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稼げばいいってわけじゃない  作者: もちっぱち


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第1話


夫はATMってよく言う。




うちでもそうかもしれない。




榊原 絵里香(さかきばらえりか)は33歳の厄年真っ只中。



こどもは

小学生2年の女の子榊原 瑠美さかきばらるみと幼稚園 年中の男の子 榊原さかきばら るいを抱えたスーパーのレジ係をする兼業主婦。


旦那は朝早くから夜遅くまで働く

会社員。




残業だと帰って来るのは午後11時。


そして次の日には

午前6時に家を出る。



休みは土日祝日で週休2日。



かと言って、

絵里香はスーパーの仕事だからシフト制で平日だったり、

土日祝日関係なしに仕事になる。



今日も出来損ない店長のフォローをしないと行けない。

また、ミスしてる。



私より若い27歳の店長。




「絵里香さん、これってどうするんでしたっけ。」



(店長のくせに私にきくな。)



「はいはい。これは...。」



セルフレジが導入なってから、使う頻度が増えて、もちろん故障もしやすくなっている。


 レシートの替えさえも入れられない店長。

 このスーパー大丈夫かなと時々心配になる。



 レジ係で勤めて長いのは絵里香くらいで、他は若いパートの新婚さんや、年上新人パート、学生バイトで成り立っている。



「はい、出来上がり。」



「ありがとうございます。いつも助かります。」



「頑張って覚えてくださいね。次は。」




「はい!そしたら、井上さん、ここのレジ担当してくださいね。」



「わかりました。今日から新人で入りました。井上舞子いのうえ まいこです。よろしくお願いします。」


突然の絵里香への自己紹介。


 店長はグダグダだ。


 新人の紹介のなぜこのタイミングなんだかわけがわからない。



うちのスーパーはこれだからろくにシフトも回せないんだ。


「井上さんね、私、榊原絵里香。結構長くここで働いてるから、わからないことあったらすぐ聞いてね。」


「はい。榊原さんはベテランさんなんですね。私、レジ打ちとかって初めてなので、優しく教えてください。ね、店長!」



 人の話を聞いてるのかこの人は、男性に媚び売って働くやつなんだと額に筋が入る。


「あ、はい。僕も、店長だけど、教えるのは苦手なので、榊原さんに教わってもらえるかな。あくまで、店長ていう肩書きだから。ごめんね、井上さん。」



「えー、そんなぁ。ちぇ、まぁ、いいや。榊原さん、お願いします。」


 ものすごく嫌な顔をする井上は、後ろを振り返り、絵里香の近くに寄った。



 店長は逃げるようにバックヤードに行ってしまった。



「あ、そう?んじゃ、ここに社員コードをバーコードで読み込むからカードをかざして、レジのログインしてね。そしたら、商品のバーコードをスキャンして、あとは会計ボタンで支払い方法を選択して、確定ボタンであとは自動でお釣りとレシート出るから。分かった?」



二番煎じのように扱われてすごく嫌だったが、仕事を覚えさせるには仕方ない。嫌な顔をしながら、丁寧に教えていく。



「はぁい。何となくわかりました。」



「返金や交換の処理はこのレジとセルフレジではできないから、サービスカウンターへと案内してね。あとは、割引券の処理は来たときに教えるから声かけて。」



「はーい。」


 井上は、小学生のように手をあげて、とりあえず、見張り番のように液晶画面の見つめて、お客さんのスキャンがあっているか確認した。


 次はセルフレジのやり方を教わるが、早速の機械の調子が悪くらしく、絵里香はレジの鍵を開けて、中に入っているキーボードを押して、内容を確認した。

 

 お札が隙間に挟まって動かなかっただけだった。直したらすぐに動いた。


 機械は便利なようでこう言う時に人の手を借りないと先に進めないんだとメリットデメリットを感じた。



 その後は、特に問題なくこなしてる。



 約2時間後、

 1日の仕事がようやく終わった。


 絵里香は、ぶら下げていた社員カードを外して、更衣室で着替えた。



「お疲れ様です。先輩、今日は、色々教えてもらってありがとうございます。」


 心にもない棒読みなセリフが見て取れる。


「あぁ。いいえ。どういたしまして。井上さんも若いのに、こういう仕事選ぶなんて、珍しいわね。」


 こちらも建前な表情で答える。


「私の母もスーパーでレジ打ちしてたんで、できるかなぁと思って選んだだけですから。明日もよろしくお願いします。それじゃぁ。お先に失礼します。」


 ろくにこちらの返事もせずに帰っていく新人パートの井上だった。



「お疲れ様でした。」


 ロッカーの扉をバタンと閉めた。


 若い人に期待なんてしてない。


 期待して疲れるのはこちらだけ。


 今の人は仕事を仕事を思ってない人が多い。


 まるで遊びのように仕事中にぼんやりするし、平気で先輩に仕事を振る。


 それも慣れてきた。もう諦めている。


 ロボット社会が多い世の中、人間らしい失敗作品として滑稽に扱うしかないのだ。


 馬車馬のように働くのは中堅ばかり。


 まるで貧乏くじを引いたみたいに生まれてきた。


 ため息をしない日がない。



 これから、鉛のようになった体に鞭打って、幼稚園の預かり保育に子供を迎えに行く。

 

 着いて早々、迎えに行く時間にケチをつけられる。



「お母さん!!迎え早すぎる!!あと10分は遅く来てよ!!たっくんと今からレゴで遊ぶんだから。」


「はぁ?! 急いで迎えに来た母親に対する言葉なの?ほら、帰るよ。先生も困るから。すいません、いつもいつも帰るのがゴタゴタしちゃって…。」


 絵里香は、担任の先生に何度もお辞儀をしながら、塁の手を引っ張っていく。



「やだー。まだ、遊ぶ。」



「いいから、か・え・る・よ!ありがとうございました。」



 もちろん、塁の荷物は母の絵里香が持っている。 

 給食用に使う箸と箸ケース、ランチョンマットをお弁当袋に入れて、洗って毎日持たせている。カレーがある日にはスプーンも入れないと、塁にブチ切れられるが、スプーンが無い日は何とか、お箸でカレーを食べる技術を習得したらしい。先生には文句を言わずに食べるとお利口な態度だった。



 家では姉弟喧嘩が耐えず起きて、暴れん坊で甘えん坊で言うことを聞かない。家と外の二面生を持っているので、何を信じれば良いのかわからなくなる。


 車の助手席にジュニアシートを置いて、塁を座らせた。次は、小学生の瑠美を放課後児童クラブに迎えに行かなくてはならない。


 宿題をちゃんとやっているか帰ってからの親子バトルが始まる。


 さすがに2年生にもなれば、ある程度友達社会のルールも分かってきて、こう接するば良いんだなと割り切ることができてきたが、多少の女の子同士のトラブルはあるようだ。


 今日の付けていたアクセサリーを自慢されて、私も付けたいとか、お友達の持っていた文房具、私も欲しいとか、色々ある。



 全部鵜呑みにはできないが、母親としてある程度考慮する部分もある。



 家に着いてからリビングのテーブルに宿題のプリントを広げ始めた。児童館でやってきても良いのに、わざとらしく残してくる。母としてのキャパを考えてほしいが、構ってほしいっていうあらわれなんだろうなと疲れていても、付き合ってあげようと絵里香の親としての勤めをはたしている。





「だから!私はかけ算が苦手なの。まだ全部覚えてないんだから。」



「減らず口を叩いてないで、ささっと終わらせてよ、今、夕飯作るから。終わったら教えて。丸つけするから。」



「はいはい。」


 そう言いながら、瑠美は、プリントの横に置いてある消しゴムに鉛筆でグサグサと穴を開ける。やりたくない気持ちが消しゴムに八つ当たりしている。




 台所で合間を見て買っていた食材を冷蔵庫に詰めて,パックに詰められたきんぴらごぼうのお惣菜をお皿に盛り付け、冷凍食品の餃子を4人分フライパンに並べて焼き始めた。油を敷かなくてもいいもので、少量の水で蒸す調理方法だった。


 じゅわーと湯気が舞い、換気扇に吸い込まれていく。


 父である榊原 晃(さかきばら あきら)は、今日も残業だとメッセージを送ってきた。帰りは午後10時頃。


 子ども達が寝静まった頃だ。



 それまで母の絵里香はずっと、ワンオペで全部こなさなくてはならない。 

 どちらの祖父母は、県外で頼ろうにも頼れない。


 息つく暇なく、頑張らねばならない宿命だった。



「お母さん!! ゲームの電池無くなった!!」


「充電すればいいでしょう。そこにあるじゃん。」


 長男の塁に、たかが、ゲームの充電一つで呼ばれる。


「お母さん、まだプリント終わってないよー。」



長女の瑠美は、わざとらしく、全然終わらせる気もない宿題。



「んじゃ、やらんでいいよ。困るのは自分だよ。」


 フライパンの餃子を皿に盛り付ける。


「うそー、やってあるよ。終わったしぃ。丸つけてー。」



「んじゃ、そこにプリント置いててよ。ほら、先に夕飯出すから、手を洗っておいで。」


「お母さん、ご飯の前に充電。電池切れて、僕、リスポーンしちゃったじゃん。友達と通信してたのにぃ。」


食卓に皿を運ぶついでにゲームの充電器に本体をセットする。


 このワンアクション、誰か代われるものなら代わって欲しい。



「はいはい。食べてからもう1回やればいいでしょう。ほら、座って。いただきます。」


 

 ご飯一つ終わらせるだけで、何十時間も経ったのようなそんな毎日が繰り広げられている。


 絵里香は、いつの時間になれば1人でのんびり過ごせるのかと忙しない日々を送っていた。。







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