第30話 ヒキニートの魔法戦
いつもより早く憑依したおかげで、今のピンチをより鮮明に感じられる。平静を装っていたようだが、今憑依しているテンコちゃん、心臓はバクバクだし、手に汗を握っていて、ダンジョン探索には慣れていても、常に緊張で体が備えてしまっているタイプらしい。この感じだと、ギリギリなら俺の魂が心中することになっていたかもしれない。
が、走っているリザードマンの姿が見えることから、まだ時間はある。そう、間に合わないわけがない。
スカートの広がったドレス。そのうえヒールも高い。観察したのと違わず、接近戦は無理。ただ、体の方は動く。甘露の体を見て思ったことじゃないが、探索者をしている以上、最低限よりも身のこなしは高い。
「ここまでわかればひとまずOKだ。ひょいっ」
突き出してきたリザードマンのヤリを俺はステップを踏むようにして避けた。そこから繰り出される連撃も、全て余裕をもって回避。当たりもかすりもせずに見切っていく。
「……!」
声にこそ出さないものの、リザードマンの方も、俺の回避に面食らったように目を見開いた。
隙あり。
「『ファイア』」
できた一瞬の隙を付き、魔法による攻撃。
ただ、使えるとわかっていただけの火炎魔法じゃ、目立ったダメージは見られない。回避してイラだっているところに攻撃を受けて、怒りが増したとわかったくらいだ。が、無傷ってわけでもないところを見ると、テンコちゃんの体に俺の魂がなじんできている。思ったよりも威力が増しているようだ。やはり、魔法方面の才能がある子らしい。
「ただ、魔法かぁ。俺の専門じゃないんだよな」
俺の本体は基本的には肉弾戦用のスキル構成。魔法も使おうと思えば使えないことはないが、その程度。才能のあるやつと比べれば、そんなもの素人の手料理と高級レストランの料理くらい違う。あくまで使えるってレベルだ。扱いに関して言えば、それっぽくはできても決して使えるものじゃない。
だが、今はそんなことも言っていられない。いくら単なるステップで攻撃はかわせたとしても、こちらから攻勢に出なければ倒せない。そして、テンコちゃんに肉弾戦をやらせられるスキルが無さそうという事実。
「魔法しかないかぁ」
ただ、テンコちゃんの見せてくれた戦法も、近づかれてしまえば活かせそうもない。
となると、
「『ファイア・ボム』」
めくらまし程度の火炎を撒きつつ、後方へ退避。少しずつ距離を稼いでダメージを蓄積させつつ、使える技を使ってトドメを刺す。
先ほどよりも威力のある火炎は多少のダメージとなったらしく、足止めには成功した。だが、見たところ、これも致命傷にはなっていない。リザードマンと言えばドラゴンの亜種みたいな存在。鱗のおかげで防御力も高い。下層のモンスターとしても優秀な部類で、魔法抵抗も低くはない。むしろ高いと考えるべきか。
倒すには、ある程度の大技が必要。
「いいな。久しぶりに燃えてきた」
甘露の時はキンググリズリー相手に余裕の対処だったからな。戦闘を楽しむつもりはないが、やりがいがないのもまた心を病む。要するに塩梅だ。
こうした戦力差も早めに憑依していたからこそ。
「『フレイム・ウォール』」
炎の壁を作り出すことには成功。維持も問題ない。となると、魔力量もおそらく格段に上昇している。さすがは魔法の天才。うらやましい限りだ。
壁に手こずるリザードマンを見て、俺はその隙に距離を稼ぐ。
目測10メートル。
「『フレイム・トルネード』」
炎の壁越しに炎の竜巻をリザードマンへとぶつける。竜巻に飲まれたことでさらに足止め。俺はさらに距離を取る。
目測30メートル。
できればもう少し距離を取りたいところだが、距離が増せば魔法の維持に集中力がもってかれる。あまり使ってこなかったツケと知らない魔法を即興で使っている限界で、これ以上はリザードマンに対して隙を作り、一瞬で距離を詰められかねない。いくつか足止め用の足場変化の策もありそうだが、魔法の併用となると結果は同じようなもの。
つまり、今が分水嶺。
「さて、ここまでよく耐えたな」
俺は一呼吸置いてから炎の竜巻を解除。
さあ、スピード勝負だ。
「我が手にあるは希望の光」
竜巻を脱出したリザードマンの一歩。
大きく距離を詰められる。
「全て蹴散らす闇夜の星」
さらに二歩。
体格が大きく、目前に迫るような雰囲気。
逃げるな。
「今、彼の者を穿つ」
さらに三歩。
ほぼ目前。
ヤリの構えで突き出される軌跡が見えるよう。だが、俺の勝ちだ。
「『ボルケーノ・ランス』」
少し顔が熱くなるのを我慢しながら、俺はリザードマンに向けてヤリを放った。
放たれたマグマの槍はリザードマンの体に突き刺さると、そのまま後方へ吹き飛ばしながら、その体を飲み込むように肥大化し、その場ごとドロドロに溶けて消失した。
いやぁ。暑い。ほんとに暑い。炎のせいだよ、マジで。
しっかし、根っからの厨二病か知らないが、平気な顔して詠唱できるやつの気が知れない。だから魔法は嫌いなんだよ。
「ひとまず、一体ってところか」
手を払いつつ確認する。
テキトーな詠唱で威力がそこそこ止まりなせいもあって、集まってきたリザードマンまでは倒せなかった。
「いや、むしろこれはラッキーかもな」
距離があって、集団で、そして回復素材がほしかった。
テンコちゃんには栄養が必要だ。モンスターという栄養がね。
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