信頼
――― 信頼 ―――
???「やぁマリア姫 君に会いにわざわざ足を運んで来たよ」
マリア「上級悪魔とは聞いていたけれど貴方だったとはね・・・」
???「僕がここに来た理由 もちろんわかっているよね?」
マリア「継承の椅子・・・かしら?」
???「そう・・・そして君だ」
マリア「何?まだ諦めていなかったのね」
???「当たり前だよ 君みたいな可憐な女性はなかなか
お目にかけられないだろう?」
マリア「お褒めいただき光栄だわ・・・」
そう言うと目を泳がせ皮肉な笑みを浮かべた
同じ頃ネディアはというと
上級悪魔がネディア家に侵入して来た為 外にいた
マリアに任せて遠くから様子を探っている
下級ならばマリアの名と地位で退散させれるものの
上級となるとマリアに対処してもらうしかなかった
以前と同じように家の中で小さく隠れるだけでは
奴等は見抜いてしまうので こうして外で
出来るだけ遠くにいるしかなかった
ネディア「マリアちゃん 何か時間掛かってるなー」
未だに自分の家からは上級悪魔の魔力を感じ
帰るに帰れない
ネディア「無いとは思うけど・・・マリアちゃん苦戦してるのかな」
様子を見に行きたいが 出来るだけマリアの邪魔もしたくない
ネディア「疲れるけれど世界の目で様子を見るか・・・」
世界の目 ネディアは世界を通して全てを見渡す目を持っている
これはネディアだからこそ出来る ただし全世界が一気に見える為
普段は見えないようにしている
ネディア「こ・・・これは!?」
秒速で欲しい情報だけを見 今の状況を素早く察知すると
急いで自分の家へと戻った
ネディア「マリアちゃん!?」
マリア「え?何で!」
継承の椅子は見知らぬ上級悪魔が座っており その隣にはマリアが
どうやら無事のようだが様子が変だ
ネディア「いったいどうして・・・」
???「これはこれは ネディア殿下 何故に貴方がマリア姫と
親しげなのですか?」
マリア「・・・別に親しくないわよ 無能にも自分の家を取り戻しに
来たんじゃないかしら・・・」
ネディアに冷たい目を送る
マリア「ネディア 良い事教えてあげるわ」
にっこりと優しく笑っている顔
マリア「今日から 彼ザキ・アストが魔王になったのよ」
ザキ「そしてマリア姫といずれは結婚をかわすのだよ」
ネディア「・・・」
信じられないと言う顔で二人を見つめるネディア
ザキ「どうやら君はマリア姫がここを乗っ取ったと何処かで聞き
彼女ならばここを取り返せると思ったのかい?残念だが彼女は期待を
裏切りで返すような子だよ」
マリア「うふふ・・・そう言う事だから もぉ来ないでね」
あくまで優しくネディアを追い返した
ネディアはしばらくその場に立ちつくした
今までで一番長く一緒にいた人
また襲ってくる
心が傷つき折れそうになるような痛み
ネディア「っく・・・」
悔しさで涙を溢れさせたいが涙は出ない
「期待を裏切りに返す人」
確かにマリアの人格そのものだ でも・・・
ネディア「・・・いや・・・違う・・・」
ずっとマリアの態度を変に思っていた
それは言わされて取っている行動でもなく
かといって本心で行動しているとも思えなかったからだ
ネディア「そうか わかったよマリアちゃん・・・そうする事でしか
俺を巻き込まずに助ける事が出来なかったんだね・・・」
マリアの小さな優しさ
それは裏切ったと思わせて 自分との距離を取った彼女なりの優しさ
ネディア「マリアちゃんの力では敵わないんだ・・・
だから屈服するしかないんだ・・・」
直ぐにマリアを助ける事を考える
ネディア「一か八か・・・やってみるか・・・」
あまり自信はないようだがそれに賭け マリアの元へと向かった
強引に自分の部屋に入り込むネディア
マリア「う・・・そ・・・」
ザキ「おやおや どうやら忠告だけでは引き下がりませんか 困りましたね」
さほど困ったような顔でもないように見える
ネディア「生憎女の子に助けられるようになっちゃぁ
情けなくてそれこそ生きていけないよ」
ザキ「・・・フ・・・ハハハ 面白い 貴方がそう言う人だとは」
ネディア「あー・・・後 マリアちゃんが期待を裏切りに
返すような人と表現したけど そっくりそのまま返してやるよ」
ザキ「心外ですね・・・彼女は自ら望んで私の方に言い寄って
来たのですよ?それを裏切るつもりとはとてもとても・・・」
マリア「そ・・・そうよ!」
後から「どうして戻ってきたの」と口だけが動く
それを見ると「に」と笑って
ネディア「わからないの?それじゃ教えてあげるよ」
マリアの腕を掴む
マリア「・・・わ」
ザキ「あ!マリア姫をどうする気ですか!」
ネディア「こうするんだよ!」
突然マリアの腕の中に潜り込むように自分の腕を突っ込む
マリア「ちょ・・・え?何よコレ!?」
自分の腕の中に人の腕が入っている
痛いという感覚は無いが何とも言い難い変な感覚だ
マリア「何する気!?」
ネディア「マリアちゃん 今度は俺が助けてあげるよ」
ごぅ
マリアの手から大きな大きな魔力の塊が出来上がる
ザキ「!」
上級悪魔でもタダでは済まない威力が見て取る様にわかる
マリア「???」
マリアは訳がわからない
この力は多分自分の力ではない
かといって今の弱いネディアでは不可能
いったいどうなっているのだと言うのか
考えているうちに ネディアがマリアの腕の中から動かし
それをそのままザキの方向に投げつけた
ザキは辛うじて避けた
いや正確には外れたのかもしれない
ザキ「・・・フ・・・どうやらコントロールが出来ていなかったよう
ですね」
安堵の様子からか余裕が見える
ネディア「いや 外れちゃいないさ あんたなら避けると思った」
ザキ「意味がわからないですね 自分の失敗を認めたくないだけでは?」
マリア「アハハ アハハハハ ネディア 貴方最高よ」
マリアがスッキリしたように笑い上げた
ザキ「マリア姫まで・・・いったい何が・・・・・・あーーーっ!」
自分の真後ろを見る
そこは自分が先ほどネディアが投げつけた魔法が着弾された場所
そう そこにあったはずなのだ
王位継承者の椅子が・・・
自分が避けた事で形すら無くなった魔王の座
ザキ「ああああああ・・・」
その場で酷く項垂れる
ネディア「コレであんたが指揮する権限は無いんだよ」
「ず」とマリアの腕から自分の腕を抜く
ネディア「本当なら君事消したかったんだけどね・・・さすがにそれは
自分の力を取り戻すしか方法が無かったからさ」
ザキ「くぅぅぅ・・・お・・・覚えていろー」
月並みなセリフを言い残すとそそくさと消え去った
マリア「ふぅ・・・笑いすぎてお腹痛くなったじゃない」
ネディア「マリアちゃん 助けて欲しいなら最初から助けてと言って
欲しかったよ」
マリア「だって私でも貴方でも勝てそうにない相手じゃない
そう言えばあの力は何だったのよ?」
上級悪魔を怯えさせる程の力
それはその上級悪魔よりも更に上の力が必要不可欠だ
自分が追い払える程度ならまだしもである
ネディア「上手くいくかどうかは殆ど賭だったけどね・・・」
真相はこう
ネディアは自分の魔法は外に出すと威力が弱まるだけで 実際は中に
もの凄い量の魔力を抱えてる ならば体内の魔力を他者の体から
出してみればどうか?
そう思っての結果だった
マリア「そう・・・それで私の腕の中に入れたのね!?」
ちょっと怒っている
それはそうだろう 女性の体に 理由も聞かされ無いまま
ネディア「言ったら奴に逃げられそうだったし」
マリア「そうだけど 本当無茶するわよ・・・貴方」
ネディア「でも他人の体使って自分の魔力流してもマリアちゃんが
何ともなくて良かったよ」
マリア「どういう事よ?」
ネディア「だから俺の力が少し体の中に入ったんだよ?」
マリア「・・・あ・・・」
微量でさえ致死量のその力が自分の体に流されたのだ
平常でいられるはずがない
マリア「・・・貴方が怖いっていうの やっとわかった気がするわ」
気づいたマリアは恐怖で体中が震えている
ネディア「威力が弱い分大丈夫だとは思っていたよ?確証は無かったけど」
マリア「確証無いのが一番厄介なの!私まだ死にたくないわよ!」
さすがのマリアも怒り大きな声で怒鳴る
ネディア「俺がそんな事する訳ないでしょ」
マリア「よく言うわ 勘が外れたらどうするつもりだったのよ」
ネディア「それは無いって いいとこ具合悪くなるだけだよ」
力が遮られているので致死量には満たない
が 大量に得る事は確かなので許容量の少ない奴は何日間も調子が
悪くなるらしい 酷い時は年をも超えると聞く
マリア「冗談じゃないわ!そんな事にならなくて本当に良かったわよ」
ネディア「耐久力があったのか 許容量が大きかったのか 俺の力が
微弱だったのか 何れにせよ良かったね」
マリア「・・・何かムカツクから貸しにしとくわ」
どこまでも他人事のように話すネディアにマリアは疲れて
ついには降参してしまう
マリア「ところで継承の椅子が無くなった事はザキが
言いふらしているでしょうね・・・ どうするのよ?これから
悪魔達を文句言わず指示出来にくくなるでしょ」
ネディア「悪魔は悪魔なりに力ずくでね」
悪魔は基本言う事を聞かない 力があれば話は別だがそうでない場合
あの椅子に座る悪魔が魔王と言われ 絶対服従する権限を持てた
昔 貴族にこの椅子を貰い受けてからそんな噂が流れたのだ
ネディア「元は椅子なんて無くても成り立っていたんだし 何とかなるでしょ」
マリア「まぁ・・・それもそうね」
ネディア「悪魔界初の女王様誕生だね」
ニヤリと悪い笑みを浮かべた