格好いい…。


あの時の俺は、心からそう思った。


たくさんの人に頼りにされ、自信を持って仕事をしている。


そんな父さんが、俺の自慢だった。


誇らしくて、尊敬していた。


それが、今はどうだ。


脳裏に浮かぶのは、リビングで力なくソファに沈む、現在の父さんの姿。


あの頃の自信に溢れた面影はどこにもない。


ただ、何かに怯え、過去に囚われているだけ。あまりにも情けないその姿に、失望と苛立ちばかりが募っていく。


……父さんが抜け殻みたいになってしまったのは、母さんと離婚して、兄さんと母さんが家を出て行ってからだ。


俺たちはまだ小学生だったか。


家の中は妙に静かになって、父さんはため息ばかりついていた。


そんな大変な時期に時々、学校帰りに俺と姉さんを車で迎えに来てくれる人がいた。


叔母さん…優司兄のお母さんの妹の、紗季叔母さんだ。


離婚して、家族がバラバラになった後も、叔母さんは父さんに連絡を取って、俺たちの様子を気にかけてくれていた。


「真知、信護、乗ってく?」


黒縁の眼鏡の奥の目はいつも真面目そうだったけど、声は優しかった。


車の中では、主に俺たち姉弟のことを気遣ってくれた。


「学校は楽しい?」


「困っていることはない?」


「お父さん、ちゃんとご飯食べてる?」


そんな風に、優しく尋ねてくれた。


俺と姉さんは学校の話や友達の話、父さんが元気ないことなんかを話した。


叔母さんは黙って聞いてくれることが多かったけど、時々真剣な顔で頷いたり、心配そうな顔をしたりしていた。


別々に暮らすようになった兄さんや母さんのことは、さすがに俺たちには直接は聞かなかった。


ただ、一度だけ、別れ際に強く印象に残っている言葉がある。


ある時俺が、


「優司兄ちゃん、元気かな。」


みたいなことをぽつりと言った時だったかもしれない。


叔母さんはハンドルを握ったまま前を向いて、でもはっきりとした声で言った。


「……大丈夫。どんなことがあっても、私がいるから。優司のことは私が必ず守る。それだけは約束するわ。」


その時の俺には、その言葉の本当の意味や重さまでは分からなかった。


兄さんのことをすごく気にかけてくれている。


兄さんにとって頼りになる味方なんだと思ったのは覚えている。


地震で亡くなったって聞いた時は……本当に、信じられなかった。


コンコン、と控えめなノックの音。


「…なに。」


不機嫌に応じると、ドアが開き、姉さんが顔を覗かせた。


「信護大丈夫? …もしかして、またDNA鑑定のこと、調べに行ってたの?」


姉さんの声には心配の色が滲んでいる。


俺は黙って俯いた。それが肯定の代わりだ。


真知は部屋に入ってきて、俺の隣に静かに座った。


「どうして、そんなに拘るの? もう終わったことなのに…。」


「終わってない!」


思わず声が大きくなる。


「姉さんだって、おかしいと思わなかったのかよ!」


「何が…?」


「兄さんの声だよ! 声が変わってたんだ!」


俺は真知に向き直った。


「母さんと父さんが離婚した頃、兄さんはまだ声変わりしてなかった。声高かっただろ? でも、この前母さんの墓で会った時…父さんと話してる兄さんの声を聞いただろ? 低くて、落ち着いた…父さんと瓜二つだったじゃないか!」


あの時の衝撃。


顔は似ていないのに、声だけが驚くほど似ていた。


あの偶然とは思えない類似性を、姉さんも感じていたはずだ。


「姉さんも、聞いてただろ? なんで知らないふりするんだよ!」


俺が問い詰めると、姉さんは黙り込んだ。


俯いたまま、何も言わない。


その沈黙が彼女もまた、俺と同じ違和感に気づいていたことを物語っていた。


長い沈黙の後、姉さんがぽつりと言った。


「ねぇ、信護。」


「…なんだよ。」


「もう少しだけ、お父さんに優しくしてあげてくれないかな。」


姉さんの声は震えていた。


「お兄ちゃんがあんなことになって…もし、お父さんや信護にまで何かあったら…私、もう、生きていけないよ…。」


その言葉には、深い悲しみと恐怖が込められていた。


俺はハッとして姉さんの顔を見た。


彼女もまた、この状況に深く傷つき、怯えているのだ。


姉さんはそれだけ言うと、静かに立ち上がり、部屋を出て行った。


「……悪かったよ。」


誰に言うでもなく、聞こえるか聞こえないかくらいの、小さな声で呟いた。


それは姉さんに対してか、父さんに対してか、あるいは自分自身に対してなのか、よくわからなかった。


一人残された部屋で、俺はしばらく動けなかった。


姉さんの最後の言葉が、重く胸にのしかかる。

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