元・第二王子様!
あーあ、朝からアレンの登場でただでさえ疲れたし、午後にも第5王子との授業よ?
それだけで最悪だってのに次は元第二王子、ルシウスとの会議らしい。
まあ一応このゲームの世界の王国教育自治協会ってのは……簡単に言っちゃえば政治家さんの集まりみたいな、超エリート集団。
国の予算やら各地の財政やら国のこまかーい所まで調べて、まとめて、その上での意見をくれるとこなのね。
だからまあ……国王としてはいちばん関わる協会よね……
正直行きたくない。
めっちゃくちゃ気が重い。
なんであんな皮肉屋と顔合わせて一時間も難しい話しなきゃならないの!
でもまあ仕方ない。
この選択はレイチェルの人生を守るためにした……新ルート。
レイチェルの名前に恥ずかしくない、立派な国王にならなきゃね!
それに……いくら皮肉屋とはいえルシウスは能力はピカイチに優秀。
転生者である私は、いくらゲーム知識があるとはいえ王族経験なんてないから、どこまで通用するか分からない。
なにせ転生前はただのニートですしおすし。
国の運営なんてすっごい仕事、ひとりじゃ無理なのはわかってるし……協力を仰ぐに超したことはないから。
だから我慢、我慢よ。
出来るかぎりは穏やかに……平和に。
最低限の関わりで終わらせよう、うん、なんとかなる。
頑張れ私。
「遅い」
ドアを開けた途端めちゃくちゃ重いオーラを放って眉間に皺を寄せる青髪メガネ。
ホントにやだ……頭痛くなりそう。
誰か、誰かお薬を……胃潰瘍になりそう………
「今はお約束した時間の五分前のはずですが……?」
頑張って負けじと睨みつけると、何故か狼狽えたみたいに目をそらす。
けどすぐふん、と鼻を鳴らした。
「私を待たせ、時間を消費したというのにその言い草とは。君は本当に馬鹿ですね。」
ぬぬぬ、鬱陶しい!
けど、我慢よ、私。
無駄な争いはレイチェルのために在らず………
私が黙ってることに気を良くしたのか、ルシウスは偉そうな笑みを濃くしてチラチラこっちを見てくる。
「君のような馬鹿に国王が務まるとでも?大人しく私を王にしていれば良かったんです。1ヶ月かけて教えて差しあげたというのにこんな愚かな選択……馬鹿です。本当に馬鹿。猿以下の脳みそとしか言いようがありませんねぇ?」
ハイカッチーン。
つーいーにーオタク堪忍袋の緒ぷっちーんですわ。
流石に怒りましたよー?
私の推しを馬鹿って言ったね?
1回はまあ?腐っても乙女ゲームの世界の?キャラクターですから?
仕方ないけどもまあキャラを立たせるための演出として許そう。
まあ、1万歩譲ってね?!
けどそんな何回も女の子にバカバカ言うバカがあるか!お前が馬鹿じゃボケナスビ!!
カッときた私は彼の胸のタイを掴んでこちらにグッと引っ張る。
「……ッ」
息を飲む音が聞こえる。
至近距離にルシウスの綺麗な顔。
だけど私は怯まない。
何せ自分の目では見えませんけど今この私、顔面国宝レイチェルなんでね!えぇ!
最高につよつよの顔面で何を怖がることがある!いや、何も恐るるにたらず!!
「あなたこそ、誰に口を聞いてるんですか無礼者。賢いお前らしからぬ失敗ですね?1度は許しましょう。けれど二回目はお仕置です。……わかりますね?」
できる限り低い声でそう囁く。
私の睨みにたじろいだのかしら?
真っ赤な顔でカタカタ震えるルシウス。
あら、あなたも耳赤いね?もしかしたらこの兄弟は怒ると耳が赤くなるとか?
「返事は?」
顎をぐっと掴んでとどめの一言。
ルシウスはわなわなと震えたあと、絞り出すように一言呟く。
「わかり、ました……私の、陛下……」
おやおやおや?
なんだか大人しいぞ?
ははーん意外と強く言われると言い返せないのか。
自分より弱い相手にしか牙を向けない……本当にモラハラじゃねぇか!!チッ!!!
まあともかく大人しいに越したことはない。
さっさとお仕事終わらせてこの地獄の空間からにーげよっと。
そう思って私は、俯くルシウスを背に、さっさと自分の席に着くのだった。