復活
――― 復活 ―――
数日もしないある日
俺は待っていた
この家の主人 白金皐月を
いつもなら既に帰って来てもいい時間だ
ネディア「遅い」
いくらなんでも遅すぎる
時計は夜の9時過ぎを指している
学生の彼だが ここまで遅くなる事はないし
遅くなったら連絡くらい入れるはずだ
ネディア「もう少し待つか・・・それとも・・・」
世界の目を使うか
これがマリアなら直ぐにでも捜索をするのだが
まだ信頼出来る器じゃない
そんな事を考えていたら
頭の中で女性の声にならない声が響き渡る
ネディア「ん?今の・・・しかもあの声はマリアちゃん?」
そこでようやく嫌な予感がする
急いで世界の目を開きマリアと皐月を探した
* * *
皐月編
数時間前
皐月が学校から帰宅していた頃
それは突然目の前に現れた
皐月「!!」
全身に寒気を感じる
怖い
逃げたい
怖い
そんな気持ちが渦巻くが足は動かない
皐月「誰・・・ですか?」
緊張からか乾いた声しか出ない
*「しがない悪魔とでも言いましょうか?お迎えに上がりました」
皐月「お迎え?何の?」
*「いやいやネディア殿下からの所望でして」
深々と礼をする姿に少し皐月の緊張がほどける
この人から漂う殺気は気のせいかと
*「この地で貴方様に出会った彼は貴方様にまだ何もしていない
と彼が申し 私がつかいに参りました」
皐月「そんな事気にするような人じゃないけれどなぁ・・・」
ネディアの性格マリアさんからのネディア論
それらを考えれば誰でもネディアらしくないと思うはずだ
*「確かに彼らしからぬ行動ですが故に彼もそう行動する事で
貴方様との距離を少しでも縮めたいとのお考えの事と思われます」
皐月「な・・・なるほど・・・」
確かに自分もあの性格について文句を言いはしないし
近づこうとする事にまだ若干怖れを感じているのは知っている
だからそうする事で自分を受け入れようとしているのかもしれない
*「ささ ネディア殿下がお待ちですよ 私ザキが責任を持って悪魔
世界ネディア殿下のお部屋へ案内して頂きます」
皐月「よろしくお願いいたします」
そっとザギの手を取り 悪魔世界へと赴いた
それが罠だとも思わずに
* * *
マリア編
皐月を悪魔世界に導いて眠らせた後
ザキはマリアの元へと行く
マリア「・・・あ~~~ら・・・どちら様かと思えば
貴方本当にしつこいわね」
ザキ「いえいえ滅相もありません」
マリア「何か用なの?まぁ貴方が用事ってろくな事じゃ無いんでしょうけど」
ザキ「心外ですね 私は彼のプライドをずたずたにし 貴方を手に入れ
未来永劫私の名をこの悪魔世界に轟かせたいだけですよ」
マリア「まぁ悪魔らしい意見だわね」
抵抗はしない
両手を挙げて『降参』のポーズを取った
ザキ「さぁ・・・ネディア殿下 早くいらして下さい
でないと晩餐の準備が整いません」
くくくと悪魔的笑みを浮かべその時を待ち続けた
* * *
その様子を見たネディアは迷う事なく
罠へと向かった
皐月の マリアの待つあの場所へ
ネディア「やっぱり・・・あの時どうにかして殺しておくべきだった
かな」
ゆらりと影の中から現れる
ザキ「いらっしゃいませネディア殿下 お待ちしておりましたよ さあどうぞ」
と椅子へと導く
ネディア「ゆっくりするつもりは無いんでね 単刀直入に言おう・・・
二人を返してくれないか?」
ザキ「いけませんよ殿下 殿下とあろうものが何の見返りも無しに私
悪魔に無益で返して貰おうなんて」
ネディア「だから何が望み何だよ」
丁寧でケンカを売るザキにイライラするネディア
ザキ「そう焦らなくても私は悪魔の中でも比較的優しい方なのでね」
人差し指を「ぴっ」と立て
ザキ「貴方が二度と大きい顔をしませんと私に降伏し
マリア姫の所有権を私に譲ってくれればいいのですよ」
ニコニコ笑顔で残酷な話だ
ネディアにとっての降伏とは力があるのに負けたと言わせる事だ
勝てる術だってある 追い返す術だってある
しかしそれはマリアが側にいて初めて可能な事だ
ギリギリと歯を噛みしめる
ザキ「おや?どうやら貴方の立場が解っていらっしゃらないようだ
これは少しこの方達に痛い目を与えなくてはなりませんね」
ネディアが折れない事は最初からわかっていただろう
わかっていての人質だ そう使うつもりでいたに違いない
善意でいたという前提で悪役を気取るがその行動でさえ
ネディアにはそうとうなストレスを与える
ネディア「・・・くだらねぇ・・・」
ザキ「ほぉ?悪魔の中の悪魔と言われるだけはある・・・
人質を取っても貴方には関係無いと?」
ネディア「ああ・・・関係無いね」
ザキ「ですが貴方は少なくともマリア姫に好意を抱いている
彼女が傷つけば貴方も気持ちいいものでは無いでしょう?」
ネディア「それがどうした?」
さっきまで悔しそうな顔で満ちていたはずなのに
今はやりたいならやれという顔である
残酷で慈悲の無い悪魔そのものの顔だ
ネディア「この際だから教えてやるよ 俺は味方だって残酷に殺せる
せいぜい苦しまない死に方で殺してやるよ」
目を黒く光らせる
ザキ「アハハハハ 今の貴方に何の力があるんですか?彼女無しでは
無力 ハハハ 無力に過ぎない」
勝ち誇ったかのようにあざ笑う
ネディア「皐月 動けるの?皐月?」
ザキに聞こえないよう小声で皐月の生死を伺う
皐月「ごめ・・・ネディ・・・ア・・・俺・・・」
声がかすれて聞き取れないがネディアには問題無い
ネディア「最後の賭だ 皐月俺の髪留めに触れるかい?」
自分の髪留めが付いている方を傾け皐月の手に近づける
皐月「こ・・・れが・・・?」
ネディア「取れる?」
皐月「んん・・・」
かすかに動く指
俺の髪をするする通る
金の髪留めが指にかかった
その時!
ごぅ
ザキ「何!?」
目の前には信じられない光景があった
闇だ
闇が全てを包み込む
ザキ「どこだ!?フハハ 怖じ気づきましたか?貴方とあろう者が
これでは最強も名折れですね」
嫌な空気が自分を包み込むが それでも優越感に浸っているザキは
どこまでも余裕だ
ネディア「・・・」
音のない攻撃がザキの横を過ぎる
ビクっと体を震わせるザキ
ザキ「今の・・・は・・・」
冷や汗がだらだら
マリアを解放して二人で協力して出した魔法とは明らかに違う
ネディア本来の力
ザキ「どういう事だ!ネディアは!ネディアは無力なはずだ!
何故力が戻っている!」
丁寧語も忘れ乱暴な言葉使いに変わる
それだけ恐怖と焦りが強いようだ
ネディア「教えて欲しい?・・・残念だったね・・・
今の俺はただ怒りであんたを殺す事しか考えて無いんだよ」
ゆっくりと
ゆっくりとザキに近づいてくるのがわかる
ザキ「く・・・来るな・・・」
闇の中
右も左もわからない中をあとずさる
ネディア「でもさぁ・・・ただ殺すだけじゃ俺の気が納まらないんだよ」
ザキ「ひ・・・ひぃ・・・」
右からも左からも後ろからも前からも
ネディアの声が響いて
まるで囲まれているみたいだ
相手は一人なのに
ネディア「さぁ・・・どうしてくれようか?」
ザキ「ま・・・待って下さい殿・・・いえ陛下」
取り繕うように
片足立ち もう片足は膝を地面に
立てた足と同じ側の手をそえ 反対側も同じく地面に拳を付け
頭を下げる
ザキ「お二人は無傷です 人間の方は多少眠らせた事で脳がハッキリ
してはいませんが 私自身はまだ何も手は降していない このまま
陛下にお返し致します どうか」
ネディア「・・・ダメだよナル 自分が言ったじゃないか
何の見返りも無しに頼むなんて」
ナルはネディアがザキを呼ぶ名 ナルシストから来ている
ザキ「ははは・・・何でしたら私が今後・・・」
何かを言おうとする前にかすめる攻撃
ネディア「自分の安否の為なら何でもする・・・そんなの何の
償いでも無い それにそれは自分を守る言葉だ」
ザキの背後から強烈な殺気を放つ
ネディア「それに俺は怒っているって言ったんだ 俺が気が済む
ようなやり方以外無理だね」
ザキ「じ・・・自分が気の済むような・・・やり方・・・とは?」
怯えながら伺う
ネディア「生死の繰り返し いっそ殺したままにしてくれと
言いたくなるくらい何度も何度も」
三日月のように「にぃっ」と口を歪ませる
ネディア「お前に死は与えない 殺して生き返らせて殺して 殺して
殺して・・・」
ごぉぉう
魔力を右手の平に集中させて塊を作る
ネディア「簡単に殺すんじゃ優しすぎるよね?だから・・・
じわじわと少しずつ自分が死んで行くのを感じるくらいに」
そう言うとその塊をザキに投げつけた
大きな断末魔が響き渡ると同時に
覆っていた闇が掻き消された
* * *
マリア「遅い!」
マリア達の捕らえられていた場所にたどり着いたとたん
二人ともすでに解放されていていた
ネディアが二人に声をかけようとした瞬間
背後から「ドン」と抱きつかれ酷く嫌な顔に変化する
ネディア「・・・本当はさ・・・こいつも復活するから俺としては
封印されたままでもよかったんだ・・・」
うんざりした顔のままで二人に話す
???「嫌ですよ~ 私は封印されていても貴方にお会いしたかった」
マリア「そういえば誰?この悪魔 私達を解放してくれたから
放っておいたけど・・・」
ネディア「兄貴だよバカ」
マリア「え?バカ・・・ってクエリオの時に話を聞いたお兄さん!?」
思わず素っ頓狂な声で叫んでしまう
???「この姿でお会いするのは初めてでしたね 貴方の事は封印されていても
母上の中からずっと見ていましたよ 私はネクロディア
いつも母上がお世話になっています マリアさん」
マリア「ああ そうなの?よろしく・・・」
ネディア「挨拶済んだなら帰れ」
早くどこかに追いやりたいようで「しっし」とやる
ネクロ「ああ そんな 私はまだ母上とお話がしたい・・・」
ネディア「お前がいると気が散る」
マリア「貴方が自分のお兄さんをバカと言うのがよくわかったわ・・・」
マリアもさすがに呆れかえった顔
ネディア「あれ?皐月は?」
マリア「あら?そういえばいないわね?」
きょろきょろと見渡す
はっきりとは見えないが奥の方に人影があるのが見えた
ネディア「皐月?」
皐月「ひ!?」
ネディアが声をかけただけなのに異常に怖がっている
がたがたと震えて
触れようとすると「ビク」と肩を強ばらせ逃げてしまう
ネディアは「何故?」と顔で伺うがすぐに「は」とする
マリア「貴方達のやりとり見えてはいなかったけれど聞こえていたからね
それかしら?」
ネディア「うん・・・そうだね」
皐月「ぁ・・・・ぁ・・・ぅ」
怖すぎて声が出ていない
ネディアはすぐに手を引っ込めた
このままではつれて帰れないので話をする事にし 皐月に向かう
ネディア「忘れているから思い出させるけれど俺は悪魔だ
だから平気でこんな酷い事が出来る それを主人は知っているはずだよ?」
皐月「・・ぅ・・ぅ」
かたかたと頭が揺れる 頷きたいようだ
ネディア「俺が怖い?」
皐月「・・ぅ・・・」
頷く
ネディア「うん 怖くてもいいんだ 主人は知っているはずだよ?
俺の中にある小さな優しさも」
皐月「・・・ぅ・・・ごほっ・・・し・・・ってる」
咳き込むことでムリに声を出す
ネディア「じゃぁ・・・帰るよ」
「す」と手を出す
皐月は震える手で何とかネディアの手を掴む
皐月「ごめ・・・ごめ・・・ね」
子供のように泣きじゃくる
ネディア「気にしてないよ 自分を責めないで 俺がそういう人だって
理解してくれればそれでいい」
皐月「ぅ・・・ぅ・・・ん・・・うぇぇ・・・」
* * *
マリア「で?何で封印解けたのよ?」
ネディア「この髪飾り 最近取れない事に気づいてね
もしかしたらと思ったんだよ」
ネクロ「クエリオが封印を施したのはまさしく髪飾り そしてそれは
人にしか取れないという仕組みをしましたが・・・あの状況で人に
取らせるとは・・・ よく気づきましたね?さすがは母上」
いつまでも帰ろうとしない所か いつまでも付いて来るネクロディア
ネディア「お前暇じゃないんだろ?解放されたらやる事があるだろ
いいから帰れよ本当に」
ネクロ「うぅっ 確かに私にはやるべき事がありますが・・・
いいじゃないですか!母上と少しでも長くいたって 私は・・・
私は・・・封印されてから貴方の姿を見なくてどれくらいの年月を過ぎたか」
ネディア「あ~・・・はいはい」
対して聞く耳持たないネディア
マリア「でも何で?方法を教えてくれなかったのに」
ネディア「それはおっさんの思考を考えた結果だよ」
マリア「あのオヤジの?」
ネディア「まず自分が取れないという事は悪魔に取れないと踏んだ
一応同族だしいつでも出会える相手だしって言う理由からも取れる
そして天使 俺が苦手としているだけで出会おうと思えば
いつでも出会えるので同じく無いとなると」
マリア「人間だったって事ね?でも会う事は出来るわよ?」
何故?という疑問が浮かぶ
ネディア「始めにも言ったけれどコレが取れないと
気づいたのが最近だからだよ」
マリア「・・・そうだったわね」
ネディア「そうだ皐月 今後こんな事が会っても何度も
助けてくれると思わないで欲しいんだ」
皐月「ん」
恐怖は振り払われ普通に話す事が出来るようになるまで回復している
ネディア「残念だけど俺は殆どの悪魔に嫌われている
例えこの力が又封印されても あるいはこのままでも・・・
嫌 むしろこのままの方が
敵は増えるだろう そんな奴等に何度も構える程俺は暇じゃない
いざとなったら主人 主人を殺す事すら躊躇わない」
皐月「ああ・・・そうしてくれ」
ネディア「そうか・・・平気・・・なんだね?」
皐月「ネディアの足手まといになるくらいなら死ぬ覚悟はある」
「ぐっ」と胸に手をあて握り拳を作る
それを聞いたら少し嬉しそうな顔をするネディア
ネディア「・・・最悪 にする・・・」
皐月「え?」
ネディア「それは最悪の状況にする 主人を守れなくて
最強とは言えない・・・だろ?」
皐月「え?・・・え!?」
マリア「ヤダ・・・この子 今貴方の事気に入ったみたいよ」
マリアが皐月にそう告げる
皐月「え!?」
ネディア「・・・マリアちゃん?」
マリア「さーて 帰りましょ」
ネディアが少し怒っているのに気づき
そそくさと逃げるように帰る
ネディア「・・・人間がああ言い切るのはなかなかいない
だからこれからもよろしく」
皐月「ありがとう ネディア」
お互い手を取り合う
???「おい」
そんなやりとりをしていると誰かから声をかけられる
ネディア「おっさん何か用?」
クエリオ「おっさんじゃない!こいつを連れに」
ネクロディアの方を見る
ネディア「あー じゃぁさっさと連れてって 全然帰る気無いみたいだし」
クエリオ「だからここにいるのだろ?私は忙しい」
ネクロ「まだ良いじゃないですかクエリオ」
クエリオ「ダメだ いいから帰れと上からも来ている」
ネクロ「上・・・上とは三大天使方々の?」
クエリオ「わかっている事をいちいち聞くな
こんなやりとりで時間を潰す気は無い」
ネクロディアの腕を無理矢理掴んで飛び立つ
ネディア「あれ?俺はお咎め無しなの?」
クエリオ「封印の事か?お咎めも何も自分で封印を解いたなら
主は文字通り自由だ」
ネディア「ふ~~~ん」
クエリオ「後は同じ過ちさえしなければ私は手を降さん
あれは私の体に酷い影響を与える」
ネディア「あっそ じゃ」
適当に挨拶し 二人を見送った
ネディア「さぁ 俺達も帰ろう」
皐月「そうだね 帰ろう」
ネディアの手を取る
手の温もりからは希望に満ちた
友情を感じた そんな温もりが伝わった
ドクン ドクン ドクン
どこか遠くで鼓動が聞こえた